洋上風力の切り札となるか 日本ベンチャーの「電気を運ぶ船」

公開: 更新: テレ東プラス

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「パワーエックス」の電気運搬船

政府は、2030年度に再生可能エネルギーの比率を全体の38%程度に引き上げる高い目標を設定しています。その「切り札」に位置づけたのが、洋上風力です。課題は電力をどうやって海から陸に届けるかですが、日本のベンチャーが船で電気を運ぼうと立ち上がりました。

「電気運搬船という世界でも例がない、全く新しい電気を運ぶ手段を開発して世の中に届けたいと思います」

そう語るのはベンチャー企業「パワーエックス」社長の伊藤正裕さん。作ろうとしているのは、世界でも例のない電気を運ぶ船です。洋上の風力発電で作った電気を船の蓄電池に充電し、陸地へ。一般家庭の約2万2000世帯が、1日で使う電力量を運べるといいます。

再生可能エネルギーとして期待が大きい洋上風力、課題は発電した電気をどうやって陸に運ぶかです。海底ケーブルでの送電は莫大なコストに加え、環境への影響を懸念する声があります。電気運搬船はそんな課題を克服するとしています。

「パワーエックス」では電気運搬船の建造費を1隻約30億円と見込んでいる一方、海底ケーブルは1kmで1億〜2億円ほどかかると言われており、トータルではこの船の方がコストを抑えられるといいます。船で電気を運ぶため、より強い風が吹く沖合に風車建設ができるメリットもあるといいます。

「我々の考えは誰の迷惑もかからない100キロ沖の風が強いところに風車を立てて、風車で発電された電気をそのまま沖で船にためて、船で電気を送電する。世界でまだ誰もやったことがないことに挑戦したいと思っています」(伊藤正裕さん)

斬新な発想で再生可能エネルギー業界に風穴をあける。そんなベンチャーマインドを持つ伊藤さん、以前は、アパレル大手「ZOZO」の取締役。技術部門トップとして、着るだけで自動採寸できる「ZOZOスーツ」などを開発しました。そんな伊藤さんが胸に秘めてきたのが、再生可能エネルギー分野への挑戦。6月にZOZOを退社し、起業しました。

「エネルギー系の大手企業は出来上がっている一方で、ベンチャーの入り込める良さは過去のお荷物がない。メンテナンスしなきゃいけない技術、工場、雇用がないんです。われわれが金額を集めて、投資をするとすべて最先端投資にいきます」(伊藤正裕さん)

この大きな船に世界から技術者が集まっています。船の設計を担うのはイギリス人の造船設計技師ジョン・ケッチマーさん。イギリス王立造船技師協会でフェローを務め、多くのタンカーを設計してきた人物です。

「(パワーエックスの電気運搬船は)ほかにはない設計です。世界にこのような船は存在しません。最初は驚きました。おかしな考えだと思ったのです。どうして電気を運びたいのだろうと」(ジョン・ケッチマーさん)

さらにアメリカの電気自動車メーカー「テスラ」の元幹部で現在はスウェーデンの電池スタートアップ「ノースボルト」COOを務めるパオロ・セルッティさんも「パワーエックス」に取締役として参画しています。

「とても大胆なアイデアだと思いました。それがすぐに理にかなっていて実現可能で、背景に経済的な事業モデルがあることに気づきました。その後、喜んでプロジェクトに加わりました」(パオロ・セルッティさん)

8月11日、伊藤さんは福岡県北九州市に電池工場を建てる候補地を見にやってきました。「パワーエックス」では、電気運搬船に乗せる蓄電池(バッテリー)まで作ろうというのです。年内100億円前後の資金調達を目指し、一部のメーカーなどからは既に出資の打診もあるといいます。2022年には電池工場を建設し、2025年には電池を乗せた運搬船を完成させる予定です。

「これから洋上風力がどんどん日本で増えていく時の課題や問題を新しいテクノロジーが解決する。電池もそうですし、電気を運ぶ船もそうだと思います。実現できると思っています」(伊藤正裕さん)

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