今や時代を象徴するカリスマとなったYouTuber。ヒカキンや水溜まりボンドと並んで、小学生の男子の間で絶大な人気を誇るYouTuberがいるのを知っているだろうか。その名は「しゃま」。『デュエル・マスターズ』や『遊戯王』といった、今の20〜30代なら誰もが一度は遊んだことがあるだろう、カードゲームの動画を投稿し続けている。
まさにYouTubeのキャッチコピーである「好きなことで、生きていく」を体現したような人物だが、その道のりは苦難の連続だった。今回は、そんなしゃまさんに雌伏の時代のエピソードや、現在の活動にかける思いなどを教えてもらった。
「カードがガス代に見えてきた」...しゃまの過ごした雌伏の時代
──しゃまさんは主に『デュエル・マスターズ』をプレイするYouTuberとして知られています。幼少期からずっと"デュエマ"を遊んできたのですか?
いやぁ、実は小学校を卒業した後は、しばらくカードの世界から離れていたんです。
──えっ、そうなんですか。
カードゲームに復帰したきっかけは、大学時代に仲間たちと行った旅行でした。旅先で見かけたブックオフでたまたまカードが10枚100円で売っていて、「これ4セット買ったらデッキになるじゃん!」っていうノリで買ったんです。久しぶりにやったらすごく楽しかったので、その後もちょくちょくプレイするようになりました。
──なるほど。それからどうしてYouTubeを始めることに?
あまり知られてないんですが、もともと"ニコ動"にゲーム実況の動画を投稿していたんですよ。といってもほんの数本で、まったく芽は出ませんでしたが(笑)。それっきり動画は作ってなかったので、少し再開してみようかなって。"軽い思いつき"でしたね。当時はカードゲームの対戦を動画にしている人はほとんどいなかったのですが、なぜか「これを撮ったら絶対に誰か楽しんでくれる!」という謎の自信だけはありました(笑)。
──それが大学時代のお話ですよね。卒業後はどうされたんですか?
就職しました。1ヶ月だけ。
▲物凄いことをサラリと......。
──1ヶ月!?
実は入社した会社の事業が、グレーな方向に走り出しちゃって。大きな声では言えないんですが、情報商材チックな感じに......。上司に連れられて社外の会議に出席したら、待ち合わせの喫茶店に怪しいおじさんたちが座っているんですよ。「いや、これマズいだろ」と思って、速攻で退職しましたね。そこで直面したのが、7万円の家賃を支払えない現実でした(笑)。
──それほどの早期退職では、次の仕事の当てなども......。
なかったですねぇ。それからはとにかく日銭を稼ぐために、ビルの内観やホテルの客室を撮影する「物件撮影」の仕事をしていました。動画撮影用に性能のいいカメラだけは持っていたので。まあ、"にわかカメラマン"みたいな感じです。当時は民泊がブームで、月に20件くらいの案件はこなせたんですが、それでも生活はギリギリ。収入の増える見通しも立ちませんでした。
でも、YouTubeの広告収益だけは右肩上がりで伸びていたんです。期待値を考えても、これはYouTube一本に切り替えるべきじゃないかと、思い切って物件撮影の仕事を辞めました。
──まさに一世一代の決断ですね。そこからは順調に?
それが、最初はずっと大赤字で。しまいにはガスや水道も止まり、復旧のために業者の方を呼ぼうにも、目先の支払うお金すらない。「これはもうカードを売るしかねえ!」となって、動画内で開封したカードを売って光熱費に回していました。そうしていると、だんだんカードがガス代に見えてくるんですよ(笑)。パックを開封して2000円や3000円のレアカードが出ると、「これで今月は生きていける!」と。
今でも高額なパックを開封するときは緊張しますが、当時の緊張感とは比べ物になりませんね。"命がけのギャンブル"ですから。
──その言葉、マンガ以外で初めて聞きました......。
毎日YouTubeアナリティクスのいろんなグラフと睨めっこしては、「今を耐えれば生活できるはずだ」と自分に言い聞かせていました。そして、新卒1年目の2~3月頃にようやく黒字化しそうになったところで、裁判所から家賃滞納を警告する通達書が届いて。この封筒が、一目でわかるくらいヤバイんですよ。「『花より男子』のF4の手紙か!?」みたいな(笑)。その時は手元のカードをすべて売りました。
リスクを払ってリターンを得る。ブレイクスルーを勝ち取った"カードゲーマー思考"
──退職からの波乱万丈な一年を経て、ブレイクスルーのきっかけになった動画はあったのでしょうか?
実はデュエマじゃなくて『遊戯王』なんですが、1999年発売のVol.1のボックス開封動画が転機だったのかなぁと。これがすごいプレミアもので、20年前に4500円だったものが9万5000円で売られていたんです。自分が視聴者だったら「絶対に見る!」と確信できるシロモノだったので、なけなしの貯金10万円をそこに投資しました。そうしたら1年で100万再生を叩き出すくらいバズったんですよ。
──リスクを払って勝負に勝つ。なんだか勝負勘みたいなものを感じます。
それはカードゲーマーの性かもしれませんね。ゲームをやってきたことで、「リスクを払わないとリターンは得られない」という考え方は染みついていると思います。
例えば、デュエマに「フェアリー・ライフ」というカードがあるんですが、これにはマナ(カードの発動に必要なお金のようなもの)をひとつ増やす効果があります。ただ、カードを使用するということは手札が減るというデメリットもあるので、数字上の利益は生まれません。それでもゲームの終盤にハイコストなカードを使うための布石として、重宝されているんです。
──初期投資みたいなイメージでしょうか。
まさにそうです。実際にカードゲーマー出身で、経営者として成功されている方は多いですよ。子どもの頃にカードゲームで遊ぶと、リスクに対する免疫力とか、ビジネス思考みたいなものが自然と養われますからね。「意外と教育にいいんだよ!」ということは広めていきたいと思います(笑)。
やがて小学生男子のスターに、子供向け動画のマイルール
──しゃまさんは、2019年の「小学生男子の好きなYouTuberランキング」で堂々の13位に選ばれました。今や押しも押されもせぬ人気YouTuberですね。
あれに関しては、『デュエル・マスターズ』というコンテンツの力でしかありません! タカラトミーさんには本当に感謝しています。驚いたのが、イベントとかで子どもたちに会うと「テレビの人だ!」くらいの勢いで接してくれること。YouTubeが今の子どもたちの間で当たり前のものになっているのを実感しますね。
──時代の変化を感じますね。
テレビ東京でも昔、ニンテンドー64のゲーム『ポケモンスタジアム』の対戦の様子を、番組で放送していましたよね。僕の動画を見てくれる子どもたちは、あの番組の視聴者と同じ感覚だと思います。「デュエマで強くなりたいから、番組を見たい」。子どもたちにとってYouTubeとテレビに垣根はなくて、単純に好きなコンテンツを選択している感じかなと。
──しゃまさんの動画は、子どもから大人まで幅広い年齢層から人気です。異なるターゲットに発信する上で、気をつけていることはありますか?
チャンネルを分けたのは正解でしたね。主にデュエマだけを取り上げている「しゃまのデュエマちゃんねる」は、子どもを意識した内容です。個人チャンネルの「しゃま」は、昔カードをやっていた大人でも楽しめる内容にしています。
編集から喋り方まで、すべてガラッと変えていますよ。例えば、「デュエマちゃんねる」のテロップはポップな色使いにしていますが、「しゃま」ではモノトーンの落ち着いた配色に。テンションの高さも違うし、視聴者のリテラシーに合わせて専門用語も使い分けています。あと、子ども向けの動画では"絶対に攻めない"ですね。
──攻めない?
過激な企画はしないということです。子どもの頃ってどうしても、親御さんのパワーが強いじゃないですか。そこで「こんな動画見ちゃダメ!」となったら、そのまま「こんなカードやっちゃダメ!」に繋がってしまうわけですよ。
でも、子どもにとってカードはすごく楽しいものだし、それを取り上げるのはもったいないですよね。広い目で見たときに、業界を縮小させる一因になるわけです。
しゃまの考える「好きなことで、生きていく」
──業界の未来も考えながら活動されているんですね。カードゲームへの恩返しみたいな気持ちもあるのでしょうか。
そうですね。やっぱり「自分たちが遊ばせてもらった」という気持ちは大きいです。僕らの世代の男子って、子どもの頃に一度はカードゲームという道を通ってきているじゃないですか。でも、最近はまったくカードに触れたことのないお子さんも多いんです。
WHF(ワールドホビーフェア)の待機列を見ても、昔はどの子もデュエマをしていましたが、今は『ベイブレード』や『Nintendo Switch』をやっています。
──当時を知る世代からすると、衝撃の光景ですね。
そういう状況ですから、これからのカードゲーム業界は、大人も一緒に盛り上げないといけないと考えています。僕らの世代って、「再びカードに帰りたい」って思う瞬間もあると思うんです。あの頃やっていたな、懐かしいなって。そういった気持ちを呼び起こして、「ちょっと復帰してみようかな」と思ってもらえるような動画を目指しています。
もちろん、その懐かしさを感じてもらうためには、子どもの頃に一度はカードに触れていないといけません。その機会をつくることも、カードゲームYouTuberの使命なのかなと思いますね。
▲懐かしの人気カードたち
──しゃまさんの活動は、YouTubeのキャッチフレーズである「好きなことで、生きていく」を体現していると思います。しゃまさんにとって"好きなことで生きる"とは、どんな意味を持つのでしょうか。
どちらかというと「好きなことじゃなきゃ、生きていけない」って感じです(笑)。僕はいわゆるオタク気質で、ひとつのことに熱中するとフルコミットしてしまう。ほかのことが本当にできなくなるんです。それって、マルチタスクを求められる普通のサラリーマンだと、かなり苦労するじゃないですか。
昔はそういう人に向いている職業って、限られていたと思うんですよ。でも、YouTubeのおかげで、その選択肢は無限大になった。自分の好きなことを、そのまま自分の仕事にできるようになったんです。YouTuberという職業は、何かに熱中していて、それで生きていきたい人の救いになっていると思いますね。