炎に当てても熱くならない...”地上最強”の断熱材が世界を変える!?

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ワールドビジネスサテライト」 (毎週月曜~金曜 夜11時)では、新企画「イノベンチャーズ列伝」がスタート! 社会にイノベーションを生み出そうとするベンチャー企業に焦点をあてる。そこで、気になる第18回の放送をピックアップ。

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東京都内にある、大手住宅設備メーカーのショールーム。全自動で開閉ができるシャッターや、100種類以上のドアなど、新築やリフォームのための様々な設備が展示されている。その中でも特に、客の目を引く展示物があった。YKKAPが開発した未来のドア「アップデートゲート」だ。前に立つだけで顔認証によって開閉する扉に、住人が外出する際に天気予報などの情報を表示するAI機能...。さらにこのドア、もう1つ「世界を変える」可能性を秘めた技術が投入されている。「エアロゲルという、地球上で最も性能が高い断熱材を採用しています」(YKKAPの担当者)。

innoben_20190306_01.jpg※ ドアの両脇、磨りガラスのような白い部分に「エアロゲル」を使用している

実はこの「エアロゲル」という新素材、あるベンチャー企業が製造した。東京・虎ノ門に本社を置く、2012年創業の「ティエムファクトリ」だ。

innoben_20190306_02.jpg※ ティエムファクトリ本社。左の男性が創業者の山地正洋社長

ティエムファクトリを訪ねたWBSの相内優香キャスター、早速そのエアロゲルを見せてもらった。「これが断熱材?すごく透き通っていますね...」。これが「世界最強」の断熱性能を誇る素材だというのが、にわかに信じられない様子だ。

innoben_20190306_03.jpg※ 見た目には「ただの透明な板」。一体どれほどの断熱性能が...?

それならばと山地社長が用意してくれたのが、小学校の理科実験でおなじみのアルコールランプ。その炎の上に、エアロゲルの板を置く。「この上に手を置いて下さい」。「絶対、熱いですよ!えー...」ためらう相内だが、おそるおそる板の上に手を置いてみると...。「あ!全然熱くない!手のひらを当てても全然熱が伝わってこないですね。不思議...」。手のひらをペタッと押しつけてみる。それでも熱くないという。

innoben_20190306_04.jpg※ 炎が直に当たっているエアロゲルの板。触っても全く熱くない

さらに、エアロゲルと一般的なガラスで、氷を上に載せて比較してみると一目瞭然。ガラスの方だけみるみる氷が溶けていくが、エアロゲル側は全くそのままだ。

innoben_20190306_05.jpg※ エアロゲル(左)側の氷は溶けず、ガラス(右)側はすぐ溶け始める

いったいなぜ、このような断熱性能を実現できるのか。実はこの素材、目には見えないほど微細な編み目の構造をしている。そのため体積の約95%は「空気」。その空気が熱を遮断しているのだ。その性能は、建築物の断熱材としてよく使われる「グラスウール」の約3倍。断熱性能でこのエアロゲルを超える物質は、地球上に存在しないといわれる。

innoben_20190306_06.jpg※ エアロゲルのイメージ図。網目に含まれる「空気」が熱を遮断する

しかも「透明」なため、他の断熱材に比べ活用の幅が格段に広い。最も期待が大きいのが「窓」だ。家の中で最も熱が逃げる部分は窓。この素材で断熱性能を高めれば、光熱費が半分以下に削減できるという。山地社長は「世界中の窓に搭載できれば、1兆円ぐらいの市場を獲得できる」と期待を膨らませる。

innoben_20190306_07.jpg※ より透明度を高めれば、「窓」への活用が現実的になってくる

さらにこのエアロゲル、「板」にする以外にも活用法がある。実は「粉末」にしても、その断熱性能は変わらないというのだ。

innoben_20190306_08.jpg※ 粉末状にしたエアロゲル。一体どう使うのか...?

そこでまた1つ実験。エアロゲルの粉末をまぶした水滴と、何もしていない水滴を、熱したフライパンの上に乗せてみる。すると、ただの水滴がどんどん蒸発していく横で、エアロゲルに覆われた水滴はコロコロと転がるだけ。全く蒸発しないのだ。この粉を他の素材に混ぜれば、様々なモノに断熱性能を加えられるという。「身近な所ではクーラーボックスや冷蔵庫。様々な用途に用いることができる」(山地社長)。

innoben_20190306_09.jpg※ 左の水滴はすぐ蒸発。右の「エアロゲル付き」はいつまでもコロコロ...

実は、エアロゲルは山路社長らが一から生み出したものではない。1931年にアメリカの研究者が開発した物質だ。その後、NASAが実用化に成功し、スペースシャトルの断熱材などに利用されたが、「非常に高価で、誰もこれを実用的なコストで作ることができなかった」(山地社長)ため、世の中に広がらなかった。

高コストの原因は、その製造過程にあった。エアロゲルは原料となる薬品を混ぜ、一度固めて、さらに乾燥させればでき上がる。その「乾燥」の際に特別な装置を使う必要があり、そこにコストがかかっていたのだ。山地氏らはこの課題を克服すべく、原料の種類や配合などを工夫。特別な装置を使わなくても常温・常圧で乾燥させることに成功し、低コスト生産を実現した。山地氏らの試算によれば、「従来のエアロゲルに比べ、コストは60分の1ぐらい」。これでようやく、一般社会での実用化が視野に入った。

innoben_20190306_10.jpg※ 常温・常圧で乾燥させることに成功し、低コスト生産の道を切り開いた

山地氏がこのエアロゲルの研究を志したのは、京都大学で研究員だった6年前。「当時はレーザー関係の研究をしていた」。実は、断熱材には縁もゆかりもなかった。

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「これは世界が変わる、そこに携わることができたら面白いと、その時すぐに思った」と振り返る山地氏。2012年、ティエムファクトリを創業した。しかし、手に取っただけで職をなげうち、起業するほどの決心をさせる「軽さ」とは一体、どれほどなのか?相内キャスターが持たせてもらうと...「はっ!軽いですね!わー、持っていないみたいです...。こんな物体、私持ったことないです!」。確かにこの"未体験"の軽さは、何か大きな可能性を感じさせるインパクトがあるようだ。

innoben_20190306_11.jpg※ エアロゲルを「持ってみた」相内キャスター。未体験の軽さに驚く

開発を始めてから6年。いま急ピッチで取り組むのは、独自に開発した低コスト生産の技術による「量産化」だ。機械での自動生産に向けた開発を進める一方、茨城県に工場建設のための土地を確保。「低コスト量産」の実現は、もう目の前だ。すでに様々な企業から、問い合わせが殺到しているという。「一番多いのは自動車業界。EV(電気自動車)になると、エアコンを使えば使うほど航続距離が短くなってしまう。エアロゲルで覆って高い断熱空間を作ると、(エネルギー効率が高まって)CO2の削減にも大きな貢献ができる」(山地社長)。誕生から80年あまり。日本のベンチャー企業の力を借りて、"夢の断熱材"が世の中を大きく変えようとしている。

innoben_20190306_12.jpg※ ティエム創業者の山地社長。「夢の断熱材」を世に広めることができるか

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