常に震災や風水害のリスクに晒されている、災害大国ニッポン。とくに近年の自然災害の増加ぶりは顕著で、この国で暮らすすべての人は被災リスクと無縁ではないと言っても過言ではないだろう。そこで、有事の際の生命の危険を少しでも軽減するために活用したいのが、自治体が公開しているハザードマップだ。
引越し前には必ずハザードマップのチェックを
先の台風19号は、千葉県や長野県だけでなく、多摩川の氾濫によって首都圏にも深刻な被害が発生した。とりわけ二子玉川駅や武蔵小杉駅など、住宅地として人気の高いエリアが水没した光景は、あらためて自然災害対策の必要性を感じさせるものだった。
こうした地形的なリスクを知るには、各自治体が公開しているハザードマップをチェックするのが手っ取り早い。ハザードマップには災害発生時に予想される洪水や土砂崩れ、さらには津波や高潮といった地域ごとの被害予測がわかりやすくビジュアルでまとめられている。
「ところが、ある調査によれば、ハザードマップをちゃんとチェックしている人は、住民の3割程度に過ぎないことが明らかになっています。これはとても危険なことです」
そう語るのは、『どんな災害でもお金とくらしを守る』(小学館)などの著書を持つ、ファイナンシャルプランナーの清水香さんだ。
たしかに、自身が住んでいるエリアのハザードマップをチェックしたことがある人というのは、意外と少数派かもしれない。それはやはり、心のどこかで「自分は大丈夫」と高をくくっているからなのだろう。災害が多発するこの時代において、清水さんが指摘する通り、これは非常にリスキーだ。
「住宅購入前、あるいは引越しをする前に、必ずその地域の被災リスクをチェックするべきです。最近では国土交通省が運営する『ハザードマップポータルサイト』で、誰でも手軽に全国各地のハザードマップが確認できますから、活用しない手はないでしょう」(清水香さん)
ハザードマップにはその土地の被災の履歴が詰め込まれている
国交省『ハザードマップポータルサイト』には、各市町村のハザードマップへのリンクのほかにもう1つ、洪水や土砂災害、津波などのリスク情報、さらには道路防災情報、土地の特徴などを、地図上に重ねて表示できる「重ねるハザードマップ」という機能がある。
たとえば台風19号で被災した武蔵小杉駅周辺をこの「重ねるハザードマップ」でチェックしてみると、興味深い事実がわかる。駅周辺から多摩川にかけての広範囲のマップを表示し、洪水リスクと土砂災害リスクのアラートをONにすると、白い地図上の一角が途端に赤やオレンジに染まるのだ。
ハザードマップには、その土地の被災の履歴が詰め込まれている。つまりこの一帯の災害リスクは、あらかじめ予想されていたことがわかる。
この機能を使って首都圏全体をチェックしてみると、洪水や土砂災害のリスクとほぼ無縁な地域が見えてくる。
たとえばわかりすいエリアでは、渋谷や恵比寿、新宿、池袋といった中心地。これらのエリアが繁栄しているのも、長らく災害と無縁でいられたからかもしれない。また、武蔵野方面に目を向けると、吉祥寺周辺も洪水や土砂災害、津波とほぼ無縁であることがわかる。意外なところでは、海に近い品川駅周辺が、やはり洪水や土砂災害、津波のリスクが見られないことだろう。
これらはあくまで一例。こうしてハザードマップの機能を活用し、次の引越し先を絞り込んでいくのは有意義だ。
ただし、ハザードマップは一定の想定に基づき作成されており、想定を超える災害が発生すれば、予測を上回る被害が生じる可能性があることも理解しておきたい。
「その土地にどのようなリスクがあるかを知っておけば、火災保険に組み込む補償も変わってくるでしょう。また、防災グッズなどの揃え方も、被災リスクの内容によって変わるはず。ハザードマップをチェックすることは、様々な点でリスクヘッジに繋がるのです」
さらにハザードマップには、その地域の避難場所や避難経路も明記されている。とくに津波や洪水のリスクを伴う地域では、いざという時にどこへ逃げればいいかを知っておくことは、生死を分ける重要事。
こんな時代だからこそ、あらためてハザードマップを見直してみてほしい。それこそが、今すぐにできる災害対策の第一歩なのだ。
【参照元】
「ハザードマップポータルサイト」
https://disaportal.gsi.go.jp/