デリヘルで現代の日本が見える! 実際のデリヘル嬢を取材し感じたこと

公開: 更新: テレ東プラス

デリヘルから日本の"絶望"が見えてくる。

これは、現在放送中のドラマ24「フルーツ宅配便」(毎週金曜 深夜0時12分放送)の原作、漫画家・鈴木良雄が描く「フルーツ宅配便」の解説フレーズ。デリヘルを舞台に、デリヘル嬢とそれを取り巻く様々な人の事情や悩みを描くことで、いびつな現代社会の構図を世に問いかける作品だ。

「フルーツ宅配便」は、2015年ビッグコミックオリジナルで連載スタート。2018年には「第21回文化庁メディア芸術祭」マンガ部門審査委員会推薦作品にも選ばれ、男性のみならず女性からの支持も高い。その魅力に迫るべく、鈴木良雄先生に話をうかがった。

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デリヘル漫画のオファーに「なんで俺が?(笑)」

――鈴木先生は、2014年に初投稿で漫画家デビューの登竜門「第1回ビッグコミック&ビッグコミックオリジナル合同新作賞」を受賞され漫画家デビュー。40歳を超えてから漫画家に転身されたのは、何がきっかけだったのですか?

「デザイナーの仕事をしながら、"仕事が増えればいいな"くらいの感じで漫画を投稿したら賞をいただきまして。そのまま連載までいくとは予想外で...。ただ、世に出る仕事なので、やりがいはあると思いました」

――漫画家=締め切りに追われ寝る時間もないほど忙しいというイメージがありますが、生活は変わりましたか?

「仕事してる時間は、めちゃめちゃ長いと思います。連休とかありえないくらいになっちゃいましたから」

――受賞後の初連載が、2015年にビッグコミックオリジナルでスタートし現在も連載中の『フルーツ宅配便』。デリヘルが舞台ですが、以前から描いてみたいと思っていらっしゃった題材なのですか?

「小学館の担当の方から『デリヘルを舞台にした作品を書いてみませんか』とお話をいただいたのがきっかけですね。最初は『マジか!?』と思いました。『なんで俺が?』って(笑)。
でも、その時は『これだ!』という自分の書きたいテーマもなかったので、せっかく連載のチャンスをいただけるならもったいないなと。デリヘルに関する資料などを見せていただくと、物語に出来るんじゃないかと思いましたので、引き受けました」

――デリヘル嬢たちを描きながらも、いわゆるそういうシーンはありません。これは意図があるのですか?

「編集部から『裸は描かなくていいです』と言われていまして。絵がヘタだということもあるかもしれませんが(笑)。僕自身も、あくまでも"人間ドラマ"を書きたかったので、できればエッチなシーンは描きたくなかったんです」

――この絵柄だからこそ、デリヘルが題材でも生々しくなりすぎず、人間ドラマがしっかりと伝わってくるんですね。

「自分の画力がないというのが一番なんですけどね(笑)。映画でも淡々としたものが好きだからかもしれませんね。
今は『Illustrator』で描いているのですが、微妙な表情を何度もやり直せるというところもいいですね。なるべく説明がなくても絵で伝わるように、わかりやすい表情にするようにしてます」

デリヘル嬢を取材して感じた意外な実態!?

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――「フルーツ宅配便」を描くために実際のデリヘル嬢の方々を取材されたりもするのですか?

「題材が題材だけに、『めちゃめちゃ取材してます!』なんて大声では言えないんですけど(笑)。以前デリヘルで働いていた方や現役の方に話を聞かせてもらいました。ただ、そのまま登場人物のモデルになっているというわけではなく、想像を膨らませて描いています」

――世間的には、デリヘルで働く方々は借金苦の末に、女手ひとつで子どもを育てるために、あるいは悪い男にだまされて、ホストクラブにはまって...などのイメージもあるかと思いますが、実際に取材されてみて印象に変化はありましたか?

「最初に見せていただいた資料では、貧困から風俗で働くことになった方が多く、やはり90%以上の方は金銭目的でした。
でも、実際に話をしてみると、あっけらかんとしている方が多いんですよ。初対面の僕には、あまり深い話はできなかったのかもしれませんが。普通にアルバイトをする感覚でやってる人が多くて、悲壮感が漂っている人はいませんでした。それがとても意外でしたね。
ただ、風俗で働き始めてから、タバコの量が増えたとか、顔にブツブツが出来たとか、体に変調があったという話を聞くと、やっぱりストレスがあるのかなと思いますね」

――男性だけではなく、女性の読者も多く、共感を得ています。この作品を描く上で意識されていることやこだわりは?

「女性の気持ちは想像でしか描けないので、女性にも喜んでいただけるのは、うれしいですね。
登場人物を描く上で"必要最低限の倫理はもっている人"というところは意識しています。ただ、勧善懲悪の物語にはしたくないので、薄っぺらい人物にならないよう気を付けていますね。
こだわりがないのが、僕のこだわりみたいなところがあって。社会が変化すれば、それに応じて漫画も変えていくと思います。臨機応変にこれからも描いていきますので、機会があれば、ご覧になっていただけたら」

――この作品では、様々な事情や悩みを抱え、生き方を模索しながらも強く生きる女性を描かれています。取材したり、作品を描くことを通じて、現代女性をどのようにとらえていらっしゃいますか?

「すごく強いですよね。都会に限らず、時代と共に全ての女性が強くなったと感じています。だからこそ女性が社会へより進出し、活躍しているんじゃないでしょうか。女性が言いたいことも発言できない社会は嫌ですもの」

お気に入りデリヘル嬢は? 人気キャラ誕生裏話

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――物語の主な登場人物は、ひょんなことからデリヘル「フルーツ宅配便」の店長になってしまった咲田、実はケンカが強い送迎係のマサカネ、謎の多いオーナーのミスジです。それぞれどんな風に誕生したのですか?

「怖い人と、普通の人と、面白い人にしようと思ったんです。
咲田は普通の人。そんなに正義感があるわけでもない、行動力があるわけでもない、ケンカが強いわけでもない、モテるわけでもない、思いっきり"普通"。
話を締めるためには強く怖い人が必要なので、困ったときはミスジさんに最後を締めてもらっています」

――鈴木先生のお気に入りのキャラクターは?

「マサカネくんができた時は、いいんじゃないかなと思いましたね。最初はもっとおっかなく描こうとしたんですけど、刈上げてみたらめちゃくちゃ面白くなって。『この顔面白いな~。これは完成品じゃないか』と、自画自賛しちゃいましたね(笑)」

――「フルーツ宅配便」ではデリヘル嬢をフルーツの名前で呼んでいます。これまで描いてきた中で、鈴木先生の好きなデリヘル嬢はいらっしゃいますか?

「やっぱりドラゴンフルーツさんですね(笑)。みんな面白いって言ってくれて。だから、作中で唯一2回出しちゃったんですけど。もう1回出しちゃおうかな(笑)」

――単行本もすでに7巻。最近では「カカオ」なども出てきて、フルーツの名前もそろそろネタ切れなのではと思ってしまったのですが...(笑)

「そうなんですよ。そのうちフルーツじゃなくてもいいんじゃないかって(笑)」

――各話に登場するデリヘル嬢は、最後どうなったかまでは描かれていないですが、それも狙いですか?

「自分では完結してるつもりなんですけど、よく『続きないの?』と言われるんですよね(笑)。その後は、想像してもらっていいと思うんです。幸せになってるのか、不幸せなのか」

――今後、描いてみたい人物やテーマはありますか?

「一度も本気で人を好きになったことがない人や、風俗しか経験がない素人童貞の男の子とか描いてみたいです」

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――この、鈴木先生の初連載「フルーツ宅配便」が、ドラマ化され放送中です。最初にドラマになると聞いたときは?

「『どひゃ~』という感じでした(笑)。書き始めた当初、担当の方と『ドラマ化までいけばいいね』とは言っていましたが、デリヘルで地上波っていうのは厳しいんじゃないかなと。まさか本当にドラマになるとは」

――ドラマをご覧になった感想は?

「社交辞令ではなく、"こういう作品を観たかった"というドラマになっていて、とても面白いです。すごく出来がいいと言うと生意気な言い方になってしまいますが、本当に楽しめる作品になっていて。もし、みなさんに観ていただけなかったとしても、自分的には大満足です。
濱田(岳)さんが演じる咲田がすごくよくて。『釣りバカ(日誌)』より、こっちの方がいいんじゃないかなと。もちろん冗談ですが(笑)。2話の最後の乳首のところとか、すごく面白いですね。ドラマを見て、こういう描き方もあるんだなと参考になったりもします」

穏やかで、飄々とした雰囲気の鈴木先生は、時おり笑いを交えながら、包み隠しせぬ言葉で語ってくれた。この絵柄だからこそデリヘルを題材にでき、俯瞰で人や物を見る目があるからこそ、読む人に何かを考えさせてくれるような人間ドラマを描くことができるのだろう。そんな鈴木先生の描く漫画「フルーツ宅配便」と、それを原作としたドラマを観て、自分は何を感じるのか体験してほしい。

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【書籍情報】
ビッグ コミックス「フルーツ宅配便」(小学館)
鈴木良雄
1~7巻、好評発売中!

コミュ障デリヘル嬢の恋

今夜2月15日(金)深夜0時12分放送の第6話は?

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レモン(北原里英
コミュ障のデリヘル嬢。いつもチェンジされてばかりで悩んでいる。

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フルーツ宅配便の一番人気みかん(徳永えり)がインフルエンザにかかり、イチゴ(山下リオ)も祖父の葬式でお店を休むことに。他のデリヘル嬢も都合がつかず、出勤できるのはコミュ障でいまだに客を取ることができないレモン(北原里英)だけという危機的状況に。
そんな時に、よりによってクレームが多い要注意人物・安田(山中崇)からの予約が...。咲田(濱田岳)は仕方なく、レモンをつけることにするが、案の定、チェンジになってしまう。フルーツ宅配便始まって以来のピンチに立ちあがったのは、伝説のデリヘル嬢...!?

一方、毎回チェンジされ、お店に迷惑をかけていると落ち込むレモンだが、フリーの予約が入り、ホテルへ向かうと、そこには女性が苦手でうまく話せない客・関(黒田大輔)が。この出会いが、なんと恋に発展!?

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