もし6ヶ月後に死ぬとしたら? “人生のエンディング”をサポートする納棺師に聞く「死への心構え」

公開: 更新: テレ東プラス

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「終活」や「エンディングノート」など、いつか訪れる死に向けて準備をするという認識が一般的になりつつあります。とはいえ、「死に対しての心構えができていない」という人も多いかもしれません。

今回は人生のエンディングをサポートする納棺師として働く木村光希さんに、死への心構えを伺いました。数々の人の"死"と誠実に向き合ってきた木村さんが抱く死生観、死の備えは、これからの生き方を考えるうえでもヒントになりそうです。

環境と自分の成熟度で死生観は変化する

──納棺師として多くの人の"死"を目の当たりにしてきた木村さんは、"死"をどのように捉えていらっしゃいますか?

私自身のことで言うと、結婚して娘ができたことで、かなり死生観が変わりましたね。生に対する執着が強くなったというか。それまでは自分の人生だけを考えて生きてきて、「やりたいことをやっているし、いつ死んでも後悔しない」と思っていたのですが、今は娘の成長を見たいから死にたくないなって。

死生観はそのときの環境と自分の成熟度によって、変化するものなのではないでしょうか。

──ご自身が亡くなったあとも後世に残るような、"何か"を成し遂げたいという願望はありますか?

私が納棺師として培ってきた「文化を守れる仲間を残したい」という思いがあります。私と同じか、それ以上の人材を育てることで、良いお別れのシーンを日本中、世界中に増やしたい。それが結果的に、より良い世界を作ることになると私は信じています。

もし6ヶ月後に死ぬとしたら...明日は何をする?

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──木村さん自身は、いつやってくるかわからない死に対して、どのような備えをされていますか?

まず考え方として、私は「6ヵ月後」と「明日」を想定して、死の備えをしています。「もし、6ヵ月後に死ぬとしたら、自分はどう生きたいだろう、何をすべきだろう」と少し長期目線で考えたうえで、日々の過ごし方を決めるわけですね。いきなり「明日、死んだら......」と考えると、「あれもこれも全部やらなきゃ!」となってしまいますので。

その上で、財産分与や会社の引き継ぎ、生命保険に関してなど、必要な内容を明記した「遺言書」を妻に手渡しました。これは経営者や結婚している方にとって、必要なことだと私は思います。

日々の過ごし方としては、「毎日変わらないスタンスでいよう」と心がけています。でも、それは「今日死ぬかもしれない」と毎日考えているから。その感覚を強く持っていたら、あたりまえのことが奇跡に思えるし、毎日小さな幸せをかみしめて生きられるんですよね。

1歳の娘が目を覚まして起き上がっただけで、「すごい!奇跡だ!」って思えますよ。だって、明日同じ朝がやって来る保証なんて、どこにもないですから。

──確かにそうですね。そうやって考えると、日々の充実度も上がりそうな気がします。

人との付き合い方も変わると思いますよ。多少ムカつく人がいても、明日死ぬとしたら仲直りしておこうと思うじゃないですか。

私自身は「大事な人を作っておくこと」を日々、意識しています。納棺師として故人を送る仕事をしていると、送ってくれる人がどなたもいない現場に立ち会うことがあるんですが、一生懸命お葬式をプロデュースしても、故人を送ってくれる方がいなければ意味がなくなってしまうので......。

恋人でも、家族でも、友達でも、誰でもいいので、大事な人を作ろうと意識すると良いのかなと思います。

納棺の儀式で、花嫁にウェディングドレスを着付けたことも

okuribito_20190912_02.jpg▲納棺の儀式のデモンストレーションにて

──「今日死ぬかもしれない」という感覚が湧かない方もいると思います。どうしたら、その感覚を持つことができるでしょうか?

私自身は、つい先日まで元気だった方が急死するというシーンを経験したことがあり、心がえぐられるような、頭が真っ白になるような思いを味わいました。その経験を通じて、本当に唐突に人は死ぬんだと痛感させられ、自分にも周囲の大事な人にも「命の保証はない」という実感が植え付けられたんだと思います。

──木村さんのような経験がない方でも、病気や不慮の事故、事件に巻き込まれて亡くなった方のニュースなどを見聞きすると、死を意識することがあるかもしれませんね。

そうですね。ただ、ニュースでは報道されていませんが、納棺師の仕事をしていると、1日に同じエリアで数百人が亡くなったという事実を知ることがあります。

仕事の現場でも、さまざまなシーンに遭遇します。結婚式を間近に控えて亡くなってしまった女性に、ウェディングドレスの着付けをしたこともありました。生まれたばかりの赤ちゃんを送ったこともあります。「これからも一緒に生きられる」と思っていたのに、その願いが叶わなかった方はごまんといるんです。

そういったことが毎日のように起こっているのだと知っていただくと、自分事として死を捉えやすくなるかもしれません。とはいえ重苦しく考えず、日々あたりまえのことに感動しながら、死への心構えを作っていけば良いのではないでしょうか。

【取材協力】
木村光希
株式会社おくりびとアカデミー ディパーチャーズ・ジャパン株式会社代表取締役、納棺師。
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