胃炎とは限らないお腹の不快感「機能性ディスペプシア」改善法:主治医の小部屋

公開: 更新: テレ東プラス

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主治医が見つかる診療所」(毎週木曜夜7時58分から)は、医師や病院の選び方のコツや無理なくできる健康法など、医療に関するさまざまな疑問に第一線で活躍する医師たちが答える、知的エンターテイメントバラエティ。

今回のWEBオリジナル企画「主治医の小部屋」には、「がん予防」と「胃の不快感」に関する疑問が寄せられました。早速、同番組レギュラー・秋津壽男医師にお聞きしましょう!

がんは早く見つかれば"死なない病気"

Q:40代後半の主婦です。ここ1年で、友人や近所の知り合いがあっという間にがんで亡くなってしまいました。乳がんと肺がんでしたが、急に死が身近になってしまったようでとても怖いです。がんにならない食事など、予防する方法はありますか? また体温を上げるとよいと聞いたことがありますが、本当でしょうか。

―― がんにならない食事というのはあるのでしょうか。

「がんを予防する食べ物というのは、はっきりいってありません。がんを起こしやすい食べ物、よくない食べ物を避けること、がんになりやすい習慣をやめることです。これを食べればよいというものを探すのではなく、悪いものを回避することが大原則であり、一番効果がある方法ですね。

例えば "〇〇エキスを取ればがんになりにくい" といった話をよく聞きますが、ほとんどは効果が確認されていなかったり、効果があったとしてもわずかな人だけに効果的だったりします。悪いとされているものはみんなが知っていますよね。代表的なのがたばこです。肺がんだけでなく、胃がん、食道がん、舌がん、咽頭がん、大腸がんになどのリスクがあることが知られています」

――しかし、効果があると紹介されるとつい飛びついてしまいます。

「たばこをやめることでがんのリスクは2~3割下がるといわれています。では、ニコチンを分解するときに消費されるビタミンCを大量に取れば、喫煙していてもその害が消えるかというと、0.1~0.3%効果があるかもしれない程度。たばこをやめるほうが、はるかに効果が大きいです。

がん予防によいとされるものは、悪いものをめいっぱい避けた上で、プラスαで何か取り入れてみようというときに取るべきもの。たばこを吸っている人が体によいものを探してみても何の意味もありません。

体によくないこと、具体的には喫煙、飲酒、過度のストレス、睡眠不足、肥満などを避けるだけで、がんになるリスクは下がります。それが一番賢いがん予防。まずできることから始めることが先決でしょう」

――体温を上げるとがん予防になるというのは本当でしょうか。

「体温を上げるとがんを抑制できるという話も同様です。健康な人が、平熱以上に体温を上げて免疫力を高めることは難しいですね。日頃の不摂生や極端なダイエット、冷房による冷えなどで通常より体温が下がっている人、36度以下の低体温の人は、健康な平熱まで引き上げたほうが免疫力は上がります。36.2度くらいの平均的な体温の人が無理に体温を上げてもあまり効果はないです」

―― 相談者の場合、身近な人が亡くなったことで死に対する不安も強く感じているようです。

「人は今まで自分が過ごした時間でしか未来を想定できないものです。例えば、10歳の子どもが余命1年といわれても、その子にとって1年後ははるか遠い未来になります。というのも、10歳の子どもにとって1年前は遠い過去に感じるからです。ところが、70歳の人にとって1年前は、子どもにとっての1週間前くらいのイメージ。だから死ぬのが怖くなる。

それを実感するのが『人生100年時代』の折り返し地点となる50歳頃です。平均寿命まであと30年としたら、30年前は20歳くらい。そう考えると、この後の30年もあっという間な気がしてしまうわけです。相談者の方は、年齢的にもそういう時期だと思います。人は必ず死ぬわけですが、50歳でがんでは死にたくない。がんで死ぬのが怖いというより早死にするのが怖いのでしょう」

―― がんに対する恐怖を和らげるよい方法はありますか。

「生涯でがんを経験する人は、およそ2人に1人。そのうち、がんで死亡する確率は約20%(男性で25%、女性で15% ※最新がん統計:2019年1年21日更新)で、残りの人は生き残ります。つまり、ほとんどのがんは、早く見つかれば"死なない病気"です。だからこそ、まめに健診をして早期発見に努めること、もしくは自分の体調に変化があれば早めに受診することが大切です。

また、たとえ現在治りにくいがんであっても、10年後には治る病気になっているかもしれません。5年前は不治の病だった膵臓がんや肺がんの場合も、新型がん治療薬(オプジーボ)ができて以来、余命は伸びています。がんになるなら1年でも遅くなれば治る可能性は高くなります。加齢とともに罹患率が上がるがんについては、先延ばしにできればそれだけで寿命が変わってきます。余計なリスクを避ける、不摂生をしないという基本がどれほど大切か...これでわかってもらえましたよね」

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胃炎と区別が難しい「機能性ディスペプシア」

Q:20代のOLです。外食や飲み会が続くと食欲がなくなり、慢性的なお腹の不快感に悩まされています。胃薬を飲んでもあまり効果がありません。毎日楽しいので、ストレスからくる胃炎も考えにくいです。そんなとき「機能性ディスペプシア」という症状があると聞きました。胃炎との違いや初期症状などについて教えてください。

―― 機能性ディスペプシアはどんな症状が現れる病気でしょう。

「胃炎も機能性ディスペプシア(以下、FD:functional dyspepsia)もほとんど同じ症状です。胃炎は字のごとく、胃が炎症(器質的な病気)を起こし、胃の痛みや胃もたれなどの不快感を引き起こす病気。

FDは胃に炎症はないけれど、機能的に胃の不快感が起きる状態です。原因が違うだけで結果は一緒ですね。鑑別診断には胃の内視鏡検査を行い、胃炎や潰瘍などの異常がみられない場合にFDと診断されます。それくらい症状から区別することは難しいです」

―― 炎症がないのに機能的な問題が起こるのはなぜでしょうか。

「不思議ですよね。例えば、火傷や打撲で痛みが生じるのは炎症です。ところが何もしていないのにスポーツ疲労のような痛みが出ることもありますよね。まだ研究段階ですが、機能的にパフォーマンスが落ちている状態がFDです。相談者のように、ストレスはなくても飲みすぎたり、外食が続いたり、若い女性であれば薄着でお腹が冷えたりすることで、慢性的に胃に負担がかかり常にお腹の調子が悪くなる。昔はこういう人を胃弱と呼んでいました」

―― なぜ胃薬を飲んでも効果がないのでしょう。

「胃薬は炎症を治すものがほとんどです。特にPPI(プロトンポンプ阻害薬)、もしくはH2ブロッカーという薬は胃酸の分泌を抑える作用があるので、炎症のある人には劇的に効きます。ところが、炎症がなく調子の悪い人にはこの薬は効かない。むしろ胃酸の分泌を抑えることで消化能力が落ちてしまい、悪化してしまうことがあります。

FDの場合、胃の働きを助けるタイプの薬を使うとよいでしょう。一つは消化を助ける消化酵素配合の胃腸薬。天ぷらを食べるときの大根おろしのような役割をする薬です。もう一つは漢方薬。胃酸を止める・炎症を治すというものではなく、胃の動きを整えて働きを是正するもので、FDの方には、六君子湯(りっくんしとう)や安中散(あんちゅうさん)などが向いています」

―― 薬を飲む以外に、自分でできる対処法などはありますか。

「FDは胃の疲れなので、疲れる原因に心当たりがあるはず。相談者の場合は外食や飲み会を控えてみることですね。歩きすぎて足が疲れて痛いなら2、3日散歩を休めばいいのと同じです。食べすぎ・飲みすぎで胃がつらければ2、3日胃腸を休めてください。

おすすめはプチ断食。1日1食を丸々抜いてみる、もしくは1週間だけ禁酒して食事量を3分の2くらいに減らしてみる、などです。そうすれば胃腸は楽になるので、あとは自力で回復できると思いますよ」

―― 秋津先生、ありがとうございました!

【秋津壽男医師 プロフィール】
1954年和歌山県生まれ
1977年大阪大学工学部発酵工学科卒業 1986年和歌山県立医科大学卒業
1998年秋津医院を開業
日本内科学会認定総合内科専門医 日本循環器学会認定循環器専門医
日本医師会公認スポーツドクター 日本体育協会公認スポーツドクター
日本禁煙学会認定禁煙専門医
著書に「病気にならない新常識72」(法研出版)、「がんにならないのはどっち?」(あさ出版)など。

※この記事は秋津壽男医師の見解に基づいて作成したものです。

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今回お話を伺った秋津先生も出演する「主治医が見つかる診療所」。明日5月30日(木)の放送は、「ドクターヘリ命の現場に密着!」。さらに医師と管理栄養士注目の「ビタミン」と、名医だからこそ気づく事ができた「生還のターニングポイント」の三本立てを特集。「ビタミン」をきちんと摂らないと、体の若々しさや寿命にも影響が!? 知らないと損する「3大ビタミン」とは? 恐ろしい突然死の危機に直面した医師が、いざという時わが身をどのように守ればいいか、自身の体験を告白。生還のターニングポイントは果たして...? 貴重な情報をお届けします!

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