「クリエイターが、ものづくりを生業にできる会社を作りたい」
京都に本社を構える「いろは出版」は、芸大出身で詩人としても活躍する木村行伸さんの想いによって、産声を上げた企業。書籍だけでなく、さまざまなオリジナル雑貨や、似顔絵の制作・販売を行っています。
コンセプトは"愛"のあるものづくり。一つ一つのアイテムに愛情を込めて、丁寧に作り上げる。創業から変わらぬスタイルを貫く同社に、独自目線のものづくりの"いろは"を伺いました。
「企画者の想い」をカタチにすることが最優先
――「出版」という社名でありながら、オリジナルの雑貨や似顔絵ブランドを持つとは、めずらしいスタイルですね。
「これは、『ものづくりのカタチは、いくつもあっていい』という、代表の木村の思想が反映されたものです。その想いは企画にも現れていて、弊社では何よりも『企画者自身が欲しいと思えるものを制作すること』を大事にしています」
――自身がターゲットとなると、つくり手の熱が一層こもりそうですね。
「まさに、そこが弊社のものづくりの肝で、つくり手自身の価値観や経験を反映させ、アイテムに想いが乗ることによって、独自性が生まれると考えています。また、弊社には専属のデザイナーが社員として在籍しているので、プランナーとアートディレクター、デザイナーの距離がグッと縮まり、細部の調整がしやすいのも弊社の強みです」
――御社の雑貨は、かわいらしいデザインのものが多いですよね。どんな方たちが制作されているのでしょうか?
「プランナーやデザイナーは20代~30代の女性がメインで、ターゲットもまさに同じ層です。弊社のオリジナルアイテムは、彼女たちのこれまでの人生がカタチになったものとも言えますね」
社員の実体験から生まれた贈り物「好きなところ100」
――「つくり手の想いを反映する」ことについて、わかりやすい実例があれば、ぜひ教えてください。
「最近のヒット商品の一つである『好きなところ100』は、まさに社員の実体験がもとになっています。これは相手の好きなところを100個書いて贈り物にできるプレゼントブックで、企画担当者が当時付き合っていた彼氏に贈ったプレゼントをカタチにしたものです。彼がすごく喜んでくれたので、『誰でも簡単に、このプレゼントを作れるアイテムがあったら喜ばれるのでは』と開発に至りました。高価なプレゼントよりも体験消費が重視される現代の価値観にマッチしていたこともあり、2017年1月の発売開始から、累計14万2,000個を出荷しています」
――アイディアと想いが詰まったアイテムですね。素材や色味など、製作工程でのこだわりも並々ならぬものがありそうですが。
「そうですね。製作工程にこだわったわかりやすい実例ですと、2019年5月24日に出版した『さがしえほん ちび ストーリーワールド』は、印刷の際にかなりの苦労がありました。縦30cm×横30cmという特殊なサイズに加えて、アルコールマーカーやや油性色鉛筆などの発色の良い色合いを表現するには特殊な印刷と技術が必要で......」
「原画作成にも時間をかけ、どうしても原画と同じ鮮やかさを表現したかったので、印刷会社の方と何度も相談をして試してもらい、最終的に2年弱かけて販売までこぎつけました」
――企画から販売まで2年とは驚きました!でも、ポスターにして飾っておきたくなるような色彩の美しさは、見る人の心を魅了しそうですね。
「ありがとうございます。お子様から楽しんでいただける探し絵本ですが、大人の方でも見るだけでワクワクしていただける仕上がりになったと思います」
――妥協しないものづくりをする中で、困難だと感じるのはどんな点でしょうか?
「弊社はまだまだ小さな企業ということで、販路が少ないという課題があります。そのため、大手企業さんのように大量ロットでは制作できません。どんなに良いものを作っても、お客様の手に届かなければゴミ同然になってしまいます。だからこそ、商品はもちろんのこと、パッケージの見せ方や売り方には、常に試行錯誤していますね」
――見せ方や売り方の課題を克服するために、どんな対策をされていますか?
「基本的に雑貨はロフト様や東急ハンズ様、ヴィレッジヴァンガード様の店頭、及びオンラインショップでの販売が中心ですが、商品によって販路を広げる取り組みを行う場合もあります」
「例えば、スマートフォンケースの『LITTLE CLOSET』シリーズは、洋服を着替えるようにケースも着せ替えできるのが最大の特徴です。ファッションアイテムのような側面があることから、アパレルブランド『niko and...(ニコアンド) 』様の店頭でも販売し、ファッションにこだわりがある女性から好評をいただきました。弊社のアイテムはこだわりが強い一方で、納品までのスピード感に欠けるのですが、細部まで妥協しない制作スタイルは変わらずに守り続けていきたいですね。加えて、それぞれのアイテムごとにベストな届け方ができるよう、販路を広げていきたいと考えています」
世間が欲しいものより、企画者がリアルに欲しいものを
毎年のようにトレンドが生まれは消えていく。そんな、ものにあふれた現代社会だからこそ、いろは出版は「流行っているから」「売れそうだから」というトレンドを優先したものづくりではなく、企画者の実体験や想いを大事にすることにこだわり続けています。
とはいえ、企画者の独りよがりのものづくりにならないよう、社長とプランナーの社員で綿密な打ち合わせを重ねたうえで、制作に着手するとのこと。ものづくりに真摯に向き合う姿勢と企画者の熱量、これが目の肥えた現代の人々に選ばれる理由かもしれません。
<取材協力>
いろは出版株式会社
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