マレーシアで起業して家族5人で移住! 中村芙美子さんに聞く「海外進出3つの成功法則」

公開: 更新: テレ東プラス

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出生数が下がり続け、人口減が顕著な日本。国内のマーケットに将来を望めず、海外進出を狙う企業が増えています。6年ほど前にマレーシアの首都クアラルンプールで起業し、家族5人で現地に移住した中村芙美子さんも、そうした起業家の一人でした。

今回、彼女に海外進出のリアルなエピソードを聞いたところ、「3つの成功法則」が見えてきました。現地で幾多の困難を乗り越え、事業を継続してきた中村さんの体験談は、これから海外進出を目指す方にとって、貴重なアドバイスとなりそうです。

グローバルな教育を目的にマレーシアへ移住

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──中村さんがクアラルンプールに移住したきっかけは、なんでしたか?

3人の子供たちの教育が目的でした。私は高校生時代にカナダの高校に留学した経験があり、それが人生の転機の一つになっています。実は日本の高校が合わなくて2回退学しているんですが、カナダに行ってから英語力が身に付いて視野が広くなったし、勉強をおもしろいと感じるようになり、無事に高校を卒業できました。

だから、いずれは子供たちを外国で育てたいという思いがあったんです。当時、5歳、3歳、1歳の子供がいたのですが、彼らをインターナショナルスクールに通わせたいと思って調べていたところ、マレーシアなら費用や条件面で可能であることがわかりました。

──海外移住ではビザ問題がありますが、どのように解決したのでしょうか?

マレーシアのインターナショナルスクールに子供を通わせた場合に得られる保護者ビザでは、片親しか現地に住むことができません。私たちは夫も含めて家族全員での移住を希望していたので、現地で就職するか、起業するか、年齢的にもどちらかの選択肢しかなかったんですよね。

夫は英語が流暢ではなく、私は宝石鑑定士の資格とWEBマーケティングの知識が少しあるだけで、現地での就職は困難でした。なので、現実的にビザを取得できる方法が"現地での起業"だったんです。まずは日本人向けのWEBマーケティング会社を夫婦で立ち上げました。

【成功法則1】事業計画書に忠実になりすぎない

malaysia_20190827_02.jpg画像素材:PIXTA

──右も左もわからない異国の地で事業を軌道に乗せるのは、相当のご苦労があったのではないですか?

移住して少ししてから、マレーシアの情報を発信するWEBメディア「マレーシアマガジン」を立ち上げたんです。当時は日本語でマレーシアの情報を得られる情報サイトが、ほぼなかったので、そこから仕事の幅が広がりましたね。

──メディアを通じて、仕事の依頼が増えたということですか?

メディア運営だけで十分な収入を得るのは難しいですが、メディアを窓口にして撮影依頼やコーディネートなど、さまざまな問い合わせをいただくようになりました。

このような案件について、マレーシアには柔軟に対応できる日本人が少ないんです。すべての依頼にお応えすることは困難でしたが、未経験でもとにかくチャレンジしてみようと、「できる・できない」を振り分けていきました。日本にいたらおこがましくて請けられないような仕事も、こちらでは単純に人がいないから、「下手でもやらないよりはマシ」ということで、チャレンジさせていただけることが多いんです。

──当初、想定していたWEBマーケティング事業だけでなく、仕事の幅を広げていったことで活路を開いていったんですね。

クアラルンプールで6年以上、事業を続けてきて悟ったのは、「事業計画書どおりに仕事を進めるのは、ほぼ不可能」だということです。日本企業の多くはキッチリ事業計画書を作って、計画に沿って忠実に進めようとしますが、海外ではそれが通用しません。

事業計画に忠実になりすぎず、「なんでもやります」のスタンスでいるほうが、事業が順調に回ることが多いのではないかと思います。

【成功法則2】コンサルやブリッジ費用はケチらない

──クアラルンプールで腰を据えて事業を展開するなかで、もっとも大変だったことはなんでしたか?

日本人とマレーシア人の間で板挟みになることですね。多くの日本人は商習慣の違いを考慮せず、日本のやり方をそのままマレーシアに持ち込もうとしますが、それは無理な話です。先程もお伝えしたように、計画書通りに進んだ事例は見たことがありません。

──具体的にどんなトラブルがありましたか?

価格や見積もりといったお金の交渉は困難を極めることが多いです。交渉しているうちについ感情的になり、結果的に決裂してしまうことも少なくありません。

あとは、日本人の「察する」とか「根回しする」といった文化も、こちらには一切ありません。契約で取り決めたことしかやらないのが基本スタンスで、それ以上を求めるなら追加料金が必要です。実際に動き始めてみないと、どこまでやってくれるかが不透明な部分もあり、この辺りの調整が非常に難しいところではないでしょうか。

海外進出する際にコンサルタントやブリッジの費用を削って、自分たちでやろうと試みる人がいますが、時間とコストとストレスがのしかかって失敗するパターンがよくあります。初めての海外進出なら、多少費用をかけてでも現地をよく知るパートナーを見つけることがオススメです。

【成功法則3】現地人のルーツ=宗教を知る

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──マレーシアをはじめとした海外で仕事をするうえで、心得ておくべきことはなんでしょうか?

彼らのアイデンティティのルーツを知ることが一番だと思います。マレーシアなら彼らが持つ哲学は、すべて宗教に紐づいています。外務省の公式サイトによると、マレーシアの国教はイスラム教で、人口の60%ほどを占めていますが、多民族国家のためヒンドゥー教徒、仏教徒、キリスト教徒の人もいます。

宗教の違いによって、常識や言葉の言い回しには違いが出てきます。ビジネスの交渉をする際も、神様について触れたほうが心に刺さる場合もありますし、面子を大切にしてあげたほうが良い場合もあります。彼らの感覚を知り心に響く言い回しを知るには、なるべくローカルの方々と触れ合い、彼らの哲学への理解を深め、共鳴することが大切かなと思っています。

逆に、マレーシア人も日本人に響く言葉をたくさん知っていますよ。例えば「お客様は神様ですから」とか、「どうもすみません、ひとつよろしくお願いします。」とか(笑)。日本語が完璧じゃなくとも、「この人はもしかしたら日本の文化をわかっているのかな」と思わせてくれますよね。

また、マレーシアで一般的にプライオリティが高いのが"家族との時間"。これはどの宗教を信仰する人にも共通している価値観で、家族と過ごす時間を優先したいから、仕事は決められたことだけ終わらせればOKというスタンスで、ビジネス上でもプライベートでも必要以上に他人に深入りしません。

また、日本では「最高を目指そう」という感覚が浸透していますが、マレーシアでは文化基盤の異なる人たちが争わないように、「最低限を守る」ことに重きを置いている気がします。最低限のベースを決めて、それだけをこなし、余計な時間を仕事に費やさない。マレーシアでは、最低限がどこなのかを知っておくことが処世術の一つのようにも感じています。

このように宗教や文化が商習慣の由来になっていることが多いので、海外進出では各国の歴史と現地の人たちが信じている宗教について勉強すると、信頼関係を築きやすくなると思います。

ただ、マレーシア人に関して言えば、彼らは非常にオープンかつサバサバした性格で、付き合いやすいですよ。私は現状日本にいるより居心地がいいですし、ここにいれば日本の良い所も見えるので、マレーシアが気に入っています。

<取材協力>
中村芙美子
http://www.malaysia-magazine.com/

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