砥石を愛するポーランド人男性が念願の採掘に大興奮!和包丁作りと包丁研ぎの技を学び、驚きの進化を遂げていた!:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜夜8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回は、「ニッポンにご招待したら人生が変わっちゃった! 感謝のビデオレターが届いちゃいましたスペシャル」をお送りします。

憧れのニッポンで、2億5000万年前にできた砥石の原石を採掘

紹介するのは、ポーランド出身でイギリスに住む、砥石と包丁研ぎを愛するジェゴシュさん。

nipponikitai_20211025_01.jpg
世界に類をみない、ニッポンの刃物研ぎ。研ぐことで生まれる圧倒的な切れ味が、素材そのものの味と食感を大切にする和食文化を根幹から支えています。「西洋料理は味付けにはこだわりますが、包丁の切れ味はあまり重要ではありません」と話すジェゴシュさん。西洋では、刃先に肉の脂が付着して切れ味が悪くなった時、脂を取ったり、刃先の修整を一時的に行ったりするためにスチール棒を使うそう。対してニッポンで使うのは砥石。地殻変動が多いニッポンでは、他の国にはない、粒子が細かい良質な天然砥石が豊富で、研ぎ文化を発達させてきました。

ジェゴシュさんが研ぎに興味を持ったのは、もともと料理好きだったことがきっかけ。ニッポンにはまだ一度も行ったことがなく、天然砥石ファン御用達のオンラインショップ「ジャパニーズ・ナチュラル・ストーンズ」で砥石を購入しています。価格は産地や品質によって数千円から数万円と幅広く、希少性が高い天然砥石は数十万円するものも。

事務の仕事でお金を貯め、これまでニッポンの天然砥石を5つ購入。休みの日の副業として、包丁研ぎの仕事をしています。初めは練習のために、日本料理店などで働く友人の包丁を研いでいましたが、口コミで広まり、海外からも研ぎの依頼がくるようになったそう。

nipponikitai_20211025_02.jpg
早速、包丁研ぎを見せてもらいます。研ぎ方は、インターネットの動画や本を参考に独学で身につけたそう。研ぐのは、かなり状態が悪い菜切包丁。粒子の細かさが違う砥石を数種類選び、水に10 分ほど浸けて、水分をよく吸わせます。まずは荒めの砥石を使い、表面のサビや汚れを落とすこと2時間。次に仕上げ用の天然砥石「備水(びんすい)」で刃の切れ味を出していきます。備水で研ぐと泥が出てきましたが、この泥に含まれる粒子こそ、研磨剤の役目を果たす大切なもの。そのため、この泥は水で流さないのが研ぎの基本なのです。こうして8時間かけて研ぐと、ガタガタだった刃がまっすぐに!

すでにかなりのレベルに達しているように思えますが、「私の研ぎの技術は、まだ初歩の初歩です。研ぎの道に終わりはないと思います」と話します。そんなジェゴシュさんを、3年前、ニッポンにご招待!

向かったのは、京都・亀岡市。ここは、世界的にも稀な、2億年以上前の天然砥石が採れる場所です。天然砥石を採掘する伝統を受け継いでいるのが、明治10年に創業「砥取家(ととりや)」四代目、この道40年以上の土橋要造さん。天然砥石の採掘・加工から販売まで行う「砥取家」には、京都周辺の極上のブランド砥石がずらり。特に土橋さんが採掘する丸尾山の砥石は、料亭をはじめ、全国の名店で愛用されています。

nipponikitai_20211025_03.jpg
ジェゴシュさんが目をとめたのは、土橋さんが丸尾山で掘った「白巣板」。実際に触れると「すごくなめらかです」と感激します。ジェゴシュさんの友達のお気に入りだそうですが、価格はなんと12万円。採掘が減った天然砥石は、希少価値から、かなり高額になるものもあるとのこと。

と、ここで、砥石の匂いを嗅いだジェゴシュさん。採掘された場所によって、匂いに特徴がある気がすると話します。土橋さんは「一本一本匂いが違います。特に層が違うと必ず大きく匂いも違います」と話し、その違いに気付いたことに感心。砥石への熱い想いに応えたいと、滅多に人を入れない採掘現場を案内してくださることに。

nipponikitai_20211025_04.jpg
険しい山道を車で走ること20分、さらに歩いて辿り着いたのは丸尾山の頂上。幅30m、高さ10mの採掘坑は、土橋さんが約30年かけ、ほぼ一人で手作業で掘ったそう。採掘坑に入ったジェゴシュさんは「あんなに高い所まで手で掘ったなんて」とびっくり!

この場所から良質な砥石が採れるのには理由があります。ここにある砥石は、2億5000万年前、ハワイより南の深海底でできたもので、プレートに乗って年に数cmずつ移動し、亀岡周辺にだけ隆起。この石は粘板岩と呼ばれ、キメが細かく粒子が均一。1000年に1mmずつ堆積したため、層ができた時代によって、包丁向きの「白巣板」や刀剣向きの「内曇り」などの特徴があります。細かく分けて30種類にもなりますが、土橋さんは違いを見分けることができるそう。

ここで、土橋さんに採掘を見せていただきます。まずは細かな石を落とす「目切り」という作業。細かいところを落とし、亀裂を大きくして大きい石をできるだけ割らないように落としますが、ポイントは切り出す場所の見極め。例えば、断面に筋が多い場所は表面を磨いても砥石になりません。筋がない、砥石に最適な場所をなるべく大きな面で採掘するのが理想です。粘板岩は割れやすいので、どこに矢を打ち亀裂を入れるか、長年の経験が物をいいます。

nipponikitai_20211025_05.jpg
今回特別に、ジェゴシュさんが、念願だった採掘に挑戦。大きな石の塊を狙い、矢を差し込んで動かすと......見事に塊が落下! 「これ、でっかい!!」と大興奮の2人は、ハイタッチで喜びます。2億5000万年かけてできたこの原石は、「大上(だいじょう)」と呼ばれる最上級の砥石。自ら採掘した砥石を前に、「一生に一度の経験だと思います」と感動。

採掘が一段落したら、土橋さんの妻・さゆりさんの手作り弁当で休憩。その後は、砥石の原石を滑車が付いたカゴに乗せ、トラックがある場所まで下ろします。「砥取家」の作業場に持ち込んだら、まずは切断機で大まかにカットし、どの地層を切り出すか慎重に判断。砥石1つ分の形になったら円盤にのせて面を整え......最後に手で磨きあげれば、丸尾山の天然砥石が完成!

「丸尾山の素晴らしい天然砥石のことを、帰ったらたくさんの人に教えたいです」。かつて砥石工場は亀岡一帯に数十軒もありましたが、人造砥石やステンレス包丁の普及で昭和40年代から衰退し、ほとんどの鉱山が閉山。土橋さんも一時は砥石だけで生活できず、農家などと兼業していました。それでもニッポンが誇るべき天然砥石の文化を守りたいと、採掘を続けてきたのです。「末永くみなさんに喜んでもらえるような砥石を掘り出して、お役に立っていきたいと思っております」と話す土橋さんに、「本当に心から応援しています」とジェゴシュさん。

この日、土橋さんに案内していただいたのは大阪・北新地。切れ味が鋭い包丁を使うと、味も違うことを知って欲しいと、土橋さんの天然砥石を愛用する料理人のもとに連れてきてくださったのです。包丁を研ぐところと大切に研ぎ続けて小さくなった30年目の柳刃包丁を見せていただき、感動。極上の砥石で研いだ包丁で作ったお造りも堪能し、「甘くてとろけますね、こんなイカ食べたことありません」と大絶賛! 見た目の美しさや食感はもちろん、味さえも左右する和包丁の切れ味を実感しました。

翌日、土橋さんはジェゴシュさんを自宅に招き、普段は公開していない特別な天然砥石の数々を見せてくださいました。しかも、その中のどれかで研がせてくださるというのです。「とてもありがたいのですが、こんなに価値があるものはおそれ多くて砥げません」と恐縮しますが、土橋さんが厳選した砥石で愛用する包丁を試し研ぎさせていただくことに。

nipponikitai_20211025_06.jpg
まずは、丸尾山の前に掘っていた「一本松」という山の砥石。軽く濡らすだけで泥が出てくるのは、良い天然砥石の特徴のひとつです。お次は、50年以上前に先代が芦谷という山で採った砥石。なめらかさと独特の模様が特徴です。「天然砥石の好きなところは、研ぐほどに粒子が細かくなり、使い心地が良くなることです」。土橋さんも「そこなんですよ!」と笑顔で頷きます。「私は研いでいる時が一番幸せなんです」と話すジェゴシュさん......もちろん研いだ包丁は、新聞紙もトマトもスパッと切れるように! 試しに大根を切ったさゆりさんも、「ベリーグッド!」と太鼓判。

その後、夕食に招かれたジェゴシュさんは、ニッポンで最も食べたかったものの一つである「和牛」を、すき焼きでいただきます。ビールで乾杯した後は、地元の黒毛和牛「亀岡牛」や、初めて口にするタケノコを堪能。土橋さんご夫婦と和やかなひと時を過ごしました。

nipponikitai_20211025_07.jpg
別れの時。「素晴らしい経験をたくさんさせていただき、感謝してもしきれません」。土橋さんに母国・ポーランドのお菓子を渡すと、土橋さんは日本研ぎ文化振興協会が監修した本と、ジェゴシュさんが肌触りに感動した天然砥石、丸尾山の白巣板をプレゼントしてくださいました。「本当にうれしいです。二人の優しさとおもてなしにはどれだけ感謝してもしきれません」。土橋さんご夫婦とハグをして別れを惜しみました。

PICK UP