「バカな奴にしか、バカなテレビは作れない」 伊藤P流「必殺!企画術」と、これからのテレビの在り方

公開: 更新: テレ東プラス

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「モヤモヤさまぁ~ず2」「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」など数多くのヒット番組を手掛け、今年7月に放送し話題を呼んだ特番が「先生、、、どこにいるんですか?~会って、どうしても感謝の言葉を伝えたい。~」(毎週金曜夜6時55分放送)として10月4日(金)よりレギュラー化。独自の路線をひた走るテレビ東京の中でも、ひときわ挑戦的な番組を送り出し続けるヒットメーカー、伊藤隆行プロデューサー。

その"伊藤P"が、テレビ東京が取り組む大学生向けのキャリア教育セミナー「キャリア大学」で講義を行った。「テレビの企画の作り方」をテーマにした講義では、まずは「モヤさま」「池の水」などの人気番組は実際どのように企画してカタチとなったかという話から始まり、「企画とは何か?」「なぜ企画に悩むのか?」を説明しながら、自身の経験から編み出した企画術を伝授した。

【伊藤Pの必殺!企画術】

企画は自分の熱量がこもったものでなければならない。そのためには「自分にウソをつかない。正直に。素直に」が大事とし、具体的に以下の方法を提示。

1. キーワードを日常から引っ張ってくる(何でもメモする)
2. そこから非日常を創り上げる(光りそうなコトバに変換)
3. 他人に思い切ってぶつける(評価してもらう)
4. 反応を受け入れる(ハレーションを楽しむ)
5. 時に人からもらってしまう(パクれ...)
6. 組み合わせてみる(全然違うコトバをくっつける)

この教えを元に学生たちが実際に企画を作り発表した。笑いを織り交ぜながらの、まるで漫談かのような伊藤Pのトークは学生たちの心を開放し、リラックスした雰囲気の中での充実した講義となった。

「テレ東プラス」では、講義を終えたばかりの伊藤Pを直撃。参加した大学生のみなさんの印象など、講義の感想を聞くとともに、講義で語った"企画の作り方"について、さらに深掘り。また、テレビ業界の現状とこれからについてもうかがった。

人を世代で区切るのは意味がない。みんな違って、みんないい

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──「キャリア大学」の講義、おつかれさまでした。学生の方々に、それぞれ"今気になっていること"を紙に書いて発表してもらい、それをテレビ番組の企画にしていく、という実践的な講義でした。いかがでしたか。

「学生のみんなに"企画の種"を出してもらいましたが、それぞれ自分の経験の中で、今気になっていることや考えていることを素直に表現してくれて。僕がお願いした『ウソをつかず、本音で、正直に』ということを、ちゃんとやってくれたのがうれしかったですね。30人の学生の30通りの言葉を聞いて、"みんな違って、みんないい"と改めて思いました。みんな一人ひとり、ちゃんと個性を持っているんだなと。

僕は常々、人を世代で区切るのって、あまり意味がないと思ってるんですね。どうしても『今の若い人たちは......』みたいに、十把ひとからげに語られる傾向がありますが、それはしちゃいけないんだなと、改めてインプットさせてもらいました」

──伊藤さんは普段から、若者に対して偏見は持たないようにしているのでしょうか。

「そうですね。僕が常々思っているのは、世代に関係なく、誰に対してもリスペクトを持って接しよう、と。番組を作る上でも、一緒に仕事をしている者同士、お互いに敬意を持っていなかったら、パートナーにはなれませんから。どんな人にも絶対に何か魅力があるはずなんです。『嫌いだな、この人のこういうところ』なんて思っていたら、その魅力に気付けないし、相手も心を開いてくれないだろうし。仕事というのは、まず人のいいところを見つけるところから始める。これは、経験を踏まえての知恵でもありますね」

自分にウソをつかない! 恥ずかしい上等!

──今日の講義で、企画を考える方法として「自分にウソをつかない」。そのためには自分と遠い世界の出来事ではなく「日常から着想を得る」とおっしゃっていました。伊藤さんご自身はそのために、何か習慣にしていることはありますか?

「メモを取ることですね。『この人面白いな』とか『これは変な現象だな』とか、場面場面を切り取って言葉にしておくという作業は、日々やっています。で、そのメモを怨念のように持っておく(笑)。そうすると、仲間と酒を飲んでるときなんかに、ふと『〇〇って言えばさ、この前、こんなことを思ったんだけど......』と、突然その言葉が出てきたりする。そして、それが思いのほか盛り上がったりすると、俄然"あり"なんじゃないかという言葉に変わっていくんですよね。

要は、そこでやっていることって、番組の構成会議とか商品を開発する会議と同じなんです。何も大仰に会議をやらなくても、普段からそういうことはできるんですよ」

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伊藤Pのスケジュール帳には、メモがぎっしり!

──ゴールを決めず、何気なく雑談をすることも大切。

「改まった感じで何かを決めようとすると、どこかにウソが入ってきちゃうんですよね、頑張っちゃうから(笑)。会議室で根を詰めて話し合うより、さっさと切り上げて、喫茶店に行って雑談をしながらの方が、話が早かったりする。いかに発想が出やすい環境を作って、それを拾っていけるかが我々プロデューサーの務めですから。人の面白い発想をもらっちゃうというか、パクるというかね」

──そういえば、講義での企画術にも「パクれ」という話がありましたね。

「『パクる』には、2種類あって。一つは、いわゆる悪い意味の『パクる』。最近、他局さんがよくテレビ東京をパクりますよね、あれです(笑)。言葉はよくないけど、人のものを"盗む"という行為ですね。たまに、うまくアレンジして本家より面白くなる場合もあるので、一概に悪いとは言いきれないんですけど(笑)。

一方、僕が勧めている『パクる』は、人のいい部分や面白い現象をもらってしまう、という意味です。企画になる前の段階で、誰かが何となく発言したことを、『それ面白いね!』と、そのまま頂いちゃう。

だから、『池の水』なんかも、ある種のパクりと言えるのかもしれない。というのも、『池の汚い水を抜いたら、いったい何が出てくるんだろう』というのは、誰もが思っていたことだから。みんな潜在意識の中でそう思ってたけど、池の前を素通りしてたんですよね(笑)。そこで、『抜いてみちゃう?』と番組化したのが、たまたま僕だっただけで。僕が言う『パクる』というのは、そういうニュアンスなんです。

要するに、"引き出しを多く持て"ということです。自分の引き出しの中身も増やしながら、人の引き出しももらって、自分の引き出しにしてしまおうと」

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──ちなみに、伊藤Pの企画をパクられたことはありますか?

「それは......(笑)。僕の番組のラテ欄に毎週書いていた言葉がタイトルになった番組を他局でやってますね。そういうのはよくあることなので(笑)」

──こうして生まれた企画も、実際に番組にならなければ意味がないわけですが、企画を通すために必要なことは?

「"恥ずかしい上等"の精神ですね。"恥ずかしいことを大きな声で叫べ"と」

──その恥ずかしさの殻をなかなか破れない人も多いと思いますが、どうすれば?

「"勇気を出せ"。勇気を出して言う以外に方法論はないと思います。勇気を持って、ストレートに、素直に正直に。

講義の中で、僕は『評価するのは他人』と言いましたが、それはつまり『あなたのいいところを見つけてくれる人と出会いなさい』ということなんですね。で、それは自分から発信していかないとダメなんです。自分の考えや思いを外に発したときに初めて、誰かが反応して、評価してくれるんだよ、ということ。

実は僕、『バカは勝つ』という言葉を今年の目標にしていまして。この"バカ"は、本当に救いようのないバカって意味じゃなくて(笑)。僕らテレビ業界の人間にとって、『お前、バカだな』は誉め言葉なんですよ。バカな人ほど素直だし、正直だし、勇気があるし。だから若い人たちにも、バカであってほしい。『僕、バカなんですけど』と、胸を張って言える人間になってほしいですね。バカな奴にしか、バカなテレビは作れませんから(笑)」

伊藤Pが一緒に働きたい人材とは?

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──学生の方々へのアドバイスとして、若いうちにやっておいた方がいいことって何かありますか?

「"やっておいた方がいいこと"なんてないと思います。『これをやらなきゃ』と思ってやるべきことなんて、ひとつもない。むしろ、今の生活の中で刺激を受けているものを素直にやればいいと思います。ゲームが面白いんだったらゲームをやればいいし、自分の感受性のおもむくままに、楽しいと思えることをやってほしい。

だって僕みたいに、学生時代に何にもしていない、ましてや『テレビっ子です』なんて全く言えない人間が、『報道志望です』と思ってもないことを言って入った会社で、『お前はバカだから向いてるかも』と言われて、バラエティ番組を作るようになり......そこから結局20年、なんとか働いてこられたわけだから(笑)。学生のみなさんには、『何もしなくていいんだよ』と強く言いたいですね。とにかく、自分の生活を楽しむことが一番だと思います。

むしろ、何かを無理してやるぐらいだったら、何にもしないほうがいい。何もしない人には、何もしない人に合った仕事があったりしますから。例えば、ゲームに全く興味のない人間が、ゲーム業界に就職したとしますよね。そしたら、ゲーム好きの人を見つけてきて、一緒に仕事しちゃえばいいんですよ。『それ面白い? 俺は面白くないんだよな。だから、俺でも楽しめるゲームを考えてよ』とかね。それに、ゲーム好きの人向けではない、もっと幅広い層に楽しんでもらうゲームを作らなきゃいけない局面も、時にはあるでしょ? そんなときはむしろ、何も予備知識がない人の方が、引いた目線で考えられて有利だと思うんです。逆にゲームが好きすぎる人は、没頭するあまり、見識が狭くなることもあるんじゃないですかね」

──伊藤さんは、どんな新人と一緒に働きたいですか?

「何をやってても楽しそうな人がいいですよね。あとは、はっきりとものを言える人。失礼なのはよくないですけど、ただ礼儀正しいというのも、ちょっと物足りないので。物怖じせず、ストレートに話をしてくれる人がいいですね。

そしてとにかく、ウソのない正直な人。『ウソも方便』なんて言葉があるけど、僕はウソなんか要らないと思ってるので。

話がちょっと飛躍してしまいますが、今、働き方改革がどんどん推し進められてますよね。そうすると、今後はどの業界でも、個人間のコミュニケーションの取り方が変わってくるだろうと僕は思っているんです。通信が発達して、今や直接顔を合わせなくても仕事できるようになっている。その中で、コミュニケーションが取りづらくなるんじゃないかと心配する向きもありますが、僕は逆に、新しいツールを使って、より濃密な"ウソのない"コミュニケーションができるようになっていくと思うんですよね」

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