真山仁が語る! 平成から令和へ...日本経済の復活はあるか

公開: 更新: テレ東プラス

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4月10日(水)夜10時の「未来世紀ジパング」では、ゲストに小説家の真山仁氏を迎えて、"ニッポン再発見!中国は敵か?味方か?"を放送する。

そこで「テレ東プラス」は、収録後の真山氏を直撃。ドラマBiz「スパイラル~町工場の奇跡」(4月15日月曜夜10時スタート)の原作者でもある真山が、日本の発展を支え続けてきた中小企業に直言する。

ドラマだからこそ伝えられる現実と危機対策

――4月10日(水)放送の「未来世紀ジパング」では、日本と中国の関係性をテーマにした内容をお届けします。まずは、今回の収録を終えての感想からお願いします。

「そろそろ日本と中国の関係性を、敵か味方かという観点から変えなければいけない時が来ていると思います。でも視聴者にとっては、"敵か味方か"という入口が一番入りやすい。現実はそうではないのに、そこからの方が入りやすいというこのジレンマを、メディアがどう変えていかなければいけないのか...収録を通じて強く感じました。

スタジオにいた皆さんの共通認識として出てきたのは、世界で生き残っていくためには、日本と中国は欠けているものをお互いに補完し合うことが必要なんだという見解。対立構図というのは見ていて面白いんですけど、そのように見せれば見せるほど、実はこれは肩を組まなければいけない相手なんだということが分かる。そういう意味では、課題が深化して、良いまとまりになったかなという気がします」

――番組では中国に買収された日本の中小企業を取材しましたが、中国に買われることを悲観的には考えていませんか?

「"お金に色はない"と言われていますが、実際には、日本人はお金の"色"を気にする傾向が強い。でも今の時代、欲しいものや良いものを残したいというタニマチ的なお金の使い方ができるのは、もう中国とインドしかありません。生き残りたいのであれば、タニマチになってくれる中国に買ってもらえばいい。もちろん、使い捨てにされる可能性はありますが、使い捨てにされない努力をすればいいんですよ。

日本人は、現状でしか自分たちを評価することができない。買ってもらったら"良かった!"と思うし、捨てられたら"ひどい..."と思ってしまう。でも、捨てられるのも必然、買われるのも必然となる理由があります。伝統的な本当に良いものを残すことが最大の目的なのであれば、感情的な考えは捨てるべきで、買ってくれる相手は誰でもいいはずです」

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――ドラマBiz「スパイラル~町工場の軌跡」の原作「ハゲタカ4.5 スパイラル」では、町工場を買った先がどこか...という問題が生じますが、その辺りについてはどう考えていますか?

「町工場や中小企業が抱える一番の問題は、生き残れるかどうかということです。ただ、"生き残る"という言葉は実に曖昧で、自分たちの会社を残したいのか、その家の生業を残したいのか、自分たちが作ってきた商品を残したいのか、技術を残したいのか...この4つのケースがあります。

一番問題になるのは、家業を残したい場合です。そうなると、子どもが事業の才覚がなくても、優秀な社員ではなく、子どもに継がせてしまいますよね。それで会社がダメになって、潰れてしまうケースがとても多い。次に問題なのは、会社の名前を残すことに拘泥してブランド力に注力してしまう場合。将来性や革新に目がいかなくなり、これも経営的には相当難しい。

それでは、残り2つはどうか。自分たちが持つ商品を残すには、社内の中でそれをよく分かっている人間が継承していくという方法があり、それだと、商品が残るのであればオーナーが変わってもいいという考え方ができます。技術を残す場合も同様で、作るものは変わるかもしれないが、技術そのものは残る。ただしこれは町工場にとって一番嫌なことでもあります。例えば、今まで作ってきたものがモーターだとします。でも、モーター自体ではなく、その中のファンを作る技術だけを必要とされると『ファンだけならやらない!』となってしまう。でも、『このファンは、世界中でウチしか作れない』と考えれば、やる価値はあるのです。

今、中小企業が抱えている大きな問題は『人件費が高くなっている日本で、生き残るのは厳しい状況だから、廃業するしかないか』といった漠然とした悩みで止まっていること。そこから一歩踏み込んで、どうすれば彼らの持っている商品と技術を残せるかということを、中小企業庁は一生懸命伝えようとしています。でも企業側は『それは他でやってくれ!』と言って自分がやるのは嫌だと断る。なぜかというと、まだ淡い夢にすがっているからです。もしかしたら、突然想定外の大発注主が出てきて、会社が生き返るかもしれない。自分たちの技術を世界が認めてくれて、今の工賃の倍払ってくれる日が来るかもしれない...と。現実には、なかなか難しいです」

――真山さんは、そうした厳しい現実を小説に込めているんですね。

「小説のよいところは、主人公と一緒に擬似体験できることです。能動的に読む行為を通じて『これ、自分たちのことだよね』と身に染みて感じてもらえることが多々あります。特に身近な話だと、自分の事に置きかえて真剣に考える。一方で、映像化されたドラマは画面の向こうのことなので、客観的に見ることもできます。『私だったらこうしないな』あるいは『ここはこう逃げればいい、もっと頑張って』と思ったり...。そういう微妙な当事者感と第三者の冷めた目がうまくミックスされた感覚で伝えられることにより、偉い人や政府、アナリストやコンサルタントに言われても分からなかったことが実感できるようになる。中小企業の不調という漠然とした問題に対して『ここがダメなんです、ここはこうなんです』と具体的に伝えられるのが、ドラマ版『スパイラル~』の魅力になると思います」

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――これまでは日本の中小企業や町工場が経済全体を支えてきましたが、その技術が海外に買収されるという形ができたら、日本にとって打撃になるのでしょうか?

「打撃があるかと言われれば、それはもちろんありますが、技術には必ず人が関わっています。ということは、技術力を得ようと会社を買っても、そこで働いている人がいなくなってしまえば、技術はそこで消えてしまう。ですから、技術や商品が流出するということだけで日本の根幹が揺らぐわけではないと思います。今は、消滅や衰退が一番深刻な問題なので、誰かに買われてしまったら日本の産業を支えていけないと考えるのは違うかなと。ただ先端技術が進化しているので、昔と比べると、すべてを中小企業に頼る必要はなくなってきていますよね。技術力は企業が生き残るための武器にはなりますが、日本には、その持っている技術や細部をどのように活かすかという視点を持った人がまだまだ少ない。これは深刻な問題だと思います」

新しい時代を迎える日本が、今すべきこと

――さて、5月から「令和」という新しい時代が始まります。新時代の日本は何をすべきだとお考えですか?

「おそらく我々は、明治以降初めての経験をすることになるでしょう。天皇陛下の退位によって新しい元号になることで、あらかじめ"新しい時代"が準備されるからです。にもかかわらず、日本中が平成30年間を振り返ることばかりやっている。元号が変わる前日までやっているのではないでしょうか。未来はどうなるのかという展望についての話題や議論が圧倒的に少ない。なぜかというと、先が何も見えないからです。

何も見えないのであれば、一度全部つぶしてしまったほうがいい。平成の間に、"スクラップ&ビルド(破壊と創造)"のスクラップをしてしまえば良かったんです。まっさらの状態からビルドする準備を、せめてどこかの業界、どこかの場所でやるべきでした。でも、そんな雰囲気はまったくもってないですよね。誰もがみんな今の状態を、ダラダラ継続していくしかないと思っているのでしょう。多くの若い人は、"年号なんて不要では?"と考えているのではないでしょうか。でも、元号が変わることで強制的に仕切り直す機会を得られるのは、すごく大きい。本来は、日本の社会や産業やこれからのあり方を一度リセットして考える良いタイミングだったのですが、そこが十分できなかったのが心配です。どの業界も、"リセットして新しく始めよう!"というプランを、『令和』になって3年以内に作っていかなければいけないと感じます」

――確かに日本は、リセットやスクラップを怖がる傾向がありますね。

「ビルドばかり考えるんです。でも、革新という言葉は好きだし、イノベーションという言葉も好き。本来イノベーションを進めるには、元々あるものを叩き壊すこともいとわない覚悟が必要です。それには、日本中で声高に"元号が変わります、新しくなりますよ"という時が、良いタイミングです。今からでも遅くないので、新しく始まる時に、"リセットしましょう、捨てるのは良いことです"というスクラップを怖れないムードを作っていくとよいのではないでしょうか」

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――今は、大企業が元気で、中小企業がその割を食って疲弊している部分があります。今までのピラミッド構造がこのまま続いた方がいいのでしょうか? 日本はそれでこそ勝ち上がってきた部分はあると思いますが、いろんな変化がある中で、今後、中小企業はどうなっていくと思われますか?

「低滞する大企業を変えるとしたら、まず事業を減らすことですね。生き残る事業だけを残して、それ以外を減らすことが最大の課題。これも捨てる勇気に関わってくる。現状維持で生き続けられればいいけれど、日本はそれができるような産業構造ではなくて、常に新しいものを作っていかないと、どんどん追い抜かれていくわけです。大手もそこを視野に入れているとはいえ、いかんせん中途半端に儲かるところがあるので、事業を捨てられない。本当は、日本にも本気の新興企業、例えば『Apple』のような企業が出てこなければいけないと思います。

古くからある中小企業でも、経営者の考え方が変われば、ガラッと変わることがあります。中小企業がすべてダメになっていくわけではないでしょう。ただ、中小企業には、衣を一枚脱いでほしい。"今は大丈夫でも、そのままでは長くは持ちませんよ"と伝えたいです。衣を一枚脱いだ時に、独自性を維持しながらどんな新しいことにチャレンジするのか。その問いに対して答えられないところは、大なり小なり淘汰されていきます。今後の政府の救済は期待できませんし、自分たちで一枚衣を脱げるかどうかが分岐点になるのではないでしょうか。

大手は...厳しいことを言うと、本当は一つ二つ倒産した方がいいです。日本の弱点は、潰れかけている大手を国家レベルで救おうとすることですね。大手の寡占状態で新陳代謝ができないのに、日本でシリコンバレー発ベンチャー企業のようなことをやりたいと言っても、所詮は無理。AIや自動運転のような新技術ができれば変わるのかもしれないけど、そこに投資できるのもやっぱり大手ですから。そう考えると、日本はまだ資本主義が中途半端だなという気はします」

(聞き手・吉田広「未来世紀ジパング」ディレクター)

【真山仁 プロフィール】
1962年、大阪府生まれ。1987年に同志社大学法学部政治学科を卒業し、中部読売新聞(のち読売新聞中部支社)入社。1989年に同社を退職し、1991年フリーライターに。2004年
『ハゲタカ』(ダイヤモンド社)でデビューし、著書多数。2018年『シンドローム』(講談社)、『アディオス! ジャパン 日本はなぜ凋落したのか』(毎日新聞出版)を出版。

●インタビュー前編をご覧になりたい方はコチラ!

現在、無料見逃し配信サービス「ネットもテレ東」では、

スペシャルドラマ(原作・真山仁「売国」「標的」)
●2016年10月5日放送「巨悪は眠らせない 特捜検事の逆襲」(主演・玉木宏)
●2017年10月4日放送「巨悪は眠らせない 特捜検事の標的」(主演・玉木宏)を配信中!
(2019年4月15日月曜夜9時59分まで)

そして、ゲストに真山氏が出演する今晩10時の「未来世紀ジパング」は、"~今こそニッポン再発見!チャンスを掴み世界へ~"を放送。

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「平成」から「令和」へ...。日本の知られざる価値を再発見する。昭和天皇から三代続けて訪れた天皇家ゆかりの長崎県・平戸の温泉宿が廃業寸前のピンチに陥っていた。そこに現れたのが中国からの刺客「ホテルの女王」。日本の"おもてなし"をそのままに、驚きの改革で一躍人気宿に激変させた。その秘密とは...。

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