江戸時代は”引きこもり”が多かった!? 星野源 主演映画「引っ越し大名!」誕生ウラ話

公開: 更新: テレ東プラス

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引っ越し業者もトラックもない江戸時代。幕府に命じられる国替え=引っ越しは、どれだけ大変だったか想像できますか?

城ごとまるごと"引っ越し"という超難関プロジェクトに挑む、星野源主演の映画「引っ越し大名!」が、8月30日(金)全国公開! 原作者であり脚本を手掛ける作家・土橋章宏氏に、江戸時代の引っ越しにまつわるエピソードから映画の見どころ、創作の源泉を語ってもらった。

江戸時代には"引きこもり"が多かった!?

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──まずは、映画「引っ越し大名!」の原作『引っ越し大名三千里』で江戸時代の引っ越しを取り上げようと思われたきっかけは何だったんですか?

「普段から歴史上の出来事で面白いものはないかとよく探していて、"引っ越し大名"という言葉が目に入ってきたんです。実際に、江戸時代にそう呼ばれる大名がいて、字面が面白いと思ったのがきっかけですね。

取材していくと、当時の引っ越しは大変な思いをしていたことが分かって。特に、松平直矩(まつだいら・なおのり)という大名は7回も引っ越しさせられていて、これは現代の転勤族のサラリーマンに通じるものがあるし、面白くなる題材じゃないかなと」

──本作では、松平直矩が姫路(兵庫県)から日田(大分県)へ引っ越す話を描かれていますが、引っ越し大名について、かなり調べられたのですか?

「そうですね。松平直矩の肖像画を見ると、今回、直矩を演じてくださっている及川光博さんに似ているんです(笑)。直矩はのほほんと幸せそうな感じの人で、及川さんはピッタリだなと思いましたね。

直矩は多額の借金をしたり、遊び人でもありますが、人柄が良くてみんなが許してしまう。仕事を部下に任せる人でもあって『俺が責任を取るから好きなようにやってくれ』という器の大きさがありました。日記もまめにつけていて、今で言うならFacebookをよく書いているような人だったんですよ(笑)」

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──星野源さん演じる本作の主人公は、直矩のために働いた"引っ越し奉行"片桐春之介ですが、彼には実在のモデルはいるのですか?

「春之介は、架空のキャラクターです。"引っ越し奉行"という役職に就いた主人公がだんだん成長していく話にしようと思いました。

江戸時代には、春之介のように"引きこもり"の人が意外といたんですよ。家督は長男が継ぐので次男以下には仕事もなく邪魔者扱いされて、部屋にこもってひたすら写経をしたり、本を読んだりして暮らしていた人がいたみたいで。そういう人が急に表舞台に引っ張り出されたら面白いだろうなと、こういうキャラクターに設定しました」

──春之介を演じる星野さんの印象はいかがでしたか?

「僕自身も引きこもり体質で、一人で本を読んでいるのが好きなんです。春之介のキャラクターにはそういう一面が入っているのですが、星野さんはそこをすごくうまく演じてくださって。春之介が悩んでいる姿を演じても、すごく絵になる方だなと思いました」

──"引きこもり"という言葉にはネガティブなイメージもありますが、この作品では、その要素がプラスに働くという描き方がステキです。

「実は、リア充的な人は、人に仕事を任せて手柄だけとるという場合も多くて(笑)。引きこもりや、いじめられっ子には、本当はやれば仕事ができる人が多いんですよ。場所を与えて周りの人の助けもあれば能力を発揮していき、"自分にはこんな力があるんだ"と気付くこともある。

人と話す能力は鍛えれば上がっていくものですから。現代でも、自分に自信がないと思っている人ほど、意外に伸びる可能性があります。この作品では、そういう人間の成長を描いたつもりです。もし引きこもっている人がいたら、この映画を見て"やればできるんだ"と思ってもらえたらいいですね」

無理難題ばかり! 江戸時代の引っ越し仰天エピソード

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──執筆のためにいろいろ調べられた中でも、"これは面白い!"と思った江戸時代の引っ越しエピソードはありますか?

「引っ越しの際に、無理難題を言う人がいるんですよ。『妾を連れて行きたい』『墓を持っていきたい』『習っていた俳句の師匠をどうするのか』とか(笑)。あと、出ていく城は、来た時の元通りに戻さないといけないので、やらなければならないことが細かく決まっているんです。城の中の物は槍一本欠けてはいけないし、絵が破れていたら修繕しなければいけないし、備蓄してある米も最初にあった量と同じに戻しておかなければいけない。それを幕府から
来た役人が確認するわけです。そういう雑事で、みんながあたふたするところが面白いんですよ」

──城を明け渡す際の儀式もあるんですよね。そのあたりも映画で描かれていて、面白く拝見しました。今回、脚本もご担当されていますが、ご自身の原作を脚本にするにあたってのポイントは?

「映画は2時間しかないので、原作を短くしないといけない。ですから、良い所を取ってどうメリハリをつけるか。これは、いつも脚本にするときの難しさです。最初に2時間強のものを書いて、犬童(一心)監督と話し合って削ったりしながら仕上げました」

──犬童一心監督からはどのようなリクエストがありましたか?

「犬童監督は、ミュージカルの要素を取り入れたいとおっしゃっていました。昔の時代劇はミュージカルシーンが多かったんです。監督は時代劇をよく研究されていて、時代劇とミュージカルが合わさった楽しさを出そう、と」

──体力づくりや準備の時に歌を歌ったり、引っ越しの道中にも、みんなが歌って踊るシーンがありますね。

「オリジナルで『引っ越し唄』を作って、野村萬斎さんに振付・監修していただき、とても楽しいシーンになっています。実際のあの時代の人たちも、歌ったり踊ったりするのが好きだったんですよ」

嫌なヤツを悪役に!? 妄想力が物語を生み出す

──土橋さんが作家になろうと思ったきっかけは?

「本を読むのも好きだったけど、書くことが好きでした。シナリオスクールに通い始めてからからは、作品をコンクールに出すのが好きで。賞を取りたいというより、とりあえず書きたいという思いがありました。ストーリーを思いつくのが得意だったんでしょうね

──「書きたい」という思いは、子供の頃から持っていたのですか?

「よく妄想をしていました。学校の授業中でも『今強盗が入ってきたらどうしよう』とか、そういう妄想が大人になっても続いていて。私は気が弱いので、いろんな人に厳しく言われた後、想像の中だけで反撃するとか(笑)、嫌な思いをさせられた人を悪役にしたり(笑)。常に妄想をしていたので、妄想力が高まったんでしょうね。それは糧になっていると思います」

──もしかして、今も妄想癖はありますか?

「たくさん妄想してますよ。ちょっと具体的には言えませんけど(笑)」

調べ物はまずはWiki。そこから興味が広がっていく

──『超高速!参勤交代』シリーズをはじめ江戸時代をテーマにした作品を多数書かれていますが、その理由は?

「現代劇では受け入れてもらうのが難しいことでも、時代劇にすれば許容範囲が広がるというか、奇抜なことができる。江戸時代の話は誰も知らないですから(笑)。アニメと近いものがあるかもしれないですね。アニメだと『こんなのウソじゃん』という人、いないですから。そういう意味で、時代劇は広がりのあるジャンルだと思います。

それでいて、人間自体はそんなに変わっていないので、現代人の悩みを反映させることもできて、現代のみなさんを勇気付けることもできるのではないかと思っています」

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──江戸時代に興味を持たれたきっかけは?

「『鬼平犯科帳』です。人情話が多く、人と人が繋がっていて、助け合いもあって、そういう人情に厚いところが好きで。チャンバラも好きなんで、今回の映画にも殺陣が入っています。高橋(一生)さんがお出来になられるので、自分も見たいなと思って入れました(笑)」

──江戸時代の作品を書かれる時の資料は?

「最初はWikipediaで調べて、地元の図書館や国会図書館に行ったり、出版社さんにお願いして詳しい方にインタビューしたり。調べていくうちに、また新しいものに興味が出てきて、さらにそれを調べて......と興味が広がっていくんですよ」

──江戸時代が好きになるような面白い文献や資料はありますか?

「『土芥寇讎記』は面白いですね。『松平直矩はなかなかいいヤツだけど、お稚児趣味だけはどうにかしてほしい』とか『あそこの大名はどういうヤツだ』ということが書いてある(笑)。歴史小説好きの友達は、みんな買ってますね」

──興味のある江戸時代のテーマはありますか?

「瓦版は、江戸時代のマスコミとして面白いなと思っています。あとは、戦国時代に一番活躍した忍者ですね。水の上を浮いたりはしなかったでしょうが、それに近いことはやっていたみたいですね。スパイのように潜入して、情報を集めたり、悪い噂を流したりしていました。忍者は、今もいますからね」

──忍者が!?

「そうです。忍術を受け継いでいる末裔の方がいます」

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江戸時代のお祭りは、"出会い系"!?

──今回の引っ越しをはじめ、『駄犬道中おかげ参り』ではお伊勢参り、『大名火消しケンカ十番勝負!』では火消しを書かれていますが、他にも江戸時代の風習や人々の暮らしで興味があるものはありますか?

「お祭りは、"出会い系"ですよね。いろんな人と......みたいな。それをなぜやめてしまったのか(笑)。昔は性に関して奔放で、童貞なんていなかったですからね。『あいつそろそろだ。奥さん、相手してやれや』みたいな(笑)。今は相当抑圧されていると思いますよ」

──あと、『引っ越し大名!』を拝見すると、転勤の指令には抗えないとか、リストラの恐怖とか、武士社会は現代のサラリーマンに通ずるものもあるのかなと思ったのですが。

「そうですね。人が集まって階級を作って規制があると、会社っぽくなるんでしょうね。社長の命令は絶対ですし、集団になると葛藤や摩擦が起こったり、そういうところが面白いですね。ただ、最近はサラリーマンが特権階級になりつつあるので、傭兵のような"非正規雇用"の立場の人を描くのも面白いかなと思います」

──江戸時代を通じて現代の人にも響く物語を描いていきたいということですね。

「そうですね。今の人にとって気付きがあればいいですし、笑って楽しみながら人生訓のようなものを感じていただければと思っています」

──江戸時代の人々から学ぶ、現代を生きる人々へのヒントは?

「今は働きすぎじゃないですかね。江戸時代の人々は、のほほんとして朗らかだったみたいです。そんなにあくせく働いてないですし、何かといえば神社巡りとか、すぐに遊びに行こうとしますし。信心深いのもありますが、神社に行けばおいしいものもあり、富くじもあり、楽しかったんですね。明るい時代だったと思います。

携帯がないっていうのもいい(笑)。今はネットとか大変ですから。いろんなことを気にしすぎないことが大事ですよね」

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──今後、挑戦してみたいジャンルはありますか?

「現代の人間ドラマを描きたいという思いはあります。基本的にはコメディーが好きで、チャップリンが好きですし、子供の頃はドリフもよく見ていました。ダメな人が一生懸命やっているようなコメディーを描いていきたいですね」

想像力と好奇心が旺盛で、創作への意欲は枯れないと語る土橋氏が生み出す作品は、温かく優しい。今回の映画も、現代人への応援歌として多くの観客を勇気付ける作品となっている。土橋氏がこれからどんな物語を紡いでいくのか、楽しみに待ちたい。

【土橋章宏(どばし あきひろ)プロフィール】
1969年、大阪府生まれ。日立製作所を退社後、WEB制作会社を立ち上げ独立する傍ら、シナリオ・センターの講座で学び、脚本・小説を執筆。2011年『超高速!参勤交代』で「第37回 城戸賞」を受賞、映画『超高速!参勤交代』('14年)、『超高速!参勤交代 リターンズ』('16年)で脚本を担当し、「第38回日本アカデミー賞」最優秀脚本賞を受賞。ほか、『幕末まらそん侍』が原作の映画『サムライマラソン』('19年)など映像化された作品も多数。2017年には「脚本家側だけではなく、監督側から映画のことをもっと勉強したい」との思いから応募した「TSUTAYA CREATORS'PROGRAM」で、パラリンピックを描いた『水上のフライト(仮)』が審査員特別賞を受賞。

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土橋章宏の時代小説『引っ越し大名三千里』を、『のぼうの城』の犬童一心監督が映画化。
主演・星野源をはじめ、高橋一生、高畑充希、及川光博ら超豪華キャストが集結。

書庫にこもりっきりで人と話すのが苦手な引きこもり侍・片桐春之介(星野源)が、姫路から大分への藩の引っ越し(国替え)の総責任者"引っ越し奉行"を任されることに。突然の大役に怖気づく春之介は、幼馴染で武芸の達人・鷹村源右衛門(高橋一生)や前任の引っ越し奉行の娘である於蘭(高畑充希)に助けを借り、引っ越しの準備が始まるが......。

人数10,000人!距離600km!予算なし!? 春之介はこの一世一代のプロジェクトを知恵と工夫で無事に成し遂げ、国を救うことができるのだろうか!?

映画「引っ越し大名!」
8月30日(金)全国公開!
【キャスト】星野源、高橋一生、高畑充希、小澤征悦、濱田岳、西村まさ彦、松重豊 / 及川光博 ほか
【原作・脚本】土橋章宏「引っ越し大名三千里」(ハルキ文庫刊)
【監督】犬童一心
【主題歌】ユニコーン「でんでん」(Ki/oon Music)
【配給】松竹
公式サイト:http://hikkoshi-movie.jp/

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