手延べそうめんは絶滅危惧種? ソーメン二郎はゴールデン街の中心で”そうめん愛”を叫ぶ

公開: 更新: テレ東プラス

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ランチは多忙な日々の楽しみ。でも、忙しい毎日を送っていると、気づかないうちに季節が変わり、姿を消してしまうメニューもありますよね。そんな料理のひとつに「そうめん」があります。

季節はずれとはわかっていても、「そうめんがすすりたい」という気持ちに駆られていた秋の入り口。新宿のゴールデン街に週末の昼間にだけ現れる、おいしいそうめんが食べられる店があるという噂を聞いて、さっそく足を運んでみました。

週末の昼間だけ現れる「真昼のそうめんBAR」でソーメン二郎に出会う

somen_20191109_01.jpg▲ゴールデン街でひときわ目を引くのぼり。......ん、「ソーメン二郎」?

ほとんどの店が閉まっている昼の12時、ゴールデン街の老舗「奥亭」に昼間だけ間借りして、そのそうめんは提供されていました。「ソーメン二郎プロデュース 真昼のそうめんBAR」。のぼりには千利休のようなイラストが描かれています。

いろいろと気になりますが、まずは中へ。

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カウンターでそうめんを調理する人、見た目はどうも料理人っぽくありません。どうやらこの方が、「ソーメン二郎」さんのようです。一体、何者なのでしょうか。

「僕は出身が奈良県で、三輪素麺の製麺所の家系に育ちました。実はそうめん、とくに手延べそうめんは、10年後には食べられなくなるかもしれない絶滅危惧種なんです。だから、そうめん研究家という肩書きで、そうめんの普及に励んでいるんです」

季節外れのそうめんには、どうやら思ったより深い理由があるようです。

めんつゆはいらない! 温故知新の絶品そうめん

somen_20191109_03.jpg▲「室町時代風そうめん」。めんつゆのない時代でも、そうめんはあったんです。

そうめんが絶滅危惧種な理由が気になりますが、まずはそうめんが食べたいところ。この日に提供されていたそうめんは2種類。そうめん1輪の量はさほど多くないので、2つともオーダーしてみました。

「まずは『室町時代風そうめん』です。諸説ありますが、そうめんは歴史が古くて、中国から伝来したのはおよそ1200年前といわれています。平安時代には宮中に献上されていたほど、高貴な人たちが食べる高級食材だったんです。当時はめんつゆがなく、醤油だって作られ始めたのは江戸時代のこと。それ以前はお酢を使って、そうめんを食べていました。室町時代にはお酢、からし、ごま、味噌、胡椒、梅肉、にんにくにクルミをトッピングしていたそうですよ」

今回はベースのごまだれとしてドレッシングを使用。そこに酢、梅肉、からし、にんにくを適量混ぜ、茹でたそうめんにかけ、仕上げに刻んだクルミと大葉がトッピングされていました。コクのあるごまだれとそうめんがよくからんで、味わい深いそうめんに。くるみの食感と大葉の香りがアクセントになっています。

somen_20191109_04.jpg▲まるでパスタのよう。ツヤツヤと光るそうめんが食欲をそそります

「めんつゆを使わなくても、おいしい食べ方はあるんですよ。次は、ちょっとイタリアンみたいな感じで、『オリーブオイルと鯛塩のそうめん』です」

ゆでたそうめんに、少したっぷりめのイタリア産エクストラバージンオリーブオイルをかけて、鯛の風味が付いた鯛塩をパラリ。そこへ大葉とツナをトッピングした、まるで冷製パスタのようなレシピです。オリーブオイルとの相性が抜群で、そうめんの持つ小麦の良い香りが存分に味わえます。

これは家でもぜひ真似したくなる味ですね。夏に仕入れたそうめんが余っていたら、ぜひみなさんも試してみてはいかがでしょうか。

10年後には食卓から消える? 今こそそうめんを食べるべき理由

somen_20191109_05.jpg▲そうめんについて熱く語るソーメン二郎さん。普段はイベントプロデューサー「テリー植田」としても活躍。

おいしいそうめんを堪能し、すっかり満腹。そこで、先ほど気になった、そうめんが「絶滅危惧種」である理由を、ソーメン二郎さんに尋ねてみました。

「そうめんの中でも手延べそうめんは、職人さんが長年かけて培った技術で作られています。ところが、その職人さんたちは高齢化が進み、後継者がいない状況が続いています。毎年何十軒も廃業していて、5年後、10年後には製麺所が一つもないかもしれない。お中元の文化が衰退して、そうめんが売れなくなっていることも、後継者不足に拍車をかけています」

伝統工芸と同じように、1200年も続くという日本のそうめん文化が、いま失われようとしているなんて。ここでお話を聞かなければ、まったく知らないことでした。きっと、日本中にはまだ知らない人がいるのでは......。

「そうめん研究家を名乗り始めたのは、そんな危機感からですね。そうめんは、日本に最初に入ってきた麺ともいわれています。それが失われるのをどうにか食い止めたいですね。レシピ本を出したり、絵本を出したり、テレビやラジオにも出演して、みなさんがよく見かけるようにすることが第一歩。どうやったらそうめん業界が盛り上がるか、日々模索しています」

somen_20191109_06.jpg▲ソーメン二郎さんのご実家の三輪そうめん。高級感あるこの姿が見られなくなる!?

そうめんはSNS時代のコミュニケーション食!

somen_20191109_07.jpg▲「真昼のそうめんBAR」では、さまざまな人がそうめんを楽しんでいました。

ソーメン二郎さんの熱いそうめん愛、ゴールデン街の真ん中でしかと受け取りました。ひとりのそうめん好きとして、「なんとかしないといけない」という気持ちになってきます。

「実は今、都内にそうめんの専門店が増えていて、10軒ほどになりました。1年中、それぞれ違う産地、レシピのそうめんが食べられるんです。そうめんは家庭で食べるものというイメージでしたが、家庭料理がストリートに出るという、そうめん業界でも初の出来事が起こっているんです」

そばやうどん、ラーメンはすでに群雄割拠。新しい価値観を生み出すのは難しいかもしれませんが、そうめんはまだ、知っていそうで知らないのがおもしろい。外食のジャンルで言えば新しい分野なのだと、ソーメン二郎さんは話していました。

「新しい食習慣として、そうめんを根付かせたいんです。具体的には、シメラーメンならぬシメそうめん。胃にも優しくて食べやすいし、夜食にはぴったりです。駅ナカや駅ビル、飲み屋街で立ち食いそばみたいに食べられるようにしたい。3年以内に作りたいので、今はいろいろと実験中なんです」

そうめんを食べに来て出会ったソーメン二郎さんの話は、そうめんの明るい未来を照らすものでした。そうめんのシーズンオフともいえるこの季節。街へ出たら、まだ知らなかったそうめんに出会えるかもしれませんね。

【取材協力】
真昼のそうめんBAR(奥亭)
住所:新宿区歌舞伎町1-1-6
営業時間:[土・日] 12:00~17:00

※不定休。営業日程はソーメン二郎twitter(@somenjiro)でご確認ください。

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