1話につき50軒回ることも! スタッフが足で探す「孤独のグルメ」店探しの秘密

公開: 更新: テレ東プラス

輸入雑貨商を営む井之頭五郎(松重豊)が、営業先で食事処に入り、食べたいものを味わい尽くす。ドラマ24「孤独のグルメ Season 8」(毎週金曜深夜0時12分放送/テレビ大阪のみ翌週月曜深夜0時12分放送)が、今シーズンも好評だ。

2012年1月にスタートし、今作で第8弾を数える深夜枠としては異例とも言えるロングシリーズ。人気の根底には、シーズンを重ねても「変わらないこと」を胸に、「毎回"ただ、目の前ものを食うこと"に集中する」と語る松重の真摯な姿勢はもとより(インタビューはこちら)、原作者・久住昌之も「スタッフ全員が漫画を読み込んで、世界観を大事にしてくれているので、すごく信頼している」と絶賛する(インタビューはこちら)制作チームのこだわりがある。

そこで、「孤独のグルメ」を舞台裏から支える小松幸敏プロデューサー(テレビ東京)、菊池武博プロデューサー(共同テレビ)に、シリーズ開始から変わらないこと、譲れないこと、そして視聴者の目には映らないところで尽力する制作チームの奮闘ぶりを聞いた。

kodoku_20191114_01.jpg写真左:菊池武博P 写真右:小松幸敏P

20kg太ったことも!? 店探しにおけるこだわり

──五郎が訪れたお店、食べたものは注目を集めます。お店選びには、シーズン1当初から「原作漫画に登場した店は使わない」という、原作者・久住さんとの約束があったとお聞きします。

小松「そうですね。ドラマスタッフが"自分の足で探す"こと。あと、これは約束ではありませんが、スタッフの中での決めごととして"食べ物を残さない"こと。ロケハンする際も、松重さんが一人でちゃんと食べられる量なのか確認するため、実際に同じ量をスタッフが食べています。ドラマが浸透してきたことで、お店のお母さんから『これも食べて』とサービスしていただいたりすることも。ちょっと大変ですけど(笑)、ありがたい話です」

菊池「これからはわかりませんが、一度出演されたゲストに他の役でお願いしないという僕らの中での決まりごともあって。できるだけ同じエリア、同じ駅は紹介しないとか。やれる限りはやっていこうというスタッフ内の決まりはいくつかあります」

──店探しの信条は「ネット禁止」だそうですが?

菊池「誤解のないようお伝えしたいのですが、このご時世、まったくネットを使わないということはないです。もちろんスタッフ全員、久住さんも実践されている五郎のスピリットはもっていて、"足で探す"というスタンスもシーズン1から変わらない。ですからネット禁止ではなく、いわゆるグルメサイトの星の数やグルメ情報には左右されない、という意味です」

小松「深夜枠ということで予算も人員も潤沢ではない中、限られた人数で、撮影日以外の日程で店探しをしなければならないという事情もあり、必要最低限のところでネットは使っていますよ(笑)」

kodoku_20191114_02.jpg「孤独のグルメ Season 8」第7話より

──そうしたハードスケジュールの中、その回を担当する監督、脚本家をはじめ、プロデューサーほかスタッフが自ら足を運び"味のある店"を探す。

菊池「そうですね。まず、最初にエリアを決めて。5~6人ほどのスタッフで"孤独のグルメらしい"お店を探しています。エリア以外にも、その周辺を歩いて気になるお店があれば入るので1日で1人4~5軒回ることも。多い時は、1話につき50軒くらい回ることもありますね。外観だけ見に行った店も含めると、大げさじゃなく100軒は回っているんじゃないでしょうか」

小松「さらに同じ店に何度も訪れて。味はもちろん、お店の雰囲気や店の人の様子など総合的に判断した上で撮影をお願いします」

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──シーズン4の特別編「真夏の博多出張スペシャル」を皮切りに、五郎の地方出張も定番となっています。

菊池「地方でロケハンする場合は東京周辺のように頻繁に行けないので、2泊3日ないしは3泊4日で、監督と脚本家、プロデューサー2人の4人で手分けして。時間がないため、それぞれが1日で10軒くらい回ったこともありました」

小松「僕は行けなかったんですけど、台湾ロケ(シーズン5、第4、5話)では3~4日しかロケハンの時間がなかったから、2班に分かれて街中に散って、必死でお店を探したと聞きます」

菊池「そうなんです。しかも、ロケ先が宜蘭(イーラン)という台北ほどメジャーではない場所だったものだから、誰もその街に行ったことがない。情報が何もないため、本当に大変でした。韓国ロケ(シーズン7、第9、10話)も"焼肉"というテーマだけ決まっていたのですが、知らない地域で苦労しましたね」

──ほかに、ご苦労といえば?

菊池「地上波はもちろん、BSやCS放送でも老舗のグルメ番組、情報番組がたくさんありますから。そこで紹介されたお店と"かぶらない"ことも心掛けています。それでも、やっぱりテレビや雑誌の取材が来ていた......となるので、『孤独のグルメ』ならではの切り口の店探しが難しいところです」

小松「あと、スタッフでロケハンに行くのでシーズンが終わると全員、太っちゃうのが困りもので......(笑)」

菊池「僕の場合、最大20kg太りました。何とか元に戻して、また次のシーズンで太って(笑)。もうちょっと早くお目当ての店を見つけられるようになれると、こんなに太らずに済むんですけど」

──久住さんは「孤独のグルメ」を続けるなかで、年々"(いい店の)引き"が強くなってきたと。スタッフのみなさんはいかがですか?

菊池「シーズン1のころに比べたら少しは"勘"が冴えてきたかな、と思います。"確かに美味しいし、お店や店員さんの雰囲気もステキなのだけど、果たしてこれが孤独のグルメっぽいのか?"、常に自問自答しながらスタッフ全員が日々店探しをしているので」

小松「例えば、外観。写真を見ながら"この佇まいなら、きっと五郎は引っかかるよね"という具合に、常に五郎の気持ちになって考えています。ただ30年、40年やっているからいい、新しいからダメ、というわけでもないですし。味は美味しいけれど、撮影条件に合う店内じゃなかったなど、難しいことも多々あって。久住さんの域に達するには、まだまだ修行が必要ですね」

"もういいお店はないだろう"と思っていても見つかっちゃう(笑)

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──今作でシーズン8。先にインタビューさせていただいた松重さんがおっしゃるには「奇をてらわない」「変わらない」ことが人気の秘密だろうと。

菊池「(シーズン5)より4K対応で撮ったり、今回からグルメパートで新兵器を導入するなど多少のアップデートはありながらも、基本的には何も変わらないですね」

小松「新兵器とは言っても、(中華料理店の円卓のような)回転台の上に置いた料理を監督が手動で回すというアナログなものなんですけど(笑)。みなさんを飽きさせないような工夫を試しつつ、やっていければと思っています。ほかにも、焼肉など何度か取り上げているものもありますが、その店ごとのこだわりやちょっと変わった料理をお見せするなど、毎回違った切り口を模索していきたいです」

──ドラマの構成は、五郎と顧客との商談から始まり。仕事を終えた五郎が空腹を満たすべく近隣の店を探して食事。そして店を出て感想を独白し、去り際にエンドロール。原作者の久住さんが店を訪れる「ふらっとQUSUMI」のコーナーで終了と、これもシーズン1から一貫しています。

菊池「最初のころは、お店の方に『食べ物を撮るのに何でそんな時間が掛かるの?』と言われて説明するのが大変でしたが、『孤独のグルメ』という名前が浸透してきた今は、ずいぶん楽になりました。とはいえ、いざ撮影をお願いさせていただく交渉をする時の反応や知名度といえば......体感で半々くらい。情報番組ではなくドラマであること。お店の方は出演しなくてもいいことなど、内容の説明に苦労することもまだまだあります」

小松「でも少し浸透してきたことで、以前のシーズンではNGだったお店にOKをいただけたり。それはやはり、この7年間の積み重ねだと思います」

kodoku_20191114_05.jpg「孤独のグルメ Season 8」第7話より


──撮影は1話を2日間で。そのスケジュールも、シーズン1から変わらず?

菊池「そうですね。松重さんが体力的に無理なく芝居ができるようにドラマパートを1日撮って、1日グルメパートを撮って。そのままロケバスや控室で五郎のモノローグを録って。その場に脚本家も同席して、松重さんのありのままの"心の声"を書いてもらっています。もともと少ない予算でやりくりするために工夫したやり方でしたが、食べた直後の新鮮な感覚が残っているうちに録ることで、よりリアルなお芝居ができると松重さんもおっしゃってくれています」

小松「控室とはいっても、お店の隅っこの方をお借りしたり。広い時でも公民館であったり、お寺の時もあったり。こうした環境のなか、松重さんには本当によくやっていただいています」

──松重さんが「最初のころは少人数で、照明部1人、録音部1人とかそれくらいの規模でやっていたのこと」とおっしゃっていましたが、現在はどれくらいの体制で撮影されているのですか?

菊池「各部署に1~2人、アシスタントが付くくらいは増えましたが、通常のドラマより少ない人数なのかとは思っています。最初のころは監督が店や商店街と交渉をしたり、僕が編集をしたり、一人何役もやっていて。そのころに比べたらかなり増えた印象があります(笑)」

──スタッフ全員が共有する"孤独イズム"と、たゆまぬ努力、そして知恵によって深夜ドラマでは異例のロングシリーズに。今後の目標はありますでしょうか?

菊池「毎回"このシーズンで終わり"という気持ちでお店のラインナップは全部出し切るので、ないと言えばないです(笑)。でも"もういいお店はないだろう"と思っていたら、あるんですよね。なんだか知らないけど見つかっちゃうので(笑)、その時々でベストな店を紹介する。これまでと変わらずやっていきたいです」

小松「シリーズを続けるためには、視聴者のみなさんと同じくらい松重さんへのプレゼントでもあるので、ここは、常に僕らスタッフの勝負どころだと思っています。今回のシリーズでも、松重さんがずいぶん前から食べたいとおっしゃっていたロールキャベツが初登場しましたが、僕らも松重さんをそのお店にお連れするのは本当にドキドキしました。こうした気持ちを忘れずやっていきたいと思います」

(取材・文/橋本達典)

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11月15日(金)深夜0時12分放送は、第7話「由比ガ浜のサバの燻製とスペアリブ」。五郎が訪れた町は「鎌倉・由比ガ浜」。134号線を望むドイツ家庭料理店でジャーマン風サバの燻製&トマト利いた骨なしスペアリブに出会う。

井之頭五郎(松重豊)は、由比ガ浜のハンバーガーショップのオーナーで昔からの知り合い中村真治(パパイヤ鈴木)との商談へ向かう。転職した中村の雰囲気はすっかり変わっていて......。商談を終えお腹が空いた五郎は海鮮モード。だが周りはカフェしか見当たらない。ようやく見つけたドイツ家庭料理店に入ったが人気が無く......店を後にしようとした瞬間ママ(かたせ梨乃)がやってきて席に案内されたが独特な迫力に思わずおののいてしまう。

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