中谷美紀「いつも自分に孤独を強いていたように思います...」:ハル~総合商社の女~

公開: 更新: テレ東プラス

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大手総合商社に勤めるシングルマザーが一般常識にとらわれることなく、経営企画部・部長補佐として、社内外の様々な問題を解決する姿を描くドラマBiz「ハル ~総合商社の女~」(毎週月曜夜10時 BSテレ東は毎週金曜夜9時)。本作は、プロデューサーを務める栗原美和子の実体験から生まれたオリジナル企画で、ラーメン店の再建から、海外の病院の買収、アパレルや映画会社の改革など、意外と知られていない商社の実態を垣間見ることができる、これまでとはひと味違う爽快なヒューマンドラマだ。

今回「テレ東プラス」では、時にはトップダウンをも覆し、これと決めたら一直線に突っ走る主人公・海原晴を演じる中谷美紀にインタビュー。演じながら感じている晴の魅力や自身の仕事に対する向き合い方、俳優という仕事の面白さについて語ってもらった。

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"この仕事は常に苦しいものなんだ、苦しみなくしては成立しないんだ"そう頭の中で思い込んでいたような気がします

──ドラマの収録は順調に進んでいるそうですが、これまで晴を演じてみて、感じたことはありますか?

「晴を演じることにより、私自身も彼女の言葉や行動に勇気づけられて、とても前向きな気持ちで仕事に参加することができています」

──常に仕事を楽しむ晴はとても生き生きとしていますが、その原動力についてはどのように考えていますか?

「自分が何かを成し遂げたことで誰かが幸せになるって、やはり幸せなことですよね。女性がお茶汲みやコピー取り、あるいは接待要員のようなサポート役ではなく、自分の発言によって企画が通ったり社会を変革させることができる。それはものすごく嬉しいことだなと思います。社会に貢献できているという実感が、晴の原動力になっているのかもしれません」

──中谷さんご自身の仕事に対する向き合い方は?

「若い頃は仕事が苦役と言いますか、苦しくなかったらいけないものだと勝手に思っていたんです。たまたまいただく役が過酷な運命を背負っていたり、重い病気を抱えていたりと難易度が高いものが多くて...。ですから、自ら身や魂を削るような思いで演じていたんです。なので"この仕事は常に苦しいものなんだ、苦しみなくしては成立しないんだ"そう頭の中で思い込んでいたような気がします。当然楽しい気持ちではいられなくて、友人と過ごす時間を満喫したり、撮影の合間に共演者の皆さんと雑談するだけで、どこかその役柄ではいられないような気持ちになってしまって...。いつも、自分に孤独を強いていたように思います」

──今もやっぱり苦しいことが多いのでしょうか?

「最近は年齢を重ねてきたということもあり、役柄だけに埋没しているわけにはいかないという思いが強くなってきました。プライベートと演じている役柄にきちんと区切りをつけるようになってからは仕事を楽しめるようになってきたのかなと思います」

──どんな仕事でも、つらいこと苦しいことはありますが、仕事を楽しむコツのようなものはあるのでしょうか。

「それは私も知りたいです(笑)。でも、仕事を楽しくするのも苦しくするのも結局は自分次第なのかなと。私もそうですが、つらいことがあると、環境や制度、周りの人たちのせいにすることがありますけど、よくよく考えてみたら、どんな職場においても喜びを見つけることは可能なのではないかなと思うんです。自分にとって完璧な場所なんてあるわけがないですし、楽な仕事もない。そんな中で、いかに自ら喜びや楽しみを見つけることができるのか。それが大事なことなのかもしれないですね」

──中谷さんが思う俳優という仕事の面白さは?

「私はとても移り気な性格なんです。毎日同じ時間に同じ会社に行き、同じメンバーと仕事をすることはできないですし、職人さんのように同じものを変わらぬクオリティでコンスタントに作り続けることも難しい。その点、演じるという仕事は、私のような社会不適合者(笑)にとってとても都合の良い職業。監督に怒られたり、休みの日も家でセリフを覚えないといけなかったり、プライベートの時間を犠牲にしないといけないようなことが多い仕事ではありますが、その一方で、休もうと思ったら自分の意志で好きな時にお休みをいただけるという自由なところもあります。役を通して他人の人生を垣間見ることができるのも俳優という仕事ならではですよね。

今回演じている晴は大手総合商社で働く優秀な女性。アメリカで弁護士の資格も取得していますが、そんな素敵な人物にもなることができるんですよ。女性は誰でも変身願望があるので、その願いを叶えることができる素敵な職業だなと思っています」

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英語に興味を持って学び始めたのは高校生の頃

──劇中でも描かれますが、多くの社員がしがらみや複雑な人間関係に縛られている会社の組織について、どんな風に感じていますか?

「組織の中で上司の顔色を窺いながらいかに目立たず、波風を立てず定年を迎えるか。あるいは退職金を多くもらう、名刺にたくさん肩書きをつけたいということだけで生きているとしたら、それが例え家族を養うためであったとしても、とてもとても苦しい思いで仕事をしていらっしゃるんじゃないかなと思います。その点でいうと、晴はシングルマザーとして奮闘していますが、決して経済的に困窮しているから働いているわけではありません。自分の仕事に誇りを持っていますし、何よりも心の底から仕事がしたいと思っている...そしてそこが晴という女性の魅力。そんな晴の目線で見ると、組織の中で鬱々としながら働いている方々は、とても窮屈で大変そうだなと感じます」

──組織に新しい風を吹き込む晴は、周りの人間をグイグイ引っ張っていくリーダーシップを発揮します。中谷さんが撮影現場で心掛けていることはありますか?

「私は晴ほど辣腕を振るうことができないので、現場では、共演者の皆さんが心地よくのびのびとお芝居ができる環境を作れたらいいなと思っています。例えば、集中したいと思っている方にはなるべく声を掛けないようにしたり、緊張している方がいたら、あえて私がNGを出して場を和ませたり...。もちろん、意図的ではなく、ビジネス用語につまづいてNGを出してしまうことも多々あります(笑)。シーンによっては緊張も必要ですけど、心がほどけるようなリラックスできる時間も大切。どうすれば撮影がスムーズに進むのかということを常に考えています」

──劇中では、仕事をバリバリこなす晴の意外な一面として、何でもかんでも料理に香辛料をかけてしまうというシーンが描かれます。中谷さんは辛いものは得意ですか?

「晴ほどではありませんが嫌いではないです。でも、激辛は無理ですが、柚子胡椒や京都にある『原了郭』さんの黒七味は大好きです」

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──SNSでは、第1話で中谷さんが披露した流暢な英語が話題になりました。現在オーストリアで生活されていますが、普段も英語で会話をすることが多いのでしょうか。

「ボキャブラリーはそんなに多くないですし、片言ではありますけど、最低限自分が生活していくことができる程度には話せると思います」

──英語の勉強は、いつからしていたのでしょう。

「興味を持って勉強を始めたのは高校の頃。アルクという英語の教材があって、時事英語などのCDをずっと車の中で流していたり、アメリカのTEDを見たり聴いたりして、常に英語を浴びているような感じで覚えました」

──晴の仕事ぶりはもちろんですが、上司である元夫の和田(藤木直人)、部下の青柳(白洲迅)との関係も気になりますね。

「晴は誰に対しても同じようにフェアに接するので、それをどう受け止るかは相手次第。どんな料理にも香辛料をかけてしまう"味オンチ"な晴は"恋愛オンチ"でもあるのかもしれません。晴の笑顔は男性を女性的な魅力で取り込もうとするものではなく、『お互いに気持ち良く楽しく仕事をしましょうよ!』という意味合いを持っています。でもそれを、時に男性の皆さんが勘違いすることってありますよね(笑)。

青柳くんの場合、一方的に思いを寄せているという設定で、彼に関して言うと"吊り橋効果"というものがあるかもしれません。どんよりとした職場の中にある吊り橋を渡ろうとしていたら、向こうから組織の中にはいないようなタイプの晴が現れて、つい惚れちゃったという感じ(笑)。後半に向けて"恋愛オンチ"な晴がどう変わっていくのか...。私も楽しみにしています」

──最後に今後の見どころをお願いします。

「多くの視聴者の皆さんは、様々な本音を飲み込みながら建前で生きていらっしゃると思うので、晴が口にする本音で少しでも気持ち良くスカッとしていただけたらいいなと。皆さんが普段言えない本音を代弁します! それと、晴の息子である涼(寺田心)と和田さんの親子関係にも発展があるので、ぜひ注目してください」
(取材・文/月山武桜)

【中谷美紀 プロフィール】
1976年1月12日生まれ、東京都出身。1993年に女優デビュー。最近の主な出演作に、ドラマ「あなたには帰る家がある」(TBS系)、「あの家に暮らす四人の女」(テレビ東京系)、映画「ボヤージュ・オブ・タイム」、舞台「黒蜥蜴」など。主人公の人気写真家・奈良リミを演じるNetflixオリジナルドラマ「Followers(フォロワーズ)」が2020年初頭に配信予定。

そして11月4日(月)夜10時放送! ドラマBiz「ハル ~総合商社の女~」第3話の内容は...。

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ある朝、五木商事をざわつかせる見出しが紙面を飾る。『日和製作所、西本工業株の敵対的買収を開始か』――西本工業は五木の関連会社で、将来性もあるタイヤメーカーだ。日和は五木から西本を奪うべく、株の買い占めを始めたのだ。目的は恐らくタイヤの特許。「西本をなんとしても守れ」と上層部に命じられた経営企画部は、海原晴(中谷美紀)をチームリーダーに、それぞれの動きを探り始める。だが現実はかなり厳しい状況で...。

現在、第2話を「ネットもテレ東」で配信中です!

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