「中学受験は家を壊してまでやるものではない」。灘校、東大卒のエリートがカリスマ塾講師になった理由。コロナ禍で直面した試練とは?

公開: 更新: テレ東プラス

歴史や校風、卒業生のネットワークまで、名門校の知られざる姿を通してその秘密に迫る「THE名門校!日本全国すごい学校名鑑」(BSテレ東 毎週月曜夜10時)。MCに登坂淳一角谷暁子(テレビ東京アナウンサー)、解説におおたとしまさを迎え、「名門とはいったい何か?」常識を打ち破る教育現場に密着する。

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今回の主人公は、難関中学受験専門のカリスマ塾講師・山﨑信之亮先生(34歳)。灘中学校・高等学校(以下、灘校)から東大進学したスーパーエリートで、同級生の多くが官僚や医師になるなか、ワケあって塾講師に。なぜ塾講師の道を選んだのか? カリスマ塾講師の闘いに密着した。

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山﨑先生が講師をしているのは、平成4年に大阪府で設立され、関西と首都圏に展開する「希学園」。熱血指導で、開成や灘校、男女御三家など名だたる難関中学に合格者を輩出してきた。中学入試まで約4カ月となったある日。理事長に次ぐナンバー2で学園長の肩書きを持ちながら国語講師を務める山﨑先生は、頭にハチマキを巻き臨戦態勢に入っていた。

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山﨑先生の授業は、関西弁でノリが良く、面白い。山﨑先生いわく「講師はMC、生徒はひな壇芸人」。バラエティ番組のように生徒を引き付け、人気ナンバーワンというのもうなずける。小学6年生の授業は1コマ2時間30分で、休憩なし。山﨑先生は喋りっぱなしで、その熱意が伝わるのか、居眠りする生徒は1人もいない。授業をするうえで一番大切にしているのは、生徒にも喋らせること。「一方通行ではなく、生徒に自分も喋っていいんだと思わせると頭が働く。授業は双方向じゃないと意味がない」と語る。

1986年、大阪で生まれた山﨑先生。神戸(兵庫県)の超名門校・灘校から、多くの同級生たちとともに東京大学へ進学。しかしその後、官僚や医師になる仲間たちとは別の塾講師の道へ進んだ。

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3人家族だった山﨑先生の母親は、典型的な"教育ママ"だったという。一方、大工だった父親は、息子の塾の費用を捻出するため働き詰めだったそうだ。教育に対する考え方の乖離(かいり)から、山﨑先生が灘校に入学するのを機に離婚。母親の教育方針に我慢の限界を感じていた山﨑先生は、父親との暮らしを選んだ。

そんな山﨑先生が進学塾講師になった理由を尋ねると、「僕はたまたまこうなっちゃったけど、家の人や塾がちゃんと導いて、子どももちゃんと走れば、健全に子どもの生きる力や能力を鍛えられるはず。伝えたいのは、『中学受験は家を壊してまでやるものではない』ということです」。

中学受験をきっかけにした家庭崩壊――山﨑先生が小学生の時に通った「希学園」の講師になった背景には、「自分のような悲劇が繰り返されないよう、受験に臨む姿勢を伝えたい」という、使命ともいうべき思いがあった。

翌日、都内の二子玉川教室に向かった山﨑先生。小学3年生の授業はよりハイテンションで、生徒たちの集中力を途切れさせない。専門の国語以外の質問にもしっかり応じ、学園長らしく授業を視察するなど、遅くまで頑張る生徒たちを見守り続けた。終電間際に帰途につき、家に着く頃には深夜0時過ぎ。塾講師になって15年、毎日このような生活だという。

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今、山﨑先生は、自分の信条を揺るがしかねない大きな問題に直面していた。それは、教育界にも大きな影響を及ぼした新型コロナウイルス感染症の流行。希学園も一部の授業をオンラインへ移行したが、理事長の発案で入塾テストもオンラインで実施する話が持ち上がった。

しかし山﨑先生は真っ向から反対。「僕らが行っている授業は、単なる情報の伝達ではない。相手の脳みそを引っかき回して化学反応を起こそうとしていて、それはネットワーク上でできることではない。それを無駄だと言われてしまうと、『やかましいわ!』と...」。

教育のオンライン化に危機感を覚え、「たとえテストであっても、教育は生であるべき。入塾テストは入口だが、そこから教育は始まっている」と語る山﨑先生。意を決して直談判に向かった相手は、希学園の創立者・前田卓郎理事長だった。「克己」と書かれた青いハチマキ姿で教壇に立ち、関西と首都圏に14の教室を持つまでに発展させた、中学受験界で知らぬ者はいない教育者だ。

「入口の敷居を低くするためにも、オンライン試験を一度試したい」(前田理事長)「入試本番と同じ緊張感を入塾テストで味わってもらいたい」(山崎先生)...話し合いは1時間にも及んだが、結論は出なかった。

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別の日、山﨑先生が向かったのは、神奈川御三家の一角「聖光学院中学校・高等学校」。今年の東大合格者数全国5位という大躍進の立役者・工藤誠一校長が迎えてくれた。受験に向けた挨拶と試験の傾向を探るための訪問のはずだったが、話題は予期していなかった方向へ。

「COVID-19によって『もう戻らない日々』というのが今の僕のテーマ。オンライン社会を生き抜く力を身につけることが大事。オンラインによって、学校ではないところにさまざまなコネクションができる」と語る工藤校長。山﨑先生は「オンライン社会だからこそ、対面の価値が上がる。リアルな対面授業がプレミアム化する。現実を受け入れて、オンラインの良さを活かせばいい」という言葉に、大きな刺激を受けた。経験に基づく"承認"を受け、その足取りは少し軽くなったように見えた。

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最後に「今、幸せですか?」と尋ねると、「幸せですね。毎日飽きないし、楽しい」と、山﨑先生。さらに、「灘校に対して良い印象はありますか?」という質問には「『灘』のことは愛しまくってます。"愛"しかない。入口は嫌な思い出だったけれど、それも何物にも変えがたい。あの6年間でどれだけの友人と先生、丁々発止なやり取りに出会えたか。中学受験の最大の目的はそれだと思っている。自分にいろいろくれた『灘』の名前を汚さないように生きていこうと思っています」と力強く語った。

番組では他にも、同僚講師から見た山﨑先生や知られざる意外な私生活、中学受験が迫るなかで開催された保護者への講演会で語った内容などを紹介する。

10月11日(月)夜10時放送! 「THE名門校!日本全国すごい学校名鑑」(BSテレ東)は、「進学校から名門校へ3代目校長の試練」と題して送る。

今回の主人公は、かつて商業女学校から進学校に変貌を遂げた青陵中学・高等学校の青田泰明校長、42歳。実は青田校長は、青田家の3代目。父親から校長を継いだのは、1年ほど前。だがコロナ禍が校長を襲った。生徒を守るためにどうすべきなのか...。校長は他校に先駆けてオンライン化を導入。コロナ禍で、進学校から名門校になるための模索を続けている。

どうぞお楽しみに!

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