2人のデザイナーが運営するギャラリー「VOID」に見る、アウトプットとインプットのバランス

公開: 更新: テレ東プラス

ポップカルチャー好きは、その名を耳にしたことがあるかもしれない。リニューアルして1年、じわじわと確かな広がりを見せるのがギャラリースペース・阿佐ヶ谷『VOID(ヴォイド)』だ。

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阿佐ヶ谷駅前から徒歩5分。レストランアンティークショップに挟まれたところに位置する『VOID』。約束の時間になると、VOIDを運営する小田島等さんが、駅の反対側から小走りでやってきた。重たげな紙袋には、大量のレコードが入っている。シャッターが開かれ、続いて現れたのは共同運営者である大澤悠大さんだ。挨拶もそこそこに、大澤さんが小田島さんに微笑みながら言う。「昔のCD-R、持ってきました」。8畳ほどの長方形の白いスペースに、音楽が流れ始めた。

VOID_20190421_01.jpg▲VOIDに着くなり、持ってきた音楽を見せ合うお二方。

一見、カウンターのようなスペースにはレコードプレーヤーが並び、DJ機材が置かれている。オープニングパーティーやレセプションでは彼ら自身もプレイすることがあるらしい。「だんだんしまうのが面倒臭くなっちゃって」と大澤さん。持ち込んだレコードを吟味して、セットする。今日のDJは小田島さんだ。椅子をそそくさと並べて、取材を開始することにした。

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気鋭のデザイナーが運営するギャラリー『VOID』

VOIDを運営する音楽好きの2人のプロフィールを改めて紹介したい。小田島等さんはイラストレーターでデザイナー。サニーデイ・サービスやシャムキャッツなど多くのジャケットや書籍のデザインを手がけてきた。

「デザイナーの仕事って結構、いろんなことできるようになるんですよ」と小田島さんは言う。

小田島:写真にも絵にもテキストにも関わるし、基本的には裏方であるんだけど、名前が表に出ることもある。僕らが作品だけ作る"作家"タイプだったら、こういうギャラリーにはならなかったね。

「そうですね。デザイナーって"なんとかする"力は、あるかもしれません」と、大澤さんも笑いながら肯定する。スペースを持つことになったとき、小田島さんは、「一緒にやるなら、大澤くんだ!」と真っ先に思ったそうだ。

小田島:大澤くんは、美術に対する愛情も深くて、人間づきあいを快活にやれる人。エナジーがあってまっすぐで。 『デザインじゃないことなんで、どうかな?』と一瞬思ったけど、2つ返事で、『うわ、面白そう』と言ってくれました。

こうして共同運営者として白羽の矢が立った大澤悠大さん。気鋭の若手グラフィックデザイナーであり、アートディレクター。最近では、森美術館で5月26日まで開催中の『六本木クロッシング2019展:つないでみる』の広告を製作している。

大澤:僕は高校のときから、ずっと小田島さんのファンなんですよ。くるりのジャケットとか......当時からいろいろ集めてましたね。

「照れます」と小田島さんはにかんだ。

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当初のイメージは飲み屋兼ギャラリー

「スペースを持つことになった」と小田島さんは表現したが、VOIDは、どういう構想から今に至るのだろう。

大澤:最初から、ギャラリーやるぞ!って感じじゃなかったですよね。話し合ってギャラリーになりましたけど。案としては、ギャラリー、カレー屋、パスタ屋とか(笑)

小田島:水餃子とかね! 最初は飲み屋兼ギャラリーとか言ってたけど、やっぱ飲み屋の方は難しかったね。

大澤:そうですね。お酒とアートは相性が意外と良くないですね。

小田島:もう3畳くらいスペースがあればなぁ。今のこれくらいの広さだと、難しいよね」。

とはいえ、1度目の夏は「涼みながら酒が飲める」と好評だったそう。ギャラリーとしては、かなりドリンクの種類が豊富なのもVOIDの特徴かもしれない。

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VOIDは"放電する場所"

取材時期に展示されていたのは、青木俊直。これまでに、白根ゆたんぽ、寺田克也など著名な作家の展示を続けてきたVOIDだけに、来訪者にとって、VOIDは小さいがセンスのいいギャラリーだ。しかし、本業のデザイナーで第一線を走り続けるお2人にとって、VOIDはどういう空間なのだろう。訊けば小田島さんは、「もう1個の脳みそみたいな場所」だという。

小田島:デザインワークって脳みそが"混線"するので、VOIDがあることでちょっと楽になってる。

それに対して、大澤さんは「放電する場所」だという。

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大澤:『僕はこういうの最近好きだけど、どう?』ってSNSで発信する感じでが近いですね。2人で展示作家さんを検討するときも、お互いが今気になっている作家さんを出しあいます。

デザインワークでは、電話で会話し、PC上でデータを送りあうことで完結することが多く、「密閉されている」(小田島)。2人に共通した感覚として、VOIDは人と会う場所なのだ。

「人との出会いは旅ですからね」と小田島さんは独り言のように言った。

これはやるべきことだった。

展示する作家については、2人の間で、「話さずとも勘みたいなものでシュッとハマる」ということもあり、「自然と」「手探りで」というふんわりとした言葉が出てくるほどに、フラットだ。しかし、もちろん失敗もあったという。あまりに2人が朗らかなので、「そういうのも面白がっていく感じですか?」と尋ねると、「いや、本当の危機は本当に......」と眉をひそめた。

大澤:面白くはない、ですよね......(笑)。

小田島:(笑)。二人とも喋んなくなっちゃいますよね。

大澤:この危機をどう乗り切ろう、みたいな(笑)。

そんなふうに人あたりのいい2人のギャラリーには、様々な人があつまる。

大澤:以前の展示を見にきてくれた知り合いが、今度は意外とこっちの作家さんも興味があるんだ、みたいな気づきがありますよね。最近は、『VOIDだから』と見にきてくれる人がちょっとずつ増えてきて、手応えがあります。

「こんなにお客さんに受け入れてもらえると思わなかった」という大澤さんに、小田島さんは頷く。そして「これはやるべきことだったんだなーって思うよね」とこぼした。

小田島:「デザイン仕事だけしてると、関係者の人としか会わないから。今、初めて外界と触れ合っているような気持ち。

VOIDは発信する場であり、表現受容する場でもある

近くにある美術系専門学校の生徒がくることも多い。「憧れのお2人に会いにきたのでは?」というと、やんわりと否定された。

小田島:僕たちに会いにっていうのでもないですよ。基本は裏方ですからね。我々が、「自分たちのギャラリーだ」と言うのも違うんですよ。

大澤:うん。もうちょっとフラットでいたいですよね。

小田島:VOIDで僕らがやってるのって、なんだろう。

大澤:アレンジャーみたいな感じ。僕たち、いわゆる"ギャラリーのプロ"じゃないですもんね。あんまり力を入れずにやった方が......まあ、放電ですから。

小田島:VOIDに来る人も、ガチガチのものをみたいわけじゃないと思うんですよ。エンターテイメントだと思います。

小田島さんの言葉に、大澤さんは、「ミュージシャンでいうところのライブですから」と、実に音楽好きらしい表現で締めた。

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ハコとしてさらに成長をつづける。後編は、東京・阿佐ヶ谷という町の片隅で、文化の循環を図るお2人にインタビュー。VOIDで店番をすることにより肌で感じたことや、"等身大"だというポップカルチャーについて伺った。


【店舗情報】
住所:杉並区阿佐谷北1丁目28−8 芙蓉 コーポ 102
電話:03-6427-9898
営業時間:【日~木】15:00 - 20:00 【金~土】15:00 - 21:00(展示期間のみオープン)
定休日:月曜定休
http://void2014.jp/

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