“不倫”というワードで毛嫌いされないために...監督の巧みな演出術:じゃない方の彼女

公開: 更新: テレ東プラス

特別目立つことはないが、平凡なりに幸せな日々を送っている、真面目な大学准教授(濱田岳)が、妻(小西真奈美)と、妻"じゃない方"の彼女(山下美月)との狭間で右往左往する姿をコミカルに描く秋元康企画・原作の不倫コメディ、ドラマプレミア23「じゃない方の彼女」(毎週月曜夜11時6分/テレビ東京系)。

さまざまな社会現象を巻き起こしてきた不倫ドラマを秋元ならではの着眼点でコメディに仕上げた本作で演出を務めるのは、ドラマ「来世ではちゃんとします」シリーズ(テレビ東京系)や、映画「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」(2016年)、配信ドラマの2020年版「東京ラブストーリー」(FOD/Amazon Prime Video)など数多くの話題作を手掛けるヒットメーカー・三木康一郎監督だ。

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今まで関わってきたことのないタイプの女性に翻弄され、どぎまぎしながらも、道ならぬ恋の沼へと沈んでいく男の姿がなぜか笑える、先の読めない新しいタイプの不倫コメディはいかにして生まれたのか? ネガティブな話題には何かと批判されるご時世に「不倫」というテーマをコメディへと昇華させる際の苦労とは...? 三木監督に話をうかがった。

不倫×コメディに"なんじゃそれ!?"

――濱田岳さんのキュートなお芝居も手伝って、演じる主人公・雅也のうろたえぶりが微笑ましい、いい意味でゆるい感じのコメディに仕上がっていますね。

「ありがとうございます。その感想はうれしいです」

――不倫ドラマと聞いて、ちょっと身構えた人もいると思いますが、不倫のドロドロ感はほぼなく、平凡で奥手の男子が急にカワイ子ちゃんにモテ始めて...という少年漫画のラブコメのような展開で。

「秋元(康)さんの妄想全開ですよね(笑)」

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――第1話。山下美月さん演じる怜子が「3回の偶然が続いたら奇跡」と別れ際に走り寄って雅也の頬にキスをして「何もないと、3回の偶然がもったいないかなって思って」と言うところなんか、まさに。

「昔からよくやるじゃないですか? 好きな女の子を待ち伏せしておいて偶然を装う。いつの時代も女性は偶然に弱いんだなというのは僕らくらいの歳になるとなおさらよくわかるので(笑)。そこは秋元さんがベタの基本をちゃんと押さえて、"じゃない方"というキャッチーなタイトルで、今風に落とし込んだのかなと思います」

――その秋元康さん企画・原作の本作。手掛けることになった簡単な経緯をお聞かせください。

「以前『東京センチメンタル』('14年、'16年/テレビ東京系)でご一緒したプロデューサーさんからお話をいただきました。企画・原作が秋元さんと聞いて、"じゃない方"という、お笑い芸人の間で使われるワードをドラマにするんだ!? そこを取り上げて、膨らませてドラマにするんだ、さすがだなと思いました。医療ものや警察もののドラマが主流な中、こんなこと考えるなんて面白いなと。また、それをテレ東がやるというのでアタマおかしいな~、と思いましたね。いい意味で(笑)」

――(笑)、「不倫×コメディ」と聞いていかがでした?

「最初"なんじゃそれ!?"というのが正直な感想でした(笑)。感情がドロドロなのに笑わせるってどうすりゃいいんだっていうのが第一で。でも、やったことがないからそう思うだけで、やってみれば現場で何か出てくるんじゃないかなと。わからない、知らない、答えがない。僕がそういうのを好むタイプなんですよ。もちろんリスクもありますが、未知なものに限ってやってみたら面白くなることが多いので、今回もそこに掛けてチャレンジしてみようと思いました」

――あるインタビューで、自分がこういうものを伝えたい、作りたいということよりも「たくさんの人にどうやって見てもらうか?」を一番に考えて演出するとおっしゃっていましたが、今回はどんな見せ方を考えました?

「今回は見せ方というよりは、濱田岳さんという、多くのみなさんが知る俳優さんが主演ということで、視聴者が思う濱田さん像を裏切らないようにすること。そのためには、どうやったら面白い芝居をさせられるか。リアクションの芝居が多いので、現場でどう楽しくやってもらうかを第一に考えましたね。もうひとつは、山下美月さんがどう見えるか、視聴者にどう映るか。台本には"天然魔性系""沼にはまる"というワードが並んでいて、ヘタすると視聴者の...とりわけ同性から嫌われる行動をとるタイプのキャラクターにも見えなくない設定だったので、どうすれば嫌悪感なく受け取ってもらえるかを考えました」

――そのインタビューでは「そのためにどういう仕掛けを作るか」ともおっしゃっていました。「不倫×コメディ」という新しい切り口のドラマにチャレンジするうえで、今回考えた仕掛けはありますか?

「不倫ドラマって重たい気持ちになりそうだな...と思う人もいるので、そうじゃないですよ、コメディですよ、とわかってもらいたくて。オープニングのダンスや腹話術の人形みたいな扮装をした雅也くんの語り、CM前のレトロなブラウン管などポップな演出を入れつつ、不倫というワードが持つ重たいイメージをちょっとでも軽くできたらと思いました」

――そのへんの重たいイメージや具体的な不倫の話題は、ヤマシゲ(山崎樹範)さん演じる雅也の同僚・片桐が一手に引き受けて。雅也と怜子のパートがある種のファンタジーに見えます。

「そうですね。片桐があまりにヒドイから。でも、ああいう人いますよね? 生き生きと不倫を語るクズ。テレビ局に巣くう悪の集合体のような(笑)。ヤマシゲさんには本当に助けられています」

作り手の笑いを押し付けない演出

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――濱田さん、山下さんにはどんな演出をされているのでしょう?

「山下さんは、自分なりに天然魔性系に見えるプランを考えて来たと思うんですけど、それをやらせないようにしました。見ようによっては女性からあざとく見えるかもしれないけど、若いから恋に純粋で、相手に正面からぶつかっていく。一生懸命な面を引き出していけばそんなに悪い印象は受けないんじゃないかなと思って。女性が見て、感情移入できないまでも共感はしてもらえるんじゃないのかなと。なので、山下さんにも怜子は純粋で一生懸命な女の子なんだとお伝えしましたね」

――山下さんのお父さんと三木さんは同じ歳だそうですね。

「なんかそうらしいですね。山下さんからも『お父さんみたい』と言われます(笑)」

――いかがですか? お父さんからご覧になって。

「真面目です。ストイックですね。フワっとしたイメージがあったんですが、"もしかして追い込み系...?"と、ちょっと心配になる部分も。そこが怜子っぽくもあるんですけどね。ともあれ娘みたいなものですから、がんばれ~って見守ってます(笑)」

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――濱田さんにはどんな演出を?

「同じリアクション芸でも、ここはこういう状況でドキドキしている、ここはホッとしている。ドキドキあたふたしているんだけど、ここは好きという気持ちが強いとか、雅也の気持ちの部分だけお伝えして。あと、どう演じるのかは濱田さんにお任せしています。ほぼほぼ正解を出してくれるので、さすがです」

――アドリブもあるのでしょうか? 例えば、第1話。盆栽教室に向かう雅也がビルの階数案内を見て「5階か...。5階、5階」と、つぶやくシーンは台本ではないセリフで。思わせぶりな怜子の態度が気になっている流れから「5階」と「誤解」が掛かっているのかなと想像をしたり...。

「あそこは僕の指示ではないです、誤解です(笑)。でも、そういう想像はうれしい。みなさんにもいろいろ想像してほしい。聞いてみなければわからないけど、濱田さんはそう思ってやっていたのかもしれないですし。芸達者な方だから、ほかにもいろいろやっていると思いますよ」

――言い方といえば、雅也の奥さんが麗(小西真奈美)で、じゃない方の彼女が怜子。今後が気になりますね。

「同じ"レイ"で、麗も怜子も、雅也のことを『まーくん』って同じ呼び方をしたり」

――あだち充先生の『みゆき』的なシチュエーション。

「ですね。秋元さんの考えることだから、この先きっと何かが起こると思います」

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――三木監督は、以前はバラエティ番組の演出をしていらっしゃいました。今回、不倫×コメディという難題をクリアするにあたり役立ったことはありますか?

「それはあります。若い時はお笑いの世界で生きてきたので、"笑い"というのは狙ってできるものじゃないというのは肌でわかっていて。狙わず、無理に笑わそうとぜずに笑えるものを作るというのはバラエティ番組をやってきて染みついているので。今回は濱田さんにも『自分の今の感情を逸脱したことはやらないようにしてください。大きな芝居や顔芸で笑わせようとしないでください』とお願いしています。つまりは"これ面白いでしょう?"と作り手の笑いを押し付けない。自分の感情にあるものの中でリアルに演じてくだされば、笑う人は笑うし、人によってツボは違うから予期しないところで笑う人がいるかもしれないと思ってやっています」

――わかりやすいリアクションや顔芸はできるだけ封じて。

「大きな笑いを期待している人にとってはちょっと薄味に感じるかもしれないですけど、僕は真面目に、リアルに演じてこそ笑えるのがコメディだと思っているので。濱田さんの力量があれば子どもじみた芝居で笑いを取らなくてもいいし、地味な表現でも上手くやってくれてると信じていました。逆に主演が濱田さんじゃなければ、かなりビビっていたと思います。肩の荷が途中からドサッときて、潰れていたかもしれないです」

――第8話から再び三木監督が担当されますが、視聴者の方にメッセージを。

「冒頭でおっしゃられていたように、今回このドラマを誰に一番見てもらいたいかと考えた時に"これ完全に男向けじゃん!"って思ったんですよね。ぜひ男性にも見ていただきたいですね。もちろん女性にも。これからでも遅くはないです!」

(※三木監督の演出回は、残り第10話と最終話です)

取材中、終始冗談が飛び交いつつも、その裏ではコメディ=笑いに対して真摯に向き合う三木流の演出論をうかがったインタビュー前編。後編では、バラエティ界からの転身の経緯やバラエティ経験があるから監督としてできること、演出するうえでのモットーやこだわりをお聞きします。

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11月29日(月)放送のドラマプレミア23「じゃない方の彼女」第8話では、じゃない方の彼女と妻が出会う!? 地獄のバーベキュー開催!

第8話
「肉の商品券が当たったことから、小谷家でバーベキューをすることになった雅也(濱田岳)たち。押しかけてきた片桐(山崎樹範)と共に準備をする中、妻の麗(小西真奈美)が友達を連れて来る。その友達とは、道ならぬ恋の相手である怜子(山下美月)と怜子の彩菜(東野絢香)だった...。以前、麗と沙織が出会った"エコバックのお姉さん"が怜子のことだったと知り、激しく動揺する雅也。周りには、同じ大学の准教授と学生で、初めて話したと装いながら、誰にも気付かれないよう平静を装う雅也と怜子だったが、彩菜が2人の様子を疑っていると気づいた怜子は雅也にメッセージを送り...。更には、雅也の母・弘子(YOU)までやってきて状況はカオスに。弘子の小説の大ファンである片桐は弘子と意気投合。一方、麗は彩菜の恋愛相談に乗る。そして、雅也と怜子はあることをきっかけに2人きりになってしまい...。

【プロフィール】
三木康一郎(みき・こういちろう)
1970年12月7日生まれ。バラエティ番組のディレクターを経て2012年映画監督デビュー。大人気作家・有川浩とタッグを組んだ「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」(2016年)が興行収入20億円を超える大ヒット。その後「旅猫リポート」で再びタッグを組んだ。また昨年2020年には、1990年代トレンディドラマの金字塔「東京ラブストーリー」(FOD/Amazon Prime Video)を現代版としてリメイク。その他の主な作品は「覆面系ノイズ」(2017年)、「10万分の1」(2020年)、「劇場版ポルノグラファー -プレイバック-」(2021年)など。オリジナルの脚本も執筆。映画・ドラマだけでなくあらゆる分野で優れた才能を発揮する日本を代表する映画監督の一人。

(取材・文/橋本達典)

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