ハリウッドスターの通訳・鈴木小百合さんが明かす、通訳的「英語勉強方法」

公開: 更新: テレ東プラス

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2010年に楽天が宣言した「社内公用語の英語化」は大きなニュースになりました。
とは言え、「読み書きができる」「TOEICで高得点を取った」からと言ってビジネスの場で英語を使えるわけではありません。職業や業界によって、使える英語は多種多様です。

今回、テレ東プラスが注目した職業は「ハリウッドスターの通訳」。
過去にレオナルド・ディカプリオヒュー・ジャックマンアンジェリーナ・ジョリーなどのスターを担当し、第一人者で知られる鈴木小百合さんに、この職業で求められる英語と勉強方法を、伺いました。

帰国子女でもない、留学経験なし!それでもOK

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――鈴木さんの英語はかなり流暢ですが、どこで英語を覚えたんですか?

小学校2年から中学校2年生までオーストラリアのシドニーに住んでいて、英語はここで取得しました。英語教育の場としては恵まれた環境でしたね。

――ということは帰国子女や留学経験がないとハリウッドスターの通訳にはなれない?

そんなことはありません! トム・クルーズの通訳担当で知られている戸田奈津子さんは留学経験がありませんよ。日本にいながらバイリンガル並みに喋れるようになることは可能です。まずは英語漬けの環境を作ることが大切。一番いいのは外国人の恋人を作ることかな(笑)。付き合っているとどうしても「喋りたい!自分の想いを伝えたい!」となるでしょう。無理という方は外国人の友人を見つけるのがいいんじゃないかしら。大切なことは続けること。楽しくないと続かないから、イングリッシュスピーカーで周囲を固めるのはいいわね。あとは映画を観るのもおすすめ。

――おすすめの映画やTVドラマはありますか?

「トレインスポッティング」のように訛が強いと聞き取りづらいので、正統派の英語を話す映画がおすすめです。イギリス英語なら「ダウントンアビー」の上流階級の人たちの話し方。「クィーン」のヘレン・ミレンは正にクィーンズ・イングリッシュです。アメリカ英語だったら「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「プラダを着た悪魔」などなど、いくらでもありますね。

――鈴木さんが続けている勉強方法はありますか?

言葉を覚えること。今だって分からない言葉が出てきますよ。いつも持ち歩いているのは、電子辞書。分からなかったらすぐにこれで調べてます。若者言葉や流行語が出てきた時は「なにそれ!」となることもしょっちゅう。「ハリー・ポッター」シリーズのPRのため、ロン役のルパート・グリントの通訳を担当した時、彼がwickedを連発するんですよ。Wickedは本来なら「邪悪、意地が悪い」という意味ですが、いい意味の時もwicked。どうやら日本語でいう「ヤベー」というニュアンスで使ってるみたい。美味しい食事を食べた時に「ヤベー」って使うでしょ。映画を観ている時も新しい言葉に直面しますし、毎回、言葉を覚えていますね。

――新しい言葉をどこで覚えますか?

雑誌で覚えたりしています。「TIME(タイム)」は購読して、大衆誌の「Peopleピープル」とか「Glamour」なんかも時々読みます。あとはインターネット記事ですね。

ハリウッドスターの通訳ならではの覚えていた方がいい言葉

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▲「アリータ:バトル・エンジェル」のイベントに出席した鈴木さん

――映画業界ならではの覚えておいた方がいい言葉はありますか?

日本のタイトルと原題が違うことがあるので、原題は覚えておきましょう。あとは業界用語。例えば「trailer(トレイラー)」は移動住宅のトレイラーという意味で一般的に知られてますが、映画業界では予告編という意味で使われます。こういった業界用語を覚えておくと通訳をする時に役に立ちますよ。

――業界用語はどこで覚えればいいのでしょうか?

そうねぇ。私は映画のエンドロールを読むようにしています。エンドロールを読んでいると、分からない言葉がでてくる。「Gaffer(ガファー)」って何だろうと調べてみると、「電気技師、照明係」という意味。

業界用語の意味は分かっても、現場のイメージができていないとうまく通訳できないこともありますね。昔、広告代理店の通訳としてCM撮影の現場にいたり、テレビドラマの撮影現場で通訳をしたりしていた経験があるんです。映画インタビューでは現場の話が出てくるので、そういうイメージを通訳ができることもポイントになりますね。

――聞き取りで苦労されたことは?

ありますねぇ。英語といえどもアメリカ英語やイギリス英語にインド英語など各国でアクセントが違うので、聞き取りに苦労することは多々あります。昔、インド出身の監督の通訳をした時、「poetical(詩的な)」って聞こえたから「詩的、ポエティカルな」と訳したら、監督が「No poetical ! Political」って言ってきたの。「political(政治的な)」と「poetical(詩的な)」が同じに聞こえてしまったんです!(笑)

――聞き取りにくいアクセントはありますか?

やっぱりスコットランド、ウェールズ、アイルランドの英語は大変。担当する映画人やスターが来日する時は、その方が普段、どんな喋り方をするのかチェックします。今はYou Tubeがあるので便利になりましたね。スコットランド出身のジェームズ・マカヴォイは訛が強いです。

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▲ジョニー・デップは聞き取りにくい⁉

――聞き取りで苦労されたスターはいますか?

う~ん、ジョニー・デップは口の中でもごもご喋る癖があるので、聞き取りにくいかな。ジョニー・デップと言えば、「デッドマン」で初来日した時、通訳を担当したんですが、それから「チャーリーとチョコレート工場」まで10年間も来日しなかったの。「チャーリー」でお会いしたとき、こっちは覚えてますけど、彼は覚えてないだろうって思っていたら、ちゃんと覚えていてくれた!

――それは嬉しい!

経験を積むことが通訳という職業に生きる

――ついついやってしまう職業病はありますか?

訳さなくていいのに訳している時がありますね。テレビを見ていると、無意識で訳しちゃう。疲れちゃうから辞めようと思っているんだけどね。あとは3人以上と会話していて、分かりにくい話題になると、ついつい補足解説しちゃって、職業病だなって。

tsuyaku_20190312_05.jpg▲レオナルド・ディカプリオが「ディパーテッド」のPRのため来日した時

――(笑)。最後の質問になります。ハリウッドスターの通訳になるために英語の勉強以外で「これだけはやっておいて」というものがありますか?

自分の引き出しを増やすこと。映画ってアクションや恋愛だけでなく、政治や社会問題などさまざまなジャンルを扱うんですよ。「フロントランナー」という作品でヒュー・ジャックマンが来日した時、映画のテーマが政治なので、あるテレビ番組で政治をテーマにしたトークがあったんです。自分の守備範囲を広げておく重要性を感じました。

いろんな経験を積むことも忘れないでほしいです。ハリウッドスターの通訳になると、舞台挨拶や記者会見など大舞台にも立たないといけない。私は学生時代、舞台に出ていたので舞台度胸を培うことができました。広告代理店の勤務時代は、舞台で英語の司会をやらされたり、緊張を強いられる数々の修羅場をくぐってきたのも今となれば良い経験に思えます。最初からハリウッドスターの通訳になるのは無理ですので、通訳としてキャリアをスタートさせた最初はなんでもやって、いろんな経験を積んで、でもこれだけは譲れないというものは必死にしがみつけば、好きなことができるはずです。

――素敵な言葉ですね。ありがとうございます!

【プロフィール】
鈴木小百合
翻訳家、通訳者。東京生まれ。広告代理店勤務、イベント会社勤務などを経て、フリーの通訳・翻訳家に。これまでにスティーブン・スピルバーグ、クリント・イーストウッド、ブラッド・ピットやレオナルド・ディカプリオ、アンジェリーナ・ジョリーなど数多くの映画監督やスターの通訳を担当。現在は麗澤大学の外国語学部客員教授も務める。

【写真提供】
「アリータ:バトル・エンジェル」
http://www.foxmovies-jp.com/alitabattleangel/
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