世界初AIで”死亡事故ゼロ”へ ホンダが開発する次世代安全技術<WBS>

公開: 更新: テレ東プラス

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AIが歩行者の体の向きや関節の動きを認識してどう動くか予測する。

53年間で初の「ゼロ」。何の数字かというと1日の交通事故の死亡者数です。実は、今年の4月8日に、統計開始以来初めて全国で「ゼロ」を記録しました。年間の推移を見ても、数字は大きく下がっていますが、その背景には衝突の被害を軽減するブレーキを搭載する車両が増えるなど、安全技術の向上があります。そうした技術をさらに高めようとホンダが独自に開発を進める、世界初の運転支援システムの実力を取材しました。

ホンダは今年4月、2040年までに世界で販売する新車を全て電動化すると発表しました。脱エンジンに大きく舵を切る中、もう一つ新たな目標として掲げたのが、2050年に全世界でホンダの二輪車、四輪車が関与する交通事故死者ゼロの実現でした。

栃木県さくら市にあるホンダの研究開発拠点を訪ねると、世界で初めてとなる運転支援システムの開発が進められていました。その実験段階の車両を特別に試乗させてもらうことになりました。

横断歩道に差し掛かると、車に搭載したカメラが横断歩道を渡ろうとしている人を認識し、黄色い光で教えてくれました。しかし、ドライバーが歩行者に気を取られていると突然、オレンジ色に点灯しました。歩行者の後ろから横断歩道を渡ろうとする自転車の存在を知らせてくれたのです。ドライバーが見落としていた「事故につながるリスク」を車内のカメラがドライバーの目線などから検知。光とともにシートベルトを締め付けることで警告し、事故を未然に防ぎます。

11月以降に発売される全ての新型乗用車(国産)に搭載が義務化された衝突被害軽減ブレーキは、車が自動で制御するものです。一方、新たにホンダが開発を始めている安全技術はあくまでも人間が主体。ドライバーの車を操る能力を技術で高め、安全を守る仕組みです。こうしたシステムに欠かせないのが、AI(人工知能)です。

人や自転車が行き交う様子をAIが解析した画像を見ると、体や頭の向きや膝の関節などの動きを認識し、この後、人がどう動くかを予測しています。横断歩道を渡ろうとしていることをAIが認識すると、車が進む方向を示す矢印がリスクを示す赤色になりました。人が渡りきると緑に変わり、直進が安全だと判断します。

本田技研工業エグゼクティブチーフエンジニアの高石秀明さんは「人というのはさまざまで、交通シーンと組み合わせると非常に複雑になる。複雑な状況を解決するにはAIの活用が一番早い。AIによってリアルタイムに分析をして、対応手段まで見つけられる」と語ります。

例えば、歩きスマホで道路に飛び出す危険の予測は、AIが腕の動きや目線からスマホを見ていると判断。ドライバーはもちろん、歩行者側にも、スマホを通じて注意を促すことも実現可能だと言います。

AIを活用するためにホンダがまず行ったのは、人の脳の研究です。MRI(磁気共鳴画像装置)で運転しているときの脳の働きを計測。初心者と熟練したドライバーのハンドルさばきや目線の違いを分析しました。そのデータを基に、熟練ドライバーの運転をAIに学習させたシミュレーターに乗ると、カーブが近づくとそれに合わせて自動的にハンドルを切ってくれます。初心者が苦手な部分をAIが判断し、熟練ドライバーの運転との差を補います。ホンダは、2020年代後半までに次世代の支援システム搭載車の実用化を目指しています。

自動車産業は100年に一度の変革期に直面しています。モーターショーでも存在感を示すのは、EV(電気自動車)。エンジンのような複雑な技術をすり合わせる必要がないことから、新規参入が相次ぎ、メーカー間の差別化もこれまでより難しくなります。

そうした中、脱エンジンを宣言するホンダは、独自の安全技術は大きな競争力になると考えています。

「新しい価値として、一人一人に合わせた安心を提供する。これ自体が個性になっていく。人のために何ができるかを追求してきたことが、我々としての独自の価値になっていく」(本田技研の高石さん)

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