“孤独な”ではなく”孤独の”であることが大事! 原作者・久住昌之が人気作に込めた思いを語る:孤独のグルメ

公開: 更新: テレ東プラス

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深夜の人気グルメドキュメンタリードラマの第8弾、ドラマ24「孤独のグルメ Season 8」(毎週金曜深夜0時12分放送/テレビ大阪のみ翌週月曜深夜0時12分放送)。

原作は、ヨーロッパをはじめ韓国・中国・台湾ほか世界10ヵ国でも翻訳出版されている原作・久住昌之×作画・谷口ジローの同名ベストセラーコミック。主人公は、ご存じ輸入雑貨商を営む、ごく普通の中年男・井之頭五郎だ。

ストーリーといえば、そんな彼が営業先で見つけた食事処にふらりと立ち寄り、その時々で「食べたい!」と思ったものを自由に食すだけ。料理のうんちくもなければ、店にまつわるヒストリーやレシピなどの情報もほとんど紹介されない。しかしながら、五郎を演じる松重豊の見事な食べっぷりもあって、放送時には「おいしそう!」「腹が減ってきた」などなど、空腹をもよおす視聴者が続出! なかには、ドラマに登場した店を訪れる、いわゆる"聖地巡礼者"まで。韓国・中国・ドイツ・スペイン・ブラジルなどで翻訳版が出版され(台湾ではリメイク版『美食不孤單』を制作)、韓国では2018年に最も愛された海外ドラマに与えられる賞を受賞したことなどから、近年は店を巡る海外ファンも多いという。

人気の根底には、シーズンを重ねても「変わらないこと」を大事に、「毎回"ただ、目の前にあるものを食うこと"に集中する」と語る松重の真摯な姿勢はもとより(松重豊インタビューはこちら!)、実在する"味な店"を自らの足で探す、スタッフのこだわりっぷり。そして、何より本作の原作者の"食"に対するブレない思いがある。そこで「孤独のグルメ」の世界観を支える久住に、シーズン8を迎えた現在の心境、1994年の連載開始時に「"孤独の"グルメ」というタイトルに込めた、その思いを聞いた。

海外でも人気! 「おいしそう」と思うのは世界共通

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──このたび「孤独のグルメ」のシーズン8がスタート。深夜ドラマとしては異例の長期シリーズとなっていますが、街中で人気を実感されることも増えたのではないでしょうか?

「そうですね、何年か前からか、よく声をかけられるようになって。『孤独のグルメ』に登場した店巡りをしてる若者とか。ある時は都内の温泉で『あの......久住さんですか?』と、声をかけられたこともありました。裸で(笑)」

──久住さんご本人が登場する、ドラマ終了後のコーナー「ふらっとQUSUMI」も好評です。

「クドカン(宮藤官九郎)には『最後に原作者が出てきて酒飲むなんてズルいよ~』って言われましたね(笑)。でも、地方の初めて入る居酒屋で"顔バレ"することが増えちゃったので、ちょっと困ってますけど(笑)」

──原作漫画やドラマの店を巡る、いわゆる聖地巡礼者も多いと聞きます。

「ある店で、女性のお客さんが五郎と同じものを注文したので、店の人が『女性のお客さんでその量は食べられませんよ』って言ったら、『いいんです。五郎さんがどのくらいお腹いっぱいになったのか食べてみたいんです』って聞かないんだって(笑)。ほかにも、本当はビールが飲みたいのに(お酒の苦手な五郎のように)ウーロン茶を頼んだり。五郎の行動を追体験したい人も多いようで。

テレビに出たことで、店が混んで迷惑をかけることが一番心配だったんだけど、放送のあと店主さんに聞きに行くと『いやー、大変でしたよ~』とか言うものの、みなさんどこか楽しそうで安心しましたね。(テレビを見て来た)お客さんは静かで行儀がいいらしい。店主は『みんな五郎さんになって食べてるからだね』なんて(笑)」

──原作コミックは、ヨーロッパをはじめ南米や東アジア10ヵ国で翻訳出版され、ドラマも韓国・中国・台湾など8ヵ国で放送されるなど、今や世界の『孤独のグルメ』となりました。海外からの反響はいかがですか?

「中国や韓国からの旅行者にも声をかけられることがあります。ちょっと前も、ドラマに登場した店で中国から来たというグループに『一緒に写真を撮りたい』と言われて撮影に応じていたら、今度は別の人がやって来て、『私も写真をお願いします』とか。その店には、毎週のように海外からのお客が訪れるそうです」

──ロケ取材をさせてもらったシーズン8の第1話、横浜中華街のロケでは、アジア以外の観光客の方からも「Oh~GORO!」「Nice Guy~!」などと声が飛んでいました。

「そりゃあ、すごい。国同士では考えもいろいろ違うんだろうけど、おいしいものを食べているのを見ると『おいしそう!』と思うのは、世界共通ということでしょうかね。前に外国の人に『見たこともない料理だけど、おいしそうに食べてるから食べてみたい』って言われて、ああ、そういうことか、って」

──松重さんも「毎回"ただ目の前にあるものを食うこと"に集中するのみ」と。「孤独のグルメ」では、料理のうんちくなどの情報よりも、五郎さん=松重さんがおいしそうに食べていることが何より大事なんですね。

「松重さんは毎回、大変だと思うけど、大食いなのに、品があるよね。その姿を丁寧にゆったり撮っているから、海外の人も"おいしそう""食べてみたい"と感じてくれるんだと思います」

上海でふらっと入った店が、あの有名歌手行きつけだった

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──海外に出かられけた際、現地の方から声をかけられるということも?

「声をかけられたんじゃないけど、2年ほど前にThe Screen Tones(ザ・スクリーントーンズ/※注1)の公演で上海に行った時に、向こうのメディアに取材されて。そこのディレクターが『通りを歩きながら気になる店に入ってください』って。しかも、えらく郊外の街で」

※注1:The Screen Tones(ザ・スクリーントーンズ)
ご自身も所属する音楽制作家集団。「孤独のグルメ」の主題歌をはじめ、全シーズンの音楽も手掛ける。

──久住さんに五郎さんをやれと(笑)。ずいぶんな"むちゃぶり"ですねー。

「言葉もわかんないし、カメラは3台も回ってるし"こりゃあプレッシャーだな~"と思って。そうしたら、外にメニューも写真も貼ってない、値段も何もわからない"これは勝負の店だな......"って店があって(笑)。ふと中を見ると、おじさんが手招きをしていてね。いざ入ってみると、『あなた日本人か?この店には有名な日本の歌手が来るんだ』って言うわけ。

その2ヶ月くらい前だったかな? 谷村新司さんとお話する機会があって。聞けば『孤独のグルメ』の大ファンだそうで、ドラマに出てくるような店も大好きなんですって。で、谷村さんは上海の大学(上海音楽学院)で教えていらっしゃるから『学生によく行く店はどこか聞いて、僕もそこに通っているんです』と......」

──もしかして、その歌手が...?

「まさに! その日本の歌手というのが谷村さんで。さらには、その店のおじさんも『孤独のグルメ』のことを知っていて。一緒にいた人たちに『久住さん、"引き"強すぎ!』『どうやって当たりの店を見つけるんですか?』って驚かれましたね~、本当に偶然なんだけど。あんなに広い上海の、あんな郊外にある店で2度びっくりすることが起きました」

3歳も口ずさむ"ゴロ~♪" 夫婦で店巡りを楽しむファンも

kodoku_20191017_04.jpg「孤独のグルメ Season 8」第3話より

──世界各地への広まりもそうですが、視聴者の年齢層が幅広いのも、「孤独のグルメ」の特徴です。

「シーズン2が終わった時だったかな? スクリーントーンズのライブをやったら子連れのお客さんが、『子どもが楽しみに見ています』と。それが、なんと3歳! 家で"ゴロ~♪ ゴロ~♪"って、エンディングテーマ(『五郎の12PM』)を歌ってるんですって(笑)。当時は"3歳で何がおもしろいんだろうな?"と思ってたんだけど、その子がもう小学校4年生とか5年生になるわけでしょう? びっくりしちゃうよね。"祖母も見てます"とか聞くし、視聴者の層は厚くなってますね」

──視聴形態もさまざまで、就寝前に一人でひっそりと見る人が多い......のかと思いきや、ご夫婦やご家族でご覧になる方も増えているそうです。

「『孤独のグルメ』に出てきた店を、あそこに行きたい、あれが食べたいと話しては、休みに夫婦で店巡りしてる話も聞きます。

谷村さんと話した時も、『久住さん、やっぱり"孤独"は、おじさんウケがいいんでしょうね?』と聞かれたんで、『それがね、"結婚して揃って同じドラマを見るのはこれが初めてです!"なんていう話を最近よく聞くんです』って言ったんですよ。そうしたら谷村さんが、『実は......ウチも女房と見てるんです』って恥ずかしそうに(笑)。声をひそめて言ったところが、すごく孤独っぽくて、うれしかったな~」

"孤独な"ではなく"孤独の"グルメ

kodoku_20191017_05.jpg「孤独のグルメ Season 8」第3話より

──では、シーズン8まで続けられて改めて思う、7年間の歴史を感じるエピソードはありますか?

「1994年に連載がスタートした漫画『孤独のグルメ』を最初に担当した編集者が、小説版の『孤独のグルメ』(『小説 孤独のグルメ 望郷篇』壹岐真也著/扶桑社刊)を出したんです。今回のドラマのスタートと同時に出版したんですけど、それは何だか不思議な気分でした。自分の作った五郎を、『孤独のグルメ』を一緒に考えた人とはいえ、ほかの人が書く。読んで、五郎の違った一面を見た気がして。

僕が描くのは、ほとんどが食べている時の五郎の独白だけど、小説には彼の内面が書かれていた。"こんな五郎もいいな、こんなテイストもいいもんだな"と。それが7年間の歴史を感じるというか、作品の広がりを感じた一番のエピソードでした」

──漫画の初版本の帯に<グルメの後にくるもの>という名コピーを書かれた初代の編集者さんですね。

「バブル時代にグルメブームというものがあって、それに反発するような意味合いで連載が企画されたんですけど、僕自身はお店というものにこだわりがなくて。近所のおいしい店、食べやすい店でいいんですよ。昔から新しい店を開拓しようとか、いわゆるグルメみたいなことにあまり興味がないので。

それで、うんちくだの名店だの関係ない食べ物漫画をやってみようと。編集者とは何度も何度も打ち合わせをして、作画を谷口ジローさんにお願いして。他人は関係ない、"自分だけのグルメ"って意味で『孤独のグルメ』というタイトルに決まったんです」

──「独りで食べているご飯」だから「孤独のグルメ」と思われる向きもありますが、「他人は別に関係ない」という意味での"孤独"。

「グルメって、人との比較の話で。他人よりもおいしいものがわかる人が、いわゆるグルマン(フランス語のグルメに対応する形容詞)なんです。その点『孤独のグルメ』は孤独の話なんだから、人は別に関係がない。自分がおいしければそれでいい。だから"孤独な"ではなく、"孤独の"グルメ。 "孤独な"は寂しいけど"孤独の"は寂しくない」

──先にインタビューさせていただいた松重豊さんも「原作では井之頭が失敗するエピソードもありますから、可能ならばやってみたい」と、おっしゃっていました。

「現代は失敗したくないからって、すぐ検索して調べるでしょ? 五郎は、自分の足と勘に頼って店を探す。だから失敗もありです。ボク自身失敗するし。でもドラマでは実際にある店で撮影するので、店のこと思うと、失敗させにくい(笑)。

もうひとつ、何人かでいると、『どうする?』なんて相談した結果、全員の平均の無難な店に落ち着いたりしてツマんないんです。基本、失敗しない。一人だと、一人でなんとかしなきゃならない。そこがおもしろい。調べないで行くと"この店では一体、何を食べればアタリなんだろう?""あの見知らぬ一品は何なんだろう?"と、メニューをよーく眺めて考えないとならないでしょう? でもそれがボクはおもしろいです、結果的に大失敗も含めて(笑)。

シーズン8のシナリオでも、五郎が店でメニューを見たら、わかんないものがいっぱいあって。でも出来上がってくる料理がまた全部おいしそうで、五郎は果てしなく悩むっていうシーンがあって(笑)。悶え苦しんでると、新しい客が『○○ください』って、メニューにも書いてないうまそうなもの頼んで(笑)。さすがは7年間もやってる『孤独のグルメ』のスタッフ、いい店見つけてくるな~と感心しました」

次週、久住昌之インタビュー後編を公開。

【プロフィール】
久住昌之(くすみ・まさゆき)
1958年7月15日生まれ。東京都出身。1981年、和泉晴紀とのコンビ・泉昌之の「夜行」で漫画家デビュー。実弟の久住卓也とのユニット「Q.B.B.」の『中学生日記』で文藝春秋漫画賞を受賞。ベストセラー「孤独のグルメ」、「孤独のグルメ2」(作画・谷口ジロー)、「花のズボラ飯」(作画・水沢悦子)、「野武士のグルメ」(作画・土山しげる)の原作を担当。その他、エッセイ、切り絵、童話のみならずミュージシャンとしても活躍を続けている。
オフィシャルサイト

(取材・文/橋本達典)

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次回10月18日(金)深夜0時20分放送のドラマ24「孤独のグルメ Season8」第3話は、「銀座のBarのロールキャベツ定食」。予告動画をチェック!

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