東京・中野の一角に、いま注目のスーパーマーケット、サミットストア鍋屋横丁店が新規オープンした。当日は長蛇の列ができ、店が開くと客がなだれ込んだ。

オープンセールの目玉は店内の至るところに。40センチはある大きな金目鯛が一尾980円(税別、以下同)。「にんべん」の「つゆの素」は1リットルサイズが258円。イチゴの「とちおとめ」ワンパック298円。どれも飛ぶように売れていく。

コンビニやドラッグストア、さらにネット宅配とライバルが増え、厳しさを増すスーパー業界。そんな中にあって、サミットは今、絶好調だと言う。熱さを伝えようと、専門誌の取材も入っていた。『月刊商人舎』の結城義晴さんは「日本のスーパーマーケット業界が落ち込んでいる時に、サミットは頂点に突き進んでいる感じです」と言う。

その業績は、新規店を除く客数と売上高の伸び率で2年連続日本一。絶好調の秘密を探ると、キーワードは「ワクワク戦略」にあった。

「ワクワク戦略」1、熱々の出来立て総菜。そもそもサミットの新しい店は売り場のレイアウトからして違う。一般的なスーパーでは、入り口近くは青果コーナーというのが定番だが、この店の入り口の前は自慢の総菜コーナーになっている。

そこに並ぶのは「マグロのハンバーグ」など思わず食べてみたくなる、凝った総菜ばかり。その数300種類以上。圧倒的な品揃えの総菜を用意している。

しかも、総菜を作る調理場は客の目の前だ。丸見えになっていて清潔そのもの。現場を包み隠さずに見せてくれるから安心して買える。スーパーの総菜はセントラルキッチンが主流だが、サミットでは8割以上を店内で調理している。

例えば豆腐サラダの場合、スタッフが材料を調達するために向かった先は、店内の豆腐売り場。そこで手にしたのは1丁158円もする高級な絹ごし豆腐。さらに鮮魚売り場で国産のちりめんじゃこをピックアップ。サミットでは店内で販売している質のいい食材を使って総菜を作っている。水菜などの野菜も、店内で販売するものをその日に切って使っているから、シャキシャキとしている。

「ワクワク戦略」2、専門店に負けない売り場。特に混み合っていた鮮魚売り場には、魚が切り身だけでなく、丸のまま並ぶ。見慣れない魚もいっぱいある。

鮮魚の品揃えを充実させるべく全国を飛び回っているのが、鮮魚バイヤー歴12年、鮮魚部チーフバイヤーの中神大作だ。この日はわざわざ長崎の五島列島まで足を伸ばした。

珍しい魚が並ぶ中で中神が目をつけたのは赤いキントキダイ。脂がくどくなく、あっさりしていると言う。関東ではあまり知られていないが、九州ではポピュラーな魚で値段も金目鯛より手頃だ。

二日後。立川市のサミット羽衣いちょう通り店を訪ねると、キントキダイが到着していた。さっそく目玉として販売すると、客の足が止まった。「今日のお薦めはこれ。煮魚や焼き魚にするとおいしいです。珍しいでしょう」と販売員。しっかりコミュニケーションが取れるので、珍しい魚でも客は安心して買える。「わた抜き」や「3枚おろし」も無料。町の魚屋さながらの売り場だ。

魚の消費量が減っていく中、サミットはこんなやり方で鮮魚の売り上げも伸ばしている。

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4期連続過去最高売り上げ更新~主婦が絶賛する理由

「ワクワク戦略」3、買う人の気持ちに沿った品揃え。多くのスーパーはキャベツを1個、あるいは半分のサイズで売っている。しかしサミットには、4分の1サイズや、ザク切りにしたもの、さらに店内でカットした鮮度のいい千切りまで用意している。他の野菜も、使い勝手のいい物が選べるようになっている。

豚の細切れも300グラム、200グラム、100グラムと細かく揃う。鶏肉をトレーに乗せずにパッキングしていたが、これも「かさばらない」「このまま冷凍できる」という客の要望に応えてのこと。かゆい所に手が届く商品を並べ、客の支持を集めているのだ。

サミットはほかのスーパーにはないコーナーも設けている。店舗の中央にあるのは、その名も「おためし下さい」。新商品や気になる調味料など、5、6種類の商品が週替わりでカウンターに並び、客が自由に試食できる。

女性客が試していたのは、徳島のメーカーが作ったドレッシング「フォロのドレッシング」(475円)。国産のタマネギやニンニクなどを加熱せず作った生ドレッシングで、濃厚にしてクリーミーな味わいだ。

客はここで、知らなかった味と出会える。商品は週替わりなので、1年通えば250種類もの味を試すことができる。味見してみたいという気になる商品のリクエストもOKだ。

こうした客の気持ちに寄り添った数々の取り組みで、サミットは4年連続で過去最高売り上げを更新している。

社員が事業ビジョンを共有するための年に一度の発表会。その席で、社長の竹野浩樹(54)が300人の社員に熱い言葉を投げかけていた。

「サミットが日本のスーパーマーケットを楽しくする。我々は業界のリーダーとして日本一魅力的なスーパーマーケットを作っていけるステージに来たと思います」

その後、開かれた懇親会では、パートやアルバイトを含む従業員に、夏冬とは別に特別ボーナスを支給するとサプライズで発表した。

「店員さんの対応が丁寧で、働いている方も『サミットが好き』というのが伝わってきます」「私はここが好き。なんかワクワクするんです」......竹野が社長となり改革に乗り出したのは3年前。それを契機にサミットは大きく変わったと、客の方も実感していた。

あの映画のモデルに~食品スーパーが大変貌

1996年の映画『スーパーの女』。宮本信子演じる主人公が、客の信用を失ったスーパーを立て直すというストーリーだ。この中に業界のタブーを暴くシーンがあった。それは前日に売れ残った肉や魚をパックし直し、その日の製造日のシールを貼る「リパック」という作業。かつてはこんなことが当たり前のように行われていた。作品ではこのリパックと決別するシーンが山場となる。

客に嘘をつかない正直なスーパー。このモデルになった店こそ、住友商事が作ったサミットだった。

スーパー業界にあって、いち早く「リパックとの決別」を断行したのが、『スーパーの女』のアドバイザーも務めた8代目社長の荒井伸也だ。実際にリパックをやめた時は、同業者たちから大きな反発があったと言う。

「『そんなことやるな』『それが常識になると我々は成り立たなくなる』と言われました」(荒井)

荒井は、客に嘘をつかない正直経営と、徹底的な効率化に取り組み、サミットを特別なスーパーに変えてみせた。その手法は全国のスーパーのお手本となり、『サミットスタディ』という専門書も登場。他のスーパーは、客の目を引く陳列方法や効率的なバックヤードの配置などを真似し、業績の改善を図ったと言う。20~30年前のサミットは業界のトップリーダーだったのだ。

その荒井のカバン持ちから始めたのが、住友商事で入社1年目だった現社長の竹野。荒井にスーパー経営のイロハから叩き込まれた。

「すさまじくて圧倒された。『そういう考えもあるんだ』と、しょっちゅう思っていました。荒井さんと過ごした数年間がなかったら、今の会社の成功はないと思います」(竹野)

竹野はその後、ドラッグストア「トモズ」の創業や高級デパート「バーニーズジャパン」の買収など、国内の小売業を中心に、住友商事でさまざまな成果を上げていく。そして50歳の時に、業績が伸び悩んでいたサミットに戻ってきたのだ。

しかし、23年ぶりに見たサミットの売り場に、竹野は物足りなさを感じたと言う。

「当時『ヤオコー』に行ったら、『こんなにいいスーパーがあるんだ』とのけ反りました。『ライフ』に行っても『ここまでやるんだ』と。だけどサミットに行くとどの店もパッとしない。もっと言うと、鈍臭い感じでした」(竹野)

一時は革新的スーパーとして注目を集めたサミットだが、時代の変化に取り残され、いつしかどこにでもある平凡なスーパーとなっていた。

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社員の意識を変えた「白紙のチラシ」

竹野は物足りなさを社員にも感じたと言う。

「言われたことをやればいい。大きな失敗をせず過ごせればいい。そういう動きになっていたと思います」(竹野)

そこで取り組んだのは社員の意識改革だ。「言われたことだけをやる」から「自分で考えられる」社員に変える。そのために掲げた目標が「ワクワクする店づくり」だったのだ。

とはいえ、凝り固まった常識はなかなか変わるものではない。そこで竹野はこんなカンフル剤を打つ。創業記念日の折り込みチラシに常識破りのアイデアを出したのだ。

それは商品も金額なく、「詳しくは店頭で」と書かれた白紙のチラシ。竹野はこれを、自分が考えたことだとは明かさずに、会議で提案した。すると社員たちからは、「無理、危険すぎると思いました」(会議に参加した谷川満)、「基本的にチラシは商品、売価を掲載してなんぼの世界だと思いますし、『こんなものやる意味はない』という話になったと思います」(同じく服部哲也)と、怒りのような反発が巻き起こった。予想通りの反応ではあったが、竹野はあえてこの企画を推し進めた。

迎えた創業記念日、社員を驚かす光景が広がった。白紙のチラシだったのに、客の数は普段の3割り増しに。売り上げも平日の過去最高を叩き出したのだ。

「社員は『ここまでやっていいんだ』『ここまでやるのが変化なんだ』と気づいた。まさにターニングポイントでした」(竹野)

この出来事をきっかけに、ワクワクするアイデアが社員たちからも出るようになる。「紅白食合戦」「サミットこども新聞」といった、これまでの常識にとらわれないチラシの数々。店舗でも自由な発想のイベントが行われるようになった。

この日、東京・中野区の東中野店では、みんなで考えた「店舗の誕生日」イベントが行われていた。ジャンケンで勝ち抜いたお客は、ステーキなどの豪華賞品がもらえる。他にもキノコのもぎ採り体験や、マグロの解体ショーなどのアイデアが社員やパート従業員から続々と出るようになった。

「『何でもやってみよう』という雰囲気が各社員たちから出ていると思うので、より良いものが次から次へと出てきているんじゃないかと思います」(成城店副店長・岩藤大輔)

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買い物以外も楽しめる~選ばれるスーパーを目指して

千葉県浦安市のライフガーデン浦安富岡店に、地域の親子連れが集まった。興味津々で入って行った先はバックヤード。マスクをつけて始まったのは、月に1回実施している店舗の見学ツアーだ。普段は見ることのできない店の裏側や取り組みを、あえて見てもらっている。親子で見学しながら楽しんでもらい、地域のファンを増やそうとしているのだ。

一方、東京・練馬区の氷川台駅前店。スーパーを「買い物するだけの場所」から「来たくなる場所」に変えようと、サミットには社長特命のスタッフがいる。それが案内係だ。名前の通り、売場への案内などを行っているが、実はそれ以上に大切な役割を持っている。

それが世間話へのお付き合い。客一人一人と向き合い、コミュニケーションするのが一番の仕事なのだ。案内係に会いたくて、毎日来ているという高齢者もいる。

こんな戦略をさらに推し進めようと、竹野が新たに作った場所がある。小平市の小平上水本町店では、以前からあったイートインコーナーを拡充した。竹野は各店舗で、商品の陳列スペースを削り、イートインコーナーの増設を進めているのだ。

その結果、サミットの中で知り合いどうしがお茶を飲みながら談笑するという光景が見られるようになった。毎日、イートインスペースで顔を合わせる内に、友達の輪が広がったという。さらには子どもが遊べるキッズスペースも新設した。

地域の中でスーパーに何ができるか。竹野の挑戦は続く。

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~村上龍の編集後記~
デパ地下、スーパー、ドラッグストア、コンビニ、至るところで食品が売られている。だが昔と違い、距離を感じる。子どもの頃、魚屋、八百屋、肉屋など、 通りに面し、売り場は開放されて食品は目の前にあり、匂いが漂ってきた。なじみ客が集まり、コミュニティーとなっていた。「世間」が機能していた時代だ。
竹野さんは、そんな懐かしさと暖かみを取り戻そうとしているのではないか。 各店舗の広い窓からは、売り場と食品が見える。客と店員がひんぱんに言葉を交わす。
食品が果たす本来の役割が、よみがえろうとしている。

<出演者略歴>
竹野浩樹(たけの・ひろき)1965年、東京都生まれ。1989年、慶應義塾大学卒業後、住友商事入社。1993年、「トモズ」の創業に関わる。1997年、ニューヨーク駐在。2010年、ブランド事業部長。2016年、サミット社長就任。

テレ東プラス

画像素材:PIXTA今年もインフルエンザの流行が始まりました。感染しないように気を付けたいものの、ウイルスは目に見えないので、どのように避ければよいか今ひとつピンと来ません。咳をする人から逃げればいいのか、電車の吊革に触っても大丈夫なのか、感染した人と一緒に食事をしてもいいのか......。もう何もかもが疑わしく思えてしまいますが、すべてを避けて通るのは難しいところ。そこで、国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター長の長谷川秀樹博士に、気になるケース別にインフルエンザウイルスに感染す

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