ゴミ清掃員のあるあるネタで注目されている芸人をご存知だろうか?お笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さんは、芸人としての苦しい生活を打破するため、ゴミ収集会社に就職。その体験や気づきを綴ったツイッターが話題を呼んでいる。
ベストセラーの著書『このゴミは収集できません ~ゴミ清掃員が見たあり得ない光景~』(白夜書房)に続き、5月30日には漫画『ゴミ清掃員の日常』(講談社)を出版。今や、かつての人気を上回るほどの快進撃を続けている。
そこで今回は、滝沢さんが普段の収集で感じているゴミについての想いを、詳しく伺ってきた。
世界チャンピオンも働くゴミ清掃の仕事
▲『ゴミ清掃員の日常』より
――ゴミ清掃員として働き始めて、かなり健康になったとお聞きしたのですが。
「そうですね、朝5時に起きて会社に行って、8時から回収を始めています。朝ごはんはちゃんと食べるし、酒は飲まない、運動して痩せる、『ゴミ清掃健康法』は皆さんにもオススメです(笑)」
――職場ではどんな方が働いているのですか?
「ダブルワークができるので俳優やミュージシャンもいますし、イケメンの割合は高いんじゃないかなぁ。あと、ボクサーも多いですね。ロードワークのようなかたちで走ったり、重いものを持ち上げたりするので、トレーニングにもなるんです。日本チャンピオンや世界チャンピオンもいますよ」
――色々な人が働いているんですね。滝沢さんのように芸人さんもいますか?
「そんなに人数は多くないですが、ある芸人さんと運命的な出会いをしたことがあります。子どもの頃に横山やすしさんが司会をしている『ザ・テレビ演芸』という番組をよく見ていたんですけど、芸人になろうと思ったきっかけがその番組なんです。そこに出ていた芸人さんたちがとにかく面白くて。そうしたら、ゴミ清掃会社の先輩がいきなり、『お前、ザ・テレビ演芸って知ってるか?俺、初代チャンピオンなんだよ』と言い出すんですよ! これってすごくないですか!?」
▲『ゴミ清掃員の日常』より
――うわ〜、すごいつながりですね!
「あと、自分と通じるところがあると感じたのは、清掃員として働くベテラン俳優さんです。その方は子役から活躍していて、大部屋俳優をやっていたんですが、その時に一緒だったのがなんと小林稔侍さん!『俺と何が違っていたのか分からない』と言っていたのをよく覚えていますね。僕も芸人をやっていて、『あいつはなんであんなに売れたんだろう』と感じることがあるんです。例えばちょっと下の後輩で、よく一緒にライブをやっていたオードリーやナイツ。当時は『これから行くぞ』という感じだったので、そこまで大差はなかったはずです。少し羨ましいと思うこともありましたが、今は『あいつらこんなに俺らと違ったんだ!』と素直に驚いてます(笑)」
ゴミを見れば社会の格差が見えてくる!
▲『ゴミ清掃員の日常』より
――普段収集していると色々なゴミがあると思うのですが、驚いたものにはどんなものがありますか?
「一番意味が分からなかったのが、大量のエノキバターです。本当に不思議でそのことを色々なところで話していたら、ある芸人から納得できる答えが。『ユーチューバーじゃないか』って言ったんですよ。確かにそれはあり得るなと。『大量のエノキバターを作ってみた』的な。だとしたら、捨てないでちゃんと食べて欲しいですよね」
――たしかに、もったいないですね。収集する地域によって、ゴミの内容に違いがあったりするのでしょうか?
「単純に分かりやすいのはタバコのゴミですね。高級住宅地などでは、タバコのゴミがほとんど出ません。多いのは運動のためのテニスボール、健康のためのロデオボーイなどです。つまり、高級住宅地から出るゴミは、他人への投資ではなく、自己投資につながるものが多いんです。全体的にゴミの量が少ないことも特徴ですね」
――なるほど、そんな特徴が! ほかにも高級住宅地のゴミで何か特徴はありますか?
「そうですね、以前からオレンジの紐がついている袋が、ゴミ袋として使われていまして。高級住宅地からたくさん出るので、気になって色々調べたりして、先日ようやく分かったんです。それは、3万円ぐらいする高級ゴミ箱の専用袋!メリットは色々あって、ゴミを圧縮できたりするみたいです。つまり、お金を持っている人はゴミにもお金をかけられるということなんですよ。これってすごくないですか? もちろん私たちも税金を払ってゴミを出していますが、お金を持っている人たちは、それ以上にゴミにも心を配れるんです」
――普通はそこまでゴミに対してお金はかけられないですね。それ以外の地域では、ゴミにどんな特徴があるのでしょうか?
「お金持ちがあまり住んでいないような地域では、アイドルなどの握手券付きのCDが多く見られます。なので他人に投資することが多いような印象ですね。あとは、栄養ドリンクが多く捨ててあることも。タバコなどもそうですが、小さな消費が大きな浪費に繋がっているのではないかと思います。100円ショップで買ったグラスが1回か2回しか使わず捨てられていることも多いですし。『安いからいいや』、『100円だからいいや』という意識なのでゴミが増えるし、出費も増えているのではないかと思います」
▲『ゴミ清掃員の日常』より
――ゴミを見ることで色々なことが分かるんですね。
「ゴミ置場を見ると、そこがどんな地域なのかが分かりますよ。例えば、治安の悪い地域にも行きますが、そういうところは集積場が汚いです。片付けようという意識がないし、地域の目が行き届いていないから、散らかっていても誰も気にしないんです。置きっ放しの自転車のカゴにゴミがどんどん溜まっていくのを見たことないですか? それと同じように、『ゴミのあるところにはゴミを捨てていい』とみんな思ってしまうんですよね。他にも、アパートやマンションのダストボックスが汚いこともありますが、そういうところは管理人が機能していないことが多いです。引越しの時には、ゴミの集積場やダストボックスを見てみるといいかもしれません」
竹串に要注意! みんなが間違えるゴミの出し方とは?
▲『ゴミ清掃員の日常』より
――ゴミの分別のこともお伺いできればと思います。一般の人がよく間違えているゴミの出し方はありますか?
「多いのは、ペットボトルと一緒にシャンプーの空ボトルを捨てることですね。ハイターなどの洗剤の空きボトルもよく混じっていますが、地域によってはプラスチックゴミだったり、汚れていれば燃えるゴミだったりします。でも、皆さん適当に捨てているんじゃなくて、知らないだけだと思うんです。捨ててあるボトルを見ると、きれいに洗ってあることも多いですし」
――スプレー缶は穴を開けた方がいいのでしょうか?
「今は穴を開けないように呼びかけているところが増えています。穴を開けたときに目をやられることもあるので危険です。ただ、それは一般家庭の話で、事業系のゴミに関しては穴を開けないといけませんし、地域によっても違います。出し方としては、できれば分かりやすく上の方に入れて欲しいですね。中の方に入れてしまうと、どこに入っているか分からないですし、爆発する恐れもあります」
▲『ゴミ清掃員の日常』より
――燃えるゴミの中にビンなどが入っていると、分かったりするものですか?
「もちろん。これは自分だけではなく、半年も働けば誰でも一瞬でわかります。袋の中で何かが動く感じがして『なんかいるわ』と気配で分かりますね。あとは缶などの『パリッ』という音など。『ああ、いるな』とすぐに分かります。それから本当に危ないのは、燃えるゴミの中にスプレー缶を入れて、タオルでぐるぐる巻きにしてゴムで止めたりしているケース。これ、ほとんどテロ行為のようなものです。そこまでするということは、悪いことだという自覚はあると思いますし」
――それはかなり危険ですね。そのほかに気をつけて欲しいゴミの出し方はありますか?
「ルール違反ではありませんが、ビーズクッションはわかりやすく出して欲しいですね。分からないで収集車に入れてしまうと、車の回転板がまわったとき、空気圧でビーズがブワーッと出てきてしまうんです。ゴミを回収しているのか、ゴミをばらまいているのか分からなくなっちゃうので(笑)。あと竹串ですね。そのまま入れちゃうと袋を破って手に刺さることが多いのですが、たまにティッシュ箱や牛乳パックに入れてくれる人がいるんですよ。安全で本当に助かります! おそらく主婦の知恵だと思うのですが、すごいなあと感心しましたね」
ゴミ清掃芸人が子どもたちの未来を救う!?
▲『ゴミ清掃員の日常』より
――先ほど、大量のエノキバターが捨てられていたことをお話されていましたが、食べ物が無駄に捨てられていることも多いのでしょうか?
「そうですね、まだ食べられるものが捨てられていることはよくあります。お歳暮の時期は特に多いですね。メロンが丸々3つくらい出てきたり、ゼリーがそのまま1箱捨ててあったり。GWでいえば、旅行から帰ってきて冷蔵庫の中を整理するつもりなのか、キャベツや大根などの野菜がそのまま出てくることもあります。あとクリスマスなどの時期には、インスタ映えする写真を撮ったのかもしれないですけど、1ホールのケーキを1切れ分だけ食べて、あとは全部捨ててあったり。この前調べたんですが、日本は600万トン以上の食品ロスがあるらしいですよ」
――え、そんなに食べ物が捨てられているんですか!?
「そうなんです。居酒屋なんかでは、宴会料理で残った手付かずのエビフライなんかを大量に捨てていることもありますね。でも、エビは日本の国内自給率が5%ぐらいで、95%を輸入しているので、もったいないなと思いますね。消費期限切れのレトルトカレーなど、非常食がそのまま捨てられることもありますよ。非常用の食料はもちろん大切だと思うんですけど、計画的に食べるようにして欲しいですね」
――本当にもったいないですね。滝沢さんは、ゴミのことをイベントでもお話されているとお聞きしたのですが。
「以前から、海で子どもたちと一緒にゴミを集めて、『これは燃えるゴミだよ』などと教えるイベントをやりたいと思っていたんです。あとは講演会ですね。『やりたい』と言い続けていたら、『それウチでやりなよ』とか、『ちょうどそういうイベントやってるわ』と声をかけてもらえるようになって、少しずつ実現できるようになりました。今まであまり信じていませんでしたが、"言霊"って言われるぐらい言葉の力ってすごいと思いますね」
――これからやりたいことはどんなことですか?
「ゴミのことをもっと子どもたちに教えたいですね。ゴミの分別が進んでいる国にスウェーデンがありますが、ここではほとんどゴミを出さないんです。子どもの頃から教育が進んでいて、保育園でゴミの分別方法を教えています。大人だと今までの生活習慣もあるので、なかなか難しいじゃないですか。なので、子どものうちから分別をするクセをつけてもらいながら、ゴミの最終処分場に限りがあることなども教えたいですね。その方法として、奥さんに絵を描いてもらって絵本を出したいんです。あとキャッチーなゴミの歌なんかも出したいです! 子どもが口ずさんで、分別のことがちょっと分かるような感じで」
――やりたいことが広がりますね。芸人としてはいかがですか?
「そっちは全くないです(笑)。基本的にはゴミ清掃員なので、TVはお話をいただければありがたく出させていただくという感じで。『これからスターになる!』みたいな気持ちはないですね。あ、ゴミのことでやりたいことを言い忘れました! ゴミで楽しんでもらえるようなショーをやりたいです! 例えば、今考えているのは、コンサート会場にパッカー車(ゴミ収集車)を持って行くとか。イベントが終わった後で、ゴミが散らばっているのを集めてそこに入れて、『ウィーン』となるところを見せたいですね。あと、子どもと一緒にゴミの番組もやりたいので、ぜひよろしくお願いします(笑)」
【プロフィール】
滝沢 秀一
1976年、東京都生まれ。1998年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。「THE MANZAI」2012、14年認定漫才師。2012年、定収入を得るために、お笑い芸人の仕事を続けながらもゴミ収集会社に就職。ゴミ収集中の体験や気づきを発信したツイッターが人気を集め、話題を呼んでいる。
Twitter : @takizawa0914