町工場の工場長が見た光と影...経営の苦労を超越する”喜び”とは何か

公開: 更新: テレ東プラス

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4月からスタートした、ドラマBiz「スパイラル~町工場の奇跡~」(原作:真山仁『ハゲタカ4.5/スパイラル』 講談社文庫)で主演の玉木宏が演じるのは、小さな町工場「マジテック」の再生に挑む、熱きターンアラウンド・マネージャー(事業再生家)・芝野。ドラマでは、下町の町工場を舞台に、事業再生までの軌跡を熱く色濃く描いている。

今回「テレ東プラス」は、東京・墨田区で金型工場を経営し、同作の監修も手掛ける、有限会社「岩井金属金型製作所」代表取締役・岩井保王氏を取材。

平成から令和に変わり、新しい時代を迎えた今、町工場を経営する苦労とその苦労を超越する喜びとは何かを聞いた。

同業者同士の仲間意識が強い

――町工場を舞台にしたドラマでは、発注元から無理難題をふっかけられたり、値段を不当に下げられたりするシーンを見かけることがあります。岩井さんご自身は、これまでにこのような経験があったのでしょうか?

「ありましたよ、十数年前までは。これはもう、なくなった会社のことだから話しますけど(笑)。仕事を引き受けて、支払いは当然手形。支払いが済む前に『俺の会社の車、ワープロ、コピー機を買え』と言われまして...。私が『嫌だ』と突っぱね続けたら、『使えないヤツだな』と言って仕事を切られてしまったんです。でも結果的にはそこで縁が切れて良かったし、社長がそんなことをやっていたから潰れてしまったんだと思いますよ。いわゆる公正取引委員会の下請け法「親会社の禁止行為」に該当し、そんなことをやるとすぐに指導が入ってしまうので、工場としては、だいぶ仕事もやりやすくなりました」

――本当にそんなことを要求する人がいるんですね。他に「時代が変わったな」と感じることはありますか?

「『スパイラル~』でも出てきますけど、工場のホームページを見て、初めての会社からも問い合わせがくるようになったこと。これが一番大きく変化した点ですね。ネットが普及し始めた最初はお金がないので、無料でできるブログから始めたんですよ。一つは『こんな製品が出来ますよ』という工場をアピールする記事、もう一つはプライベートの雑談や、自分の考えみたいなことを書いていました。すると記事を読んだ人から、『温泉に行けて良かったですね』とか『その考え方面白いですね』と言ってもらえるようになって...(笑)。工場にとっても世界が広がりましたし、ネットの大きな可能性を感じます。でもそうはいっても、やはり新規の仕事で多いのは、仲間からの口コミによる紹介が主力になってますけどね」

――同業者同士の横のつながりが今も強いということですか?

「それもありますが、私は12年前から『フロンティアすみだ塾』という区が運営する経営者塾に参加しています。そこでは、区の地場産業である金属加工、印刷、衣類はもちろん、税理士さんやチョコレート屋さんとか業種は多種多様で、合計すると200社くらいのつながりが出来ています。200社というと、区内の事業所の8%くらいになるんですよ。自社の長所短所を洗いざらい話し、仕事と並行して塾の勉強をする大変さを皆乗り越えているので、仲間意識も強い。このつながりで仕事が広がっていくこともあります。同業者同士でも、『うちの設備ではできないから、そっちで引き受けてくれない?』と自社を通さず直接取引きを促すことがしばしばあります。その代わり、こちらも同じ状況の時は同様に紹介します。こうした仲間がいるのは、やはり心強いですね」

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人間が機械を使うのだという意識は持ち続けていきたい

――町工場を経営し続ける"喜びや楽しみ"はどんなところにあるのでしょうか。

「町工場をやっている人には、幼いころ夢見ていたもの...ロボットや宇宙船、深海艇なんていうものを作りたいという野望があったりするものじゃないでしょうかね。特に私らはガンダム世代(笑)。昔だったら夢のまた夢だったけど、段々時代が近づいてきた気がするんですね。

最近、町工場の社長が、自分の夢を具現化して作っていたりするじゃないですか。そしてその労苦を称えあったりする。『よーし、私もがんばろう!』と奮起したり。今は自分のやりたいことに時間を使う土壌ができています。自分たちが経営者になって、ちょうどそういう時代が来たことがこの上なく嬉しくて、"工場をやっていて良かったな"と思います。

社員が帰った後、一人で夜中まで工場にいて試作品を作ったり、他の人が実験の様子を上げている動画とかついつい見ちゃいますし、最近も仲間たちと『宇宙について』話をするために集まったりします。少しずつではありますが、若い頃からあったものづくりに対する探究心を満たせる時間が持てるようになってきたのかもしれません」

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――岩井さんが考える「岩井金属金型製作所」の強みは、ズバリ! 何だと思いますか?

「昔、無人島に不時着したアメリカ兵が、飛行機の中にある回路を組み合わせてラジオを作り、救助されるまでずっと祖国への思いを持ち続けていたという実話があります。私は"今あるものでいかに生き延びることができるか..."というサバイバルな話が大好きなんですよ(笑)。

実はそれは仕事でも同じで、例えば最新鋭の機械を導入すれば高付加価値の製品が出来るけど、機械は毎年のように新しいのが出て、機械の性能に頼ったものは色褪せてくる。うちの工場では、"今ある機械でいかに最大限以上のパフォーマンスを見せるか"を常に追求しています。そのためには常に自社の技術を向上させ続けることが必要。そうでないとこれからのAI時代、人はマシンに使われるだけになってしまう。AIやマシンに使われるのでなく、常に人間が使う側なのだという意識は持ち続けていきたいと思います」

岩井さんの話からは、大人になっても変わらぬ探求心やものづくりに対するプライドがひしひしと感じられた。こういう人たちがいる限り、"日本のものづくりは大丈夫!"と安心させられるインタビューだった。そんな岩井さんが、ドラマBiz「スパイラル~町工場の奇跡~」に期待するのは、マジテックの工員である桶本(國村隼)や田丸(前原滉)にいい製品を作ってほしいということ。彼らには岩井さんのような技術者たちの熱い魂が投影されている。

【岩井保王氏 プロフィール】
有限会社岩井金属金型製作所」代表取締役。東京都墨田区八広にある昭和10年(1935年)創業のプレス金型とプレス製品のメーカーを経営。プレス金型製作・プレス加工、機械加工、六角穴加工など、業界屈指の幅広い加工技術を展開している。

インタビュー前編はコチラ

そして、今晩10時放送! ドラマBiz「スパイラル~町工場の奇跡~」気になる第4話の内容は...。

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マジテックに芝野健夫(玉木宏)の知らない男が現れる。7年前まで藤村登喜男(平泉成)とロボット開発をしていた久万田五郎(福士誠治)で、桶本修(國村隼)ら社員たちは、久々の再会を喜ぶ。ボストン工科大学のロボットコンテストで大賞を受賞したのを機にアメリカへ留学した久万田は、友人が立ち上げたロボットのベンチャー企業を手伝っていたが、先月倒産してしまい帰国。ひとまず大学に間借りさせてもらうつもりだという。工場を見た久万田は、浅子(貫地谷しほり)らと、藤村と過ごした日々を懐かしみ、今の自分があるのはすべて藤村のおかげだと感謝の言葉を口にする。しかし、アメリカで最先端技術を学んでいる久万田は時代遅れの町工場の姿を見て、桶本と言い争いをしてしまう...。そこには技術者としてのお互いの誇りと交錯する博士への想いがあった。

そんな折、正木希実(宝辺花帆美)がCM出演した保険会社は、正式に報道内容を否定するコメントを発表。炎上は沈静化する。計画が失敗に終わり、そのコメントを険しい顔で見ていた村尾浩一(眞島秀和)は、新たな"その時"を虎視眈々と狙っていた――。

マジテックとスプラ社は正式に契約を締結。田端英二(星田英利)は芝野と浅子に、下町信金にアポを取って借入金の取りまとめを進めることを約束する。「この仕事に賭けている」と意気込む浅子に対し、芝野はなぜか冷静で...。

芝野と浅子は、久万田がアメリカで作った最新ロボットを見せてもらうために大学を訪れる。それは、藤村が設計したロボットハンドを久万田が具体化した"ハンドロイド"。あまりに美しい手の動きに、芝野は思わず拍手を送る。藤村が残した発明を進化させ、世界一のロボットを作るのが夢...そう語る久万田の思いを聞いた芝野は、久万田をマジテックに迎えたいと思うようになる。

一方、村尾は、ナオミ・トミナガ(真矢ミキ)から受取額の半分、5千万円を渡されるが、同時に当初の条件と違う契約書を提示してくる。村尾は話が違うと反論するが...。

現在、第3話を「ネットもテレ東」で配信中です!(5月6日月曜夜10時53分配信終了)

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