もの忘れの原因はうつ病!? オフィスに潜む病の正体:主治医の小部屋

公開: 更新: テレ東プラス

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主治医が見つかる診療所」(毎週木曜夜7時58分から)は、医師や病院の選び方のコツや無理なくできる健康法など、医療に関するさまざまな疑問に第一線で活躍する医師たちが答える、知的エンターテイメントバラエティ。

今回WEBオリジナル企画「主治医の小部屋」に寄せられたのは、頭痛やもの忘れの症状を心配する20〜30代の方からの質問です。早速、同番組レギュラー・上山博康医師にお聞きしましょう!

Q:20代の男性です。仕事でデスクワークが多く、慢性的な目の奥の痛みや、急激な頭痛に悩んでいます。若年者でも脳卒中などのリスクはあると思いますが、要因の一つに「脳動脈解離」という症状があると聞きました。この「脳動脈解離」とはどんな状態なのでしょうか。また見分けるポイントがあれば教えて下さい。

――脳動脈解離とはどんな病気ですか。20代でもなることがあるのでしょうか。

「脳動脈解離は3層構造になっている血管の一番内側の壁が裂けて、そこに血液が流れ込んでいる状態です。脳に血液を送る動脈には内頚動脈と椎骨動脈という左右計4本の血管がありますが、脳動脈解離はほとんどの場合、椎骨動脈に起こります。統計的には40〜50代の男性の右側に多く発症する病気です。

大動脈に起こる解離(大動脈解離)の主な原因は高血圧ですが、脳の血管の解離ではそのほかに外傷との関係が指摘されています。これは椎骨動脈が頚椎の骨の中を通っている血管のため、首の伸展などによって比較的引っ張られやすいから。事故などによる直接的な外傷以外にも、首の過伸展(過度に頭を後ろに反らす)で解離するという説もあります。ただし、動脈硬化がベースになるので、10代や20代の若い年齢層ではめったに起こることはありません」

―― 相談者は若い年齢層ですので、脳動脈解離の可能性は低いと考えていいのでしょうか。

「この方の場合、解離痛というものがあると知って心配になったのでしょう。脳動脈解離の可能性は低いですが、脳動脈瘤(こぶ)によって目の奥の痛みや頭痛があることは考えられます。頭蓋底(頭蓋骨の底部で脳を支えている部分。顔面の中心部あたり)には三叉神経の枝がありますが、頭蓋内の広い範囲に血流を供給する血管(内頚動脈)が広がったり、脳動脈瘤が大きくなったりすると、神経を刺激して痛みが生じることがあります。頭痛を訴える人に動脈瘤が見つかるのは珍しいことではないので、疑うならば脳動脈瘤ですが、20代であればほとんどの場合、緊張型頭痛や片頭痛と考えていいでしょう」

―― 片頭痛が大きな病気の前兆という可能性はあるのでしょうか。

「片頭痛の中に血管の病気が隠れている可能性があると言われています。その代表が血管炎や動脈瘤、解離などです。そうした病気が原因になっていないか心配な方、あるいは家族に脳動脈瘤の方がいて不安な場合は、念のため医療機関を受診してみてはどうでしょうか。重い病気かも......と悩んでいるよりずっといいと思いますよ」

―― 家族に脳動脈瘤になった方がいる場合、自分も罹患するリスクが高くなるのですか。

「血管には弾性板といってタイヤで言うとスチールベルトに相当する部分があります。血管が広がり過ぎないための丈夫な繊維の層なのですが、その部分が弱い家系があります。また血管の分岐部には誰でも弾性板の断裂があり、その間隔が広いと動脈瘤ができやすいということも。動脈解離についてはあまり体質的な関係はありません。

もう一つ、因果関係はまだはっきりしていませんが、遺伝性の病気で多発性嚢胞腎の人は高率に脳動脈瘤になることが知られています。脳動脈瘤になる体質と多発性嚢胞腎になる体質はベースが同じ可能性があります。とは言え、病気に関係する遺伝子が伝わるのは最大で50%と言われています。家族歴があるからといって、これらの病気に必ず罹患するとは限らないと覚えておきましょう」

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Q:30代の女性です。年々もの忘れがひどくなり、人と会う約束を忘れたり、会社で些細なミスも多く、仕事にも支障をきたしています。 "まさか認知症では......"と疑っていますが、20~30代で「若年性アルツハイマー」になるケースはあるのでしょうか。また早期発見で症状が改善することはありますか。

―― 30代という若さで「アルツハイマー型認知症」になることもあるのでしょうか。

「稀にあります。昔は若年性の認知症をアルツハイマー病と言っていました。認知症には『アルツハイマー型認知症』『レビー小体型認知症』『前頭側頭型認知症』『血管性認知症』などいくつかのパターンがあり、ある種の代謝産物(アミロイドβなど)が脳にこびりつき、脳細胞が壊れることで発症します。ただし、代謝産物が一定の量に達すると発症するのではなく、少し溜まっただけで発症するケースもあれば、たくさん溜まっていても発症しないケースもあります。

アルツハイマー病には、老化を促進させるといわれている『酸化』や『糖化』が関係しており、特に細胞が焦げる『糖化』の影響は大きいと思います。人は1回呼吸をするたびに『酸化』(錆びる)し、食事をするたびに『糖化』します。しかし、呼吸も食事も生きる上で必要なことですから、異常に早く『酸化』や『糖化』が進まないように気をつけることが大切でしょう」

―― 相談者が悩んでいる"もの忘れ"は認知症の可能性を考えたほうがいいですか。

「症状と性別、年齢を考えると、先にうつ病を疑ってみたほうがいいかもしれません。うつになるとすべての高次脳機能が低下し、記憶障害も現れます。うつ病の典型的な症状は睡眠障害なので、熟睡できていないようなら要注意。働き方やハラスメントなど、環境や人間関係が複雑化してストレスフルな社会になったことで、女性に多かったパニック症候群も性別を問わず増加しています。

もの忘れがあまりにもひどい場合は、一度、認知症テストや動作性・言語性の知能検査を受けてみてください。昨年、島津製作所と国立長寿医療研究センターによって、微量の血液からアミロイドβを検出し、脳内に蓄積している量を推定してアルツハイマー病を早期発見する手法も確立されています。

こうした検査でたとえアルツハイマー病と診断されても、初期の段階であれば進行を抑える薬があります。絶望的になる必要はないことをしっかりとお伝えしておきます」

―― 上山先生、ありがとうございました!

【上山博康医師 プロフィール】
社会医療法人禎心会脳疾患研究所所長。1973年北海道大学医学部卒業。秋田県立脳血管研究センター、北大医学部脳神経外科講師などを経て、1992年から旭川赤十字病院脳神経外科部長。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医。
2012年4月から現職。著書に「すべてをかけて命を救う」(青春出版社)、「闘う脳外科医」(小学館)など。

※この記事は上山博康医師による見解に基づいて作成したものです。

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今回お話を伺った上山先生も出演する「主治医が見つかる診療所」。明日5月23日(木)の放送は、「人気専門外来の名医が緊急警告!」数カ月の予約待ち必須の専門外来の医師達が、知っておくべき大切な情報を特別に伝授! 「耳の聞こえ方外来」の名医が警告! 認知症の引き金になる「隠れ難聴」とは? 「フットケア外来」の名医が警告! 普段から足〇〇をしっかり見ないと、将来歩けなくなる!? 「しびれ外来」は、見逃せば一生治らない「隠れしびれ」。「睡眠外来」の突然死のリスクを高める「危険な眠り方」とは? をご紹介します。

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