“過敏性腸症候群”を患う本当の理由:主治医の小部屋

公開: 更新: テレ東プラス

shujii_kobeya_20190116_thum.jpg
こんな症状が現れたら何科にかかればいい? 無理なくできる健康法ってあるの?−−「主治医が見つかる診療所」(毎週木曜夜7時58分から)は、皆さんが感じているさまざまな疑問に第一線で活躍する医師たちが優しく答える、知的エンターテイメントバラエティです。

今回「テレ東プラス」に寄せられたのは、「トイレ関連の緊急事態」と「無気力な自分とのつき合い方」に関する質問です。早速、同番組のレギュラー・姫野友美医師に相談してみましょう!


Q:40代の会社員です。昔からお腹が弱く、特に緊張する場面やトイレに行けない空間などは過敏になりやすく、常におびえながら生活しています。血液検査や内視鏡検査では特に異常は見つかりません。薬は常備していますが、通勤電車や長時間の会議など、とても困っています。根本的な原因や解決策はあるのでしょうか。

―― こういった症状にお困りの方も多いと聞きます。

「これはいわゆる『過敏性腸症候群(IBS)』という病気ですね。腸に器質的な異常はないのですが、機能(働き)に問題がある状態で、不安や緊張から腹痛や下痢、お腹が張るといった腹部症状が現れます。主に20~40代の人に多くみられ、有病率としては10~15%くらいと、意外と多くの人が悩んでいる病気ですね。一般に男性は下痢タイプ、女性は便秘タイプが多いのですが、便秘は高齢者にみられる腸の蠕動(ぜんどう)運動が弱くなって起こる弛緩性の便秘とはちょっと違い、緊張などで腸がキュッと収縮する痙攣性の便秘になるのが特徴です」

ーー過敏性腸症候群の原因はやはりストレスなのでしょうか。

「そうですね、不安や緊張など精神的ストレスで腸の状態も悪くなりますし、逆に下痢や腹痛があるとこれがストレスとなって不安やうつ状態を起こし、ますます腸の状態を悪くします。これを『脳腸相関』あるいは『腸脳相関』といいます。また腸内の菌のバランスが悪くなるとそれが脳にも影響します。なぜなら腸内細菌がセロトニンやドーパミン、GABAといった脳内ホルモンの前駆物質を作っているから。腸内細菌のバランスが良いとセロトニンが増えて気持ちが落ち着き、不安や緊張した状態にならずにすむわけです」

―― この相談者のように普段から薬で腸の状態を整えるのは有効なのでしょうか。

「不安や緊張があると腸内細菌がそれをキャッチして悪玉化する。すると脳内ホルモンが作れなくなり、ますます不安になる......こうした悪循環を止めるためには薬がとても重要な働きをします。下痢の人であれば、乳酸菌やセロトニン受容体拮抗薬(セロトニンの過剰な作用を抑える薬)などによって、とりあえず症状を取るということが大事なんですね。薬を飲んだから大丈夫!と思うだけでもずいぶんと違ってきます。それと同時に行いたいのが生活習慣の改善です。根本的に治していくには第一に食生活、そして睡眠が重要です。食生活では下痢の人なら、試しに小麦製品と乳製品を控えてみると効果的な場合があります」

―― 乳製品は腸の健康には欠かせない食品のイメージですが......。

「実は、日本人には『乳糖不耐症』が結構多いんですね。牛乳を飲むと下痢してしまうタイプの人です。こうした方々は牛乳だけでなく、チーズやヨーグルトなどその他の乳製品に対するアレルギーを持っている可能性があります。小麦製品については、小麦粉に含まれるグルテンが腸の粘膜を荒らすだけでなく体の老化を促進します。気づかないうちに摂取していることが多いので、主食をお米に変えるだけでも変化が現れることがありますよ。また、アルコールにも注意を。特に炭酸系のお酒(ビールや発泡酒など)はしやすくなる可能性があります。カフェイン、香辛料などの刺激物も控えるとよいでしょう。まずはこれらを2週間抜いて、お腹の調子が整うか見てみてください。このほか、過敏性腸症候群には運動もおすすめです。リズム運動にはセロトニンを増やして腸の蠕動運動を穏やかにする効果があります。ウォーキングやサイクリング、座禅など、自分に合ったストレスの軽減方法を試してみてください」

shujii_kobeya_20190116_01.jpg
Q:アラフィフの専業主婦です。子育てが一段落したこともあり、心にぽっかりと穴があいたように無気力になってしまいました。家事はもちろんお化粧をするのもお風呂に入るのも面倒くさいときがあり、「私っていったい何のために生きているのだろう」と考えてしまうこともあります。一方で体調が良い日は、家事もバリバリとこなすことができ、ママ友とランチをしたりアクティブに過ごせます。眠れないこともありませんし食欲もありますが、これはうつの兆候なのでしょうか?

―― 母親としての役割から解放されて燃え尽きてしまったのでしょうか?

「この方のような症状を『空の巣症候群』というんですね。良妻賢母型の40代後半~50代の女性で、子育てや家庭を維持するために頑張ってきた人に多く見られる症状です。それまで、子育てが自分の生きがいであり目標だったのに、就職や結婚などで子どもが家を離れてしまい、一方で働き盛りの配偶者は忙しく、気がつくと自分が作った巣の中に自分一人しかいない状況になるわけです。この喪失感が空の巣症候群の正体です。こうして対象喪失(愛情をかける相手ないなくなる)することで自分の気持ちをどこに持っていったらよいかわからなくなり、うつ状態になる人もいるんですね。相談者はママ友がいてアクティブな日もあるようですが、子どもの卒業とともに保護者との接触がなくなってしまう人も多く、外出の機会を失い、そのうちに眠れない、肩が凝る、めまいがする、食欲がないといった身体症状が現れてくるのです」

―― 空の巣症候群を克服するのはどうすればよいのですか。

「新たな目標を作ることが大事ですね。今までにやりたかったお稽古事や勉強を始めたり、教養講座を受講するなど積極的に外に出て活動してみましょう。特に思い当たらないようならば、例えば地域の婦人会やボランティア活動に目を向けてみてはどうでしょう。喪失感から生じるこのような症状は、子育てだけでなく介護の後に出ることもあります。しばらく休んでいるうちに対象喪失を受け入れ、徐々に回復していきますが、眠れない、食欲がない、ふさぎこんで一歩も外に出たくないような状態のときには、早めに医療機関に相談して、ひどくならないうちに症状を改善しておくことも必要です」

――姫野先生、ありがとうございました!

【姫野友美医師 プロフィール】
1954年 静岡県生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。
九州大学医学部付属病院心療内科、Mayo clinic Emergency Room (U.S.A)Visiting Clinician、都立広尾病院、東邦大学大橋病院麻酔科、木原病院、テーオーシービル診療所などを経て、2005年ひめのともみクリニック開設、2006年日本薬科大学漢方薬学科教授就任。著書に「こころのクセを変えるコツ」(大和出版)、「浮気の言い訳 ~こんなに違う男女のこころ」(角川文庫)など。

shujii_kobeya_20190116_02.jpg
今回お話を伺った姫野先生も出演する「主治医が見つかる診療所」。明日1月17日(木)の放送は、大好評の「芸能人 人間ドックスペシャル!」をお送りします。普段、検査を受けたがらない芸能人が、「ぜひ検査を受けてほしい!」と心配する親しい人からの説得を受けて特別参戦!最新の医療機器を駆使して徹底検査をした結果、心配が的中。まさかの結果が...?

テレ東プラスでは、今後も健康にまつわるさまざまなお役立ち情報をお届けします!

PICK UP