「可変要素が少ない財産は”信頼と信用”」社団法人代表理事、石山アンジュに聞くキャリアメイキング

公開: 更新: テレ東プラス

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好きなことをして生きていく。

果たしてそれは夢物語なのでしょうか? すべての人がそうなることはできないかもしれませんが、そこに近づいていくことはできるはず。

今回お話を伺うのは、一般社団法人Public Meets Innovation 代表理事にして、シェアリングエコノミー協会 事務局長、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師、総務省地域情報化アドバイザー、厚生労働省「シェアリングエコノミーが雇用・労働に与えるインパクト研究会」構成委員、総務省検討会構成委員など多数の肩書きを持つ石山アンジュさん。「イノベーションの社会実装」をテーマに、ベンチャー企業と政府をつなぎながら、日々多くのメディアに出演されている注目のビジネスパーソンです。

副業推奨の流れや、個人ブランディングの重要性が叫ばれる今、石山さんの働き方やキャリアマップは私たちのヒントになるかもしれません。1989年生まれ、新卒で株式会社リクルートに入社した彼女は、どのようにしてキャリアを進め現在に至るのでしょうか?

きっかけは、両親の離婚。自分が生まれた理由を考えた。

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── 石山さんはジャーナリストを目指されていたとのことですが、そのルーツにはどんなきっかけや思いがあったのでしょうか?

根本にあるのは「世界平和」です。12歳の頃、両親が離婚したのをきっかけに、なんで自分が生まれたのかという存在意義を考えるようになったんです。もともと小さい頃から戦争映画が好きでした。そんな時に自分の誕生日がアドルフ・ヒトラーの誕生日の100年後だと知り、今となっては笑い話ですけど「自分はただ生まれたというのではなく、世界平和に貢献するために命を授かったんだ」と真剣に思ったんです(笑)

── 一直線ですね。

もともと小さい頃から戦争映画が好きで、学級委員をしながらも誰も見ていないところでは図書室に行って一人でホロコーストの写真集を見ているような子だったので、そういう社会的な意識は持っていたんだと思います。

── 世界平和の実現に向けジャーナリストを目指したわけですか?

いえ、当時エイベックスのアカデミーに入ってダンスや歌をやっていたのですが、それを通してジョン・レノンやマイケル・ジャクソンのように世界平和を訴えていくピースメッセンジャーに憧れるようになったんです。

── 「イマジン」や「ウィ・アー・ザ・ワールド」のような楽曲や、それを通しての活動ですね。

でも、そのうち芸能や音楽における商業的な面と社会性とのギャップにぶち当たり「世界平和をちゃんと学びたい」と思い、ICUという平和研究が唯一ある大学に行くことにしました。

── 芸能ではなく、アカデミズムから平和にアプローチしようと...

ただ、ピースメッセンジャーになりたいという思いと同時に、キラキラしたものも並行して好きでした。大学でもミスコンテストを受けて、アンジェリーナ・ジョリーみたいになりたいとも思っていましたし。でも、そういうことをやっていくうちに、裏は出来レースだということがわかってそこに幻滅したりして...。世界平和という軸はありつつも、その周りをうろうろしてましたね。

── 道が定まり始めたきっかけは?

「グローバルディベート WISDOM 」というNHK BS1の国際報道番組に感化されて、番組の問い合わせページから「勉強させてください」と電話して、アルバイトとして入れてもらって2年間バイトしたんです。国際問題をいろんな国の有識者が繋がって議論する番組だったのですが、そこで社会課題をみんなで議論して伝えていくことに意義を感じ、ジャーナリズムに興味があることに気付きました。

── なるほど。しかし、結果としてはジャーナリズムの道に進むことなく、リクルートに入社されたわけですよね。

NHKでバイトしてたから、正直「就活しなくてもNHKに入れるだろう」と思っていたんです。でも、就活の時に震災が起こって。その影響でいろんな面接がなくなってしまいました。

── 大変な時期でしたね...

でも、そんなときに縁があってリクルートの面談を受けたんです。2回目の面談に当時の社長である柏木(斉)さんが出てきて、自分が感じていることをさらけ出して話したところ「震災でゼロになったこの状態から、石山さんがやりたいことを自分で生み出せる人材にならないといけないんじゃないのか?」と言われ、納得するものがあったんです。

それまでの私は漠然と「ピースメッセンジャー」とか地に足つかない感じだったのですが「世界平和を伝えるために、どんな環境でもゼロから機会を作れるようになりたい」と思い、その修行と考えてリクルートに入ることにしました。

── あくまで修行として。

そうです。最初から3年くらいでやめようと思っていました。両親が個人事業主でクリエイター的な文化の家庭だったので、父親にリクルートに入社すると話したら「そんな凡人に育てた覚えはない」と笑って言われましたけど(笑)自分自身もサラリーマンということには違和感があったのですが「まずは修行するんだよ!」って言って入りました。

社会人として働くうち、個人よりも企業の倫理が優先される、そんな社会への疑問が生まれた。

── リクルートでの修行後、ベンチャー企業であるクラウドワークスへ転職されたわけですが、この理由は?

リクルートでは誰もが知っているような大手企業をクライアントとして10社くらい持って、人事領域の採用から面接の設計ブランディグなどいろんなことをやらせてもらう部署にいたのですが、そこでの仕事の中で課題に感じることが色々あったんです。

その課題は大きく2つあり、まず一つ目は不可抗力的に景気の変動によって学生の機会が増大するのはどうかと思ったこと。景気の変動によって新卒採用の座席数は大きく変わりますよね。そして二つ目は転勤です。個人の意思と反して家族とバラバラに住まないといけなくなったり、明日から北海道から沖縄に行かなくちゃいけないみたいなことが当たり前に行われているわけです。

── なるほど。

そのどちらも「個人の意思よりも、組織の論理が優先され、人生が左右されてしまう」ということへの違和感が根本にありました。そこで個人が組織にぶら下がるのではなく、自由に選択して働ける働き方を考えたときに、インターネットがあれば雇用されなくても好きな時に好きなだけ働ける「クラウドソーシング」を知り、それを扱っているクラウドワークスに入社することにしました。

── クラウドワークスではどのようなお仕事をされていたのでしょうか?

経営企画室でIRと経営企画、そして広報をしていく中で、対政府渉外という仕事が増えていきました。フリーランスを増やすという制度が整っていない中、政府の検討会やヒアリングの場を持たれることが多くなっていったんです。クラウドワークスが所属している新経済連盟や、クラウドソーシング協会など、いろんな業界団体と窓口になって仕事をすることが増え、最終的には公共政策担当になって仕事をしていました。

その一方で、とあるメディアから「シェアガールという肩書きで連載しませんか?」というお誘いをいただいたことをきっかけに、個人の活動も広がっていきました。クラウドワークスは副業OKだったので、正社員でいながら自分の肩書きで働くということをやらせてもらっていた感覚があります。

── 副業OKとはいえ、会社員とフリーランスとしての仕事のバランスを取るのは難しくありませんでしたか?

難しかったですね。登壇する機会をいただいても会社員としてのフルタイムの仕事の中でやりくりするのは大変で、結果的にバランスが取れなかったので業務委託契約に変えてもらいました。そこからただ、 それでも難しかったので、2018年からはクラウドワークスを離れ、個人として、そして新しく立ち上げた「一般社団法人Public Meets Innovation」の代表として活動しています。

企業ではなく「一般社団法人」という選択。業界全体を盛り上げるために、自社も競合も関係ない。


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── 会社を立ち上げるのではなく、一般社団法人という形態を選択した理由とは?

クラウドワークスで仕事をしていく中で、競合他社を意識することに違和感を感じていたんです。株式会社にいるよりも業界団体と呼ばれる「この市場をみんなで一緒に大きくしていこう」という業界全体の制度やルールを考えていく役割の方が自分には合っていると思ったのが、一般社団法人を選んだきっかけです。自分の今後のキャリアを考えても、個社に戻ることは絶対にないと思います。

── クラウドワークスで政府とのお仕事をされていたのも、石山さん個人の方向性も合っていたわけですね。

そうです。そして「一般社団法人Public Meets Innovation」立ち上げのきっかけも、クラウドワークスで政府渉外の仕事をする中で感じた課題にありました。

というのも、ベンチャーやスタートアップから素敵なサービスが生まれているにも関わらず、それを社会的に実装しようとした時に、ルールや制度というものも同時に変えていかないといけないという問題にぶち当たってしまいがちなんです。

──法律と大きくバッティングしたAirbnbが有名な事例ですよね。

ルールの裏に政治があり、国民みんなが投票して選んだ人が政治を行なっているわけで、新しいサービスを受け入れるようにルールを変えようとする政治家が少ないのも、みんなが選んだ結果なんですよね。そういう民主主義と政治がビジネスに影響を与えているという構造を、クラウドワークスの仕事を通じて初めて痛感したんです。そして、そこに対して当事者意識を持つプレイヤーがあまりいないと知り「自分がやらないといけない」と思いました。

ビジネスパーソン自身にも社会を変えたい思いはあるし、そのための実行力もあるのですが、ただそういう政治構造を知らなかったり、有権者として税金がどう使われているかへの興味があまりなかったりするんです。彼らをどのように政治や政策に関心を持ってもらえるかかという課題に対し、一般社団法人Public Meets Innovationを始めることにしたわけです。

── 政府とも、ビジネスリーダー的な方々とも面識がある石山さんならではの仕事だと感じます。

そうですね。逆に政策立案側も若い人やベンチャーとつながる機会がなくて実態を知らなかったりするので、自分が官民のパイプ役としてハブになっていければと考えています。

キャリアマップは描いていない。大切なのは、どれだけの期待値を集められるか。

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── これまでの石山さんの歩みをお聞きしてきたわけですが、決してキャリアマップを描いていたわけではなく、目の前のことを一生懸命やっていくうちに自然と道筋が繋がってきたように感じます。

そうですね。自分のキャリアを作るという意識では、これまでの道を選択してきませんでした。「こういう社会になったらいいな」という思いが先行し、それに合わせて自分の立ち位置や働く場所を変えていく働き方をしているので、肩書きも職種も基本的にはなんでもいいという感じですね。

ピースメッセンジャーだろうがロビイストだろうが、根本にあるには「本当に世界平和を実現するにはどうしたらいいのか」です。迷ったらそこに立ち返って、自分の社会観を考えるようにしています。

── 経済成長の停滞なども含め、現代の多くの日本人は自分の生活を守るため、お金を軸に自分のキャリアプランを描こうとしているように感じます。石山さんはそういうお金の部分を意識したりすることはありませんでしたか?

そうですね。今、リクルートに新卒入社した同期は入社7~8年目で、彼らの中には年収を沢山もらっている人が珍しくありません。おそらくは普通に会社員を続けていた方が年収的には良かったと思うのですが、あんまりお金には興味がないですね。「これくらいの生活はしたい」という気持ちはありますが、それ以上のお金はなくてもいいと考えています。

── そうしたお金に対する意識は、どういった考えから来ているものなのでしょうか?

今はお金とか社会的なステータスよりも「信頼の時代」だと思うんです。リーマンショックでお金の価値が揺らいだり、大企業が倒産してしまったりしたように、これまで当たり前だった社会前提が崩れようとしている時代において、何がいちばんの資産かと言えば、人からもらっている評価や人との繋がり、自分のヴィジョンに共感してくれるネットワークをどれだけ持っているかではないでしょうか。

自分の収入がいくらあるかより、自分が実現したいことをサポートしてくれる人たちや、何かあった時にお金を出してくれるかもしれない人を見つけることの方が、私の中では大切ですね。それがいちばん可変要素が少ない財産だということが、自分の中で見えているので。

── そういう考えに至ったきっかけとは?

大企業からベンチャーのIRに移った経験が大きかったと思います。ベンチャーって基本的に最初から黒字の企業は少なく、未来の期待値で投資家からお金が回っているんですね。それはベンチャー企業だけの話ではなく、個人に当てはめても同じで。未来の期待値というものを、どれだけ世の中に広く問いかけ共感を集めていくかどうかでその後頂く機会やチャンスが大きく変わる気がしています。

「ポスト平成」に向けて。変わらぬ想いを抱え、新しい幸せの概念を作りたい。

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── 石山さんの次のステップや今後の展望について教えていただけますか?

まず、平成の次の「ポスト平成」に対し、新しい豊かさや新しい幸せの概念を作っていくことですね。私は新しい社会の豊かさのキーワードの一つは「シェア」という思想だと思っているので、それについて高い解像度で世の中に発信したくて、その手段として「ニューパブリック」という新しい公の場を作りたいと思っています。

── 公の場?

ビジネスパーソンにも、もっとパブリックなマインドが必要だと思うんです。市民として公共について考えたり、法律や制度について関与しようと思う意識です。アメリカではグーグルの社員がオバマキャンペーンに参画するなど政治活動をしているのが普通だったりしますよね。そうした市民意識、民間意識、公共意識のトライアングルを自分の中で持った上でこれからの社会を議論する場を「ニューパブリック」という呼び方で始めていきたいと考えています。

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── 今日はありがとうございました。最後に石山さんが新しく出版された『シェアライフ』について教えてください。

タイトルは『シェアライフ』ですが、この本にはAirbnbとかUBERみたいなシェアサービスを紹介する本ではなく、シェアという思想や考え方そのものを問う内容になっています。

── 「シェア」は近年特に注目されているキーワードです。石山さんが「シェア」に入れ込む理由とは?

これまで資本主義が急速に発達する中で、人々が私利私欲に走った結果として分断が始まり、戦争が生まれてきました。逆に、持っているものを分かち合い、つながりを取り戻せば、今の社会のほとんどの問題は解決できると思うんです。インターネットが発達した今「シェア」に考え方をシフトする時代が来たと思っています。

これまでお話ししてきたように「世界平和」というのは私にとって小さな頃からのキーワードでしたが、実はラテン語の「平和」の語源は「つながり」という意味なんです。イデオロギーは時代によって変わりますが、答えがないからこそ、つながることで平和を考えていく場が必要だと私は考えています。

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