「主治医が見つかる診療所」(毎週木曜夜7時58分から)は、医師や病院の選び方のコツや、無理なくできる健康法など、医療に関するさまざまな疑問に第一線で活躍する医師たちが答える知的エンターテイメントバラエティ。
今回WEBオリジナル企画「主治医の小部屋」で取り上げるのは、「赤ワインの健康効果」。早速、同番組のレギュラーで、ワインに関する著書も出されている秋津壽男医師に、教えていただきましょう!
お酒は適量飲めば長生きできる!?
Q:40代女性です。秋津先生は大変ワインがお好きと伺いました。「健康には赤ワイン」「動脈硬化にはポリフェノール」と言われていますが、どれくらいの量を飲むといいのでしょうか。また、ワインと一緒にとることで相乗効果が期待できるおすすめのおつまみなどがあれば教えてください。
── 先生、お酒には健康効果があるのでしょうか。
「タバコは『百害あって一利なし』ですが、本来お酒は『有害ではあるが、有益でもある』もの。もちろん飲みすぎはよくありませんが、最近は適量飲めば飲まない人よりも長生きできるというのが通説になっています。その適量というのが日本酒で0.5〜0.75合くらい。その程度の量までなら飲んだほうが体にいいんですね。
では、なぜ赤ワインの健康効果が盛んにいわれるようになったのかというと、他の欧米諸国に比べてフランス人はクリームやバターなど動物性脂肪の多い料理や、高カロリーな料理を好んで食べるにもかかわらず、動脈硬化、心臓病、脳梗塞を発症する人が少ないという矛盾から。フランス人は体に悪いことをしているのに脳梗塞や心筋梗塞が起きないのは矛盾している...ということで、これを私たちは"フレンチ・パラドックス" と呼んでいます。この現象を調べるうちに、原因はワインの摂取量が多いことにあるのではという仮説が生まれたのです。
そこで、食事や生活の条件をまったく一緒にした数名の被験者を、同じアルコール量に相当するウオッカと赤ワインを飲む2チームに分けて2週間くらい実験を行ったところ、赤ワインを飲んだチームの人たちは動脈硬化の指数が改善。そして、それはワインに含まれるポリフェノールによる効果だとわかったわけです」
── それで赤ワインは体に良いといわれるようになったのですね。
「お酒のほとんどは、日本酒やビール、ワインなどの醸造酒か、ブランデーやウイスキー、焼酎などのスピリッツ(蒸留酒)です。蒸留酒は蒸留作用によってさまざまな成分が消えているので、成分にほとんど差はないのですが、醸造酒のほうは例えばビールなら穀物の胚芽(プリン体)、日本酒ならお米(糖質)のように、原料の成分に影響を受けます。ワインの場合は、ブドウの皮と茎と種にポリフェノールが多く含まれていて、それが非常に体に有用だったのです。
ポリフェノールというのは、基本的に植物が自分の体を守るためにつくった一種の毒素に近い成分です。種子が成熟する前に食べられてしまわないように、特に実の若い時期は皮に渋みや苦みが多く含まれます。この成分に、我々人間にとっては体の酸化を抑えてくれる抗酸化作用があったのです」
画像素材:PIXTA
── ブドウに含まれるポリフェノールは、ほかのポリフェノールと違いがあるのですか。
「ブドウにはレスベラトロールという赤ブドウ特有の、特殊なポリフェノールがあります。これが人間に強力に作用してくれるんですね。効果的にとるにはやはり赤ワインがおすすめですが、白ワインでもライトな飲み口のものでなく、重めのものであればポリフェノールの含有量は十分にあります。
皆さん、赤ワインと白ワインではまったく違うように思われるかもしれませんが、実は真っ黒なグラスに白ワインを入れて飲むと、赤か白かを言い当てられる人はそう多くありません。それくらいタフな白ワインはヤワな赤ワインより、よほど赤ワインっぽいのです。これはタンニンやポリフェノールの量が多いから。ポリフェノールは色も大切ですが濃さが重要で、赤ワインでもボジョレーのようなタイプよりは、カルフォルニア(アメリカ)の白ワインの方が含有量は多いですね」
お酒が苦手な人は濃いブドウジュースを
── では、ワインに合わせるおつまみとして相性のよい食材は何でしょうか。また、庶民でも手が届くおすすめの銘柄があれば教えてください。
「目的は動脈硬化を防ぐことにあるので、動脈硬化予防によいおつまみを一緒に食べるとさらに効果的です。ポリフェノールの吸収にはあまり差はないので、それよりもアミノ酸のバランスを考えて、やはり昔からいわれているチーズ類が良いでしょう。豚肉にもビタミンB群など動脈硬化によい成分が含まれています。ビストロなどで定番の前菜・シャルキュトリー(豚肉などの食肉加工品)には相性が良いものが多いと考えると、わかりやすいかもしれませんね。
ワインの種類については、エキスの濃いパワフルなものがおすすめです。それにはブルゴーニュワインやイタリアワインよりもニューワールド産のワインがいいですね。ブドウ栽培の北限に近いヨーロッパより、温暖な気候で熟度が高いカルフォルニアや南米のチリ、オーストラリア産のワインのほうがポリフェノールは豊富ですし、しかも価格が手頃です。
ただし、ポリフェノールが体に良いからといって、飲みすぎはいけません。先ほどの適量でいえば、普通のワイングラスで軽く2杯くらいまでにしましょう」
── お酒が苦手な人でもレスベラトロール(ポリフェノールの一種)を効果的にとる方法はありますか。
「グラスの向こうが見えないくらい濃いめのぶどうジュース(コンコードジュース)なら、お酒が飲めない人やお酒があまり得意でない人でも、ブドウのポリフェノールを十分摂取できますよ。
また、飲みきれずにそのまま日にちが経ってしまったワインがある場合は、鍋に入れて火にかけ、アルコールを飛ばして3分の1の量になるまで煮詰め、それを冷凍保存するという方法もあります。ワインのエキスと旨みとポリフェノールをぎゅっと濃縮したものが出来上がるので、例えばレトルトカレーに加えると洋風カレーになったり、肉じゃがに入れるとシチュー風の肉じゃがになったりします。料理に使いやすく、ポリフェノールもしっかりとれるので試してみてください。
最後に、ワインはハレの日(祝祭日)や楽しい状況で飲むことが多いお酒です。逆にいえば、飲んでいると楽しく幸せになれるお酒でもあります。ワインで乾杯することでストレスを軽減し、ポジティブシンキングになれるというのは、ほかのお酒にはないメリットです。そういう意味でも、ワインは健康効果が期待できるお酒だと思いますよ」
──秋津先生、ありがとうございました!
【秋津壽男医師 プロフィール】
1954年和歌山県生まれ
1977年大阪大学工学部発酵工学科卒業 1986年和歌山県立医科大学卒業
1998年秋津医院を開業
日本内科学会認定総合内科専門医 日本循環器学会認定循環器専門医
日本医師会公認スポーツドクター 日本体育協会公認スポーツドクター
日本禁煙学会認定禁煙専門医
著書に「酒好き医師が教える 薬になるお酒の飲み方」(日本文芸社)、「古酒礼賛―熟成の刻は、ワインを磨く。」(ヴィノテーク)など。
※この記事は秋津壽男医師の見解に基づいて作成したものです。
今回お話を伺った秋津先生が出演する「主治医が見つかる診療所SP【芸能人老化ドック&血糖値の新常識】」(9月5日木曜夜7時放送)。
今回のテーマは、見た目の老化だけでなく心筋梗塞や脳卒中、認知機能の低下にもつながるという体の「コゲ」と「サビ」。体をコゲつかせたりサビつかせたりする生活習慣の落とし穴とは!? 5人の芸能人の中で一番老化しているのは誰? 体のサビを防ぐこの秋の最強食材、体を守るための予防法や目からウロコの食事法まで、徹底的に紹介します!
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