“カメ止め”の上田監督の新作が公開! 監督を気絶寸前まで追い込んだ”悪魔のようなプレッシャー”

公開: 更新: テレ東プラス

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昨年、興行収入31億円を突破した大ヒット映画『カメラを止めるな!』(以下"カメ止め")。そこでメガホンを取った上田慎一郎監督による、劇場長編第二弾『スペシャルアクターズ』がいよいよ10月18日に公開されます。

今回は全国ロードショーを間近に控えた上田監督と、主役に大抜擢された大澤数人さんにインタビュー。"カメ止め"の大ヒットから本作品に至るまでの苦労、オーディションの様子まで、色々と伺ってきました。


10年間で3本しか出演していない俳優を主役に抜擢

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──上田監督、"カメ止め"のヒットで色々なことが変わったと思うのですが、特に大きな変化はどんなことでしょうか?

上田「"カメ止め"以降はオファーを沢山いただくようになり、劇的に忙しくなりました。それに伴って最近都心に引っ越しましたし、僕と妻と本作品で音楽を担当している鈴木の3人で、会社を立ち上げました」

──作品づくりに集中できる環境が整ったということですね。作品を創る上でのスタンスにも変化はあるのでしょうか?

上田「基本的にそこまで大きく変わっていないのですが、"カメ止め"までの短編7本と比べると、ちょっと変わった部分もありますね。以前は映画祭で受賞するにはこうしたら良いとか、こういうものを作った方が次に繋がりやすいとか、余計な下心もありながら作っていました。でも"カメ止め"はそういうことを一切忘れて、好きなこと、やりたいことを120%やろうと思って作ったんですね。それで結果もついてきたので、自分の好きなことを信じるだけで良いんだという自信につながっています」

specialactors_20191006_02.jpg▲オーディションの様子(※写真は演技です)

──今回の作品では、物語に合わせて「役者」をキャスティングする一般的な作り方とは違って、オーディションで先に「役者」を選抜されています。物語のない状態で、1500人の応募者を15人のキャストに絞り込むのは、かなり難しいと思うのですが。

上田「そうですね、オーディションの時点では物語がなかったので、人間として面白い人を選ぶというのがベースにありました。演技が上手いとか、美男美女であるとか、『この人使いやすそうだな』という基準ではなくて、恋をしたときのような"理屈なき衝動"が基本です。もっとこの人を見たい、もっとこの人と一緒にいたい、もっとこの人のことを知りたいと思った人を選びました。それと、この15人でスポーツチームを作るようなイメージでしたね。サッカーでいうとFW(フォワード)ばっかりいてもしょうがないので。全体のバランス、男女や年齢のバランス、演技の器用さのバランスなどもあったり、それにムードメーカーも必要だったり、15人の最高のチームを作ろうと思って選んでいます」

specialactors_20191006_03.jpg▲オーディションの様子(※写真は演技です)

──主役に大澤さんを抜擢した理由は?

上田「気弱な売れない俳優役を、売れている役者がやるのは、嘘が大き過ぎると思ったんです。なので売れない役者の彼にやってもらいたいなと。なにせ数人は、ここ10年で3本しか芝居の仕事をしていないんです。しかも役者をやっていることを両親にも言ってなくて」

──そうなんですか!? 今回の出演についてご両親は何と?

大澤「......先にお母さんが知ったんですけど、『良かった』って泣いてました。......お父さんは朝の情報番組で流れていた予告編を見て知ったんですけど、何も言わずに震えてました」

上田「そんな数人が成長する姿を見せながら、ドキュメンタリー性を加えたかった部分はあります。それに、普通の商業映画の主役は美男美女だったり、演技が達者だったり、ある程度知名度があったりすると思うんですけど、彼のような主人公は少ないんじゃないかと。そういう部分で挑戦をしたかったのもあります」

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──ちなみに、大澤さんの役割を先ほどのお話にあったサッカーのポジションに例えると?

上田「う〜ん、FWでしょうね。点を決めるのは彼ですから。FWなんだけど、みんなに助けられてジャンプしたらたまたま頭にボールが当たってゴールするみたいな(笑)。そういうキャラクターなんじゃないですかね」

大澤「......僕が点、取れますかね?」

上田「もちろん。これから全国大会だから頑張ってもらわないと(笑)」

"カメ止め"のプレッシャーと戦い続けて気絶寸前に!?

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──上田監督は今回の第2弾長編作品を作るにあたって、大スランプに陥ったとお聞きしたのですが。

上田「そうですね、思い出したくないくらい(苦笑)。"カメ止め"が2018年6月に公開されてから、嬉しいことに9ヶ月間にわたってブームがおさまらなかったんです。今までにない怒涛の日々だったので、その間はプレッシャーなどを感じるヒマもありませんでした。しかし、ようやく"カメ止め"ブームが落ち着いて、『スペシャルアクターズ』の物語を考え始める段階で、いきなり強烈なプレッシャーに襲われてしまって。どんな物語を考えても、すぐに行き止まりで、どうやっても"カメ止め"を超えられないと思ってしまって......。体の症状にもあらわれて、横腹に酷いじんましんができたりしました。その時点でクランクインまで2ヶ月を切っていたので、本当に気絶しそうでしたね」

──そのプレッシャーをどのように跳ねのけたのでしょうか?

上田「今回、メインビジュアルと監督補を妻が担当しているのですが、プロット(あらすじ)ができるごとに見せたりしていました。幼稚園からの幼馴染の鈴木にも。『これが上手くいかないんだけど、どう思う?』と聞いて、『まあ俺は大丈夫だと思うけどなあ』みたいな。明確なアイデアが返ってくることもあれば、返ってこないこともありますけど、自分が悩んでいる弱みを吐き出せる人がいるというのは大きかったですね。それがなかったら数人のように、本当に気絶していたかもしれません(苦笑)。それに、今回の企画をオファーしてくれた松竹ブロードキャスティングの深田プロデューサーからも、ありがたいメッセージをいただいて」

──それはどんな内容だったのですか?

上田「それが、こんなLINEが届いたんですよ」

サザンの桑田さんはデビュー作『勝手にシンドバッド』が大ヒットした後、
大きなプレッシャーに苛まれたそうです。
結局、2曲目の『気分しだいで責めないで』は『勝手にシンドバッド』を超える大ヒットとはいきませんでした。
3曲目が『いとしのエリー』です。
でも、必要な2曲目だったんです。
うちは2曲目になってもいい。
上田さんの好きなものを創ってください

──勇気付けられる、とても素敵な内容ですね!

上田「それまでは結局、"カメ止め"に似てはいけないとか、似てた方がみんな喜んでくれるのではないかとか、いずれにせよ"カメ止め"にとらわれていたんです。あのメッセージを読んだときに、それが吹っ切れました。会社として覚悟を決めていて、そんなにヒットとか考えなくても良いと言ってくれているわけですから。それで自分も覚悟を決めて、"カメ止め"を超えるとかではなくて、もう一度好きな映画を作るだけなんだという境地に至ることができました」

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──そこからクランクインまで約2ヶ月間となると、かなり忙しいし、プレッシャーもあったと思うのですが。

上田「一般的な商業映画としてはめちゃくちゃタイトでしょうね(笑)。クランクインが間近に迫ってきているのに物語が決まっていなかったので、焦りはものすごく大きかったです。でも、初稿があがらないとスタッフは動けないので、とにかく血を吐く想いで書き切りました。ただ、台本の初稿の時点では胸を張れるものではないなと思っていて。第二稿で主人公が気絶する設定が加わって、ストーリーの盛り上がりを生み出すことができて、胸を張って出せるものになりました。あとはもうひたすら、ロケ地を決めたり、リハーサルをしたり、衣装を決めたり、駆け抜けていく日々でした」

──大澤さんが気絶する設定には、上田監督の苦しみも投影されているんですね。

上田「そうですね、プレッシャーに打ち勝つ話になったのは、自分自身の投影もあるかもしれません。気絶しそうになって創った、自分を救うための物語でもあるからです。そういう要素もありますけど、お客さんにはまず、エンターテインメントとして楽しんでもらえたらそれが一番嬉しいです」

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『スペシャルアクターズ』
監督:上田慎一郎
10月18日(金)丸の内ピカデリー 他全国ロードショー


【プロフィール】
上田慎一郎
監督・脚本・編集・宣伝プロデューサー。1984年生まれ、滋賀県出身。中学生の頃から自主映画を制作し、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2009年、映画製作団体PANPOKOPINAを結成。国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。
2015年、オムニバス映画『4/猫』の1編『猫まんま』の監督で商業デビュー。妻であるふくだみゆきの監督作『こんぷれっくす×コンプレックス』(15)ではプロデューサーも務めている。「100年後に観てもおもしろい映画」をスローガンに娯楽性の高いエンターテイメント作品を創り続けている。
劇場長編デビュー作『カメラを止めるな!』は動員数220万人以上、興行収入31億円を突破し、2018年の最大の話題作となったことは記憶に新しい。本年8月16日に中泉裕矢、浅沼直也との共同監督作『イソップの思うツボ』が公開。
主な監督作:短編映画『ナポリタン』(16)、『テイク8』(15)、『Last WeddingDress』(14)、『彼女の告白ランキング』(14)、『ハートにコブラツイスト』(13)、『恋する小説家』(11)、長編映画『お米とおっぱい。』(11)。

大澤数人
役者。1984年生まれ。愛媛県出身。『スペシャルアクターズ』では主人公の大野和人役。

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