旬の絶品が付録!読者1万人~驚きの情報誌:読むカンブリア宮殿

公開: 更新: テレ東プラス

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旬の絶品が付録、読者1万人~驚きの情報誌

斬新な宅配サービスがある。送られてきた小包の中に入っていたのは「ふくおか食べる通信」(3500円、送料込み)という冊子。大写しになった牛の顔に「赤崎牛」の文字が。内容は赤崎牛というブランド牛。生産農家、赤崎さんの思いやこだわりを特集していた。おいしく調理できるレシピも充実し、一緒に現物の赤崎牛が入っていた。

食べ物が付録になっている、今までにない情報誌「食べる通信」。生産者のこだわりを感じながらの食卓。普段とは、全く違うおいしさを味わえるという。

別の家庭に送られてきたのは「高校生が伝えるふくしま食べる通信」(2500円、送料込み)。付録は福島産の珍しいかぼちゃだ。誌面には知られざる「会津小菊かぼちゃ」の魅力が満載だ。
「食べる通信」は全国で発行されている定期購読の雑誌。毎号、さまざまな旬の食材を取り上げ、その現物を付録で届けてくれるのだ。創刊から6年。全国30ヵ所以上で発行し、読者は1万人に拡大している。

島根の「食べる通信」を作る編集長の中尾祥子。この日は浜田市で猟犬を連れたハンターの取材だ。地元で食べられているイノシシ肉を取り上げるため、熱心に情報収集していた。

中尾は以前、農水省の職員だった。島根の「食べる通信」を立ち上げた理由は、衰退する地元の一次産業への危機感から。「こういう生産者が作っていると分かると、もっと買おうという意欲につながっていくと思うので」という。

一方、秋田県にかほ市で地域特産のイチジクを取材していたのは、秋田の「食べる通信」編集長の渡邊健一だ。渡邊は地元のレストランのシェフ。食材を提供する生産者を応援するため、営業の合間に「食べる通信」を作っている。「食文化がなくなったら、その土地が衰退してしまう。町おこしにもつながるんじゃないかと思います」という。

こうした一次産業の現状に問題意識を持った人たちが、各地で「食べる通信」を立ち上げ、運営しているのだ。

そんな「食べる通信」の生みの親が、日本食べる通信リーグ代表理事の髙橋博之。「食べる通信」の原点となった「東北食べる通信」(2580円、送料込み)の編集長だ。東北に生きる大勢の生産者を取り上げ、日本中の読者にこだわりの食材を届けてきた。

髙橋が取り上げることで、販売額が10倍に増えた農家もいるという。

「生産者が現場にいる時の姿が全く見えないので、その一番輝いているところを冊子にして食べている人たちに届ける。そうしたら食べ物の価値が変わるじゃないですか」(髙橋)

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都会の食卓で感動~生産者の生き様を描く

取材対象を探し出すため、徹底的に生産者を訪ね歩くのが髙橋流。11月上旬、岩手県沿岸の小さな漁港で興味深い生産者に出会った。

漁師の佐々木友彦さんが教えてくれたのは、美しい色をした「赤皿貝」。佐々木さんは、傷みやすいためにほとんど出荷されてこなかった「赤皿貝」を、なんとか売り物にできないか、試行錯誤してきたという。

「もったいないですよ。他の食材ともホタテとも違う。これをみんなに食べてもらいたくて」(佐々木さん)

振る舞ってくれたのは酒蒸しだ。食べてみると「これはうまいな」(髙橋)。髙橋は佐々木さんの挑戦を後押ししたいと、「赤皿貝」を特集することに決めた。

翌朝5時、さっそく取材へ出発。佐々木さんの船に乗せてもらい、しばらく行くとカキを養殖するいかだが見えてきた。「赤皿貝」はこのカキにくっついているという。さまざまな付着生物をはがし取っていくと「赤皿貝」が。しっかりとカキに張り付いているため、取り出すのも一苦労だ。カメラマンが、船の上で収穫に没頭する佐々木さんの姿を切り取っていく。

一日中、漁に密着。心が通い合ったのか、佐々木さんは髙橋にこんな話を打ち明けた。

「自分で取ったものが市場で評価されてお金になれば人生設計ができるけど、きつい」

それはもうからず、家族さえ持てないという漁師の現実だった。髙橋は時間をかけ、佐々木さんの人生そのものを聞き出していく。

「理不尽。おかしい。食べ物を作っている人が食べられないというのは、悪い冗談みたいじゃないですか。生産者の苦労と食べられない現実をまず知ってもらいたい。知れば行動が変わる人が必ず出てくるはずなので」(髙橋)

取材の1週間後、オフィスでは慌ただしく誌面づくりが進んでいた。プロのカメラマンによるレシピの撮影と並行して、髙橋は原稿の追い込み作業に没頭していた。悩んでいたのは、漁師のシビアな現実の部分をどう表現するか、だった。

取材から2週間後、誌面が刷り上がった。スタッフが真っ先に佐々木さんの元へ向かった。表紙をめくると、そこには驚くほど大きな佐々木さんの写真が。誰からも知られることなく、長年格闘してきた佐々木さんの生き様が描かれていた。

「うれしい。生産者冥利に尽きます。やる気が出ますよ」(佐々木さん)

その「食べる通信」が、東京・品川区の購読者、2歳の子供がいる村山亜富さんのお宅に届けられた。苦労して作った誌面と、まだ新鮮な状態の「赤皿貝」だ。

はしゃぐ子供を横目に、誌面に見入る村山さん。食べ物の裏側にある生産者の物語に思いをはせると、食材は全く違う味わいになるという。「こういう方の努力でおいしく食べられることがわかる。佐々木さんに感謝です」と言うのだ。

「食べる通信」の醍醐味がもうひとつ。スマホで動画を撮影すると、村山さんはメッセージを打ち始めた。「東北食べる通信」の読者専用の交流サイトに、「息子がおいしそうに食べていたので、感謝を動画にして送りました」(村山さん)。

しばらくすると、佐々木さん本人から返事があった。そこには「生産者として、とてもありがたく思います......」とあった。このサイトを通じて、消費者は、生産者と直につながることができる。もちろん追加注文も可能だ。

「食べたその先がある。普通の食品の配達とは絶対違います」(村山さん)

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卵農家が奇跡の復活~食べ物付き情報誌のパワー

東京・世田谷区の洋食店「ゴホウビダイナー」。この店は「ミルキーエッグ」という、あまり聞いたことのないブランドの卵で客をうならせている。驚くほどハリの強い黄身のなめらかな味わいが特徴。「イタリアンオムレツ」(700円)など、さまざまな料理に「ミルキーエッグ」を使い、客をつかんでいるのだ。

オーナーシェフの齊藤星児さんは「食べる通信」で「ミルキーエッグ」を知った。とにかく生産者の物語に心を打たれたという。

「僕は泣きました。この生産者はかっこいいと思った」(齊藤さん)

福島県相馬市の養鶏農家の菊地将兵さん。栄養たっぷりの魚のアラを煮込んだ独自の餌がこだわりの「ミルキーエッグ」だが、原発事故の風評被害で大打撃を受けた。

「ひどかったですね。風評被害でずっと売れず、『うちの子供に食べさせたくない』と言われました」(菊地さん)

3年前、その逆境の戦いを「そうま食べる通信」が特集。菊地さんの反転攻勢のきっかけとなった。最大の効果は「食べる通信」を営業ツールに使えたこと。今までの卵作りへの思いがはっきりと伝わるようになり、販路が広がっていった。

「僕ら生産者は口下手なので、なかなか自分がやっていることを話せない。でも『お願いします』と渡すだけで、代わりに話してくれるようなもの。ありがたいです」(菊地さん)

逆境から復活した菊地さんにとって何よりも大きかったのは、「食べる通信」のおかげで、自分たちの本当の価値がどこにあるのかを知ることができたことだという。

農家&漁師1000人と直結~便利で美味しい買い物革命

「食べる通信」の髙橋が新たなサービスを始めていた。

今井美絵さんのお宅に大量の荷物が届いた。中身は奈良県の農家が直送してくれた「露地育ち野菜セット」。さらに静岡の名産品、大粒の石垣イチゴ。別の箱では、福島県の漁師から魚が丸ごと直送されてきた。前日に釣った魚だから、鮮度は抜群だ。

今井さんはこれらの食材を、農家や漁師から、スマホのアプリ「ポケットマルシェ」、通称ポケマルで買い付けている。全国の農家や漁師が自慢の生産物を出品する、いわばスマホの産直市場。好きな食材を選ぶだけで生産者が直送してくれるサービスだ。

この日、今井さんが購入したのは3つの産地からで、野菜6種類、イチゴ4パック、魚が6尾で合計7000円ほどだった。

ポケマルは3年前、髙橋がサービスを開始。使いやすさから急拡大している。

「全ての商品に生産者の顔写真が入っているのですが、値付けも商品名も生産者が自分で考える。登録生産者は1000人になりました」(髙橋)

ミカンの産地、和歌山・有田川町で3代目として農家を継いだ松坂進也さんは、果肉がぎっしり詰まった自慢の「宮川早生」を2年前からポケマルに出品。販売を始めた。

感動したのがその手軽さだった。客から注文が入ると、スマホに通知されるのだが、その注文と同時に、提携する宅配業者にも発注情報がいく仕組みになっている。だから伝票を作る手間が一切かからず、荷物を渡すだけでいい。すでにポケマルで取り引きする客は300人を超えたという。

「12月の売り上げは30万円ぐらい。新しいお客さんがたくさん入ってきて、いろいろな方に食べられているという実感があります」(松坂さん)

そんな松坂さんに勧められてポケマルを始めたのが、農家仲間の大谷英士朗さん。実は、もうかる以上の喜びが客との交流だという。「風邪で食欲がないときもいくらでも食べられました、美味しいミカンをありがとうございます......」という知らせに、「めちゃくちゃうれしいです。もっとおいしいものを育てたいと思います」と、顔をほころばせた。

ポケマルが生産者と消費者の関係を劇的に変え、食卓を豊かにしていた。

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就職も選挙も失敗~食べ物付き情報誌を生んだ男

東京・杉並区の高円寺で毎月開かれる、全国のおいしい産品が集まる「座の市」。そこで売られていたのは、岩手県・綾里漁協の漁師、亘理(わたり)孝一さんが取ったワカメだ。だが、売っているのは綾里漁協の人ではない。「食べる通信」で綾里漁協を知った読者がファンクラブを作り、自主的にワカメを売っているのだ。

遠く離れた東京にファンクラブができるという、今までにない経験をした亘理さんは「自分たちのワカメを紹介してもらって、うれしいよね」と笑う。

そんな出会いも生み出す「食べる通信」。創刊した髙橋は岩手県花巻市の出身だ。

東京の大学に進学。テレビ局でアルバイトをしながら新聞記者を志すが、「北海道から沖縄まで地方紙を受けまくり、100回以上エントリーシートを書きましたが、全滅でした」。

すると、今度は議員の"かばん持ち"になり政治の世界に。ところが、帰省した岩手での旧友たちとの酒の席で、地元の問題を嘆く彼らに、髙橋が「そんな愚痴ばかり言っていても岩手は変わらない。行動に移せよ」と言うと、その言葉に旧友たちがキレた。

「少し政治をかじっていたから、偉そうに『こうすればいい』などと言ったら『東京の人間に言われたくない』と。ぐうの音も出なかったですね。東京で暮らしている人間が岩手の問題を、上から目線で言っていたんだと思う」(髙橋)

すると29歳の髙橋は、東京を引き払い、衰退する地元を変えようと県議会議員選挙に出馬することを決断。1年半にわたり毎日街角で演説をし、当選を果たすのだ。

議員6年目に遭遇した東日本大震災。先の見えない地元の現実を目の当たりにし、今度は県知事選に挑戦する。演説で初めて回った三陸の漁港では「お前なんかに漁師のことがわかるか。何偉そうに言ってるんだ」という声を浴びせられる。結果は落選だった。

しかし、この選挙戦の中で髙橋は初めて、消費者である自分が、いかに生産者の現実を知らないかを思い知る。

「魚を食べていて好きだけれど、その魚を取る人の世界がここまで追い込まれて疲弊していたのかと、そこで初めて知りました」(髙橋)

そして2013年、今度は事業家として地元を元気にすることを決意。食材とともに生産者の「物語」を伝える「東北食べる通信」を創刊した。

「この物語は全国各地の生産現場にたくさんあるだろうから、可視化して消費社会に伝われば、一次産業は変わると思いました」(髙橋)

その後、髙橋の取り組みに全国から賛同者が現れ、2014年に日本食べる通信リーグを設立。お互いに切磋琢磨しながらの生産者と消費者の新たな関係作りが広がっていった。

「食べる通信」の取り組みは、今や大手企業も注目している。

大阪・堺市の「無印良品」イオンモール堺北花田の店舗にずらりと並ぶのは、全国の「食べる通信」のバックナンバー。食材はついていないが、冊子を買える売り場を作った。

店内では「食べる通信」で取り上げた生産者を招き、シイタケの収穫体験が行われた。「無印良品」では、食の分野に力を入れるため、「食べる通信」との連携を強めている。

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~村上龍の編集後記~
「食べる通信リーグ」の特徴は、「独自性」にある。髙橋さんは、参加者を厳選するが、アイデアを押しつけたりしない。ホームページには、「編集長ストーリーズ」というコーナーがあり、生産者の物語を紡ぐ側の「物語」が紹介されている。共通しているのは、「救う」ではなく「ともに生きる」というフェアな関係性だ。
今だ、各地で小さな旗がなびいていて、全国的な波は起こっていないが、逆にそれが正統ではないか。今後は、地域性のある個別のネットワークが何かを生みだす。これまでなかった「未知の」何かかもしれない。

<出演者略歴>
髙橋博之(たかはし・ひろゆき)1974年、岩手県生まれ。2000年、青山学院大学経済学部卒業。2006年、岩手県議会議員に初当選。2013年、「東北食べる通信」創刊、編集長に。

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