エクセルで管理?”社員の動き”を変えるだけで会社はここまで改善する

公開: 更新: テレ東プラス

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4月15日(月)夜10時にスタートする、ドラマBiz「スパイラル~町工場の奇跡~」(原作:真山仁『ハゲタカ4.5/スパイラル』 講談社文庫)。主演の玉木宏が演じるのは、小さな町工場「マジテック」の再生に挑む、熱きターンアラウンド・マネージャー(事業再生家)・芝野。

そこで今回「テレ東プラス」は、やり手のターンアラウンド・マネージャー(以下・TAM)で、これまでに60社以上を再生させてきた株式会社工場長代表取締役・野添平治氏にインタビューを敢行。

果たして、実際のTAMの目に、「スパイラル~」はどのように映るのか? ドラマに見る事業再生の真実と、経営が危機に瀕した会社を建て直す秘策を合わせて聞いた!

ハゲタカファンドがないと困る会社が多い!?

――早速ですが、ドラマBiz「スパイラル~」に出てくるエピソードについて、具体的に聞いていきたいと思います。第1話では、小さな町工場「マジテック」の先代社長である藤村(平泉成)が、取引先と"口約束"を交わしていたことが判明しますが、実際に、こういった口約束は多いのでしょうか?

「中小企業の場合、ほとんどが口約束だと言っていいと思います。その口約束が後任に引継がれないことも多々ある。中には『亡くなった部長さんと約束していた』というようなケースもあり、真相がどうかさえわからない時もあります。私がよく言うのは、再生中はそれどころじゃないけれど、『落ち着いたら、取引先ときちんと契約書を交わしましょう』ということ。マジテックも口約束があったことが、今後波紋を呼ぶかもしれませんね」

――「マジテック」は多数の特許を取得していたために、ナオミ(真矢ミキ)が経営するハゲタカファンド(安値で買い叩いた株式や債券などを高値で売り、巨額の富を得るファンドの総称)からも狙われます。ハゲタカファンドが介入するケースはあるのでしょうか?

「ありますね。ハゲタカ的乗っ取りというよりはむしろ、会社の売り先というイメージです。経営状態の悪い会社を受け継いだ後継者が、そのままずっと借金を返し続ける生活が幸せなのか、それとも少しでも高い価値をつけて良い引き取り先を見つけた方が幸せなのか...。そういう選択肢を示してあげることも、私たちの仕事の一つです。ですからハゲタカ含めたファンドに対して悪いイメージはなく、むしろああいう存在がないと困る会社はいっぱいあるのです」

――企業を再生するとなると、社長や社員に情はあっても、ドライに切り捨てなければならない場面も出てくると思います。その辺りの兼ね合いは、野添さんはどうなさっていますか?

「私は人は好きですけど、割とドライな方かもしれません。実際に企業に出向くと、どう見ても働いていない社員がいる。そういう会社に限って社長さんは『私は今まで自分で従業員の首を切ったことはない』っておっしゃいますね。恐らく昔は良かったんでしょうけど、年齢とともに作業効率が低下している社員を大事に使っている。だから若手が入ってこない。これは何かしら手を打たなければならないでしょう。合理的に説明できないものは排除することを勧めるのが私のやり方です。

今回の『スパイラル~』の芝野は、そういう社員も切り捨てないタイプだと感じています。『彼らならきっとできる』そう信じることで再生に取り組んでいるので、ある意味、羨ましいですね。芝野が自分のやり方を貫き、今後どうやって会社を建て直していくのか...とても楽しみです」

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職場を劇的に改善させるコツは「人の動き」を見ること

――野添さんは、担当する会社の改善点をどのように見つけていくのですか? すぐに見つかるものなのでしょうか?

「担当する際は、まず社長に会社内を2時間くらい案内してもらいますが、それだけで直すべき点はたくさん見つかります。コツは、モノでなく、"人の動き"を見ることです。気になる動きがあって、その人がなぜ今動いたんだろうと考えると、実は要らない動きだったりする。
例えば手作業が多い会社では、労働時間が10あるとして、そのうち製造作業に従事しているのはせいぜい5割で、あとの5割は持ち運びや移動に費やしている。しかも帰りは手ぶらです。それなら持ち運ばなくていいように改善すれば、製造作業に6、7割従事できるようになります。全従業員が6割以上の時間を実際の生産作業に使っている会社は、おそらく儲かっていると思います」

――これは工場に限らず、様々なジャンルの企業にも当てはまりそうですね。その他、劇的に改善したケースはありますか?

「私は会社組織には入り込まないTAMなので、ずっと付きっきりで手当てをするのではなく、自分たちでできる改善法をキーマンとなる社員に教える療法を施しています。例えば昼休憩が終わって、始業チャイムが鳴ってからおもむろに動き出すのと、始業チャイムが鳴る時、すでに持ち場にいるのとでは、積み重なれば生産高にも大きな差が出ます。まずは、こうした仕事に対するマナーを改善させます。

ある生産ラインの一工程の設備を請け負っている企業がありまして、納品した設備の不具合で何度も手直しに行かねばならず、作る商品が軒並み赤字だったんです。そこで、工程ごとに管理ができるように、エクセルで管理表を作る方法を教えました。すると、半年くらいで自然と赤字物件が激減したのです。前の担当者がお金を使い過ぎたから次は節約しようというように、管理表を見ることで社員それぞれが意識するようになって...。それまでは『銀行にどうやってお金返そう』と言っていた会社が、『こんな多額の税金、どうやって納めよう』というまでに変わりました(笑)。この会社に私が教えたのは決して大それたことじゃなく、たった一つのエクセル表。それ一つで、こんなにも変わってしまうものなんですよ」

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――仕事をする上で、やりがいを感じるのはどんな時ですか?

「社長から直接『ありがとう』と言われることは少ないですね。ただ経営状況が良くなってくると、それまで資金繰りで会社にいなかった社長の在社率が高くなるんです。それは良かったなと思いますね。わかりやすく反応を示してくれるのは現場の人たちで、『こんなにウチの職場が良くなったんだ!』と、皆さん自慢してくださるんですよ(笑)。そんなステキな触れ合いを感じることができるのが、TAMの最大の魅力かもしれません」

――でも企業を建て直すと、それなりに収入もアップするのではありませんか?

「いえ、私はそういう契約はしていないんです。だから基本的に、その会社の経営が正常になったら私の仕事は終わりで、会社を次々に巣立たせているという感覚ですね。現場の皆さんが明るい笑顔で働いてくれると嬉しいですし、北は北海道から南は鹿児島まで担当してきたので、その土地土地で美味しいお酒を飲むのが仕事の上での楽しみでもあります(笑)。必ず会社の人たちが、名物や店を教えてくれますから。時々、以前担当した会社に遊びに行くこともありますが、そこで皆さんから『こんなに良くなったんだよ』と教えてもらえると、事業再生に携わって本当に良かったなと思いますね」

野添氏の話を聞くと、自分の職場環境を見つめ直すことができるとともに、「スパイラル~」の主人公である芝野の気持ちもさらに深く理解できる。今回のインタビューを踏まえ、作品をまた一味違った視点で楽しんでほしい。

【野添平治氏プロフィール】
株式会社工場長代表取締役 1978年、東京工業大学工学部卒業。日本たばこ産業の研究機関で生産設備の開発、全国工場の生産管理システムの開発などの複数のプロジェクトリーダーを歴任。日本たばこ産業の盛岡工場製造部長、金沢工場長などを経て、2005年にコンサルタント開業。中小企業の生産現場の改善を支援することを目的として株式会社工場長を設立。

●インタビュー前編をご覧になりたい方はコチラ!

そしていよいよ、今夜10時スタート! ドラマBiz「スパイラル~町工場の奇跡~」第1話の内容は...。

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【あらすじ】
企業再生家の芝野健夫(玉木宏)は、恩人である天才発明家の藤村登喜男(平泉成)の死をきっかけに大手電機メーカーから転じ、小さな金型工場・マジテックの再生を手掛けることに。芝野は、亡き藤村の娘・浅子(貫地谷しほり)、劣等感を抱えながら成長する弟の望(戸塚純貴)、藤村の右腕だった桶本(國村隼)らと共に奮闘する。しかし、過去の因縁から芝野に復讐を目論む村尾(眞島秀和)と外資系ファンドの社長 ナオミ・トミナガ(真矢ミキ)が、マジテックの乗っ取りに動き出す...。

今夜10時スタート! ドラマBiz「スパイラル~町工場の奇跡~」をどうぞお楽しみに!

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