日本を知る、地域を考える@滋賀県大津市<前編>:大津とジュネーブは似ていた...京都から電車で9分! 滋賀県大津市の”まちづくり”そして”まちもどし”の定義

公開: 更新: テレ東プラス

shiga_20190907_01_1.jpg▲びわ湖を巡るミシガンクルーズ

大津京遷都から1350年の歴史を持ち、世界的観光都市である京都から電車でわずか9分の場所に位置する滋賀県の県庁所在地・大津。びわ湖と市街地が隣接し、最澄によって創建された天台宗総本山の比叡山延暦寺、紫式部が源氏物語を起筆したといわれる石山寺、明智光秀の菩提寺である西教寺、国宝や重要文化財などが数多く残る三井寺など、歴史上の錚々たる人物に愛された歴史のまちだ。

shiga_20190907_02_1.jpg▲2020年に放送される大河ドラマの主人公となる明智光秀が眠る「西教寺」

自然豊かな大津には、びわ湖でのウォータースポーツをはじめ、多彩なアクティビティが満載。"美肌の湯"として親しまれる「おごと温泉」は、1200年の歴史を持つと言われる湯治の郷。びわ湖を望む露天風呂は温泉マニアの間でも絶大な支持を得ている。

そんな水の都・大津が、大きく変わろうとしている。2020年秋に控えた「ジュネーブ構想」、また、それとは対極にある「宿場町構想」...。大津のまちでは今、進化と再生を混在させた"まちづくり"そして"まちもどし"が行われている。

京都へのアクセスの良さも魅力の一つであり、2012年から外国人観光客が約5.4倍に急増。そんな大津で今、何が行われようとしているのか...。2012年から大津市長を務める越直美氏に、その構想を聞いた。

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車道を歩道へ、斬新に駅前をリゾート化

大津市では、「世界に一つしかないまち、世界から人が訪れるまち」を目指し、湖のまわりで楽しく過ごせるまちづくり、湖まで楽しく歩いていけるまちづくりを目指している。題して「ジュネーブ構想(湖を生かしたまちづくり)」。JR大津駅前からびわ湖へと続く中央大通りの1車線を歩道にし、歩道と公園を一体化。駅を降りたらすぐにリゾート地が広がる...まさに夢のような計画だ。

shiga_20190907_04_1.jpg▲来秋のJR大津駅前中央大通り予想図

「個人的な会議で、4年前にジュネーブに行った際、コルヴァナン駅からレマン湖に続くモン=ブラン通りを通り、"大津からびわ湖までの中央大通りに似ているな"と思ったことがきっかけです。広いびわ湖ですが、市街地とびわ湖がこれだけ隣接しているのは大津だけ。ジュネーブのような街を作ろうとかそういうことではなく、ジュネーブのように湖をうまく使ったまちづくりができないものか、と考えました。大津の一番の魅力と言えば、やはりびわ湖です。湖まで歩いて行けることを利用して、テラスで食事ができたり遊べたり、時には体を動かすアクティビティが楽しめたり...市民も観光客も湖を見ながらくつろげるようなまちを作りたい、そんな思いから打ち出したのが"ジュネーブ構想"。

まず、駅前から中央大通り及び大津駅前公園については、既にPark-PFI方式でテラス型のカフェなどを設置する事業者も決まり、来年オープンします。特に駅前は、中央大通りの一部区間について、1車線を歩道にし、その横にある公園を一体化させ、駅前からいきなりリゾート空間が広がるような新たな空間を目指しています」(越市長 以下同)

shiga_20190907_05_1.jpg▲びわ湖沿いに誘致したカフェ。屋外でビアガーデンも行われる。

越市長の行動はとにかく早い。根底には「行政から民間へ...」という民間推進路線が存在し、行政で行えば数億円、数年かかるまちの変革を、小エリアではあるものの、1年単位で確実に実現。市民に向けてわかりやすくお披露目している。

「従来型の公共事業中心のまちづくりから、民間事業者や市民の方が作るまちづくりへとシフトしています。全国の県庁所在地を見渡しても、行政が建てた建物は特徴がなくどこか似ている。税金を使っていろんな方のご意見を踏まえていくうちに、全然特徴がない誰もいいと思わないようなものができてしまうのです。大津の個性が生かされない...そんな建物だけは建てたくありませんでした。行政が採算が取れない建物を建てれば、結局赤字を行政が負うことになり、将来の市民に負担を押しつけることになりかねません」

shiga_20190907_06_1.jpg▲商業施設「VIERRA(ビエラ)大津」内にある「THE CALENDAR」。レストラン、BBQテラス、カフェ、バー、ブックストア、カプセルホテルを包括した複合施設

「例えば、JR大津駅についても、『市がお金を出して駅ビルを立てるべきだ』という意見がありました。しかし、私は、市が駅ビルを立てることはしませんでした。もともと、JR大津駅はJRの建物ですが、市が建物を借りていました。むしろ、市が借りていた建物をJRにお返しし、2016年10月、新しく民間のテナントが入ってオープンしたのが、『VIERRA(ビエラ)大津』です。民間の力で、お洒落なカフェ、テラス、近江牛レストランや蕎麦地酒の店、観光案内所などを融合した商業施設として、とても素敵な形に生まれ変わりました。民間の事業者さんにお任せしたことでスピーディーに進み、1年くらいで変えることができました。小さなエリアでいいから、いち早く市民の皆さんの目で見て頂き"変わって良かったな"と感じて頂くことが大切だと思っています。大規模な公共工事で多額のお金をかけてしまうと修正できませんが、小さくやると修正もききますし、市民の皆さんから感想を頂いて、次のエリアで生かすこともできます。

民間の力を使って、今後も1年単位でまちが変わっていくような...そんなまちづくりを目指したいと思います」

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困りごとにこそビジネスの種がある!

京都まで9分、大阪まで40分というアクセスの良さ、さらには越市長が掲げてきた「待機児童ゼロ」も見事達成し、大津市の人口は増加に転じている。今年5月には、コワーキングスペース(フリースペース)として、市民も職員も一緒に仕事ができる「まち家オフィス結」を開設。「大津・女性ビジネスプランコンテスト」を設けるなど、女性の起業支援にも積極的だ。

shiga_20190907_08_1.jpg▲「まち家オフィス結」。室内の一部には、竈や井戸などがそのまま残されている空間も

「女性が仕事か子育てか...二者択一ではなく、両者が叶うようにしていきたいというのが、私が市長に立候補した一番の動機です。そのため、私が市長に就任してからの7年間で、2,896人の定員、32園の保育園やこども園を増やしてきました。そして、2015年から2017年の年度当初に3年連続で、そして今年の4月も待機児童がゼロになりました。その結果、0歳から5歳の子どもを持ってフルタイムで働く女性は、60パーセント増え、大津市ではM字カーブがなくなりました。また、合計特殊出生率も1.2から1.5に上がりました。

一方で、出産などを契機に既に仕事を辞められている女性の方もいらっしゃいます。しかし、やがて子どもが成長すれば、塾や習い事などにお金がかかるようになり、もう一度働かざるを得ない状況になる場合も多いと思います。そうした際、もとの会社に復帰できない、能力と見合わない仕事しか見つからないこともある。そんな中で、"起業"という選択肢があってもいいのではないかと思います。

今年も『大津・女性ビジネスプランコンテスト』を行いますが、グランプリを獲得した介護を受けている方が旅行に行けるサービスや潜在保育士のマッチングサービスなど、女性が"あったらいいな"と思うサービスやモノがビジネスモデルとして出てきている。市では起業を考えている皆さんに向けたスクールも開催しているので、ドンドン参加していただきたいと思います」

これまで、多くのビジネスモデルを見守り続けてきた越市長。今後起業を考えている方に向けて、アドバイスはあるのだろうか。

「何より"やりたい"という気持ちですよね。そして、自分が日々"不便"と感じていることを形にしていくのがポイントだと思います。ニーズはあるけれど視点が抜けている...そんなところにこそビジネスチャンスがある。困りごとこそがビジネスの種だと思います。特に、女性の困りごとは、男性経営者や男性起業家が多い中で、まだ十分に吸い上げられていない。だからこそ、女性起業家にはビジネスチャンスがあります。女性の困りごとに焦点を当ててみてはいかがでしょうか」

観光名所のみならず、起業の変革においても積極的な滋賀県大津市。未知なる可能性を秘めた大津市の進化は、まだまだ止まりそうにない。

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