ペリー荻野が分析! 人気「刑事ドラマ」に見る女性の働き方...その華麗なる変遷

公開: 更新: テレ東プラス

女性の社会進出や共働きの急増が加速し、令和となった今では、女性の上司やキャリアも珍しくなくなった。女性をターゲットにしたビジネス誌も多数創刊され、例えばマスコミ業界を見渡してみても、ADからプロデューサー、芸能事務所のマネージャー、編集者、カメラマンに至るまで、女性の割合は増加の一方をたどるばかりだ。

そんな中、日本の刑事ドラマにおいて、これまでどんな女性たちがどんなキャラクターで登場してきたのか...。ここで一度紐解いてみたい。

浅野ゆう子のまさかの降板理由とは?

まず思い浮かぶのは、70年代の大ヒットシリーズ「太陽にほえろ!」だ。この作品には、刑事ではない女性キャストが登場していた。新宿七曲署捜査一係のボス・藤堂係長(石原裕次郎)を中心に、新人刑事(初代はマカロニこと萩原健一)、ベテラン、中堅と、個性派刑事たちが事件を追う、誰もが知るこの作品。昼夜駆け回る彼らのためにさっとお茶を出すのが、捜査一係に配属された内勤(庶務)女子の主な仕事。いわゆる"お茶くみの女の子"だった。

青春ドラマで活躍した青木英美、演技派として成長した木村理恵らが代々演じたお茶くみ女子。中でもとりわけ印象的だったのは、デビューしたばかりの浅野ゆう子だ。白いヘアバンドに赤いミニスカートなど、当時の現代っ子そのままのファッションとトレードマークの長い足で、むさ苦しい署内に伸び伸び咲いた花のような存在感を放っていた。だが、浅野はわずかワンクールで降板。その理由が、当時14歳で中学生が警察で働くのはおかしいと言われたからだという。あらら。

なお「太陽~」には、元刑事の娘で婦警のシンコこと内田伸子(関根恵子 現・高橋惠子)がいて、彼女は後に一係の刑事に昇進。それから約10年の時を経て、新たな女性刑事として着任したのが岩城令子(長谷直美)だった。令子は殉職した一係刑事・ロッキー(木之元亮)の妻で双子の母。ニックネームはマミーだ。「早く嫁に行け!」と言われたシンコと働くママさん刑事・マミー。ひとつのシリーズでも、女性刑事像にはこれだけの変化がある。

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その後、アクション、コメディタッチなど刑事ドラマの幅が広がるにつれ、女性警察官のキャラクターもいよいよ多彩に。バブル期に放送された「あぶない刑事」シリーズでは、遊びもおしゃれも大好き! コスプレもどんとこいのミーハー&素っ頓狂な少年課の刑事・真山薫(浅野温子)が人気となり、「ケイゾク」では、薫とは真逆で推理力は抜群だが垢抜けない東大卒の柴田刑事(中谷美紀)が、「泊まると必ず死ぬ部屋」「死を呼ぶ呪いの油絵」などオカルトめいた迷宮入り事件に挑んだ。

「刑事もひとつの仕事」としてとらえ、女性刑事の素顔や私生活を盛り込んだドラマは、その後も続々登場。2時間ドラマで長く愛された市原悦子主演「おばさんデカ 桜乙女の事件帖」は、被害者のレシートを見て「肉じゃがを作ろうとしていたのかしら...」などと、売れない官能小説家の夫(蛭子能収)とつましく暮らす主婦ならではの視点で推理を展開。一方、つましいのとは対極にある「富豪刑事」の神戸美和子(深田恭子)は、「張り込みのために向かいのビルを買っちゃいました」「2兆円というささやかな寄付をいたしました」とニッコリ。まったく違う生活をしている女性刑事だが、2人には「男性の同僚たちに疎まれる」という共通点がある。

またおばさん刑事は、事件発生で急行する車に乗り遅れるのは日常茶飯事で、現場に到着しても野次馬扱い(笑)されるのもお約束。富豪刑事は、男ばかりの捜査会議で「ちょっといいですか?」と手を挙げると、一斉に嫌な顔をされてしまう。

「まったく嫌になるわ...」と家で夫に愚痴をこぼすおばさん刑事と、険悪ムードでも「それが何か?」と素知らぬ顔で迎えに来た高級車に乗り、さっさと家に帰る富豪刑事。あくまで自分のやり方を貫き、あえて戦わないのも彼女たちの働き方であった。

男社会の圧力に堂々と戦いを挑む女たちが登場

そんな中、00年代後半以降は、男社会の圧力に堂々と戦いを挑む女たちが登場する。「アンフェア」の雪平夏見(篠原涼子)は、警視庁で検挙率ナンバー1を誇る。捜査は大胆にして破天荒。後輩の男性刑事を従え、「結果がすべて!」と捜査にまい進する。また、「ストロベリーナイト」の姫川玲子(竹内結子)は、ノンキャリアながら20代で班を率いる実力派だ。

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そして、タイトルもズバリ「BOSS」の主役は天海祐希。警視庁特別犯罪対策室の室長を任され、やる気満々。なんと天海室長、初日はなんと金色のタイトスカートで出勤する。まさに警視庁の黄金ボス観音!(笑) だが実際は、女を管理職に置くと世間的に聞こえがいいというご都合人事。捜査の一線には入れてもらえない。おまけに彼女の部下は、どこか抜けている新人刑事(溝端淳平)やら科学捜査の知識はあるがいつもぐったりしている女子(戸田恵梨香)、男好き?なマッチョ(ケンドー・コバヤシ)など、各部署が持て余すようなメンバーばかり。始めは眉毛を吊り上げ、「あたしが絶対逮捕する」「女の敵は女じゃない。卑劣な犯罪者の敵があたしなの!」と、「あたし一人称」だったボスだが、地道な聞き込みをしている部下の努力に気づき、やがて「私の優秀な部下たちです!」と認めていくのだった。

そして、令和の今...。男社会の警察VS女性刑事という構図から、さらに複雑かつシリアスになったのが、芦名星主演・土曜ドラマ9「W県警の悲劇」(BSテレ東 毎週土曜夜9時)である。

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主人公の松永菜穂子(芦名)は、県警本部の監察官。警察官の不祥事を暴く"警察の警察"でもある彼女は、所轄の女性警察官たちの事件を探る。いやいやいやいや、過去のどんなドラマを見ても、女同士の戦いほどチクチク、ドロドロ、難しいものはないですよ。しかも、ヒロイン・菜穂子の目的は、警視正に出世して県警幹部の"円卓会議(※中華料理店の円卓を囲んで行なわれる秘密裏の会議)"に乗り込み、女性警察官の地位向上を目指すというんだからさらに複雑。女を取り締まって女の地位を挙げるって? そりゃ~敵を作るばかりでしょ? それでも出世を目指す彼女の胸の内には何があるのか...。

悔しさ、怒り、希望...これはすなわち、これまでの女性刑事たちすべてが抱き続けた感情ではないですか! 大きなものを背負い、女性の象徴とも言えるピンヒールを履き、菜穂子は今日もたたずむ...。令和という新時代、女性刑事がついに厚い壁をそのヒールで蹴破ることができるのか! 最後まで見届けたい。

コラムニスト・ペリー荻野さんも期待する、8月3日(土)夜9時放送! 土曜ドラマ9「W県警の悲劇」(BSテレ東)。第2話「したたかな女」の内容は...。

女子高生を痴漢した容疑で取り調べを受ける男は有名ユーチューバーで、冤罪を主張する。取り調べを行う所轄では、以前そのユーチューバーを逮捕し厳しい取り調べを行っていた。そしてその所轄では、パワハラやセクハラが問題となっている。過去の事件と今回の痴漢容疑の逮捕には何か関係があるのか...。

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菜穂子(芦名星)が所轄の刑事たちに聞き込みを行うと、取り調べを担当する女刑事(佐津川愛美)がある秘め事を抱えていることが発覚。とても大人しく控えめな彼女は、この痴漢事件を利用して大きな賭けに出ようとしていた。果たして、彼女の狙いとは何か? そこには、驚きの結末が用意されていた!

現在第1話を「ネットもテレ東」で配信中です!(配信終了:8月3日土曜夜9時54分)

【ペリー荻野:プロフィール】
1962年、愛知県生まれ。コラムニスト、舞台作家、時代劇研究家。大学在学中よりラジオパーソナリティを務め、コラムを書き始める。2005年より「チョンマゲ愛好女子部」を主宰。取材軒数件数は日本随一。昔からの取材経験を生かし、大河ドラマ・時代劇の魅力や歴史の魅力をテレビ・ラジオおよび全国各地で普及している。最新刊「時代劇を見れば、日本史の8割は理解できます」(山本博文氏と共著・徳間書店)、「脚本家という仕事~ヒットドラマはこうして作られる~」(東京ニュース通信社)

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