多分、現場に恋をしている。『貞子』で主演池田エライザに聞いた「愛すること」とハードすぎる「集中力」

公開: 更新: テレ東プラス

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『リング』に登場する貞子は、紛れもなくジャパニーズ・ホラーを代表するキャラクターの一人だ。20年以上も前から続くこのシリーズ最新作のタイトルは、満を持して(無印の)『貞子』と発表された。主演を務める池田エライザは、本作に対してどのような姿勢で臨んだのか。そして、聡明な知性でこの物語をどう解釈したのだろう。自らを「過集中」とまで語る集中力と、「愛するということ」を彼女の中でどう定義しているかについても伺った。

ないがしろにしたくない、疎かにしたくない。この気持ちが私の原動力です。

――主演されている『貞子』は『リング』シリーズの最新作ですが、この一連の物語では基本的に登場人物がある種の呪いを受けるというか、憑かれることで亡くなりますよね。例えばですが、池田さんは何かに取り憑かれた......ようにハマったものはありますか?

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池田エライザ:あはははは(笑)。ハマってること聞きたいだけじゃん!(笑)。そうですねえ......8月に自分が監督の作品をやらせてもらうので、今はそればかり。普段、休みの日はずっとギターを弾いていたり、最近はピアノを買ったので練習していたりしていたのですが。企画・原案もやっているので、ここ3ヵ月は書いて調整して、チェックしてもらい、また調整して......の繰り返しで。すごく楽しみですけどね。

――ずっとお忙しい印象ですが、ご自身で思考のレイヤーはどう変えているんですか?演じている自分、今日みたいに取材を受けている自分、監督側としてチェックする自分、それぞれ違う視点が入りますよね。

池田:お仕事をする上で「自分が好きだと思えることをやる」という、一貫したテーマみたいなものがあるんです。だから、どれも自然にやっているというか、あまり俯瞰してバラバラに見ているつもりはなくて。好きなものに対して手が抜けない性格なので、もちろん一つ一つ丁寧にやっていますし、それが癖なんですよ。

きちんとやりたい、突き詰めたい、ないがしろにしたくない、疎かにしたくない。この気持ちが私の原動力です。みんなといろいろな話をして、得た素材をどう料理するか。実際の料理はちょっと苦手なんですが......頭の中の素材を動かす、活かすというのはむしろ趣味に近いのかなって。

――その没入感って昔からですか?

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池田:そうですね、マインドがオタクっぽいところはあります。今までは趣味がインドアで完結していたんですけど、結局大人になって気付くのは、インプットしないとアウトプットができないという揺るがない事実ですよね。最近は少しずつ、散歩をするようになりました(笑)。近くの公園や、先日は等々力渓谷まで遠出もしましたよ!

――趣味まで集中しすぎてしまう......なんてことはありませんよね?

池田:やっかいなことに、趣味も過集中なんですよ。ギターを弾いていても、気が付いたら指の皮が剥けて「痛い!これ以上弾けない!」という状態で、これは怒られると思ってやめます。本も動画も漫画も没入するので、午前2時までには......午前3時までには......あ、太陽が出た、怒られるから寝よう、みたいな(笑)。

――10代の高校生みたいだ(笑)。

幽霊は怖い存在ですが、その存在の本質とは何かに到達するお話

――最新作の『貞子』って、それこそ配信動画という現代的な要素を取り入れていますよね。初めは今までの作品と違う印象を受けたのですが、物語が進んでいくうちに『リング』と地続きであることがしっかり読み取れました。ファンだったら絶対に気付くキャストも出演されていますしね。歴史ある作品に参加されていかがでしたか。

池田:『貞子』で出てくるビデオ(VHS)は当時のカルチャーですよね。私は学生時代にガラケーと呼ばれるものから、iPhone(スマートフォン)に変わって、パソコンで見ていた動画を手元でも見られるようになった世代なんです。この映画は今現在のカルチャーを使って描かれていますよね。だから、変わっているようで変わっていないんですよ。

――本質は一緒ですもんね。

池田:そう、「今流行っているものを取り入れている」のは昔も同じで、普遍的なテーマです。ビデオというメディアで作品を共有していた時代があって、今はYouTubeをはじめとした動画共有サイトやアプリがある。世の中に拡散される動画、という意味では同じことが描かれているので、歴史を感じるというよりも、また同じ悲劇が繰り返されていくことを悲しく思います。

――どれだけ新しいものが出てきても、そこに貞子が宿り続ける恐ろしさを感じました

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池田:今回は貞子の過去にフォーカスしているお話なので、私自身は「怖い幽霊」としての恐れよりも、どうすることもできない、助けてあげられないことを証明する、(『リング』から続く)悲劇の歴史の方が恐ろしかったです。主人公の茉優(まゆ)を演じている中で、役柄に対して共鳴してしまう自分がいるんだけど、どうしようもないんだよって伝えてあげることすら出来ない。それくらい圧倒的な、貞子という存在がすごく怖かった。

――本作で哲学的だなと思ったのは、「本当に怖い存在は誰か」という問いを投げかけている点です。

池田:怖い、逃げたいと思っている心の根底に、すごく胸が痛くて、同情している自分がいるんですよね。この作品を見る人もそう感じてくださるかもしれないんですけど、貞子の過去が明かされた時に、「貞子」というジャパニーズ・ホラーの象徴が、ひとつの悲しい物語に変換されて心に残っていくんじゃないかって。幽霊は確かに怖い存在ですが、その存在はなぜ生み出されたのか、作品を通しての本質は何か、というところに到達するお話なんだと思うんです。

――役作りに関してはいかがでした?

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池田:難しかったですよ。病院に勤務する心理カウンセラーという役なので、同じ職業の友人にしっかりと取材して。茉優は、物語の鍵を握る幼い少女と接することになるのですが、少女はすごく葛藤していて、なかなかしゃべることもできずにいるんですね。心理カウンセラーだからその子のペースで話をさせてあげなければいけない中で、これはもうお芝居関係なく、本当に現場でそうするべきだと思ったんです。相手がしゃべりづらそうにしていたらずっと見ているだけじゃなく、目を離さなければいけない瞬間もあるので。それは台本を読むだけだと伝わらないじゃないですか。クランクイン前は「見る」と「見つめる」の違いとはなんだろうって、ずっと問いかけていました。

――ものすごく入り込んでいますね。恐ろしいシーンでも全然動じなさそう......。

池田:やっぱりそこは人間なので、ホラーのシーンは本当に怖かったですよ(笑)。暗いし。でも、自分が何を演じているのかを絶対に忘れないようにはしました。例えば「怖い」と思う瞬間って、自分の呼吸音もうるさく感じるくらい張り詰めていて、全身の筋肉から臓器に至るまで緊張するじゃないですか。それはやっぱり、撮影が始まっていきなりできることではないので、何時間も何時間も前からずっと集中して途切れさせないようにしていました。

多分、現場に恋をしている。

――お話を聞いていると、作品のテーマは恐怖なんだけど、その節々に愛情めいた情熱を感じました。仕事をする上でのモットーが「愛し愛されること」と以前インタビューで仰っていましたが、池田さんにとって「愛すること」の基準はどこですか?愛について、どう考えているのかを伺いたくて。

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池田:(仕事)現場に対しては恋をしているんですよ。胸がドキドキするし、わくわくします。どんなに集中していなければいけない状態でも、わくわくしてしまうあの気持ちは、まだ恋だと思っていて。愛というのは、なんだろうな......気持ちが色あせないことかもしれません。

仕事が終わって、あんなに大変な現場はなかったなと思っても、記憶が自分の中から消えていかない状態ですかね。大変だったけれど、こういう人たちに巡り会えて関係を築けた、作品を完成させることができた、と考えた時に湧き上がってくる純度の高い気持ち。「大切にしたい、忘れてはいけない」と思うところまで到達するのが、私の中での愛なのかなって思います。

――対人関係になると、また別の大変さはありますか?

池田:対人関係の愛については、友達のことを本当に愛しています。適当に、雑に付き合いたい人なんていないから。私は仲良くなるまでが結構大変なんですよ。ご飯にも全然行かないですし、飲みにも行かないから。行っちゃえばすごく大切な関係になれるかもしれないんですけど、行かない......普通の雑談ができないんです。

例えば、友人数名と飲みに行くじゃないですか?そこでの雑談がすごく熱い話になっちゃうんです。みんな飲んでいる時って、いろいろな人と喋りたいと思うんですけど、一人を捕まえて「この仕事に関してはどう思う?」とか「どういう気持ちでやっているの?」って聞き続けてしまう。これは自分でもウンザリしているところだし、あっちもたぶんそうだと思う(笑)。だけど、次に会った時は不思議とリセットされます。照れくさいから(笑)。

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プロフィール:池田エライザ
1996年4月16日生まれ、福岡県出身。女優、モデル。 2009年、『ニコラモデルオーディション』でグランプリを受賞。同年、『ニコラ』の専属モデルを務める。映画『みんな!エスパーだよ!』や映画『オオカミ少女と黒王子』などに出演。2019年は映画『貞子』の主演や、自身初となる映画監督にも挑戦。

【映画情報】
『貞子』
5月24日(金)全国ロードショー
主演:池田エライザ
HP:https://sadako-movie.jp/

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