組手の種類は1000以上! 古き良き”江戸指物の美学”

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ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(毎週月曜日夜8時~)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

江戸指物に魅了され、和家具を自作!

今回訪れたのはスペインのトレド。首都マドリードから南へ車で約1時間のところにあります。マドリード市役所の清掃局で働くフリオさん(40歳)は趣味で西洋家具を作っていましたが、10年前に専門書で日本の伝統工芸「江戸指物」を見て、その美しさに一目惚れ! 以来何冊も本を取り寄せ、独学で江戸指物を作っています。

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江戸指物とは、釘などを一切使わず"組手"という木と木を組み合わせる技法で作る和家具のこと。組み合わせただけであるにも関わらず、非常に頑丈なのが特徴です。木と木をつなげる技法はおよそ1,000年前に中国から伝わり、日本で様々な用途のために進化しました。今では組手は1,000種類以上あるといいます。

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これはフリオさんが江戸指物の技法で作った椅子。その名も「銀座」。釘を使わないエレガントな手法で作られているので、日本一エレガントな街・銀座から名前を取ったそうです。

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ニッポンは高温多湿で釘が錆びやすいため組手の技法が進化したとのことで、「ニッポンの風土に合った究極の家具こそ、組手を生かした江戸指物です」と熱く語るフリオさん。奥様のファニさんから話を聞くと、フリオさんは随分前から江戸指物に熱中しており、ファニさんが「これで完成だ」と思っても「まだまだ」と言って作業を止めないそう。

そんなフリオさん、今は本に載っている写真を参考に簡単な組手を作っていますが、いつか職人さんに作り方を学ぶのが夢だといいます。そこで今回は、フリオさんをニッポンへご招待!

本物の江戸指物と出会う

ニッポンにやってきたフリオさんがまず向かったのは、東京・蔵前。江戸時代から商業地として栄えた蔵前には、暮らしに欠かせないさまざまな道具を作る職人が集まってきました。そのため、現在も様々な職人の工房があります。江戸時代100人以上いた江戸指物の職人は、現在わずか9人。今回フリオさんの熱意を伝えたところ、快く受け入れて下さったのは茂上豊さん(65歳)。

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江戸指物を作り続けて40年。茂上さんが作る江戸指物は、孫の代まで使えると言われるほど頑丈です。

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大正元年から3代続く茂上工芸。茂上さんに案内されて部屋の奥へと進んだフリオさんは、茂上さんのお父様が50年前に作った家具や、おじいさまが100年以上前に作った家具が現役で使われているのを見てこの表情!

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今まで一度も壊れたことがないそう。今度は、茂上さんが手がけた江戸指物のショールームに案内していただきます。今まで作ったのはなんと50種類8,000作品以上! フリオさん曰く「(ここは)天国のような場所ですね」。

正座をする時に使う椅子「合曳(あいびき)」は、元々コンパクトであるにも関わらず、分解して組み直すと一枚の板のようになり、非常に持ち運びやすく作られていました。この日本人独特の気遣いを目の当たりにしたフリオさんは再び感動!

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小物入れも空気が抜ける隙間すらないほど精巧に作られているため、一つの引き出しを閉めると自然と他の引き出しが開いてしまいます。まるで魔法を見ているような「信じられない!」という表情になるフリオさん。

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伝統の江戸指物作りを体験

茂上さんの素晴らしい作品に触れた後、いよいよ工房で江戸指物作りを教えてもらうフリオさん。独学で作ってきたので、聞きたいことがどんどんあふれてきます。材料の木材をどれくらい乾燥させているのか聞くと、「だいたい10年以上」との答え。切り出したばかりの木材は水分が多く、後に変形してしまう恐れがあるため、指物には10年以上乾燥させたものを使うそうです。

茂上さんが製作中の作品があるというので見せてもらうと、それは「忘れな盆」という小物入れでした。

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忘れな盆を手に取ったフリオさんは「つなぎ目がわかりません!」と驚きの表情。これをフリオさんも一緒に作っていきます。まずは「留型隠蟻組(とめがたかくしありくみ)ほぞ」という組手の作り方を茂上さんに見せていただきます。

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凹凸の突起した部分を「ほぞ」と呼び、この形が蟻の頭の形に似ていることからこの名前がついたそう。迷いなく鑿(のみ)でリズミカルに彫る茂上さんをじっと見つめるフリオさん。江戸指物で使う板は薄いので、彫り過ぎてしまうと割れてしまいますが、茂上さんは鑿の音を聞くだけで彫った深さが分かるそう。

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ここでフリオさん、気になることがあったようで、線も引かずにどのように彫る間隔を測っているのか茂上さんに尋ねます。すると茂上さんから「鑿の幅で取っていきます」との答え。たしかに鑿にはいくつも種類があり、それぞれ3mm違いの大きさで作られています。鑿の刃先が定規の代わりになっていることを知ってフリオさんは納得。木の反りを防ぐために端の「ほぞ」を大きく彫ったり、強度を増すために片側をわずか爪の厚さ1枚分だけ大きく彫るなど、繊細な職人技にフリオさんは感動していました。

続いてお盆と手持ち部分を繋ぐ際に使う「雇いほぞ」の作り方も見せてもらいます。雇いほぞとは、組み合わせる板に溝を彫り、別の木をはめて「ほぞ」を作る組手のこと。「こんな組手があるとは」とフリオさんは驚いた様子。

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全ての部品を組み合わせたあと、見た目が美しくなるようにカンナがけをします。「手作業で作っているのにここまで完璧にはまるんですね!」と感心しきりのフリオさん。

いよいよフリオさんも江戸指物に挑戦しますが、ほぞの細かい部分を削りだす際に力が入り過ぎてしまい、なんと板が割れてしまいました!

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「ごめんなさい...」と落ち込むフリオさんに「ちょっと割れが入っていたんだと思う。フリオさんの責任じゃないよ」と優しい言葉をかける茂上さん。

その日の夜。茂上さんはフリオさんを夕食に招いてくれました。メニューは手巻き寿司。

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フリオさんにニッポンの魚を食べてもらいたいと、妻の育江さんが豊洲市場で買ってきてくれました。近くに住むご家族やお友達も集い、話に花が咲きます。お箸の使い方が上手なフリオさん、実はニッポンで失礼のないように練習してきたとのこと。おいしそうに手巻き寿司を頬張り、日本酒もスペイン風に「チンチーン!(乾杯)」。

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夜も遅くなったから...と、なんと茂上さんがご自宅に泊めてくださることに。フリオさん、念願のお布団に浴衣で一泊します。大きなLLサイズを準備してくれていましたが、ピチピチなのはご愛嬌。

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漆を塗ってコーティング

翌朝。組み立てが終わった忘れな盆に茂上さんが砥石の粉を水で溶いた砥の粉を塗っていました。こうすることによって細かい粒子が木の穴に入り、表面が滑らかになるのです。1時間ほど乾かした後、さらに漆を塗ります。刷毛は一般的な馬の尻尾(太さ平均0.2mm)のものではなく、より細かいところまで塗ることができる人毛(太さ平均0.08mm)のものを使います。これは江戸時代、およそ360年前からの伝統だそう。漆を一日乾燥させては塗る作業を多い時は10回以上も繰り返すそうで、このコーティングによって水に強く、腐りにくくなるのです。

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フリオさんが漆を塗らせてもらっているうちにまたもや日は暮れていき、この日の夕食は、すき焼きをごちそうに。フリオさんは生まれて初めてすき焼きを食べます。スペインでは生卵を食べる習慣はないそうですが、「ニッポンの食事は何でも食べてみたいです」とフリオさん。育江さんに食べ方を教わると...。

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「ニッポンで一番美味しい料理です」と大絶賛!

翌朝も時間の許す限り茂上さんから組手の作り方を教えてもらい、いよいよお別れの時。フリオさんは茂上さんご夫妻に手紙を書いていました。

「茂上さんの工房での体験は夢のような時間でした。江戸指物の素晴らしさを体験できたのは奇跡のような出来事でした」と感極まり言葉に詰まってしまうフリオさん。

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気を取り直して読み続けます。

「茂上さんの技を見て私は茂上さんの凄さを知り、ニッポンの技術が本当に優れていることを改めて知りました。また茂上さんが木に愛情をもって接する姿に感動し、私ももっと頑張ろうと新たに思いました。そして育江さん、初めて会った私にまるで家族のような愛情をくださってありがとうございました。作ってくださったお食事はどれも美味しかったです。娘さんたちもとても優しくしてくださって感謝しています。お礼を言っておいてください」

心のこもった感謝の手紙の内容を聞きながら、育江さんの目にも涙が浮かんでいます。

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フリオさんから茂上さんにお礼のスペイン産ワインが手渡されると、茂上さんもフリオさんに、一緒に作った忘れな盆とカンナをサプライズプレゼント!

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実は茂上さん、「フリオさんに忘れな盆を渡したい」との想いから、前日の夜遅くまで仕上げをしてくれていました。一緒にプレゼントしたカンナは、10年以上茂上さんが愛用した名前入りのもの。フリオさんはもう一度最後に感謝と別れの言葉を交わし、次の目的地へと向かいます。

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購入まで2年待ち! こだわりの鑿(のみ)づくりを見学

続いてフリオさんが向かったのは新潟県長岡市与板町。ここにはフリオさんが10年来尊敬している刃物職人が住んでいます。与板町は古くから鍛冶職人の街で、今も20軒以上の鍛冶屋があります。今回フリオさんがどうしても会いたい、という鍛冶職人さんに協力をお願いしたところ、快く引き受けていただけることになりました。

その刃物職人とは船津祐司さん(73歳)。鑿作り歴は50年以上で、平成28年には瑞宝単光章を受章した伝統工芸士です。

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船津さんが作る「元寿舟弘追入鑿(げんじゅふなひろおいいれのみ)」は、全国から注文が殺到しており、現在購入までなんと2年待ち!

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船津さんが研究室と呼ぶ部屋で、フリオさんは鑿の切れ味を体験させていただけることになりました。一般的な鑿と船津さんの鑿を比べると、削りくずにも違いが...。なんと、船津さんの鑿は、削りくずが全く割れていません。

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削ったあとの木材も驚く程なめらか。「ここまで素晴らしい鑿は初めて使いました! 切れ味が全く違います! 鑿が勝手に滑るように切れるんです」と大興奮のフリオさん。

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抜群の切れ味の秘密

鑿作りを見せてもらうと、まずは炉で鉄を熱し、ハンマーで鍛えます。そこに鉄粉とホウ酸で作った接合材をまぶし、刃先となる鋼をのせます。

2つの違う金属を組み合わせて鑿を作るのは日本独自の方法だそう。世界では硬い鋼だけで作られているのに対し、日本では硬い鋼と柔らかい地金を使用することで硬さとしなやかさを併せ持つ"万能な鑿"ができるのです。

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船津さんの鑿の秘密は、材料となる鋼にありました。日立金属にお願いし、通常の鋼より純度が高く、硬い炭素鋼の鋼を特注で作ってもらうそう。さらに船津さんは、鑿の切れ味を鋭くするため、鋼を鍛える作業も通常の鍛冶職人の2倍のスピードで行っているといいます。

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工房から戻ると、奥様の千代子さんがお昼ご飯を用意してくれていました。地元の野菜のお漬物と新潟のお米で作った醤油赤飯などが色とりどりに並んでいます。フリオさんはおにぎりを頬張り「美味しいですね!」と一言。

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作業場に戻り、今度は鑿にやすりをかける作業です。すべて手作業で行うのは辛くないか尋ねるフリオさんに「これが当たり前」と答える船津さん。なんと毎日腹筋を100回もして鍛えているそう!

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最後は鑿に「元寿舟弘」と刻印を入れて完成です。一連の作業を見学させていただいたフリオさんは、出来上がった鑿を見て、「あなたは最高の職人です!」と大感動! 船津さんも嬉しそうな表情に。

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そして別れの時。フリオさんは船津さん宛ての感謝の手紙を読みます。

「突然の訪問にもかかわらず、温かいおもてなしに本当に感謝しています。仕事に取り組む姿を見せてもらい、本当に感動しました。鋼へのこだわり、そして手作りで作り上げる鑿への愛情も感じました。千代子さんにはいろいろしていただき本当に感謝しています。船津さんと出会えたことを感謝します」。

お土産のワインを渡すと、船津さんはさっと家に入って行き、何かを手に戻ってきました。「私からのプレゼントです」と言ってフリオさんに渡したのは、なんと丹精込めて作った鑿の10本セット! 「一生の宝物です」とフリオさん涙を流して感激していました。

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「どうぞ仕事に使ってください」と話す船津さんに別れを告げ、フリオさんは再び東京に戻ります。

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江戸指物を通じてたくさんの出会いがあったフリオさん。帰国を前に「本当に素晴らしい経験をさせていただきました。宝くじに当たった以上だったんじゃないかと思います。日本人は愛情にあふれていて、とても親切な方ばかりでした。お会いできた全ての皆様に心から感謝を申し上げます」と話し、スペインへと帰って行きました。フリオさん、またのご来日お待ちしています! そしてご協力くださった皆さま、本当にありがとうございました!

そして今晩8時放送の「世界!ニッポン行きたい人応援団」は...。

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