「報道の自由」消滅する香港 専門家は諸外国の初動の失敗を指摘<WBS>

公開: 更新: テレ東プラス

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「衆新聞」元記者のダレンさん(仮名)

香港の言論の自由を象徴していた民主派系メディア「リンゴ日報」が事実上廃刊した昨年6月から半年。香港国家安全維持法の影響が強まる香港では今、同様に民主派とみなされるメディアが次々と廃止に追い込まれています。配信停止が決まったメディアの記者が苦しい胸の内を語りました。

2021年12月29日、香港。警察車両と報道陣で物々しい雰囲気に包まれていました。連行され、ビルから出てきたのはネットメディア「立場新聞」の編集幹部です。この日、幹部ら6人が「扇動的な出版物の発行」を共謀した疑いで逮捕されました。

立場新聞は編集部も家宅捜索を受けたほか、資産が凍結され、その日のうちに配信停止を発表し、記事も削除しました。リンゴ日報の廃刊後、自由な言論や報道を担っていたネットメディアに当局が捜査の手を伸ばした衝撃は、同業他社にも及びました。

「同僚も私も泣きました。とても残念です」

こう話すのは香港のネットメディア「衆新聞」元記者のダレンさん(仮名)。衆新聞は調査報道や、掘り下げた特集記事の配信に定評があり、SNSでの登録者数は40万人を超えていました。しかし現状では安全が確保できないと継続を断念しました。

「ニュースが、あるいはその一部が法に違反しないのか、変化が激しく判断がつかない。自信を持って記者たちに仕事をさせてあげられない」(「衆新聞」李月華編集長)

香港では、ネットメディアでこそ市民が望む報道や発信ができるとダレンさんは手応えを感じていましたが、今後、香港で仕事を続けるには、仕事の仕方を変えざるを得ないと無念の思いを語ります。

「世界ではさまざまなことが発生していて、それを語る役割を果たすのが私たち記者だ。私は記者を続けていきたい。ただ、今はどこへ行きたいかわからない」(ダレンさん)

廃止や自主規制に追い込まれていく香港のメディア。当局は、一連の対応は報道の自由の侵害とは無関係だと強調します。

「香港で報道の自由が消えたとか、崩壊の危機にあるといった批判はあたらない。だが法の統治こそが香港にとって何より重要だ」(林鄭月娥行政長官)

神田外語大学の興梠一郎教授は、今回のメディアへの締め付けは、国家安全維持法が成立した20年6月からの流れで、欧米をはじめとする諸外国は初期の段階で食い止めることに失敗したと指摘します。

「国家安全維持法を通す時に、中国は欧米の動きが気になった。しかし外資が出ていったり、香港ドルが暴落したり、キャピタルフライトが起きて、一斉にお金を持ち出したりはしなかった。人権や民主主義は大事だが、それを上回る経済的なメリットが香港にはあると、アメリカは最後のカードを切れなかった。だからもう止まらない」(興梠教授)

興梠教授は、中国政府による香港の改造プロセスはもう仕上げの段階に入ってきており、自由がなくても経済は回っていく、今の深圳と同じような場所になっていくだろうと指摘します。

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