頭をぶつけやすい人は注意!頭部打撲で発症する脳の病

公開: 更新: テレ東プラス

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主治医が見つかる診療所」(木曜夜7時58分から)は、症状や病態に応じた専門的な治療法から生活の中での身近な健康法まで、皆さんが感じているさまざまな疑問に第一線で活躍する医師たちがやさしく答える、知的エンターテイメントバラエティです。

今回のWEBオリジナル企画「主治医の小部屋」には、よく頭をぶつけることが原因でクモ膜下出血になったりするのかという質問が寄せられました。同番組のレギュラー・菅原道仁医師に、頭部打撲の脳への影響について教えていただきました!

頭部打撲がきっかけで脳に異常が起きることも...

Q:60代女性です。60代の夫は、若いときからせっかちで、家具の角やドアなどによく頭をぶつけています。ひどいときには大きなコブができたり、出血したりすることもありました。その夫が1年ほど前にクモ膜下出血で倒れ、一命を取り留めました。考えすぎかもしれませんが、頭をよくぶつけていたことが病気の遠因になっていたりすることはあるのでしょうか?

―― 先生、過去の頭部打撲が原因でクモ膜下出血になることはあるのですか。

「クモ膜下出血の多くは、動脈瘤と呼ばれる脳の血管の壁にできたコブが破裂(出血)することで起こるのですが、頭を強く打つなど外傷によっても引き起こされることがあります。ただ、そうした外傷性クモ膜下出血は打った直後に発症し、慢性期でなることはありません。相談者のご主人の場合は、頭をぶつけてからある程度時間が経過しているようなので、それがクモ膜下出血の直接の原因ではないと思います」。

―― 頭をぶつけやすい人の中には、後々症状が出たり、障害が出たりすることもあるのですか。

「中には頭を打ったことがきっかけで、1〜2カ月後に慢性硬膜下血腫になることがあります。慢性硬膜下血腫は脳を覆う硬膜と脳の間にゆっくりと血液がたまっていく病気で、歩きにくい、物忘れが強くなった、失禁などの症状が現れた場合は早めに病院を受診したほうがいいでしょう。年齢的には60歳以上に多く、まず、若い人はなりません」。整理すると以下のようになります。

●頭をぶつけた後に起こる主な急性期(頭部打撲の直後)の病気
...急性硬膜下血腫 急性硬膜外血腫 外傷性クモ膜下出血 脳挫傷

●頭をぶつけた後に起こる主な慢性期(頭部打撲後約1カ月)の病気
...慢性硬膜下血腫

ぶつけるより"揺れる"ほうが危険!

doctor_20210908_01.jpg画像素材:PIXTA

―― 頭を繰り返しぶつけることも脳に影響があったりするのですか。

「スポーツ医学の世界ではよく知られているのですが、頭を打った後、1度目の脳しんとうから短期間 で(脳が完全回復していない状態で)、もう1度脳しんとうを起こすと、ダメージを負っている脳細胞にさらにダメージが加わり、急速に脳が腫れて取り返しのつかないダメージを脳に与えてしまう "セカンドインパクト症候群" という病態があります。

日常生活で頭をぶつけるくらいのレベルであれば心配はないのですが、たとえばボクサーがパンチを慢性的に受けていると、脳に多大なダメージが生じて物忘れが進みやすくなったりします。ラグビー、アメリカンフットボール、ボクシングなどのコンタクトスポーツで起こりやすく、ラグビー協会などでは脳しんとうを起こした場合は2週間くらい試合に出てはいけないといった指針が示されています。

また、欧米では子どもの発育中の脳への影響を考え、サッカーのヘディング練習を禁止あるいは制限する指針が打ち出されてきています。その背景には2019年に発表された、プロサッカー選手は脳の神経細胞の破損、死滅などによって、アルツハイマー型認知症などの疾患で亡くなる確率が一般の人に比べて約3.5倍も高いとする研究結果があります。

最近では、2020年2月にイングランドサッカー協会が年齢ごとにヘディング練習の頻度や回数を制限したことが話題になりました。11歳以下はヘディング練習を原則禁止、12歳以下は最大5回までの練習を月に1度など、18歳以下の子どもについて段階的に条件を緩和していくという指針が示されています。

ちなみに、公益財団法人日本サッカー協会では5月に「育成年代でのヘディング習得のためのガイドライン(幼児期〜U-15)」を発表しています。」

―― 脳が揺れるのとぶつけるのとではどちらが脳によくないのでしょうか。

「直接的な打撃もあるのですが、じつは揺さぶられることのほうが脳の出血はしやすいといわれています。回転加速度というのですが、乳幼児の "揺さぶられ症候群" も同じです。これは脳が桶に浮かんだ豆腐のような状態にあるからなのですが、ただ浮いているのではなく、膜(硬膜)と脳に血管(架橋静脈)がつながっていて、それが揺れることで切れるのです。

高齢者の場合は慢性硬膜下血腫もありますし、若い人より脳が萎縮しているので脳が揺れやすいということもあります。頭を打った後に以下のような症状が現れた場合は、ただちに脳神経外科や救命センターを受診するようにしてください」。

《頭部打撲後にこんな症状が現れたら医療機関を受診しよう!》

●頭痛がひどくなる。
●吐き気や嘔吐を何度も起こす。
●手や足が動かしにくい、しびれる、歩きにくい。
●ぼんやりとしている、言葉がはっきりしない、話が通じない。
●物忘れが強くなる、認知症のような症状がある。
●ひきつけやけいれんを起こす。
●いびきをかいて眠るようになった。

―― 菅原先生、ありがとうございました!

【菅原道仁医師 プロフィール】
1970年埼玉県生まれ。杏林大学を卒業後、クモ膜下出血や脳梗塞といった緊急の脳疾患を専門とし、国立国際医療センター、北原脳神経外科病院にて数多くの救急医療現場を経験。外来診療は月に延べ1500人ほどを診察する時期もあったが、一人ひとり責任をもって診察をするために2015年、東京都の八王子市内で小規模ながら大病院並みの検査機器を揃えた菅原脳神経外科クリニックを開業。「病気になる前にとりくむべき医療がある」との信条で、新しい健康管理方法である予想医学を研究・実践している。元・日本健康教育振興協会会長。

※この記事は菅原道仁医師の見解に基づいて作成したものです。

今回お話を伺った菅原先生も出演する主治医が見つかる診療所(9月9日木曜夜7時58分)は【身近な不調からキケンな病気大発見SP】!

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今回、実際に名医が解決した"謎の病気を見つけ出す診療所"では、病気の意外な原因をドラマ仕立てのクイズで出題。元・光GENJI内海光司と元・AKB48峯岸みなみをガチ検査! スーパーアイドル2人の体の悩みや不調の原因を、私生活チェックと人間ドックから見つけ出す。驚きの診断結果とは...? さらに、コロナ禍で不調を我慢し、受診を控えたために大病を患ったという東ちづるの告白も...。どうぞお楽しみに!

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