エーザイ共同開発の世界初「アルツハイマー病治療薬」欧米で評価二分...日本での承認は<WBS>

公開: 更新: テレ東プラス

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アルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」。

日本の製薬大手エーザイとアメリカのバイオ医薬品大手のバイオジェンが共同開発した、アルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」。アメリカでは6月に販売が承認されましたが、EU(ヨーロッパ連合)では今月「十分な効果と安全性が確認されなかった」として、承認されませんでした。世界で評価が割れる中、22日、厚生労働省が日本での承認について審議しました。

エーザイとアメリカのバイオ医薬品大手のバイオジェンが共同開発した「アデュカヌマブ」は、アルツハイマー病の原因物質を取り除く、世界で初めての薬です。現在、国内には認知症の人が約600万人いるとみられています。そのうち6割はアルツハイマー型。主な症状は、記憶力や理解力の低下で、進行すると日常生活に大きな支障を及ぼします。

なぜそうした症状が起きるのか。湘南いなほクリニックの内門大丈院長が見せてくれたのが、アルツハイマー型認知症にかかった患者の脳の画像です。

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MRI画像。

「MRI(磁気共鳴画像装置)で輪切りにして下から見上げたところです。側頭葉の海馬傍回というところがある。黒く映っているのが側脳室。若い人には黒いところがほとんどない」(内門院長)

脳が萎縮してしまっている部分が黒く映ります。人の記憶をつかさどる海馬傍回から萎縮が始まり、脳の皮質全体に広がります。その原因は「アミロイドベータ」と呼ばれる異常なタンパク質。アミロイドベータが脳の神経細胞を壊すためだと考えられています。今回の新薬「アデュカヌマブ」は、アミロイドベータを取り除くことで神経細胞が壊れるのを防ぎ、病気の進行を抑えるというのです。

世界初の治療薬として期待される中、22日、日本での承認について審議が行われました。厚生労働省の専門部会は、現時点ではアルツハイマー病の治療薬として承認するべきではないと判断し、継続審議としました。

厚労省は、治療薬の前提となっているアミロイドベータを減らすことが、症状の改善に繋がるという仮説が科学的に証明されていないことを指摘。さらに、申請の根拠とされた2つの国際的な治験の結果に一貫性がないことから、今のデータでは有効性を判断できないとしています。加えて、薬の投与によって脳の腫れや出血などが見られることも問題とされました。一方で治療薬として有効な可能性もあるため、厚労省は今後追加のデータが提出されれば、改めて審議する方針です。

若年性アルツハイマー型認知症患者の下坂厚さん(48)は、この結果について「可能性としては治療の見込みがないと言われている認知症に対して、一筋の光が見えた。希望ができたというのはあるが、それが承認されなかったといって落胆するわけでもない。新薬とか、今回の薬以外の治療方法とかも、専門家の医者に任せていけたら」と話します。

アメリカとヨーロッパで分かれる判断

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「おばあちゃん おじいちゃんからお金を盗むのはやめて」と書かれたプラカード。

今回の新薬はアメリカとヨーロッパで、承認をめぐる判断が分かれています。

アメリカでは今年6月、新薬を承認。しかし、一部の治験で十分な効果が確認できなかったとして、追加の検証試験で有効性を示すことが必要な「条件付きの承認」となりました。医療機関からは、薬の有効性への疑問から使用をためらう声も多く聞かれます。

さらに普及には別の課題もあります。新薬を開発したバイオジェンの本社前で患者の家族が掲げているプラカードには「おばあちゃん おじいちゃんからお金を盗むのはやめて」と書かれています。患者の家族らが批判しているのは、新薬の価格の高さです。年間約600万円という価格が普及の大きな壁になっています。こうした問題を受け、バイオジェンは20日、アメリカ国内での価格を来年1月から半額にすると発表しましたが、新薬が普及するかどうかは不透明です。一方、EU当局は17日、新薬の販売に関する承認の見送りを勧告しました。

日本の継続審議という決定について、新薬の研究開発を取材する「日経バイオテク」久保田文副編集長は次のように語ります。

「中間かなと思っています。ヨーロッパはこれで審査終了。日本の厚労省はあくまで『継続審議』。これで終わりではない」(久保田副編集長)

ただ、再び審議され、承認されるまでには時間がかかると言います。

「一つの参考例は、アメリカの迅速承認の条件となった臨床試験。始まると結果がある程度見えてくるのが2026年と言われている。単純に計算しても5年後。数年かかる可能性はありますが、改めて再度審議の可能性はあります」(久保田副編集長)

一方で、「アデュカヌマブ」がアルツハイマー病の研究にもたらした意味は大きいといいます。

「今回の結果で、ダメなんだという単純なことではないと伝えたい。製薬企業が様々な薬を開発している。前向きに状況をとらえている」(久保田副編集長)

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