求められるのは”羊飼い”部下が育たない3つの背景...今問われるリーダー像

公開: 更新: テレ東プラス

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ドラマBiz「スパイラル~町工場の奇跡~」(原作:真山仁『ハゲタカ4.5/スパイラル』 講談社文庫)で主演の玉木宏が演じるのは、小さな町工場「マジテック」の再生に挑む、熱き企業再生家・芝野。ドラマでは、下町の町工場を舞台に、事業再生までの軌跡を色濃く描き、専務取締役として、経営危機の町工場を再生に導いていく芝野(玉木宏)のリーダーぶりが注目を集めている。

「部下が育たない」「教育方法がわからない」と世の経営者や管理職が思い悩む昨今、どのように人材を育てるのが理想のリーダーなのか? これまで経営コンサルタントとして多くの経営者と関わってきた中小企業診断士・中山健氏に話を聞いた。

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希薄化するコミュニケーション...部下が育たない理由と解決法

――中山さんは、これまで1,500人以上の経営者と接してこられたと伺いました。そんな中山さんが考える"理想のリーダー(経営者や管理職)像"とはいったいどのようなものなのでしょう。

「求められるリーダー像は、会社が置かれているステージ(立ち上げ期、成長期、成熟期、衰退期)や景気動向によっても、ワンマン型、分権型、支援者型などと異なります。しかしいずれの時期でも、"変革を恐れない""ビジョンをメンバーと共有できる""メンバーから信頼されている"の3点は、リーダーに欠かせない要素だと思います」

――近年よく、「部下が育たない」という声を耳にしますが、その理由はどんなところにあると考えますか?

【中山氏が考える部下が育たない3つの背景】

1.経営者や幹部が仕事を任せない
「経営者は自分のやり方で成功してきた経験があるので、自分たちのやり方が正しいと思っています。だから仕事を手放せないし、次の世代に引継いだとしても、自分のやり方を踏襲させようとする。けれども時代とともに昔のやり方は古くなっていきますし、新しい世代に任せなければ、いつまで経っても部下は言われたことだけをやるようになってしまい、成長することができません。まずは経営者が変わる意識を持つことが必要です」

2.コミュニケーションの希薄化
「ただし、経営者や管理職が次世代に任せようと思っても、なかなかコミュニケーションが取れないという問題もあります。昔は仕事が終わったら同僚で飲みに行くのが当たり前でしたし、土日に同好会で山に登ったりしましたが、今は個人の自由が重んじられ、強引に誘うとハラスメントといわれかねません。かつては、インフォーマルな付き合いの中で教えられることや芽生える責任感もあったはずです。上司としては非常に部下とコミュニケーションを取りづらい時代になったと思います」

3.若手社員がキャリアデザインを描けない
「一方の若手社員にとっては、一回り上の世代がリストラに遭う姿などを目の当たりにし、自分がこの会社でどうキャリアを積んでいけばいいのか...将来像が思い描けないという問題があります。そうなると短期間で辞めてしまったり、職場よりもプライベートを大事にするようになり、ますます職場でのモチベーションが維持できなくなります」

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――そうした状況の中で、リーダーはどのように対処していけばいいのでしょうか。

「まず、部下に仕事を任せられないことについて。私はこれまで多くの会社に経営コンサルティングなどで関わってきましたが、例えば、社内の各部署から人材を集めてプロジェクトを組み、その中で若手社員にも責任のある仕事を任せるというケースがあります。通常の業務とは違うところで責任感が育めるので、これは経営者や上司にとっても部下にとっても非常にいい方法だと思います。

コミュニケーションについては、職場の『サードプレイス化』という言葉がありますが、社員食堂やちょっとしたサロンを設置し、休憩時間や家に帰る前に息抜きできる場を作る会社も出てきています。定時で飲み会を企画したりすると、自然と縦横の垣根を取り払った顔ぶれが集まり、仕事以外の会話が広がります。上司と部下が互いに鎧を脱いだ状況でお互いの人間性を知ることで、仕事も潤滑に進むようになります。

そうは言っても中小企業では、ハード面(施設や設備、機器など)の充実は難しいもの。その場合は、業務の合間などに、部下が興味を持っていそうな話題を振るなど、上司から近づいていくのも大事です。業務中でも、ふと気持ちがオープンになる瞬間はありますよね。そのタイミングを見計らって、キャリアデザインについても、この先どういう風に働いていきたいのか、1年後にどうなっていたいのかという部下の具体的な目標を聞きましょう。そして、それならどう進んでいけばいいのかを一緒に考えてあげることが必要です」

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今求められるのは、温かく包み込む"羊飼い型"

――ドラマBiz「スパイラル~」で、芝野(玉木宏)がリーダーとして優れていると感じるところはありますか?

「例えば、営業がうまく行かない望(戸塚純貴)にヒントだけ与えて自分で考えさせるところでしょうか。芝野は自分のやり方を押しつけるのではなく、部下の自主性に任せて見守っていますよね。昔は強烈なリーダーシップを発揮して、上から部下を引っ張っていくリーダーが多かったのですが、近年は羊飼いリーダーシップ、サーバント(支援型)・リーダーシップなどのように部下を後ろや下から支え、部下の目線に合わせて、目標に向かって背中を押してあげるリーダーシップのあり方も注目されています。

古い話ですが、『平成9年版中小企業白書』の中で、中小企業の経営戦略の新たな展開の方向の一つとして「優位性を持つ〈経営資源〉の"涵養(かんよう)"」が必要と書かれていました。この言葉には"無理のないように、自然にしみこむように段々と養成する"という意味があり、まさに人材育成にも当てはまると感じます。そして人には成長の早い遅いがあるので、最初から100%は求めないこと。60~70%でも良いところを褒める。その人の持っている資質を高めてあげることが大事です。

日本人のメンタリティーとして"褒める"ことは苦手かもしれませんが、やはり褒められると誰でも嬉しいですし、やる気が出ますよね。そうして60%が70%、80%と上がっていけばいいと考えましょう。それまでは、出来なかった30~40%は自分がフォローする覚悟が必要です」

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――"温かく見守るリーダー"が求められているのはとてもよく理解できますが、リーダーとして、時に強引に物事を進めなければ何も進展しない時もありますよね。

「そうですね。そんな時に重要なのが、サブリーダー的な存在です。リーダーの押しが強く組織を牽引するタイプであれば、サブリーダーは部下をしっかりとケアをしてあげる。反対に包容力があるリーダーの時は、サブリーダーが厳しく叱咤激励するというように、役割を分担できるのが理想的です」

――リーダーが気を遣いながら優しく接して、「本当に部下は育つのか?」という疑問もわきますが、そのあたりはどうお考えになりますか。

「当然ながら、今の若い世代でも、働くことが好きな人はたくさんいます。一度ハマれば大きなパワーを発揮するというのは、今の若者も昔の若者も変わらないのではないでしょうか。何か職場で成功体験があれば楽しくなり、仕事に対しても前向きになることができる。部下が成功体験を繰り返していけば、自然と育っていくのではないかと考えます」

――一方で、「フォローに回るリーダー側にしわ寄せがくる」という話もよく聞きます。経営者や管理職にとっては厳しい時代ですね。

「元来、経営者とは孤独なものです。経営者と社員の間に、事業に対する温度差があるのは当然のこと。それを強引に進めようとするのでなく、きちんとビジョンを示して、部下に理解してもらう努力や忍耐力は必要不可欠です。これが冒頭で述べた『ビジョンをメンバーと共有できる』ということです。部下の理解が得られ、仕事に対してぶれない軸を持っている上司だと思われていれば、時には多少強引な進め方をすることがあっても、『あの人のことだから、きっと考えがあってのことだろう』と納得してもらえるはずです」

現代のリーダーは、傍から見ているよりもずっと周囲に対する気遣いが必要で、孤独なものなのかもしれない。ドラマBiz「スパイラル~町工場の奇跡~」の芝野は、今後リーダーとして、どのような才覚を発揮していくのだろうか...。さらなる盛り上がりをぜひ楽しみにしていてほしい。

【中山健プロフィール】
中小企業診断士。1967年5月、三重県生まれ。法政大学社会学部卒業後、株式会社帝国データバンクに入社。2000年、社内ベンチャーに出向し、2003年、同社を退職。ベンチャー企業取締役CFOなどを歴任し、2008年、経営コンサルタントとして独立。2010年、合同会社エバーチェンジ(http://www.everchange.jp/profile.html)を設立、代表社員に就任。

そして今晩10時放送! ドラマBiz「スパイラル~町工場の奇跡~」第7話の気になる内容は...。

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マジテックの債権を手に入れたナオミ・トミナガ(真矢ミキ)。マジテックは3億円の債務が返済できない限り、ホライズンに買収される危機的状況に。さらに英興技巧の社長に就任したテイラー氏(グレッグ・デール)は、マジテックを特許侵害で提訴する準備に入ったと会見で発表。追い詰められていくマジテック...。芝野(玉木宏)は買収の裏にある真の狙いを探るが、そこにはハゲタカの恐ろしい計画が待ち受けていた!

現在、第6話を「ネットもテレ東」で配信中です!(5月27日月曜夜10時53分配信終了)

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