昆虫食ショップのTAKEOがこの夏、世に送り出すのは、好奇心を刺激する「タガメサイダー」。"香る昆虫"ことタガメのフルーティな香りを忠実に再現!――
いろいろとツッコミが追い付かないところだが、これはフェイクニュースではなく本当の話だ。「いや、嘘だろう?」とgoogleに「タガメ」で聞いたところ、1ページ目に「タガメサイダー」が出てきたのだから間違いない。
そう、タガメサイダーは実在する。......それも2種類。その一つ、「めっちゃタガメサイダー」(860円)は、どうやら店舗でしか味わえないらしい。
昆虫は食べられる。昆虫は美味しい。昆虫は......。
溢れるツッコミを解決するためには、やはりお店に行くしかないようだ。
「TAKEO」が店を構えているのは、上野と浅草のちょうど中間あたりで、東京メトロ稲荷町駅から徒歩6分。浅草通から一本裏路地に入った住宅街にある。看板メニューは「タガメサイダー」。そこに集客能力があるのか疑問を感じるが、きっと自分のような人間がふらふらと誘われて入っていくのだろう。
タピオカミルクティーが出てきてもおかしくないようなオシャレな店内に入ると、店長の三浦みち子さんが出迎えてくれた。
「昆虫食は初めてですか?」
はい、初めてです。自分が昆虫を食べるなんて、生まれてこの方、想像したこともありません。でも、そんな緊張を三浦さんの朗らかなキャラクターが癒し、知的好奇心を満たしてくれる。
「やはり美味しいのはバッタ目、コオロギなどがオススメですよ」
「加熱乾燥したものは、干しエビみたいな香ばしさがあります」
「カブトムシは硬くて、美味し...くはないかもしれませんね」
「タガメはタイなどでは高級食材として人気なんですよ」
昆虫の味や食感についての知識が、頭にどんどんインプットされていく。そう、昆虫は食べられる。昆虫は美味しい。昆虫は......。
「タガメの香りの見本があるのですが、匂いをかいでみますか?」
きた、タガメだ。フルーティな香る昆虫!
ふ、フルーティな......。
「タイから仕入れたタイワンタガメです。ついさっき中身を入れ替えたので、しっかりとした匂いがしますよ」
......よし、行くか。瓶の蓋を開けて、徐々に鼻を近づけていく。それと同時に、徐々に甘い香りが漂ってきた。あれ、この匂いって?
「青りんごのような匂いがするでしょう」
そうだ、これって青りんごの匂いだ! 甘い中にも、ほのかな青さを感じる匂い。青りんごが田んぼをウヨウヨしているなんて、凄いなタイ!?
「タガメはオスがメスを惹きつけるためにフェロモンを放つんです。カメムシやカナブンなどと同じですね」
いやいやいや、仲間にしたら失礼なぐらい、すごくいい匂いをしてますよね。
「カメムシの匂いも、パクチーに似ているということで、好きな人は好きですよ?」
いやぁ、それは......どうなんだろう?
青りんごの比じゃないぐらい、強力な匂いがするタガメの〇〇
話が脱線したが、今日の目的はタガメサイダー。それも店限定の「めっちゃタガメサイダー」だ。昆虫は美味しい、タガメはいい匂い、というのは良く分かったので、さっそくオーダーしてみる。
店内を見渡すと、どうやらただの「タガメサイダー」は瓶詰の状態で売られているようだ。それを店長がカップに注ぎ、さらにトッピングを施していく。
ん? 今乗っけたのは。それは。まさか。
「どうぞ、めっちゃタガメサイダーです」
あの店長、この上に乗っているのは。
「こちらは市販品のタガメサイダーで、タガメエキスの製造時に使用したタガメをシロップ漬けにしたものです。さらに、レモングラスで水草を、タピオカでタガメの卵を演出しました」
なるほど、見た目の芸術点を狙った演出。これはインスタ映えしそうだ。さっそくストローを口にすると、タガメの香りが口いっぱいに広がっていく。甘くて爽やかなサイダーに、タガメの甘い香りが本当に良く合っている。これはかなり完成度が高い。正直なところビックリするぐらいタガメサイダーは美味しかった。
「タガメは胸肉が発達していて美味しいので、ぜひ食べてみてください」
確かに断面を見ると、胸の部分に肉のようなものが詰まっている。
「タガメの匂いは肉の部分が一番強いので、横からカジってみてください」
これを? カジるんですか?
「好きな方は殻ごとバリバリいかれますが、中身をこそぎ出すように食べると良いと思います」
言われたとおりに、タガメを口の中に入れる。そして噛む。ヌルリと少量の何かが舌に落ちた。それを奥歯で噛みしめるように味わう。
「鶏肉のような食感と旨味を感じませんか?」
確かに何かがいる。塩漬けのせいか、最初に塩味を感じるのだが、その味が舌の上で徐々に円くなっていき、それに反応して唾液が出てくる。確かにこれは旨味だ。ほのかにエビっぽい。食感は店長が話すように鶏肉、もしくは殻からほじりだしたエビやカニの肉のよう。繊維質で噛みしめると、ホロホロとほぐれていった。
それと同時に、鼻の奥までブワーっとタガメの匂いが押し寄せてきた。サイダーは匂いを口の中で楽しむという感じだったが、肉はエキスを抽出した後とは思えないほど、匂いの濃度が強い。それが、肉の繊維1本1本までしみこんでいるようで、噛みしめるたび強烈にタガメの匂いがした。これは凄い。方向性は同じなのに、青りんごの比じゃないぐらいに匂いの濃度が強力だ。一緒に飲むサイダーが匂いの箸休めになるぐらい、タガメ肉の匂いはパンチが強かった。
「それはいいタガメを選んだかもしれませんね」
えっ、いいタガメと悪いタガメがあるんですか?
「やっぱり個体差があるので、メスを一杯集めるタガメと、そうでないタガメがいるんです」
おまえ、ハーレム野郎だったのか!
みんなもTAKEOで「めっちゃタガメサイダー」を飲もう!
いろいろとツッコミどころは多かったが、タガメサイダーは美味しかった。青りんごのような甘い香りは、サイダーにするとスッキリ爽やかに楽しめる。
そして、最初に匂い見本でタガメの匂いを嗅ぎ、タガメを実際に味わったのも良かった。瓶詰のサイダーだけでは、「へぇ、タガメってこんな匂いなんだ」で終わっていただろう。でも、タガメそのものを味わったことによる、「タガメって"本当に"食べられるんだ」「タガメって"本当に"こんな匂いがするんだ」という、体験としての達成感は段違いだ。
「昆虫食の大きな特徴は、その多くが実際の姿を見ながら食べることだと思います。それが、一つの楽しさではないでしょうか」
瓶詰の方は通販でも購入できるが、ここはぜひとも店舗に赴き、「めっちゃタガメサイダー」を味わってもらいたい。