瀬尾まいこ×岡田惠和スペシャル対談「悲しいことはあるけれど、それだけでは終わらない、優しい気持ちになれる作品。”心から愛する小説”をドラマにしてお届けできることが幸せです」

公開: 更新: テレ東プラス

ある男女の偶然の出会いが「封印されていた運命」を動かす! 1月7日(金)夜8時からは、新春ドラマスペシャル「優しい音楽~ティアーズ・イン・ヘヴン 天国のきみへ」を放送。

本屋大賞受賞作『そして、バトンは渡された』を執筆し、近年ますます存在感を表している瀬尾まいこが手掛けた『優しい音楽』(双葉文庫)を、脚本・岡田惠和×監督・若松節朗×音楽・稲本響という奇跡のタッグでドラマ化。

ある日、突然出会った見知らぬ青年・タケルに接近する主人公の千波役を土屋太鳳、千波に一目惚れし、鈴木家の止まった歯車を動かすきっかけとなる青年・タケル役を永山絢斗、家族を温かく見守る千波の父・雅志役を仲村トオル、歌がうまくて料理上手、家族想いの千波の母・桂子役を安田成美、タケルが勤める造船所の社長・広木克彦役を佐藤浩市が演じます。

過去から新たな一歩を踏み出すまでの再生...音楽が繋ぐ"愛と絆"を優しく描く感動の物語。

「テレ東プラス」では、放送の前に、瀬尾まいこ×岡田惠和によるスペシャル対談をお届け! 作品に対する思いや見どころはもちろん、お2人が作品を執筆するにあたって大切にしていることまで...貴重なお話を伺いました。

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『ごめんね』というたった一言から伝わるものがたくさんある。ラスト、『ごめんね』が『ありがとう』に変わるところが身に染みました(瀬尾)

――まずは、ドラマをご覧になっての感想からお聞かせください。

瀬尾「子どもが生まれてから、長時間集中してテレビを観る機会がなかったのですが、自分が書いた作品ということをすぐに忘れて夢中になり、一瞬で終わってしまいました。悲しい部分もありますが、ほのぼのと温かくしみじみとするドラマで、いい時間を過ごすことができました」

岡田「少人数のお話ですが、俳優さんたちが魅力的に演じてくださって、すごく素敵な作品に仕上がっていました。瀬尾さんの本を手に取り、脚本を書きたいと立候補させていただいてから15年以上...。その年月を思うと、感慨深いものがあります。世に出ることが本当にうれしいです」

――岡田さんは、原作に一目惚れのような感覚を覚えたとのことですが、どのような点に惹かれたのでしょう。

岡田「僕はテレビ屋なので、ある男の子が女の子と出会って、どう考えても変だけど自分を見ている...というスタートと、家族が再生していくという2つの構造が、素敵な物語になるなと強く思いました。そしてできれば自分でやってみたいと。
出版社の方に『この原作をドラマ化したいです』とお話ししましたが、基本的にはありえないことなんです。脚本家はどちらかというと依頼を受ける側の人間なので...。ただ、この小説に関しては、ちょっと人に取られたくないなと思ってしまったんです。なんか変ですね、こんな言い方(笑)。そういう気持ちがちょっとありました」

瀬尾「びっくりです! 岡田さんはすごい方なのに、そんな風に思っていただけたなんて...。私の本はそもそも全体的に地味じゃないですか。"よくぞ手に取ってくださった!"とその部分も謎ですし、地味な作品が多い中で、さらに華やかではないこの作品を映像化したいと思ってくださったことも謎です(笑)。私からすると、すごくラッキーです」

岡田「瀬尾さんの作品は、『天国はまだ遠く』(新潮社)という小説を読ませていただいたのが最初で、書店での出合いでした。そこから瀬尾さんの小説を読ませていただき、待望という気持ちでこの『優しい音楽』を手に取った記憶があります。ご自身がおっしゃるように、瀬尾さんの作品は決してスペクタクルな話ではないですし、登場人物も特別な人ではないことが多い。自分がテレビドラマを書くときに心掛けている"普通の人の話を描く"という思いに近いのではないかと勝手に感じていました。ですから、瀬尾さんが本屋大賞を受賞されたときはすごくうれしかったです」

瀬尾「ありがとうございます」

――瀬尾さんは、岡田さんの作品をご覧になっていましたか?

瀬尾「もちろんです。『若者のすべて』や『ビーチボーイズ』など、知らず知らずのうちに観ていたのが岡田さんのドラマでした。最近で言わせていただくと、連続テレビ小説『ひよっこ』。子どもが生まれてから、久しぶりに朝ドラを観ました。すぐにドラマの世界に入れましたし、登場人物みんなを応援したくなるような感覚で...。見ている自分も、ドラマの世界にいるような気持ちにさせてくれるドラマで、すごく好きでした」

――今回映像化するにあたり、心掛けたことやお願いしたことなどがあれば教えてください。

岡田「僕自身、ファンの一人として小説を読んでいたものが映像化されると、"なんであそこの場面がないの? なんか違うな"と思ってしまうことがあるので、原作があるものを映像化するのは、基本的にアウェーなんですよ。でもそれは、活字とドラマの設計図って似ているようだけど違う作業なので仕方がないこと。ですから、ファンの方に嫌われる勇気を持つ必要はあります。
あと根本的に、自分が愛していないものはやらないと思っています。今回のような短編を映像化する際、どうしても書かれていない部分を作っていかなければならない。そこにはやっぱり愛が必要で、脚本家として短編小説をドラマ化するのは非常にやりがいがあります。今回は本当にステキな仕事でした」

瀬尾「私は、違うものを見ている感覚があります。うまく言えませんが、私の作品という感じが薄いというか...。よく知っている話、よく知っている人たちが出てきているという感覚でしょうか。今回に関しても特にお願いすることはなく、出来上がったものを純粋に楽しんだ感じです。ただ、自分が書いた人たちが動いているのを見るのはすごく楽しい!(笑) 今回、ドラマを観た後、改めて原作を読んだんですよ。そうすると、原作には描かれていなかった部分がたくさんあって...。"この人は本当はこうだったのか!"など、新たな発見がありました。ドラマになって、よりストーリーが納得できるものになったという感じがしました」

――ご覧になって、改めて感じる部分が多かったと...。

瀬尾「そうですね。あとドラマを観て感じたのは、『ごめんね』というセリフが多いなと。今まで『ごめんね』という言葉にあまりいいイメージがありませんでしたが、ドラマの中でみんなが言う『ごめんね』には、様々な気持ちが込められていました。何か悪いことをして謝るのではなく、相手を思いやる、相手に寄り添う『ごめんね』。たった一言から伝わるものがたくさんあるなと感じました。ラスト、『ごめんね』が『ありがとう』に変わるところが、すごく身に染みました」

岡田「特に意識していたわけではありませんが、僕もドラマを観て『ごめんね』というセリフが多いと思いました(笑)。それとともに『謝らなくていい』というセリフも...。おそらくその部分が、自分が表現したかったことなのかも。再生の物語なので、セリフにも優しさが詰まっているんですよね」

――千波を土屋太鳳さんが、タケルを永山絢斗さんが演じました。お2人の演技をご覧になっていかがでしたか。

岡田「千波ちゃんは難しい役だと思います。自分で考えていることがはっきりしなくて困っていて、彼女が中途半端に動いたことでみんなを巻き込んでしまう。そういう無自覚なピュアさが土屋さんとすごくマッチしていたと思います。僕も、千波ちゃんに駅であんな風に見つめられたらどうなってしまうのか...。タケルの戸惑う気持ちがよくわかります(笑)」

瀬尾「土屋さんはすごくかわいくてきれいな方なのに、なぜか身近にいそうというか。千波ちゃんが、私たちが住んでいる世界にちゃんと生きていると感じました。悲しいことを背負いながらも、健やかに育ってきた根っこみたいなものが伝わってきて...。演技のことはわかりませんが、すごく引き込まれました」

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岡田「永山さんには、自分に自信がない男の子を繊細に演じていただいて、"タケルってこういう感じだよな"と改めて思いました」

瀬尾「私はドラマを観て、よりタケルくんのことが分かったような気がします。こういう感じの男の子だから千波ちゃんが惹かれたわけで、わかり合えるところがあったのかなと。見えていなかったタケルくんがそこにいました」

――今回の作品では、エリック・クラプトンの名曲「ティアーズ・イン・ヘヴン」がカギを握っています。お2人は普段、どのような音楽を聞きますか?

岡田「僕は音楽が好きなので、常に何かしら聞いています。脚本を書くときも聞きますし、音楽がないとダメなタイプ。今回の脚本も、『ティアーズ・イン・ヘヴン』を聞きながら書きました。どんなジャンルでも良いのですが、メロディが大げさじゃなく、穏やかなものが好きです」

瀬尾「わかります! 私も大げさじゃない曲が好きです。年を重ねてから特にそうなってきたかも...。『ティアーズ・イン・ヘヴン』は、作品を書いた15年くらい前、よくエリック・クラプトンを聞いていたんですよ。有名な曲しか知りませんが、特に『ティアーズ・イン・ヘヴン』が好きでした。疲れていると小説や映画に触れられなくなりますが、音楽は聞けるので、やはり癒す力があるのかなと思います。じんわり優しくなれるというか...」

岡田「『ティアーズ・イン・ヘヴン』だったからこそ、この家族の再生が光って見えたのかな? と思います。洋楽は権利関係が難しいのですが、もしもこの曲を使うことができなかったら、ドラマは作られなかったかも...。今回はそれくらい、音楽が大事なキーワードになっています」

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