夏は浴衣で小粋に...江戸時代から続く「雪花絞り」が若い女性に密かなブーム!

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(毎週月曜日夜8時~)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

浴衣に魅せられ、浴衣を手作り

今回訪れたのは、南米のパリと称されるアルゼンチンの首都・ブエノスアイレス。ニッポンにご招待することが決まったことを知らせに行くと、嬉しさのあまり泣き出してしまったレダさん(36歳)。

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レダさんは、初めて浴衣を着た時の着心地の素晴らしさが忘れられず、10年前から自分で浴衣を作るようになりました。

ニッポンの夏の伝統的な衣服・浴衣の歴史は、平安時代に遡ります。貴族が蒸し風呂に入る時、やけどをしないように着用した湯帷子(ゆかたびら)が始まり。江戸時代には、銭湯の普及とともに庶民にも広まりました。

レダさんが浴衣に出会ったのは結婚後に通った茶道教室。和服の美しさと機能性に魅了され、浴衣作りを始めたそう。5年前からは販売も開始し、これまでに約300着を売ったとのこと。ご主人のマーティンさん(37歳)は、レダさんの浴衣に対する熱意に心打たれ、現在では、会社を辞めてレダさんをサポートしています。

「浴衣作りに専念して欲しいので家事は私がやっています。彼女の浴衣がもっと広まるのが家族の願いです」と話しながら一人娘・イアラちゃん(11歳)の食事の準備に余念がありません。アルゼンチンから遠く離れたニッポンは憧れの国ではありますが、実際に行くのは経済的に夢のまた夢。そんな浴衣への熱い思いを持ったレダさんを、ニッポンへご招待!

江戸時代から続く「雪花絞り」を体験

レダさんがニッポンに着いてまず向かったのが名古屋市有松。ここは日本三大絞りの一つ「有松絞り(ありまつしぼり)」発祥の地。

日本各地にある染め物の中で、最近若い女性に人気なのが、「雪花絞り(せっかしぼり)」。江戸時代から続く有松絞りの技法で、染め上がると、まるで雪の結晶や花びらが開いたように見えるのが特徴です。

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今回お世話になるのは創業100年以上を誇る、雪花絞りの老舗「張正(はりしょう)」。レダさんの熱意を伝えたところ、快くご協力頂けることに。

にこやかに出迎えてくれたのは「張正」の鵜飼敬一さん(57歳)と小百合さん(55歳)。

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お店に置いてある浴衣に興味津々なレダさんは、早速いくつか見せて頂くことに...。反物を見せて頂くと、「素敵すぎてなんて言ったらいいのか。ここにあるもの全て欲しいです!」と大興奮。

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「張正」の浴衣のデザインは、全て奥様の小百合さんが手がけたもの。伝統の雪花絞りは、いったいどのようにして作るのでしょうか。従業員の方の作業を見せて頂くと、まずは生地を三角形に折っています。

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見事にすべての角がぴったりと揃っていますが、これが何より大切な作業だそう。折り目がきっちり揃わないと、花柄はキレイに出ないとのことでした。三角に折った生地を板に挟んで染めたものが雪花絞りになります。

ご主人の敬一さんが黙々と作業をしていると、レダさんが「ご主人はいつも黙って仕事をするんですか?」と素朴な質問を。するとそれまで職人さんらしく真一文字に結んでいた敬一さんの口から人懐っこい笑みがこぼれ、和やかな雰囲気に。

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お次は、全て手作りの木型を見せていただきます。4種類あるそうで、布を木型の形に折って染めることで、様々な柄が生まれます。

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実はレダさん、「アルゼンチンには染め物がないのでいつか自分で作りたいと思っています」と話していました。そこで、まずは布を三角形に折る作業を教えていただきます。丁寧に角を揃えながらアイロンがけをしていくレダさんを、小百合さんが「最初にしてはとても上手。覚えもとてもいい!」と励ましてくださいます。

浴衣の生地は一反約13mあり、ベテラン従業員の方でも、折るのに1時間半かかるそう。レダさん、一度も休まず黙々と生地を折り続けること3時間! ついに折り終わると、従業員の皆さんから大きな拍手が贈られました。

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小百合さんに「キレイに出来ています」と褒めてもらえたレダさんでしたが、「次はもっとキレイに揃えたいと思います。まだまだですね」と向上心あふれる言葉が出てきました。

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続いて向かったのは染め場。染めた生地は、綺麗な冷たい水で洗い、半日置きます。雪花絞りは三角形の頂点から染料に沈めていきますが、全てをつけず、自然に生地に染み込ませることでグラデーションを作ります。

お次は、生地を板から外し、水の中で広げていきます。最初は黄色に見えますが、染料が水に触れて酸化するとだんだん紺色に変わっていくそう。話をしている間にどんどん色は変化し、あっという間にレダさんが愛するニッポンの伝統的な藍色に...。

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三角形の染め方は、角を2つ染めたり、一辺を深く染めたりと4通りあり、仕上がりは全く違うものになります。

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いよいよ、レダさんが折った三角形を底辺から染料に沈めていきます。果たしてどんな柄になるのでしょうか? 水に浸すと最初は鮮やかなピンク色の柄が浮かび上がり、オレンジ色に変化していきました。初めて作ったとは思えないほどキレイな柄が出ていて、小百合さんも「キレイキレイ! レダさん上手」と感心しきり。「本当にキレイです」とレダさんも嬉しそう。

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染め上がった生地がこちら。花の模様がきっちり出ていて、とても初めてとは思えない出来栄えです。

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その夜、鵜飼さんが従業員の皆さんやお嬢さんと一緒にレダさんの歓迎会を開いてくださいました。
お食事は皆さんの手作りで野菜の肉巻きや炊き合わせ、名古屋名物味噌カツ、そして手巻き寿司と豪華な品々が揃います。

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生まれて初めて手巻き寿司を食べたレダさんは、「ん~おいしい!」と箸が止まらず、他のお料理も「おいしいおいしい」とドンドン食べていきます。

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レダさんが「奥さんを愛していますか?」と聞くと、「もちろんです!」と即答する敬一さん、そして照れながらも嬉しそうな小百合さん。食卓を囲む全員が大盛り上がりとなりました。

翌朝。鵜飼さんはレダさんが染めた生地を6時間干し、糊付けをして反物に仕上げてくれていました。「一生懸命作ってくださったし、染めてくださったので」と言ってプレゼント!

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「本当ですか?」ととても嬉しそうなレダさんは「こんなに貴重な体験をさせていただいて本当に感謝しています。鵜飼さんご夫婦は本当に優しくて、ニッポンに来てこんなに優しくしていただけるとは思いませんでした」と感謝の気持ちを伝えます。

最後にアルゼンチンのお土産のチョコレートとマテ茶を鵜飼さんに渡すと、小百合さんからも「本当に2日間楽しかったです」とのお言葉。最後はハグをして「またね! またね!」と再会を約束してお別れです。

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注染染めの「ぼかし」技術を学ぶ

続いてレダさんが向かったのは、静岡県浜松市。実は浜松は、国内の50%の浴衣が作られているほどの名産地。浜松の浴衣作りを支えているのが、明治時代に考案された「注染染め(ちゅうせんそめ)」です。最大の特徴は、職人が一つ一つ手作業で染める「ぼかし」。

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浜松で出荷量1、2を争う工房「武藤染工」を訪れたレダさんを素敵な笑顔で迎えてくれたのは。武藤泰地さん(44歳)。

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注染染めを、今もなお手作業で行っている武藤染工。東北の六大祭で使われる浴衣も、ここの生地で作られています。早速、工房の中を見せてもらうことに...。

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天井から吊るされている美しい反物の数々に、思わず感激の声を上げてしまうレダさん。

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「アルゼンチンにはこんなに繊細な染物の技術はありません」と染色の技術にうっとり。いつもこんなにたくさん染めているのか聞くと、「だいたい一人の職人で70着分くらい」とのこと。武藤染工では1日約240反もの生地を染めています。これだけの数の反物を手作業で染める工房は、今や数少ないそう。

泰地さんの提案で「ぼかし」を体験させていただけることになり、レダさんは「本当に!? ありがとうございます!」と大興奮。お世話になるのは、この道50年以上のベテラン、染色職人の五十嵐さん(78歳)。

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染料の入ったじょうろを何色も使い、濃淡や色のバランスを計算してぼかします。まず、色が混ざらないように防染糊で模様を囲い、染料が入った2つのじょうろを器用に使って染料を生地に注ぎます。

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「右手には濃い緑、左手には薄い緑の染料を持って染めます」と教えてくださる五十嵐さん。「濃い染料を根元、先の方へ薄い染料をかけてぼかすようにやります」。完成した葉っぱを見せていただくと、見事なグラデーションでぼかしが生まれていました。

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早速レダさんが朝顔の部分に挑戦すると、五十嵐さんは「器用なんだね」と笑顔に。「なかなか最初からこうはできない」と聞いたレダさんも大喜び! ところがうっかり、防染糊の外に紫の染料をこぼしてしまいます。「すみません...」と謝るレダさんに、五十嵐さんは優しく「これは大丈夫。ちょっと直すね」と声をかけ、すぐさま直してくださいました。

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水で洗って乾燥させると、色鮮やかな反物が完成!

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お別れの時、この反物をプレゼントして頂きました。

縫い目が消える? 驚異の和裁技術

東京に戻ったレダさん。実はニッポンに来た時「私は浴衣をミシンで縫っていますが、この機会に和裁の技術を学びたいです」と話していました。和裁は全て手縫いで仕上げ、出来上がった着物をほどき、もう一度反物に戻すことを前提とした世界でも稀に見る裁縫技術。

そこでレダさんは、上野にある「お仕立て処うえの」の皆さんに和裁を教えてもらうことになりました。今回お世話になるのは、和裁技能士の上野洋さん(55歳)と晃さん(46歳)。お二人は代々和裁士の家に生まれ、現在四代目。多くの有名芸能人や歌舞伎俳優などを顧客に抱えています。

さらに今回は、お2人の先輩「仕立幸村」の和裁技能士・草川幸郎さん(59歳)にもご協力していただけることに。草川さんも和裁士の三代目。教え子は1000人を超えるとのこと。

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上野さんの作業場で、和裁のいろはから教えていただくレダさん。反物を広げ、シミや傷がないか、柄はどのように配置しようかなどチェックします。反物の検品が終わったら、和裁専用のものさしを使い、型紙なしで寸法を出し、しるしを付けずに裁断。「いきなり生地を切っていくんですか?」と驚くレダさんですが、和裁は全部直線に8つのパーツに切っており、縫うときも余分な縫いしろを切り落とさないので、パーツをつなぎ合わせれば、また元の反物に戻すことができるのです。

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なぜこのような技術が和服には必要なのかと言えば、また違うものに縫い変えることができるから。柄によってはお母さんの着物が子どものものになり、子どものものが赤ちゃんのものになり、ボロボロになったら雑巾にもなるのです。「日本には、物を大事にする文化があります。再利用することが、"もったいないの心"になっていると思うんです」。日本人の文化や精神をレダさんに教えてくださる草川さん。

次は草川さんが、神業とも言える手縫いの「運針」技術を見せてくださいました。親指と人差し指で挟んだ針の先が3~4mm出るくらいで握って中指で押し出すようにし、あとは生地を上下に動かしていきます。早速レダさんも手縫いに挑戦!「なぜ手縫いがいいのか」と聞くレダさんに、「日本では縫い直すことも考えるし、生地を傷めないことも考えるんですよ」と答えてくれる草川さん。さらに、手縫いは縦糸、横糸を避けながら縫っているので、針が直角に入るミシン縫いと違って針穴があかず生地を傷つけないことも教えてくださいました。これこそが、何度も仕立て直しができる証しなのです。

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ここでレダさんにウエルカムサプライズ! 実は娘のイアラちゃんも一緒にニッポンにご招待しており、草川さんから「お子さんの浴衣を縫いましょうか」との提案が。突然のオファーに大喜びのレダさん。使う生地はレダさんが「張正」で染めたオレンジの雪花絞り。通常は一人の和裁士が着物を仕上げますが、帰国も迫っているので、日本トップクラスの和裁士3人が分担して仕上げることになりました。

3人とも集中してイアラちゃんの浴衣を仕上げます。レダさんも習ったばかりの手縫いで一部参加。まだ思うようには縫えませんが、「楽しいのが一番だよね」と草川さんが声をかけてくださいます。

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太巻きとお稲荷さんの差し入れをしてくださった上野さんのご両親は、レダさんが縫った部分を見て、「立派なもんだ!」とお墨付きを。レダさんは「みなさんが上手に教えてくださったのでなんとかできたんだと思います」と謙虚に答えていました。

翌日。いよいよ草川さんが最後の仕上げをして浴衣が完成! 晃さんの奥様に着付けをしていただき、イアラちゃんが浴衣姿で現れると、大きな拍手が起こり、あっという間に撮影会が始まりました。

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別れの時。レダさんが「色々お世話になって本当にありがとうございました」と感謝の言葉を述べると、草川さんは「レダさんが本当に(浴衣が)好きなんだなとよくわかりました。長い時間でしたがご苦労様でした。ありがとうございました」。国境を越え、レダさんの浴衣への熱い情熱が伝わったことがよく分かりました。浴衣を通し、たくさんの出会いがあったレダさんは「私が想像していた以上に日本人は優しいです。感動しています」。

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ニッポンでの体験を忘れず、これからもアルゼンチンで素敵な浴衣をたくさん作ってくださいね。またのご来日をお待ちしています! そして今回お世話になったたくさんの皆様、本当にありがとうございました。

そして今晩8時放送! 「世界!ニッポン行きたい人応援団」は...。

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