「非情な債権者などいない」再建弁護士・村松謙一が”今だからこそ伝えたい”いのちの尊さ

公開: 更新: テレ東プラス

倒産とは"人の命"が関わる問題である。だからこそ、彼は全身全霊で闘い続ける! 例え0・01%でも希望の光が見える限り...。そんな力強いメッセージと共におくるドラマBiz第6弾「リーガル・ハート~いのちの再建弁護士~」(毎週月曜夜10時 BSテレ東は毎週金曜夜9時)。

主演を務める反町隆史が演じるのは、途切れた糸を結び直し、あきらめずに全力で倒産から人々を救う熱血弁護士・村越誠一。実話からインスパイアされた熱く骨太なドラマの主人公・村越のモデルとなったのは、『いのちの再建弁護士 会社と家族を生き返らせる」(角川文庫/KADOKAWA)の著者であり、今もなお現役で闘い続けている弁護士・村松謙一氏だ。

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静岡県清水市の生まれ。故郷の英雄・清水次郎長のごとく「悪いことは許しておけない」「弱い者を助けたい」との思いから弁護士に。論語の「義を見てせざるは勇無きなり」を行動指針のひとつとして、一部上場企業から地域に根ざす個人商店まで、倒産の危機から蘇らせた会社は200社以上にも上る。

「会社の生死は経営者や従業員の命に繋がっている。だから、100%再生させなければならない」──会社再建とは人間の救済。そう考える村松氏は、決してあきらめることなく、己の心身をも削りながら、40年近くもの長きに渡って全国の企業を再建の道へと導いてきた。

インタビュー前編では、村松氏がなぜ弁護士を志したのか? 原動力は何か? その仕事論、人生論を聞いたが、後編では、人助けのプロ中のプロである村松氏が若い世代へ熱いエールを贈り、改めて"いのちの尊さ"を説く。様々な人々の生き様を見届けてきた村松氏から放たれる"心に響く言葉の数々"をあますことなくおくる。

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金が命を奪う悲しい連鎖を断ち切りたい

──「リーガル・ハート」の第1話は地元に根ざす魚市場、第2話は文化財に指定された老舗旅館、第3話では、経営難の中、"乗っ取り屋"疑惑に困惑する呉服店からの相談を解決しました。依頼者は皆さん疲弊し、追い詰められています。こうした依頼者と向き合う際、先生がまず心掛けることは何ですか?

「私もかつて失敗したことがありますが、決して『頑張りましょう』と言わないことです。相談者は皆さん夜も眠れず、鬱の人もたくさんいらっしゃる。"やるだけのことはやって、もうこれ以上は頑張れない..."という人が大半です。ですからドラマの脚本を書いていらっしゃる西荻弓絵さんにもそうお伝えし、セリフを『頑張りましょう』ではなく、『1人じゃないですよ。ゆっくりやりましょう』というニュアンスにしていただきました。依頼者の方は、皆さん暗闇の中、不安に怯えています。私たち弁護士は進むべき道に導き、灯台のような存在として明かりを照らして差し上げる。それが一番重要なことではないかと思います」

──ドラマのベースとなったご著書『いのちの再建弁護士 会社と家族を生き返らせる」には、「会社の再建とは人間の救済」であると繰り返し書かれていました。

「会社の倒産は、確かに自己責任かも知れない。でも、その陰で何百、いや何千もの人の命が失われています。今は2万人くらいに減ったものの、バブル期は年間3万人が自殺していた。"弁護士として、この事実を見過ごすわけにはいかない"との思いで40年間やってきました」

──日本の中小企業のほとんどが会社の運転資金を金融機関からの借り入れに頼っています。経営が行き詰まると自宅などの生活基盤を失い、自らの命を絶つ経営者が後を絶たない...。村松先生は弁護士として、"金が命を奪う悲しい連鎖を断ち切りたい"と考えていらっしゃいます。

「本にも書きましたが、人間にとって大切なものは"命"、次に"自由"、そして"財産"です。会社が経営危機に陥ると、人は正常に物事を判断することができなくなります。財産を守るために、それよりも優先するべき大事な命を犠牲にしたり、心の自由を束縛したりする。ですから、とりわけ若い世代に伝えたいのですが、よく『死ぬ』とか『死ね』という言葉を簡単に使うじゃないですか。電車の事故で遅延した時も、人身事故と聞いてみんなイライラしているけれど、そこでは誰かが亡くなっているんですよ。

自殺というのは当事者ばかりではなく、その家族の生活も死んでしまう。周囲に父親が自死したと言えずにずっと葛藤し、心が死んでしまう子どもたちもいます。皆さんには、ぜひ今回のドラマを見ていただいて、命の大切さについても考えてほしいと思っています」

いらないプライドは捨てて、素直に何でもやってみる

──そうした若い世代に伝えたいメッセージはありますか?

「誰もがみんな悩んでいるし、悲しいこともあるし、人生には乗り越えられない壁が必ずあります。でもそれを乗り越えようとすると、そこに人間の傲慢さが出るんです。だから"無理に乗り越えなくてもいいんだよ。あなたにはもっと違う方向があるんだから"と言ってあげたい。試験に受からない、目指す企業に入れない、それぞれいろんな事情はあるでしょうが、悩みや悲しみや壁と一緒に歩いていくことが、『新たな道』を見つけるひとつのやり方ではないかと思います。

あとは、自分の人生に後悔をしないこと。みんな見栄を張るんですよ。"受験で落ちたらどうしよう? あの会社に入れなかったら人に言えない...みっともない!!"とか。そんないらないプライドは捨てて、素直に何でもやってみる! やってみて駄目だったら、また新しい道を見つければいいんです。そこには、劣等感も優越感も必要ないんですよ」

──なるほど。

「あとは『ご縁』『出会い』ですね。私の師匠であり、企業再建の第一人者である清水直先生との出会いもしかり。こじつけですけれど、私が"人を助ける仕事をしたい"という思いを最初に持つきっかけになった清水次郎長(村松先生は静岡県清水市のご出身)、ほかにも、大学時代にケガをして野球の夢が潰えたことで弁護士を目指す決意をしたこと、材木商を営む実家に出稼ぎの職工さんが大勢やってきて、一緒にご飯を食べたりずいぶん可愛がってもらったことから、自然とコミュニケーション能力が身に付いたこと...。

「偶然」と言う人もいるでしょうが、私はすべて「必然」だと思っています。うちの弁護士事務所が看板を出していないのもそういう考えがあるから。極端なことを言うと、辿り着いた人はきっと「ご縁」があるのでしょう...そう思うことにしています」

──村松先生が交渉に臨む際の唯一の武器は、「正直になること」だと。

「債権者には正直な数字を示して頭を下げ、何度でも足を運びます。誠意を見せることでしか、相手は交渉の土俵に乗ってくれません。経営の失敗に対する怒りを"情"で鎮め、相手が交渉の土俵に乗ったら、徹底して相手の"利"を説いていく。そして"For Others(すべては他者のために)"、皆が少しずつ損をすることで結果的に得するんだということを伝えます。すると銀行側も人間なので、"本当の損失とは何か?"を考え始めます。正直を貫き続ければ、例え時間はかかっても、相手の心情は必ず変わっていきます。

取引先には、今後も安定的に取引を続けられると時間をかけて説き、金融機関には、今すぐ会社を破産に追い込んで資産を売却するよりも、遥かに回収額が多くなるということを具体的な数字を挙げて説明していく。要は、ドラマのタイトルにもなっている"ハート"だと思うんですよ。第1話で高嶋政宏さんが演じた債権者がまさにそうですが、どんな人間も、最後まで聞く耳を持たぬほど非情ではないと信じています」

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──最後に改めてご著書で伝えたいこと、今回のドラマを通して伝えたいことがあればお聞かせください。

「ドラマの主題歌に集約されていますよね。生きていることは奇跡だし、朝が来ることは素晴らしいこと。誰だって明日、無事に朝が迎えられるかどうかなんてわからないんですから。1日1日を大事に、当たり前のことに感謝して生きていく。あとは、お金はどうにか取り返せるものだから、命を大切にする。

仕事にしても恋愛にしても、今の若い人はクールですが、反町さんが演じる村越のように、頭で考える前にまず行動する。時代もあるかとは思いますが、そういう情熱、胸の奥にしまっているハートを思い出してもらえたらいいなと思います」

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【村松謙一プロフィール】
弁護士。1954年静岡県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。81年司法研修所入所(35期)、83年東京弁護士会登録、清水直法律事務所入所。90年に村松謙一法律事務所開設。2000年「光麗法律事務所」に改名。これまでに関わった主な「再建型」の法的事件に、鈴屋、カネテツデリカフーズ、長崎屋、マイカル、佐藤工業、多田建設、月光荘、石岡カントリー倶楽部、落合楼などがある。その他、東京佐川急便、病院等「私的再建型」案件を多数手がける。07年と09年のNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」出演が大きな反響を呼んだ。著書多数。

そして気になる、今晩10時放送!(BSテレ東は8月16日金曜夜9時) ドラマBiz「リーガル・ハート~いのちの再建弁護士~」第4話の内容は...。

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村越誠一(反町隆史)の事務所を訪れたのは、製氷会社「MIZUHASHI」の3代目社長・水橋大介(林泰文)。ある出来事を機に売り上げが激減し、新設した工場の借入金が経営を圧迫していた。一度は銀行融資を受けることができたが、売り上げは伸びず、さらに追加融資を頼んだことで銀行は激怒。このままでは手形事故で倒産になりかねないという。水橋の甘い経営に一度は突き放した村越だったが、若い社員のためと再建へ向け動き出した矢先...。

現在「ネットもテレ東」で、第3話を配信中!
(配信終了:8月12日月曜 夜10時53分)

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