眠りは「技術」だ! 大企業が次々導入”睡眠改善”の極意

公開: 更新: テレ東プラス

ワールドビジネスサテライト」 (毎週月曜~金曜 夜11時)のシリーズ特集「イノベンチャーズ列伝」では、社会にイノベーションを生み出そうとするベンチャー企業に焦点をあてる。「テレ東プラス」では、気になる第20回の放送をピックアップ。

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厚生労働省によると、睡眠について不満を抱いている人は5人に1人いるという。質の低い睡眠は個人の生活の質、さらには企業の生産性を妨げる--。そんな問題意識から生まれ、成長を続けているベンチャー企業がある。

東京・墨田区にオフィスを構える、ニューロスペース。世の中ではまだ珍しい、「睡眠技術」専門の企業だ。「睡眠がどれくらい良かったかで、日中の(仕事の)パフォーマンスが決まる」と、創業者の小林孝徳社長は断言する。これまで企業向けに睡眠改善指導のサービスを手がけ、吉野家やDeNAなど大手がニューロスペースのプログラムを採用。のべ1万人以上の従業員が活用した。そして同社は今年4月、従来の指導プログラムを進化させた、新たなサービスを始めた。果たして、その実力とは...?

innoben_20190610_01.jpg※ ニューロスペース本社。1万人が利用したサービスがここから...

例えば、ロート製薬に勤めるAさん。会社の方針で、ニューロスペースの新サービスを約1ヵ月間、利用している。Aさんはかつて、睡眠について大きな悩みを抱えていた。「眠るまでにかかる時間が(毎日)バラバラで、長くかかった日ほど深い睡眠が少なくて...」。つまり寝付きが悪いため、睡眠が浅かったのだ。それが新サービスを使っているうちに、解消されたという。一体何が変わったのか、Aさんの1日を見てみよう。

朝7時。Aさんは起きるなり、スマートフォンを手に取った。「昨晩の睡眠の記録を見ています」。そのアプリ「lee BIZ(リービズ)」では、自分の「睡眠時間」だけでなく、「寝付きにかかった時間」「深い眠りの時間」も示し、さらには眠りの質を100点満点で点数化。この日のAさんの眠りは「75点」だ。
そうした計測データをAIが解析することで、「日中の眠気のピーク時間」や、「本人にとって最適な睡眠時間の長さ」も示すことができる。

innoben_20190610_02.jpg※ 睡眠改善アプリ「lee BIZ」。その日の眠りの質は「75点」。

眠りに関するデータの計測には、マットレスの下に仕込んだ白い板状の装置を使う。測るのはマットレスの「振動」だけ。これで「寝付き」や「深い眠り」のタイミングを把握できるのだという。

innoben_20190610_03.jpg※ 計測に使う装置。「振動」から、「眠り」の様々な情報が得られる

このアプリはデータを示すだけではなく、睡眠や日中の過ごし方の改善に向けた具体的なアドバイスもする。例えばAさんの場合、起床後は「朝7時10分、温かい飲み物を飲む」とある。それによって体内時計が正常に整えられ、睡眠改善につながるという。

innoben_20190610_04.jpg※ 個人に合わせた助言。7時に「光」、7時10分に「温かい飲み物」...

さらに出社後の過ごし方についてもアドバイスが。朝一番はあえて「頭を使う仕事」に取り組んだ方がいいという。特に集中力が高い時間帯であるためだ。逆に、午後2時はアプリが「眠気のピーク」と弾き出した時間。アドバイスでは「仮眠」とあったが、この日のAさんはあえて会議を入れることで眠気を紛らせていた。

また退勤の時間帯には「軽い運動」をすると良いという。夕方、いったん体温を上げておき、夜下がったタイミングで寝れば、深い眠りが得やすくなるためだ。

innoben_20190610_05.jpg※ 午後2時にあえて会議。眠気のピークを把握できてこその判断だ

Aさんはこのサービスを約1ヵ月間使用し、日中の過ごし方を変えたところ、効果はてきめんだった。睡眠の深さを表すグラフではっきり出ているが、以前は睡眠中、目が覚めてしまうことが何度かあった。それが最近になると、一度もない。過ごし方の改善が、眠りの質向上にはっきりと効果をもたらしたのだ。

innoben_20190610_06.jpg※ Aさんの「睡眠の深さ」。以前は睡眠中に目が覚めていた(赤丸の部分)。

Aさんが勤めるロート製薬では、従業員の6割が睡眠に関して何らかの悩みを持っていた。ロートは今春、ニューロスペースの新サービスを試験導入。得られた成果次第では、工場の従業員などにも広げる方針だ。「(睡眠不足は)仕事のパフォーマンスの低下につながり、工場では安全性にも関わる。企業としてしっかり取り組みたい」(担当者)。

新サービスの採用も広がりつつあるニューロスペース。小林社長が創業を決意したのには、きっかけがあった。「もともと私自身が学生時代や、社会人になってから、ひどい睡眠障害で苦しんでいた」(小林氏)。

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「睡眠を正しく計測し、可視化、把握して、より幅広い人に提供できる仕組みがあれば、睡眠障害の解決につながるだろうと思ってスタートした」(小林氏)。こうして、まずは企業に照準を定め、多くの従業員たちに「睡眠の技術」を広めていった。

innoben_20190610_07].jpg※ 20代のころ睡眠障害に悩んだ小林社長。当時の体験が原動力

そして今、ニューロスペースのビジネスは新たな段階に入った。従来の「法人顧客」だけでなく、「個人」の開拓へ動き出したのだ。大手ベッドメーカーのフランスベッド、KDDIと「眠りを測るベッド」を共同開発。このベッドではセンサーをあらかじめ内蔵し、振動だけでなく「温度」も測る。温度が高いと、眠っている人の体温が下がりにくく、眠りづらくなる。眠りの質を高めるには、ベッドの温度も重要なのだ。

innoben_20190610_08.jpg※ フランスベッド、KDDIと共同した「眠りを測るベッド」。

将来はこのようなベッドに、エアコンや照明などを連携させ、より快適で質の高い睡眠ができるようにしたいという。そうしたサービスを世界に広げ、"全人類"の眠りを変えることが、小林氏が未来に向けて描く"野望"だ。

「世界に、寝ない人はいない。生まれてから亡くなるまで、最高の眠りで人生を幸せにする。そんな世界を作っていきたい」(小林氏)。

innoben_20190610_09.jpg※ ニューロスペース創業者の小林社長。「世界に寝ない人はいない」

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