「中国の巡視船が来た時は、ものすごい体勢でカメラを回し続けました」:未来世紀ジパング

公開: 更新: テレ東プラス

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世界各国から日本を見渡すと、日本人がこれまで気づかなかったような"日本の姿や魅力、歴史や可能性"が見えてくる...。ワールドワイドな取材を通し、一味違った視点から今の日本経済を読み解く「日経スペシャル 未来世紀ジパング」(毎週水曜夜10時)。

昨年4月からは、ナビゲーターとして鎌田靖が登場! 積極的に沸騰の現場を訪れ、鎌田独自の視点で見たダイナミックな経済の動きをリポート。そこで体感したことを、熱量を持って伝えている。

そこで「テレ東プラス」編集部は、数々のフィルムフェスティバルで受賞している番組きっての実力派・中村航ディレクターを直撃インタビュー(※前編はコチラ )。「子どもの頃から"物事を知りたい、伝えたい"いう思いがあった」と語る中村ディレクターが、「未来世紀ジパング」の心に残る作品を厳選。その裏側に隠された感動エピソードを、熱く紹介していく。

WBS時代から気がかりだった社長を再取材

――国外の取材に出る場合、時に不安を感じることもあると思います。「日米中がほしがるフィリピン ドゥテルテその後の異変」(2017年7月3日放送)に登場した"スカボロー礁"への取材VTRも、大変見応えがありました。

「フィリピン周辺の海域をめぐって中国と領域争いが起きているということで、その現場を取材しようと思い、漁船に乗せてもらいました。その時は感じませんでしたが、後でVTRを見ると、"あんな簡素な船に、よく二十数時間も乗って行ったな~"と思いますね(笑)。でも現場では、船上で釣った魚をごちそうしてもらったり、夜は満天の星空がきれいだったりして、楽しかったです。最も緊迫したのは、中国の巡視船とモーターボートが近づいてきた時。フィリピン人漁師がいることは向こうも見逃すんですけど、日本人の撮影クルーがいることまで気づかれたらアウトだということで、『カメラを隠して!こっちに隠れろ!』と言われまして...。床にへばりつきながら腕だけ伸ばして、ものすごい体勢でカメラを回し続けました。緊迫感を持ちながらも、撮るべきものは撮るという(笑)。もちろん怖いんですけど、"これを撮らないと伝わらない事実がある!"と思いながらカメラを回していました」

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――この作品には、フィリピンで「トライシクル」(遠隔式でエンジンを止められるシステムを導入した三輪自動車)を扱う電気自動車ベンチャー「グローバル モビリティ サービス」を設立した中島徳至さんも登場していますよね。

「中島さんは今も継続してお付合いさせて頂いていて、僕の中では、思い入れのある取材対象者の一人です。以前は日本国内でコンバージョンEV(電気自動車)という普通の車をEVに変える事業などを行なっていて、『ワールドビジネスサテライト』にいた頃に取材をしていたのですが、ある時、取引先の予想外の撤退などで会社が潰れてしまって...。そんな中でも中島さんは、最後の1人まで社員の就職先を世話して、きちんと会社を畳んだ熱い人なんです。

一時は、自殺を考えるくらい悩んでいらっしゃったと思うんですけど、自動車と金融を組み合わせて貧困をなくす仕組みを作るという新しい事業を始めた時に再会し、『ぜひ協力したいので、そのうちまた取材させてください!』とお話しました。すると中島さんの会社は、それからたった4年ほどで、フィリピンやカンボジアなどでどんどん成長していて、しかもその事業で貧しい人を本当に減らすことができている。なによりも再び中島さんの元気そうな顔を見ることができて、本当に良かったなと思いますね。中島さんが日本のモーターショーで講演しているのをこっそり聞いていたら、僕がいるのを知らないはずなのに『ジパング』のことまで話してくれていて...なんだかうるっときてしまいました(笑)。こんな風に、取材した方たちと一緒に成長していけるところにも、経済番組のディレクターとしての醍醐味を感じます」

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元僧侶がミャンマーで激動の人生を

――ステキなお話ですね。どんどん縁がつながっていくのは素晴らしいことですよね。

「縁といえば、『どこまで近づく!?日本とミャンマー』(2018年8月15日放送)の回では、こんなことがありました。取材させていただいた井本勝幸さんは、福岡県の寺で僧侶をしていましたが、仏教のネットワークを作ろうとする中でミャンマーの少数民族と政府の内戦という問題と出逢い、和平交渉のために単身でミャンマーに渡ってしまった人。それが功を奏して10の少数民族武装勢力と政府の内戦が終結し、『ビルマのゼロファイター』とか『ノーベル平和賞に一番近い日本人』などと呼ばれています」

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「そんな井本さんが今熱心に取り組んでいるのは、ミャンマーの内戦を停めたことに対して、少数民族の人たちが"お礼に..."と協力を申し出てくれた『旧日本兵の遺骨調査』なんです。ミャンマーでは、4万5000人の日本兵の骨が日本に帰れず今も残されたままで、井本さんはこれまでに3000人ほどの遺骨を見つけています。でも実は、井本さんは、途中3年ほど資金難で活動を中止していた期間があって、ようやく彼を支援する社団法人『日本ミャンマー未来会議』ができ、活動が再開することができたんですよ。その間にも、様々な番組から取材オファーがあったそうなんですが、『偉そうなことを言える立場じゃない』と断り続けていたとのこと。だから"今回もダメかもしれない..."と思いつつ『日本ミャンマー未来会議』に連絡してみたところ、常務理事の方が『ジパング』の大ファンだということで、しかも僕が担当した取材VTRを高く評価してくれていたんです。それで井本さんを説得してくれて、旧日本兵の遺骨収集の活動を再開する時期に取材ができることになりました」

――井本さんご自身は、身内を外地で亡くしていたりするのでしょうか?

「そういう経験はないそうなのですが、少数民族側から恩返しをしたいと言われた時、『自分以外にこれができる人はいない』と思ったそうです。

素顔の井本さんは、飲んでばかりで安い酒が大好きな飲んだくれのおっちゃんなんですけどね(笑)。ただ、人の懐に入るのはとてもうまい! そして信念を持ってやると決めた時に、突き進む推進力がすごいんです。日本に置いてきたご家族の皆さんも、ずっとそんな生活なので『もう慣れちゃいました』と話していますね。ある時、『何でそんなに一生懸命になれるんですか?』と聞いたら、『俺は成仏したいんだ。自分ができることを全部やり切って、先祖たちに顔向けができるようになって死にたいんだ』と話してくれて...。こんな人がいることを少しでも多くの人に知ってもらいたいですね」

ジャーナリストとして、自分じゃなきゃやらないことを...

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――そんな思いが、中村さんの番組作りの原動力になっているのですね。

「素晴らしい人に出会ったり、何かを経験する度に"伝えたい""知ってほしい"という気持ちが湧き上がります。ミャンマーでは、現地の人に案内されてものすごい坂道を登って行った洞窟の中に、日本兵の遺骨がありました。それを見た時、僕も戦争を知らない世代ですけど、こうやって国のために死んでいった人たちがいたんだと思ったら、心が震えました。

その時、洞窟の内側から外を撮ったカットがあって、『命果てるそのとき、彼らは この景色を見たのだろうか・・・』というナレーションを入れたんです。このカットを放送することに異論もあったのですが、カメラマンがよくあのカットを撮っていたなとも思ったし、編集の方の後押しもあり、放送することができました。あの時、"関わった人たちのすべての思いがつながってできるのがテレビ番組なんだ"と思いました。あのカットは...ぜひ見ていただきたいです」

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――今までのお話から、中村さんの番組作りにかける思いや、番組作りを通じてとても良い出会いをしていることが伝わってきました。最後に、これからの抱負を教えて下さい。

「子どもの頃から"物事を知りたい、伝えたい"という思いがあり、就職活動の時は、他局や新聞社、通信社なども受けた中で、テレビ東京に拾ってもらいました(笑)。でも、テレ東は人がいないので、入社2年目で日銀記者クラブのキャップをやらせてもらえたりするんですよ。よそだったら20年以上のベテランがやるようなことです。若いうちから池上彰さんや田原総一朗さんのような一流ジャーナリストと仕事ができるのもありがたいですし、夜10時台にニュース以外で報道局が番組を作れるのも、地上派ではテレ東だけなので、大変ありがたいと思っています。

そうした、ある意味恵まれた環境の中で、これからもテレ東でしかできないテーマ、自分じゃなきゃやらないようなことを意識してやっていきたいですね。誰でも出来ることなら、ジャーナリストとしての価値はないので...。って、一応自分もジャーナリストの端くれだと思っていますので(笑)」

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現在、インタビューで登場した2作品を含む3作品を、「未来世紀ジパング 傑作選」として、無料見逃し配信サービス「ネットもテレ東」で限定配信中(1月20日(日)夜23時59分まで)。

●2017年7月3日放送「日米中がほしがるフィリピン ドゥテルテその後の異変」
●2018年8月15日放送「どこまで近づく!?日本とミャンマー」
●2018年8月22日放送「世界のニュース現場 その後どうなった?」

そして、今晩10時からは、「未来世紀ジパングSP~ニュースのその後を追ったら世界の大転換が見えてきた!~」をオンエア。

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2019年初回の放送は90分のスペシャル版!「史上初の米朝首脳会談」「カナダの大麻解禁」「フィリピン・ボラカイ島、突然の閉鎖」「アメリカ入国を目指す移民集団」など、2018年に世界を驚かせたニュースを徹底取材。すると、日本では伝えられていない"その後"の事実が次々判明!世界の大転換が見えてきた!

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