町工場の真実...事業承継でジュニアたちが陥りがちなジレンマ

公開: 更新: テレ東プラス

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世知辛い世の中...毎日通勤電車で揺られながら都心の大会社に勤めるよりも、その時間を自身のスキルや研究に充てるため、「中小企業に就職して夢に1歩でも近づきたい...」そう願う就活生もいるのでは?

4月からスタートした、ドラマBiz「スパイラル~町工場の奇跡~」(原作:真山仁『ハゲタカ4.5/スパイラル』 講談社文庫)で主演の玉木宏が演じるのは、小さな町工場「マジテック」の再生に挑む、熱きターンアラウンド・マネージャー(事業再生家)・芝野。ドラマでは、下町の町工場を舞台に、事業再生までの軌跡を熱く色濃く描いている。

今回「テレ東プラス」は、東京・墨田区で金型工場を経営し、同作の監修も手掛ける、有限会社「岩井金属金型製作所」代表取締役・岩井保王氏を取材。町工場は、近年日本のものづくりを支える現場として注目を集める一方、ドラマのように経営にあえぐ会社もあるという。映像の世界ではドラマティックに描かれることも多いが、果たしてその実情とはどんなものなのだろうか。岩井氏に聞いた。

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多額の債務を抱え、一時は仕事がなくなったことも...

――「岩井金属金型製作所」は、岩井さんのご祖父の代に創業し、80年以上の歴史があると聞きました。子どもの頃から工場が身近な存在だったのですね?

「学校から帰ってくると、家から通路を挟んだ工場へ行って、いつも何かを作って遊んでいました。中学生の時、テーブルの上でやるミニゴルフが流行って、作ったパターを友達に1本300円で売って小遣い稼ぎをしたり...(笑)。この辺りは工場の町で、同級生の家の9割は自営業。なので、サザエさんのような"会社員一家の生活"というのがまるで想像つきませんでした。それでいて家業を継ぐとはまったく思ってなくて、高校を出た頃はバブル期だったので、アルバイトをして呑気に過ごしていましたね。その後、19歳で大きな病気をしたんですけど、親父に『うちで療養がてら働かないか』と言ってもらって、そこから工場の仕事を始めました。働きながらいろいろな講習会や展示会に行って勉強し、うちの会社にないものは何かを考えるようになりました」

――その時代、工場の規模はどのくらいだったのですか?

「社員は4人で、現状の5人とあまり変わりません。取引先が2つくらいしかなくても、昔はそれで十分会社が回っていたんです。ところが5年ほどでバブルがはじけてしまい、仕事が一切なくなってしまいました。多額の債務を抱え、土地を抵当に取られそうになってしまって...。

当時は今以上に、同業者の領域を侵すことは倫理に反する時代で、"何か仕事につながることはないか"とそればかり考えて、金属でなくゴムやプラスチックのプレス加工を始めました。知り合いの社長さんが、うちにはない新しい機械を夜中なら使わせてくれるというので、寝袋を持って出かけて、深夜まで作業をするという繰り返し。作った製品を持って出掛け、『うちだったらもっとこういう製品ができますよ』と提案する毎日で、昼も夜もない時期が5年くらい続きましたね。そのうち、ある取引先の社長さんが1200万円もする機械を『いいから買いなよ。もしダメだったら私が買い取るから』とハンコをついてくれて...。ようやく普通の生活をできようになったのが、今から18年ほど前になる30歳の頃です」

――昨年、工場と住居を兼ねた3階建てのビルを新築されたと伺いました。順風満帆に見えましたが、実は長く苦労した時代があったのですね。

「そうですね。でも、その時代に金属以外のものを扱ったお陰で仕事の幅が広がりましたし、蓄えられたノウハウはだいぶ役立っています。ただその頃から、周りで会社を畳む社長さんが増え始め、一緒に酒を飲んでいた仲間もずいぶん辞めてしまいました。1970年代、墨田区の事業所は10000軒もありましたが、今は2500軒程度に減っています。よく、『あの時代にああいうやり方をした自分は先見の明があったんだ』なんて言う人がいますけど、自分はそこまではっきりと言えません(笑)。あくまで後からついてきた結果論で、たまたま指差した方向が良かっただけじゃないかと思っています」

世代交代は先代への畏敬の念も込めながら...

――「スパイラル~」では、芝野(玉木宏)が専務として町工場「マジテック」に入り込み、会社を立て直していきます。岩井さんは経営コンサルタントに頼らず、自力でここまで改善したのでしょうか。

「うちの場合、旧態然とした経理体制を、嫁さんが入って改善してくれたのが大きかったですね。妻は福祉畑で働いていましたが、うちの経営状態を見て簿記の検定を受け、経理を担当してくれるようになったんです。その頑張りに父含め皆も賛同し、私も財務を勉強する中で、区の補助金制度を利用するようになりました。徐々に経営体質を改善していき、いつの間にか債務を順調に返せるようになった感じです。

全部返し終わったのは5年くらい前でしょうか。債務超過がなくなって内部留保が増えると銀行もお金を貸してくれるようになって、今は加工に使う機械も16台にまで増えました。売り上げで見ると私が工場に入った頃とそんなに変わらないですけど、利益率は大幅に良くなりましたね」

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――「マジテック」は、息子・望(戸塚純貴)への事業承継がうまくできないまま、父・登喜男(平泉成)が亡くなってしまいます。岩井さんの工場は、スムーズに世代交代できたのでしょうか?

「いや、嫁さんが経理をするのも新しい機械を買うのも、一つ一つ『これを取入れるとこういう風に良くなるんだよ』と、きちんとプレゼンしてからですよ(笑)。代表を交代した今は、『まあやってみなよ』とすんなり言ってくれるようになりましたけどね。私としては、父に説明しながら、"本当にこれをやった方が良いのか"、実は自分自身に反証しているところもあります。

あとこれは、うちの話じゃないんですけど、よく父親が『こんな会社じゃ先も見えているし、息子に継がせるのは可哀想』となるじゃないですか。あれ実は、片方では、本心と違う部分もあるんだと思います。自分で会社を続けてきた自負もあるだろうし、外でかじってきた知識を簡単に入れて欲しくないところもある。公私混同も多い分、経営者同士というよりも親子の関係が前面に出てくることもある。俺のやり方というテリトリーを"息子に侵されたくない"という先代社長は多いんじゃないかな? 私も少し気持ちが分かるようになってきたし、実際そういう話を仕事仲間からたくさん聞いてきましたから。逆に『小さな会社だけど、息子に継がせて発展させたい』と社長が言っているところは覚悟のあるいい会社で、今伸びているのはみんなそういう会社ですよ」

【岩井保王氏 プロフィール】
有限会社「岩井金属金型製作所」代表取締役。東京都墨田区八広にある昭和10年(1935年)創業のプレス金型とプレス製品のメーカーを経営。プレス金型製作・プレス加工、機械加工、六角穴加工など、業界屈指の幅広い加工技術を展開している。

経営危機からいかにして立ち直っていったのか、そして事業承継の難しさに対するユニークな考察。30年間、町工場と苦楽を共にしてきた人だけがわかるリアルな話が続出した。5月6日(月)夕方5時に公開する後編では、岩井さんが見た町工場の現状やものづくりに対するこだわり、今後の展望までを浮き彫りにしていく。

そして、今晩10時放送! ドラマBiz「スパイラル~町工場の奇跡~」気になる第3話の内容は...。

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正木希実(宝辺花帆美)のCM出演がきっかけで、マジテックと奈津美(野波麻帆)がバッシングの標的に。「マジテックとグルになって娘を売った毒親」という風評被害がSNSで広がり炎上したのだ。銀行や取引先にも影響し、芝野健夫(玉木宏)らは困惑。さらにマジテックガードの開発にも新たな問題が!? そんな中、村尾浩一(眞島秀和)は借金の返済をしやすくするプランを芝野らに提案。喜ぶ浅子を横目に芝野は慎重な態度を見せる...。

現在、第2話を「ネットもテレ東」で配信中です!
(4月29日月曜22時53分配信終了)

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