一人称・「ぼく」、語尾の「(ω)」をトレードマークに、Twitter上で社会問題について大人たちとアツい議論を展開した少女・はるかぜちゃんを覚えているだろうか。
2010年、当時9歳で東京都の青少年育成条例改正について言及し、特技の「早泣き」を武器にバラエティー番組でも活躍を見せた、元子役・春名風花さん。彼女はいま18歳になった。
3歳でガラケーを使いこなし、ブログの更新をしていたという彼女は、まさにデジタルネイティブ世代。18歳を目前にして、Twitterは舞台女優としての「告知」に専念し、「意見を言わない普通の女優になる」と宣言した春名さん。しかし、現在も彼女のタイムラインには、さまざまな話題に対する議論が絶えない。
そのため、舞台の告知は「埋もれて」いき、いまだに「燃える」こともあるそう。現在、舞台女優として邁進する春名さんに、「殺人予告が来たこともある」という炎上とバズの時代から、これからのSNSとの付き合い方について、聞かせてもらった。
長すぎたなぜなぜ期と「自分こそが正義」だった頃
――青少年育成条例改正について発言したのは、もう10年近く前になりますが、春名さんのことを、「Twitterのはるかぜちゃん」として認識している方はまだ世間には多いですよね。
春名風花(以下、春名):僕はもともと、お芝居をやりたくて子役を始めたんです。だから、世間から"意見を求められる"のは、けっこう想定外でした。
――春名さんは昔から、ご自身のTwitterに寄せられたあらゆる反応をすくい上げて、議論をしていますよね。同じ意見の方以外ともしっかり向き合っている印象があります。
春名:「なんでそう思うの?」って気になっちゃうんです。3歳児くらいに『なぜなぜ期』ってあるじゃないですか。僕は、成長してからも「なんで? どうして?」が止まらなくて。なぜなぜ期が人一倍長かったんだと思います。中学1年生くらいまでだったかな(笑)。
いわゆる"アンチ"相手にも、「なんでなんで! 」って聞いてたんですけど......。そういう人たちは、僕と異なる意見を主張しているわけじゃなくて、僕のことが嫌いだから、僕と反対の意見を出そうとしてることに気づいたので。そうなってしまうと、分かり合うには相手の中の僕のイメ-ジを変えるしか方法がないじゃないですか。
丁寧に言葉を選ぶ姿
でも、それはすごく難しい。議論だけでは、分かり合えない方がいるのもTwitterを使っていく上でわかったので。自分のことを好きでいてくれる人や話し合うことで前に進むことができる反対意見を持っている人と一緒にいたいと思いました。
――アンチの方と対話するのは、体力がいりそうですね......。
春名:昔は、「自分が正義だ」と思っていたところがあったんです。だから、アンチの方に対しても、自分の「正義」を絶対にわかってもらえると思っていたんですね。同じ意見になることを、正義だとは思ってなかったけれど、違う意見の方とも、話し合うことでお互い分かり合えるものなんだと思ってました。
今思うと、小学生の頃は僕の言いたいことをみんなにわかってほしかった。今は自分の正義は、違う正義を持つ人にとっては「悪」になることが分かっているから、それを踏まえて発言するようになりました。
具体的には、「なんでこういう風に言うんですか?」、「どうしてこれは規制されるんですか?」、「どうして意見を伝えたらいけないんですか?」とか......「なんで? どうして?」って質問ばっかりだったのが、最近では、その理由を一度自分で考えてから、「そういう場合なら、こういう可能性もある気がして心配なんですけど、この点は大丈夫ですか?」みたいな意見の出し方になったのかな。
長すぎた『なぜなぜ期』を抜けたという春名さん
――自分の考えや周りの意見を噛み砕いていく作業が増えたんですね。
春名:そうですね。昔は子ども扱いされる「はるかぜちゃん」として、色々発言していたんですけど、今はどちらかというと、大人側が心配する物事に、伝えたいことが移ってきた気がしています。立場が、子ども寄りから大人寄りに変わってきたんだと思う。
Twitterを辞めるのは、僕に「喋りたいこと」がなくなったとき
――伝えたいことが、「自分の意見」から「自分の体験によるもの」にシフトしてきたと。
春名:だから、最近でいうと、不登校小学生YouTuberの件とかは、その子よりも長く生きてきた立場として発信したくて。自分もあの年代で苦しんだ身として、同じようになってしまいそうだなとか、自分が昔見ていた「大人にやらされている子役」に似てるなって思ったりしたら、ちょっと何か言いたくなってしまう。そこは自分の体験を通して伝えたい。
「なんでこの子は YouTube をやってるの?」っていうところから入るんじゃなくて、「この子の話し方とかを見る限り、やらされているように思っちゃうけど、この子の意思かもしれない。意思疎通がはかれていたらいいんじゃないかなあ」とか。いろんな可能性を考えるようになりました。
だんだん視野が広がってきたそう
不思議なことに、考えることは増えたけど、ツイ-トとしてアウトプットするまでの時間は、昔より短くなってるんです。反射神経が鍛えられて、短い時間に考えられる物事のキャパシティーが増えたなと思います。...それでも燃えますけどね(笑)。
――SNSが燃えているときってどういう感覚なんですか?
春名:もう慣れたけれど......小さい頃はやっぱり大変でしたね。何回かTwitterを辞めようかと思いましたし、最近もまた辞めようとしてましたし。
単純に仕事の告知の場として使いやすい、という大前提はもちろんあるんですけど、やめるほどキツい目にも、実はまだ遭っていないというか。殺害予告が来てる時とかは本当にしんどかったですけど、今はもうそこまでのものはないので。
まだそこまでキツい目に合っていないと言うけれど......
――殺害予告が来るって「キツい」の最上級な気がしますが......?
春名:一番キツかった頃は子役事務所にいた時代で。基本的に子役って SNS 禁止なんです。当時の事務所の社長には「やめた方がいいんじゃない?」って心配されていたんですけど、マネ-ジャ-さんが「やりたいことあるんだったら、やってみたら」っていう方針で。やってみたらバズって、仕事も来るようになって、そうなると、もう止められない(笑)。
でも、もちろんいいことばかりでもないけど、「何か言われるから」っていう理由でTwitterごと辞めるのは、したくないです。意見を発信し続けられるだけの「強い自我」は長所でもあると思うし。自分がもう「喋りたいことがないな」って思ったら、辞める日も来るかもしれません。
――それでも役者など表現する側の人間が政治や国の状況などを自分個人の意見をネットで主張することに大して否定的な意見もありますよね。
そうですね。演技をする人が、常に自分の意見を発信している人だと、その人の色がついちゃって、「視聴者がまっさらな気持ちで演技や物語を見ることができない」と言われることがあったんですけど、そんなこともないのかなと。
物語と現実は分けられるべきだし、そういう意味でも、そこを忖度してやめるっていうことはしたくないんです。
ファンの方と交流できるのは嬉しいと笑顔を見せる春名さん
インターネットは、それぞれが得意な話題を選べる場所
――SNSへの興味が薄まった時期はありましたか?
春名:飽きたことはないですね。学校だと当たり障りないことしか話せなくて。自分が普段考えてることって周りの同級生は興味がなかったみたいで。青少年育成条例改正の話もそうですね。
特に小学校の頃とかは、本当に上手く喋れなかったんです。頭の回転がそんなに早くなくて、周りが喋ってるときに、次に自分が話すことを考えるんですよ。でも、自分が話すまでにその話題が終わっちゃってる、みたいなことがしょっちゅうあって。
――なんでもない話題に合わせて瞬発的に相槌を打つって、結構「空気を読む力」を求められますね。
春名:インタビューを受けるお仕事が増えて、ちょこちょこ喋れるようになったんですけど、当たり障りない話題の方がむずかしくって。当時は、バラエティ番組に出るときも、結構しっかり打ち合わせしてました。台本見なくても喋れるようになったのは最近です。
――インターネットは文章を考えてから発信する場所だから、フィットした。
春名:そうですね。話しやすい相手がネット上にはたくさんいました。Twitterは自分の中でたくさん考えてから発信できるし、自分が得意な話題について喋れる場所です。
人よりもすこし早くから、大人と同じ世界にいた春名さん。どんな質問にも、自分の言葉で返答してくれた彼女の横顔はたおやかで美しい。強い目が際立つのは、時に辛辣な意見に晒されることがあっても、真摯に返す努力をしてきたからだろうか。かつて子役としてバズった彼女に、ついて回るのは「大人」と「子ども」というキーワード。
後編では、大人と子どもの境界についてや、「はるかぜちゃん」として矢面に立ち続け、頑なになっていた春名さんの心の雪解けについて伺った。
<プロフィール>
春名風花(はるな・ふうか)
女優・声優。2001年2月4日神奈川県生まれ。0歳から赤ちゃんモデルとして芸能活動を開始。5歳から子役としてのキャリアを積み、「早泣き」でブレイク。9歳で開始したTwitterのフォロワーは、現在では19万人を超える。
【公演情報】
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『Paranoia Papers 〜偏執狂短編集ⅣΣ〜』
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