クールジャパンと言われて、真っ先に思いつくのがアニメやCGといったエンタメカルチャー。最近ではアニメ調のキャラクターがユーチューブで話して、歌って、踊ったりもする、いわゆるVチューバーが人気となっている。
その一方で、世界では「バーチャルモデル」や「バーチャルインスタグラマー」と呼ばれる存在が市民権を得始めているようだ。これは、Vチューバーに比べると、よりリアルに人間を模した存在。PRADAやCalvin Kleinなどとのコラボも実現しており、人気どころはインスタグラム上で一千万人を超えるフォロワーを集めている。
一体、バーチャルインスタグラマーとはどんな存在で、どのような可能性を秘めているのか?今回はインスタグラムでフォロワーを集め、モデルとしても活躍しているバーチャルヒューマンのimmaをプロデュースする、AwwのCEOであるMさんと、ディレクターで制作を手掛ける岸本浩一さんに話を伺った。
モデルを撮影したら、わずか数時間でimmaが完成
▲インスタグラム「imma.gram」より
──immaの投稿を見ていると、あまりにリアルな姿に驚かされます。最初はCGだと気づきませんでした。
「今でも『本当にCGですか?』というコメントやDMは一杯来ますよ(笑)」(Mさん)
──「#あたしCGらしい」とハッシュタグを付けていても、やっぱり本当にCGなのかと疑問に思ってしまいますよね。投稿される写真は、どのように作られているのでしょうか?
「モデルの方を撮影するときもあれば、全部CGのときもあります。ネットではよく顔だけ合成していると言われていますが、immaはフルCGのモデルを作っているので、そうじゃない写真もあるんです」(Mさん)
──モデルの方を使うときには、合成という工程は入るにしても、撮影の大筋は変わらないと。
「そこは変わらないですね。CGについては岸本が所属するModelingCafeが手掛けていますが、撮影したら数時間でimmaになりますよ」(Mさん)
──なぜ、immaはあそこまでリアルに見えるのでしょうか?
「スタイリングから化粧まで、すべての要素を真面目に追求しているからでしょうか。表情なども海外の論文を見て研究していますし、皮膚から筋肉、骨格までを作り込んでいます。中でも、Mさんからは、よく表情についてのオーダーがありますね」(岸本さん)
──それは喜怒哀楽というような?
「それもありますし、例えば絶妙な目線といったものもあります。表情はCGで一番難しいところで、いくら見た目をリアルにしても、表情が不自然だと本物には見えないんです」(岸本さん)
immaのルックスは「外国から見た"好きな日本人"」
▲インスタグラム「imma.gram」より
──immaというと、ピンクのボブカットがアイコニックですが、あの造形にはどんな意図があったのでしょうか?
「あれは、海外向けにクリエーションした部分もあって、外国から見た「好きな日本人」というか。目もパチクリとさせるより、ちょっと鋭いアジア顔になっています」(Mさん)
「アニメを連想させるというのもあるかもしれません、日本のカルチャーを代表する存在なので」(岸本さん)
──確かに、アニメ的な部分はありますが、Vチューバーなどと比べると、その造形はかなりリアルですよね。
「アニメとファッションは融合させるのが難しいのですが、それを実現したかったというのも大きいかもしれません。感覚的な部分が大きいので、言葉で説明するのは難しいのですが、今の時代を象徴するような顔立ちというか」(Mさん)
「実際に運用が始まってからも、immaの顔立ちは変わっているんです。表情だったり、メイクだったり、髪形も含めてですね」(岸本さん)
──それは気が付きませんでした。そういう成長を追っていくのも、CGならではの楽しみかもしれませんね。
ハードウェアの進化が、immaをアップデートする
▲インスタグラム「imma.gram」より
──Vチューバーが登場して、歌って踊れることにびっくりしましたが、バーチャルヒューマンにはどんな可能性があるのでしょうか?
「2020年代はハードウェアの進化が起こるので、バーチャルヒューマンがより活動しやすい時代になると考えています。そこを見据えて設計していますね」(岸本さん)
「ソフトウェアは大学生一人でも開発できるので、ハードウェアの進化は必要です。5Gの登場で通信速度があがり、例えばグーグルグラスのようなものが、メガネのように簡単に身に着けられるようになる。そこが変わることで、バーチャルの世界も変わっていくと思います」(Mさん)
──ただ、画面に出てくる必要があるので、やはり活動の場はネットや雑誌になるわけですよね。テレビ...もありえるんでしょうか?
「それは、imma次第ですね。生身で出す方法もなくはないのですが」(Mさん)
──それは、ステージにガラスのスクリーンを立てて、初音ミクがライブをやるような......。
「それは、簡単にできます。ただ、僕自身は彼女をリアルに見せたくないというか、それってゴールになってしまうと思うんですよね。喜びというより、『えーっ』というリアクションになってしまいそうで」(Mさん)
──AR空間でライブをやってしまうとか。
「その方がバーチャルを介しているので、まだいいかなと。ホログラムを使って現実世界に出すぎてしまうと、ちょっとどうなんだろうかと思いますね」(Mさん)
immaが着る服、持ち物は現実になる
▲インスタグラム「imma.gram」より
──immaは"バーチャルヒューマン"と呼称されています。なぜ、このような存在をプロデュースしようと思われたのでしょうか?
「CGとして究極の個体を作りたかったこと。そして、リアルとバーチャルの隙間を作りたかったことですかね」(Mさん)
──なぜ、人だったのでしょうか?CGキャラクターでは、遡れば動物から架空のものまで、さまざまな存在があったと思います。
「そういうキャラクターは、まさに映画やゲームの世界に一杯います。しかし、日本では開発当初、仮想の中でリアリティを追求した人間というのは存在しなかったんです。最近ではSNSの普及により、個人が影響力を持つようになりました。そういう人物がバーチャルの世界から生まれてきたら、面白いかなというアイディアもありましたね」(Mさん)
──従来のキャラクターとimmaの違いは、人格があって、個として独立している部分ということでしょうか。
「そうですね、実在しているかのような存在感があり、日本のカルチャーを発信していくというメッセージ性があるところは、大きな違いなのかなと」(岸本さん)
「SNSって個人に紐づけられているので、バーチャルヒューマンがアカウントを持てば、個人にしか見えなくなるんです。例えば、僕はB'zの稲葉さんにお会いしたことがないので、CGではないと100%言い切れません。immaについても、CGだと言っているからそう見えているので、公開していなかったら「こんな子がいるんだ」ということになったのかなと。そこがSNSの面白さですね。現実なのか仮想なのかって意外とどうでもいいっていうか」(Mさん)
──先ほど、ファッションとの融合というお話がありましたが。
「アニメの中でペットボトルの水を美味しそうに飲んでいても、それを欲しいと思うかというと難しいですよね。でも、immaが手に持っているペットボトルは、リアルなものとして存在していて、彼女が『美味しい』といえば、そこに込められた熱量のようなものが違ってくる。インフルエンスということは、そういうことなのかなと思います」(Mさん)
これまでは、どれだけアニメのキャラクターが人気になっても、それは架空の存在という印象が強いため、現実世界に降り立って情報を発信し、インフルエンサーとして振舞うのには違和感があった。しかし、一見すると人間にしか見えないバーチャルヒューマンは、現実世界の存在としてふるまう。ファン心理としては、彼女たちが来ている服、食べているものに興味を持つのは自然のことだろう。
最近ではAIが人の代わりを果たそうとしているが、バーチャルヒューマンにもそれに通じる可能性が感じられた。immaのような存在が次々と現れ、個々のパーソナリティを持ち、我々にとって身近な存在になる日が来るのかもしれない。