「炎のチャレンジャー」イライラ棒の発案者!バラエティから映画・ドラマ監督へ転身した理由は?:じゃない方の彼女

公開: 更新: テレ東プラス

不倫コメディ「じゃない方の彼女」(毎週月曜夜11時6分/テレビ東京系)の演出を務めるのは、「来世ではちゃんとします」シリーズ(テレビ東京系)など数多くの話題作を手掛ける三木康一郎監督。本作の演出について話を聞いたインタビュー前編に続き、20代からテレビのバラエティ畑で活躍し、ドラマ演出・映画監督へと転身したヒットメーカーにバラエティ経験があるからこそ監督としてできること、演出するうえでのモットーやこだわりをうかがった。

バラエティから映画ドラマの転身

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――20代より「ウッチャンナンチャンの炎のチャレンジャー これができたら100万円!!」(テレビ朝日系)のディレクターとして活躍。三木監督が「炎のチャレンジャー」のメイン企画「電流イライラ棒」の発案者だとか?

「そうなんですよ。別の番組のロケでブラジルの小さな街に行った際、掘っ立て小屋の中にゲームセンターみたいな遊技場があって。そこに渦巻き状に巻かれた針金に触れないように棒でくぐり抜けてくゲームが置いてあったんですね。火花も出なければ、電流もビリビリこない。賞金も商品もないのに、ただただそれをグルグルやっている(笑)。で、『炎チャレ』をやることになって、そのゲームのことを思い出して会議で提案しました」

――その後「イライラ棒」は玩具やアーケードゲームになるなど大ヒット企画となって、テレビ朝日社長賞を受賞。

「いや~、ヒットさせてしまいました(笑)」

――そこから30歳を目の前にドラマ、続いて映画の世界へ。ドラマの演出家やCMディレクターから映画監督に...というパターンはよく聞きますが、珍しいですよね? 堤幸彦さんくらいじゃないかと。

「あ、そういえばそうですね。ほかは、あまり聞いたことがないかもしれない」

――「炎チャレ」のほか「あいのり」や「B. C. ビューティー・コロシアム」(ともにフジテレビ系)などヒット番組を手掛けたいわば絶頂期に、なぜまた転身をされたのですか?

「もともとはデザインや建築の世界を目指していて、映像業界に興味がなかったんですよ。でも早くに道破れ、22歳で映像制作会社にアルバイトで入って。その後もバラエティをずっとやってきたんですけど、先ほどのイライラ棒のヒットもあって27~28歳でバラエティ番組のトップである総合演出を任されるようになったんですね。当時は面白い企画を当てれば上にいけた時代だったので。そんな時ふと"俺はずっとこれをやってくのかな...?"と思って、30歳を前に辞めました」

――ずいぶん思い切りがいいですね。

「ええ、もともとすごく興味があったわけではないので、わりとスパッと。で、テレビ業界でやってないことは何だろうと思った時に、報道やスポーツの演出は局員しかなれなかったので、残るはドラマかドキュメンタリーか...となり、じゃあドラマをやろうと。とはいえ助監督の経験もなければドラマ演出のイロハも何もわからないんですけど(笑)、いくつかのドラマを手伝わさせてもらって」

――転身後は最初から上手くいきました?

「いや、全然です(笑)。30代後半までは仕事がほとんどなくて。放送作家の小山薫堂さんの番組を手伝ったりしながら食いつないでいました。幸いバラエティをやってきた中で局の編成の人とか知り合いはたくさんいたので、『ドラマをやりたいから深夜のバラエティ枠を僕にください』と直談判したこともありましたね(笑)」

――それが2006年放送の「CAPSULE」。そこから2007年より演出と脚本を手掛けた「トリハダ~夜ふかしのあなたにゾクッとする話を」シリーズ(ともにフジテレビ系)全6作を担当。映画監督デビュー作となる2012年の「トリハダ‐劇場版‐」へと繋がって。

「そうですね。で、『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016年)が上手いことヒットして今に至ります(笑)」

――それにしてもホラーものから、漫画原作もの、昨年配信されて話題になった「東京ラブストーリー」(FOD/Amazon Prime Video)など幅広く手掛けられていて。しかも、こう見えて...と言うと失礼ですけど、印象的な美しい映像がお得意ですよね? 映像業界には興味なかったとおっしゃっていましたが、案外ロマンチストなんですか?

「そうなんですよ、ロマンチストなんです(笑)。いいですね~、それ。女の子にモテそう」

――「胸キュン映画の巨匠」と呼ばれる三木孝浩(映画「ソラニン」「僕等がいた」「陽だまりの彼女」など)も美しいですが、三木康一郎も負けていない。

「そういえば、知り合いの制作部が言っていたんですけど、三木孝浩さんは"シロ三木"と呼ばれていて、大先輩の三木聡さん(映画『イン・ザ・プール』、テレビ朝日系『時効警察』シリーズなど)は"クロ三木"なんだそうです(笑)。で、僕は"グレー三木"。なんだか中途半端でイヤですよね」

美しい映像へのこだわり

――先ほどはデザインがお好きとのことでしたが、美しい映像はそのへんが関係あるんでしょうか?

「映像の世界には興味がなかったんですけど、デザインやファッションは好きだったので、もしかしたらそれはあるかもしれないですね。今もそうですが、ファッションや家の家具もこだわっていますし。今回『じゃない方の彼女』のオープニング衣装も僕が選びました。衣装部には相当、迷惑をかけたと思いますが(笑)」

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――ドラマでは、ほかにもこだわりが?

「そうですね。雅也くん(濱田岳)ご夫妻のリビングも美術部さんに説明して、扉とかすべて替えました。あと壁も貼り替えて。雅也くんの大学の講師室も、お借りしてるロケ先の部屋が派手な色の扉だったので茶色の壁紙を貼りました」

――そのこだわりぶりがすごいですが、デザイン好きは学生時代から?

「ハイ。学生時代はデザインやインテリア、グラフィックの本ばかり読んでいて。唯一、映像系で読んだのが、(スティーヴン・)スピルバーグの伝記です。スティーブ・マックイーンの本も読みましたね。映画は、いわゆるハリウッドの大作くらいしか見たことがなかったです」

――バラエティ番組の経験があるとはいえ、それくらい何の興味もなかった中、どうやってドラマを撮れたのか不思議です。

「現場にも行ったことがなかったので、ほぼほぼ自己流でした。ドラマの時は何人か演出家がいるので、他の人の現場を覗いたりはしていましたけど、基本は自己流。映画を撮るようになって『ちょっと他の監督さんのやり方と違いますね』と助監督に言われたりもしましたが、やってる僕は他の監督のやり方がわからないから変えようもなかったですね。ただただ無我夢中で、予算のない中で納期を守ってやってきただけなので、今でもよくわかっていません(笑)」

――インタビュー前編でもお聞きしたように、自分が作りたいものより「たくさんの人にどうやって見てもらうか?」を一番に考えると。これはバラエティ時代に培った考えですか?

「そうですね。見てくれる人を一番に考えるというのは、映像の仕事を始めた時から変わらないです。あと、いろんな方法論がありますが、演者・スタッフみんなの思いが詰まったカットが撮れれば画面から伝えたいことがにじみ出てくるんだな、と思います。だから現場では、全員が100%の思いを乗せられるにはどうすればいいかと考えますね。それもあって、本当はカメラ2~3台を回した方が効率がいいところ、僕の現場は1台でやっていて。ドラマの場合、予算も時間もないので申し訳ないですが、そのカットに集中してほしいので、自分のやり方でやらせてもらっています」

――あるインタビューでは「原作者や制作企画者などの思いを見極めるところから始める。だからいろんなジャンルに臨むことができる」とも。

「こういうものを撮ってほしい、僕がこういうものを撮りたい。どちらの依頼でも同じです。自分の作品は自分の作品なんですけど、変に意気込まず、そこにある思いを大事にしたいと思います。要はシンプルですが、真面目に、見る人・作る人の思いを汲み取って、手を抜かないでやる。バラエティ、ドラマの違いはありますが、なんだかんだでこれに尽きますよね。結果、より多くの人が見てくれたら監督として一番うれしいです」

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オシャレ監督としても有名な三木監督。この日のファッションはこちら!
(※三木監督の演出回は、残り第10話と最終話です)

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12月6日(月)放送のドラマプレミア23「じゃない方の彼女」第9話では、温泉地でまさかのお忍びデート!?

第9話
雅也(濱田岳)は怪我をした教授の代わりに大学の入試問題の差し替え作業をするために、先輩の片桐(山崎樹範)と共に山奥の旅館へ2人で泊まることに。一方、怜子(山下美月)もバーベキューをきっかけに雅也と怜子の関係に気づいた友達の彩菜(東野絢香)から「自分がしてることわかってるの?」と問いただされていた...。怜子からの連絡が来つつも、一人仕事に励む雅也。不倫三昧の片桐が「密会にはうってつけの場所」と彼女を呼び消えてしまう中、雅也のもとにも差し入れを持った怜子が...!?突然の出来事に戸惑う雅也。しかし、怜子が会いに来た切実な理由を知り、答えに詰まる雅也。道ならぬ2人の恋の行方が加速する...。さらに、妻の麗(小西真奈美)も差し入れをもってやって来てしまい、雅也はパニック状態に...!?果して、2人の関係はバレてしまうのか?

【プロフィール】
三木康一郎(みき・こういちろう)
1970年12月7日生まれ。バラエティ番組のディレクターを経て2012年映画監督デビュー。大人気作家・有川浩とタッグを組んだ「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」(2016年)が興行収入20億円を超える大ヒット。その後「旅猫リポート」で再びタッグを組んだ。また昨年2020年には、1990年代トレンディドラマの金字塔「東京ラブストーリー」(FOD/Amazon Prime Video)を現代版としてリメイク。その他の主な作品は「覆面系ノイズ」(2017年)、「10万分の1」(2020年)、「劇場版ポルノグラファー -プレイバック-」(2021年)など。オリジナルの脚本も執筆。映画・ドラマだけでなくあらゆる分野で優れた才能を発揮する日本を代表する映画監督の一人。

(取材・文/橋本達典)

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